第116話 この国はもう駄目だ、お終いだぁ~……。
『私は魔法で頑張ろう』と思ったが、私と隊長さんはもう少しここでのんびりと待機だ。
『兵士達も最大限の努力をしたが力及ばず、止む終えず外部の方に協力をお願いした』という体で協力しないといけないので、兵士たちがメタルロックイーター相手に神風するのを見届けてから、要請を受けて私と隊長さんの出番が来るそうだ。
エルフの兵士さん達可哀想……。
というか城門前のモンスターの処理すら未だに終わっていないのに、メタルロックイーターに攻撃を仕掛けるだけの時間的余裕があるのだろうか?
弓兵のエルフさん達もだいぶ疲れている様子で、昼過ぎに見たときよりも矢を射るペースは落ちているし、城門前で奮戦していた近接職のエルフさん達も……。
城門前で戦っていたエルフさん達はいなかったが、城門内部に設置されたバリケードの前に、エルフの兵士さん達が大勢集まっていた。
もしかして増援でも来たのだろうか?
いくら大勢に退職されたとしても、戦っている兵士が少ない気がしてたんだよね~。
この人数を生かして戦えば城門前のモンスターもすぐに片付くだろうし、メタルロックイーターにエルフの兵士さん達が攻撃を仕掛けてみるだけの時間的余裕も生まれるだろう。
そんなことを考えながら大勢の兵士を眺めていると、1人のエルフさんがこちらに近づいてきた。
装備や装飾から察するに、あの増援で来た隊の隊長か何かだと考えたのだが……。
隊長さんがすごく怖い顔をしている。
M.K.10だ。
マジで、キレる、10秒前。
そういえば今日のデート中、店員さんに『飲むとリラックス効果のあるお茶だよ~』って感じでお勧めされて買った茶葉があるので、今のうちに淹れておこう。
決してキレかけている隊長さんが怖いから逃げるわけではないよ?
「おや、こんなところでどうされました?ソフィーア隊……いえ、元隊長。兵士を辞めたあなたがここに何か用でも?」
……隊長さんって呼ばれたから来たんじゃなかったっけ?
ホウレンソウが出来てないのかな?
正直強さ的にはエルフちゃんと大差ない感じだけど偉そうだし、隊長さんのことを随分と下に見ている様な印象を受ける。
これは嫌われても仕方ないね。
今の私なら我慢せずにモンスターの餌にするわ。
「最近では若い人間を伴侶として選んだという噂もありますし、もう少しエルフとしての誇りを持って欲しいものですね。おや?そこに薄汚い人間が紛れ込んでいるではありまっ……」
うるさかったし話し方がなんかムカついたので、腕を掴んで投げ捨てておいた。
ちょっと関節が外れる感触があったけど、いい感じに兵士の方々が集まっているところへと飛んで行ったので、これでしばらくの間は静かになるだろう。
今日の天気は快晴時々エルフ。
お茶も良い匂いがしだしたしそろそろいいだろう。
「あれがまた隊長になるとは、この国ももう駄目かもしれないな……。」
さっきまでぶち切れそうだった隊長さんが今度は落ち込んでいる様子だ。
お茶どうぞ~。
……『また隊長になるとは』……?
以前クビになることでもやらかしたのかな?
「ソフィーナの両親についての話は聞いたか?」
「生まれてすぐに発生した大襲撃で死んだことなら……。」
「そうか……。あの時の防衛責任者がアレだ。大襲撃の危険性すら分からずに門を閉めないままモンスターへと隊を率いて突撃し、エルフの国史上最大最悪の被害をもたらした元凶だ。確かにエルフの国では建国当初以来大襲撃が発生したことはなかったが、散々人間の国に潜入した同胞からの報告書で、大襲撃の危険性については勉強したはずなのにな……。」
殺せよそんな馬鹿。
とてもじゃないけど『隊長』という地位に立てる様な人材ではないと思うけど……。
コネで偉くなったのかな?
「問題はアレの父親がエルフの国の『議会委員』という立場で、ある程度の権力を持っていてな。全ての責任を『兵士全体の問題』として処理してしまい、結局アレ個人は全くと言っていいほど責任を負わなかった。」
やっぱりコネだ!
親子そろってゴミだなぁ~。
やらかした責任くらいちゃんと取れよ!
政治家が責任を取らない国はマジで衰退していくからな。
個人で負うべき責任を周りに押し付けるなよ……。
……それで、隊長さんはどうしたの?
「私か……?その時はソフィーナのことしか考えていなかったな。私が全てを把握したのはだいぶ時間が経ってからだった。知ったときは殺してやりたいほど腹立たしかったが、同族を殺すことに対してどうしても躊躇いがあるし、ソフィーナの育つ環境を失うわけにはいかなかったからな……。そうか……もうソフィーナについてはあまり気にしなくてもいいんだな……。次に来たら私が止めを刺そう。」
……隊長さんが闇堕ちしそうだよ~!
ほら、お茶飲んでリラックスしてリラックス!
隊長さんは責任感に縛られていないと闇堕ちしやすいタイプなのかな?
あまり他人のこと言えないけど、もう少し理性で善悪のバランスを取った方がいいと思うよ?
向こうではエルフが降って来たからか少し騒ぎになっているが、落ち着くためにたいちょうさんとゆったりお茶を楽しむ。
『リラックス効果がある』と言われて買ったけど、確かに少し落ち着くような香りと味わいだ。
紅茶ともハーブティーとも違うような感じだけど、何のお茶だろう?
草花については元々全然知らないし、こっちの世界独自の物もあるだろうからな~。
『エルフの秘薬』といいこっちの世界の薬は効果が高いように感じるから、少しくらいは勉強して知っておきたい気がするね。
私も隊長さんもお茶を飲み終えて結構気持ちも落ち着いた頃、昼からずっと詰めている現場監督みたいな責任者っぽいエルフさんが謝りに来た。
その姿はまさにニートがイメージする中間管理職の姿そのものだ。
現場の現実と何も分かっていない馬鹿な上司、外部との関係性や部下への配慮。
しかもたぶん、この襲撃が終わるまで常にここに詰めていないといけないんじゃないかな?
私ならストレスで禿げるね。
隊長さんもこのエルフさんに対して非常に同情しているようで、一切責めるようなことは言わず、働き過ぎだから少し休むように助言していた。
責任者さんが謝罪に来てからだいたい1時間が経過した。
増援のエルフさん達が奮闘し、城門前にいたモンスターは全て駆逐され、今まさにメタルロックイーターに対して突撃を敢行しようとしているところだ。
綺麗に整列しているわけではないので正確な人数は分からないが、恐らく300人近いエルフさんが今か今かと突撃の合図を待ち望んでいる。
300人という数字は遠出している隊の兵士を除くと、残りのほぼ全員らしい。
『いくら何でも全員で300人くらいしかいないのは少なくね?』と思って聞いたのだが、一斉退職前でも500人だったそうだ。
ちなみにエルフの国の国民は3000人ほどらしい。
少子高齢化が激しく、『エルフちゃんが最年少』ということからわかる通り、出生率は半端なく低い。
国の人口も年々右肩下がりだ。
エルフの寿命が長くなければ、とっくに滅んでいてもおかしくはない。
……なんて言えばいいんだろうね?
異世界に来たのに、社会状況は前にいたところと大差ない気がする。
少子高齢化についてはこっちの方がヤバい状況だし……。
政治家は責任を周りに押し付けるみたいだし……。
親の持つ権力とコネでいい立場が手に入るみたいだし……。
まぁ、隊長さんにめちゃくちゃ甘えていいご身分の私がその辺について言うのはあれだけどね。
お?何やら演説が始まった。
話しているのはさっきの糞ゴミカス野郎だ。
投げられた仕返しをしてこない程度には理性があったのか周りのエルフに止められたのか……?
話している内容としては……うん、根性論に近いね。
気持ちは大事だけど、気持ちだけでモンスターを討伐できるなら誰も苦労はしないんだよなぁ~。
ましてや今回のモンスターは、隊長さんが以前に剣を4本も折ってしまった程防御に優れたモンスターだ。
演説から察するに無策で突っ込む気のようだが、これはもう見世物として愉しむしかない感じかな。
せいぜい派手に散って欲しい。
いよいよ突撃を開始した。
個人個人が好き勝手にメタルロックイーターに走って突撃する。
……正直しょぼい。
お、1人足の速いやつが、今、走って来た勢いを殺さないまま細剣を突き立て、見事にポキッと剣を折ったぁ~!
これは酷い。
どんどん突撃していくエルフの兵士さん達の醜態に対し高みの見物を決め込み、酷すぎて逆に笑えて来そうな状態になってきてしまった。
武器を壊すのは当たり前、攻撃が一切効いていないからか見向きもしないメタルロックイーターが移動するたびに、エルフの方々の誰かしらが蹴飛ばされ、急いでこちらへと連れて来られる惨状を見てしまうと笑うしかない。
もっとマシな兵士はいないのか~!?
「マシな兵士は負傷者を連れて何度も戦場を往復してるだろ。」
余りの惨状に対して流石に笑えない隊長さんの鋭いツッコミが入った。
そうか……。
衛生兵しかまともなエルフの兵士はいないのか……。
も~駄目だ、この国。
国防なんて無理よ……。
正直今日オーダーメイドで頼んだ服を受け取るまでエルフの国には滅んでほしくないが、ここまで来るともう滅んでも仕方がない気がする。
というかよく滅ばなかったな。
隊長さんがいたからか?
それとも運よく国が滅ぶような危機に見舞われなかったのか……?
……たぶん隊長さんがいたからだろうな~。
25年くらい前に大襲撃がこの国を襲ったらしいし、危機自体には見舞われてると思うんだよな~。
個人の力が及ぼす影響が強すぎる気がするね。
お!
あのいけ好かない糞ゴミカス野郎がメタルロックイーターとは別のモンスターに襲われてる。
いいぞいいぞもっとやれ~!
ぶっころせ~!
おっと、はしたない言葉を使ってしまった。
ふぁっきゅ~!
これなら可愛い。
……さて、少しはあのメタルロックイーターを真面目に観察してみようかな。
見た限り、マジで武器による攻撃が一切通じてない。
剣はだいたい折れるか刃毀れし、ハンマーは叩いたやつの手が壊れそうで、何人かは魔法も試している様子だったが全く通じていない。
あのエルフたち弱すぎて参考にならないよ!
全然役に立たね~よ!
30分後、諦めて全員帰って来た。
メタルロックイーターは既に城門まで100メートル程だ。
そろそろ出番かな?
……出番のようだ。
「ニート、まずは私に1撃入れさせてくれ。前回のリベンジだ。」
……隊長さん、意外と剣を4本も折ったことを気にしていたのかな?
まぁ、私としてはどうでもいい。
剣が折れないことだけを祈りながら応援するだけだ。
隊長さんがんばえ~。
颯爽とメタルロックイーターの正面に立つ隊長さん。
次の瞬間、消えたかと錯覚しそうな程の速度で上空へと跳躍し、上段から大剣を振り下ろしながら落下してきた。
というか空中で落下しながら加速しなかったか今の……?
振り下ろされた大剣は見事にメタルロックイーターの首を捉え、メタルロックイーターの頭と胴体は離れ離れとなるのだった。
……瞬殺じゃん。
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