第117話 ハイエルフの大半は頭がイカれているらしい……
メタルロックイーターの首が落ち、静まり返った城門前。
兵士の方々が一切ダメージを与えられなかったメタルロックイーターを、隊長さんはまさかの1撃で首を刎ねるという結果を前に、誰一人声を出すことが出来ずにいた。
1つだけ気になるとすれば、隊長さんの表情が少し悲しげだ……。
何かあったのだろうか?
「ニート。これ、君なら直せるか?」
その質問で見なくても何があったのかを察した。
剣が逝ったのだろう……。
隊長さんから大剣を受け取ってしっかりと観察してみると、まず大剣全体が歪んでしまっている。
曲がりプラス捻じれだ。
まぁ、これなら時間はかかると思うが錬成魔法で修復できるかもしれない。
問題はこの、大きな欠けなんだよな~。
結構使っている私でも原理の分かっていない不思議パワーである錬成魔法は、言ってしまえば『モノを柔らかくする魔法』だ。
例をあげるのなら、常温でカッチカチの硬い鉄でも、錬成魔法を使えば粘土の様に扱うことが出来る。
つまり形を整えるのは得意分野だ。
だが、別々になったものを綺麗にくっつけるとなると難しい……。
見た目だけでいいなら修復するのは簡単なのだが、実戦で使えば同じところが欠けるか剥げて使い物にならないだろう。
一度全体をまとめて捏ねて、均一な1つの物体とすることが出来れば、そこからまた形を整えることもできるのだが、流石にそれは修理修復ではないだろう。
隊長さんの大剣を素材に新しい大剣を作るような物である。
そんな感じでいろいろと説明をしたところ、隊長さんは結構落ち込んでしまった。
……出来るか分からないけど、少し修復に挑戦してみようかな……。
とりあえず大剣はインベントリに預かっておいて、念のため代わりの武器を渡した。
剣がない間、モンスターと戦わないといけなくなった場合に困るかもしれないからね。
素手でも余裕でモンスターをボコれるだろうけど、一応念のためだ。
大剣の代わりに渡したのはKATANAだ。
私は使ってないからね。
決してプレゼントしたわけではないので、急にそんなテンションをあげないで欲しい。
あと、そのKATANAは隊長さんの剣と比べるとめちゃくちゃ儚い耐久値だと思うから、扱いは慎重にね。
……不安だ……。
そんな訳で隊長さんと2人で静かな城門へと戻る。
これだけ沢山のエルフの兵士さん達がいるというのに、誰一人として喋らないのは、隊長さんに対して畏怖の感情を抱いているのか、それとも英雄として讃えているのか……。
そういえば今日私、隊長さんとデートしただけで一切働いてなくね?
お給金出るのかな……?
……そういえばお肉を収穫する際に、少しはモンスターも倒したか。
じゃあお給料の心配はいらないな。
隊長さんの剣の修理代の方がよっぽどお金を貰える気がするけど、お金はいくらあってもいい物だからね。
この後はお給料を受け取ってから帰るのかな?
それとも支払いは後日で、私と隊長さんはこのまま帰る感じ?
隊長さんの後ろをぼ~っと歩いていると、あの偉そうでいけ好かないクソゴミカスエルフが隊長さんの前に出てきた。
この時私が思ったことはただ1つ……。
『KATANAの最初の犠牲者が、あのクソゴミカスになりませんように。』ということだけだ。
だが心配は無用だった。
何故かというと、前に出てきたクソゴミカスエルフが喋る前に、隊長さんは何も言わずにグーで顔面を殴ったからだ。
ゴミは見事に空へ飛び立ち、建物の壁に激突して墜落した。
「ふむ……。少しだけ気が晴れたような、殴った手が汚く感じる様な……。」
……隊長さんを怒らせることはしないように気を付けようと、結構本気で思った。
でも隊長さん格好いい!
そこに痺れる憧れる~!
抱いて~……は不味いな、マジで襲われるわ。
突然の出来事に周囲が騒然とする中、少し上機嫌になった隊長さんと共に、屋敷へと帰るのだった。
はい、本日たいして働いていませんが、ここからが私の仕事となりそうです。
まずやることは、隊長さんの大剣の修理……ではなく、今日獲った獲物の処理だ。
手伝ってくれるエルフちゃんには、このモンスター達の魔石をプレゼントしてあげよう。
という訳で、エルフちゃんと雑談しながら、黙々と腹を裂いて内臓を出したり、皮を剥いだり、肉を使いやすい大きさに切ったりした。
エルフちゃんは今日のお留守番中、ずっと筋肉痛との激戦を繰り広げていたそうだ。
やっぱりなるんだね、筋肉痛……。
そういえば筋肉痛って魔法で治るのかな?
私が今まで見た回復魔法って、『元通りに治す』というより『その人の持つ治癒力に働きかけて傷を塞ぐ』って感じなのよね。
なら、筋肉痛を魔法で治した方が圧倒的に効率がいい気がするよね?
エルフちゃんに被検体になって貰おうかな……。
「筋肉痛を魔法でですか……?」
どうやら筋肉痛に対して魔法を使うことに抵抗があるらしい。
『たかが筋肉痛を魔法で治療だなんて~。これだからブルジョアは~。』とかそんな感じかな?
魔法による治療は、隊に所属する正式な兵士なら無料らしいのだが、兵士をやめた今は魔法で治療してもらうなら自分でお金を出さないといけないらしい。
給料少なくて職場環境も悪くて労働時間もブラックだと思っていたのに、そこだけはしっかりしているだなんて……。
まぁ、いいところが1つくらいないと、『兵士になろう』って思うエルフさんがいなくなるよね。
お肉も無事に処理が完了して、全てインベントリに納めたので、エルフちゃんに『明日は大襲撃だよ?大襲撃は危険だから、体調は完璧な状態にしておく必要がある。魔法で筋肉痛を治してきなさい。』と言いくるめ、1人になったので隊長さんの大剣の修理に取り掛かることにした。
前は『クソ重い剣だな~』としか思わなかったが、今持ってみるとちょうどいい重さのようにも感じる。
とりあえずまずは剣の歪みを直そう。
大剣全体に錬成魔法をかけていき……全体まで行き渡らない……。
そういえば前に少し整備した時もめちゃくちゃやりづらかったな……。
ステータスが上がったおかげか前よりはマシな気もするが、これは時間がかかりそうだ。
部分部分に錬成魔法をかけながら、少しづつ剣の歪みを直したら、次はいよいよ欠けの修復だ。
欠けた部分を補うためには大剣と同じ素材が必要なのだが、欠けた破片は少ししか回収できず、この量では修復するには少なすぎるだろう。
……剣の厚みを数ミリ薄くするか?
隊長さんの剣は刃先こそ鋭いが、胴体部分は非常に厚みがある。
多少薄くなってもバレんやろぉ~。
ということで、(魔力)の量と(超感覚)のごり押しで剣を加工していき、錬成魔法によって欠けを修復するための準備は整った。
ここで一旦、この大剣にかけていた錬成魔法をすべて解除する。
……目視と感触と感覚で、解除できたことを確認できた。
次に欠けた部分周辺と補強材に同じだけ錬成魔法を慎重に少しづつかけていく。
そしてハンマーでたたく。
ここで注意すべきところは錬成魔法で柔らかくし過ぎないことだ。
少しづつ少しづつ、叩いて馴染ませ、全体に溶け込むように叩き続けないといけないのだ。
どれ程の時間叩き続けただろうか?
周辺はいつの間にか完全に暗くなってしまっており、月っぽい星の位置から察するに恐らく深夜だ。
ハンマーで叩く音は結構響くから、ご近所迷惑になっていないといいのだが……。
「随分と集中していたな。」
後ろからいきなり声をかけられた。
振り返るといつもそこには隊長さん。
今回も全く気配を感じなかったぜ……。
「修復できたのか?」
「正直分かりません。見た目だけなら直っている様に感じますけど、実際に使ってみないと……。」
過去一の集中力で作業をした結果、見た目だけは完全に元通りになっていた。
あとは刃を研ぎ直して、ギラギラのベギラマにすれば完璧だろう。
実際に使ってみて、欠けたところがどうなるのかは分からないが、『もう1匹メタルロックイーターが現われでもしない限り問題はないのではないか』と思えるくらい、表面上は修復は完ぺきだった。
「今回の大襲撃は正直不穏な印象を受けている。君に無理を言うようで悪いが、今晩中に装備を完璧な状態に仕上げていて欲しい。」
装備はまぁ、もう少し頑張れは終わるので問題ないだろう。
ただ、隊長さんが『不穏』とか口にすると緊張しちゃうね。
何か新しい報告でも入って来たのかな?
「普通は発生源から離れれば離れるほど、モンスター達の集団はバラバラとなりモンスターはそれぞれ散っていくものだ。だが、発生源から山を3つは超えないとたどり着けないこの国まで、モンスター達は密集状態を保ったまま近づいてきているという報告があった。間違いなくこれは異常なことだ。」
そういえば少し前に『今回の大襲撃は魔王や悪魔の仕業じゃないの?』的なこと言ってたね。
ただ暴れ回るだけのモンスターを討伐するだけの大襲撃ではなく、モンスター達を何者かが意図的に操って町を襲わせているのだとしたら、ただ迎撃するだけじゃ思いもよらないところへ被害が出る可能性があるのだろう。
特に今日は、余りにも不甲斐ないエルフ兵たちの働きを見た後だ。
大襲撃の際、外部の協力者がいなければ、簡単にこの街の中へとモンスターが侵入する結果となってもおかしくはないどころか、侵入して当然と考えるべきだろう。
正直隊長さん一人で真剣に考えるべきことではないと思うのだが、役に立たない私以外に相談できる相手はいないのだろうか?
ほら、ハイエルフの方々とか、結構暇そうでしたよ?
「……ハイエルフの方々が手を出したら洒落ではなく言葉通りに国が沈む。実際に昔、精霊樹が丸ごと土に埋められる事件があってだな……。君が今日会ったハイエルフの方々はまだまともで、話も通じるし交渉だって出来る。だが、あの方々が力を使うと、他の頭のイカれたハイエルフ達も一緒になって力を使い始めて、大災害が起こり収拾がつかなくなるんだ……。だから、ハイエルフの方々に相談して協力を求めるのは、本当の本当に最後の手段なんだ。」
……ハイエルフってそんなにヤバイ存在なの?
とりあえず、一旦ダイニングに移動して、私用に作ってとっておいてくれたらしい夕食を頂きながら、神話から始まる、エルフに関するすんごい長話を聞かされるのだった……。
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