第118話 あれ?思ったよりもまともなのでは?

エルフとは、神が精霊と人間を混ぜ合わせて作った存在らしい……。

昔から語り継がれているらしい神話を隊長さんから聞いたが、この話を考えたやつは頭がおかしいのではないかと思う。


神:『世界を発展させるために人間を作ったぞ~!あれ?人間ってざっこwこれじゃ大した発展は望めないじゃん……そうだ!私が人間を創っている間にいつの間にかこの世界に定着していた獣の因子を、人間の素体と混ぜてみよ~。』


こうしてまずは人間と獣人が生まれたらしい。

勿論実際に聞いた内容はもっと真面目な感じで、今の内容は私がめちゃくちゃ意訳・要約をしている。

続きとしては、


神:『獣人は力は強いし生命力も高いけど、代わりに知能が低い……。これじゃあ結局この世界を発展させられそうにないじゃん……ん?またなんかこの世界に定着しているな。今度は……精霊?とりあえず混ぜてみるか。』


こうしてエルフが生まれたらしい……。

話の中に精霊の発見から人間と混ぜるまでの過程が一切なかったから『とりあえず』って認識しただけで、実際に何を考えていたかは分からないよ?

神話なんてあやふやで適当なものだと思うし、認識も適当でええやろ。


そんな感じでエルフは誕生したらしいのだが、『では精霊とはいったい何なのか』についてだ。

これについては隊長さんも分かっていないらしい。

エルフからハイエルフへと進化し、ハイエルフから精霊へと昇華するらしいので、精霊とはエルフの最終進化先で間違いない。

隊長さんの話してくれた神話では、神も気づかないうちに出現した存在である精霊。

だが、『ハイエルフやらかしエピソード』をいくつか聞いたところ、『なんとなくこれかな?』と思う存在が思い浮かんだ。


間違っている可能性は非常に高いが、私は話を聞いた感じ『精霊とは意志と実体を持ってしまった現象』なのではないかと考えた。

ハイエルフによって引き起こされた主な災害が地震&地割れ・大雨・竜巻・山火事など、条件さえ揃っていればどこにでも自然に起こりえる内容なのだ。


元の世界では大昔、災害を擬人化して鎮まるように崇拝し、実際に神として今でも語り継がれている存在がいたような気がする。

それと同じように、当時の人間や獣人が自然災害を意思のある存在だと認識し、ファンタジーなこの世界ではそれが実体化して生まれてしまったのが精霊なのではないか?

……飛躍し過ぎかな?

まぁ、合っていようと間違っていようとどうでもいいのだが……。

とりあえず私はそんな風に考えた。


隊長さんにも『そんな感じの印象を受けた』と話したところ、帰って来たリアクションは『なるほど、一理あるな。』だったので、この考察は100点中60点は貰えそうな気がする。

これからは知的キャラで行くべきかな?

脳筋の時代は先が短そうだし……。




隊長さんとの和やかな夕食も済んだので、私は隊長さんの大剣の研ぎに戻る。

隊長さんは明日に備えてそろそろ休むそうだ。

深夜、篝火の近くで1人大剣を研ぐ男。

ご近所さんに見られたらあらぬ誤解を受けそうだぜ。


研ぎ作業は非常に順調だ。

前にも研いだことがあるからか、やはりステータスが大幅に上昇したからか、自分ではゆっくりと丁寧に研いでいるつもりだが、前よりも早い速度で作業は進んでいる。

この調子ならそれ程時間はかからないだろうから、私ものんびりと惰眠をむさぼるだけの余裕があるだろう。


「こんばんは。ちょっとお聞きしてもいいですか?」


「っ?!」


……いきなり声をかけられたから正直すごくビックリした。

誰だ?

というかどこから入って来た?

やはりご近所さんに『深夜にシュー!シュー!って金属を研ぐような音が聞こえて恐怖を感じるんです~』って通報でもされたのか?


そう思って振り返る。

目の前にいたのは非常に美しい女性。

まぁ、エルフはみんな美人なので特徴にはならないが。

……存在感からして間違いなくハイエルフだろう。

問題は『ただ強い』と感じるのではなく、『禍々しく強い』と思ってしまうだけの雰囲気があることだろう。

もしかしたらハイエルフの中でもより精霊に近い存在なのかもしれない。


「あら?驚かせてしまいましたね。1つ聞きたいのですが、あなたの研いでいる剣はこの国で国宝とされている剣ではありませんか?」


……今は隊長さんの剣だけど、前に『ドラゴンの素材を国に納めたら剣と屋敷を貰った』って言ってたような?

あ、私は決して怪しい者じゃないです~。

種馬から荷物持ち、モンスター討伐や武器のお手入れまでこなす、自営業のニートです~。

自営業ですが、税金は請求がないので払っていません。

……そういえばこの国とか家のあるあの町は、税金とかどうなっているのだろうか?

まぁ、請求されないと払う気はないが。


「そうですか……。この重くて扱いにくい大剣を扱えるエルフが誕生していたのですね。……時の流れを感じます。」


……なんだろう?

この剣の前の持ち主かな?

500歳の隊長さんが生まれる前から今現在まで、家に引きこもっていたのかな?

とりあえず最初から怪しまれている感じではなかったが疑われる要素もなくなったので、気を抜いてハイエルフさんに対応することにする。

こんな夜遅い時間に何の御用ですか~?


「明日、大襲撃が来ると聞いたものですから、私も参加しようかと思いまして。久しぶりなのでこの国周辺の地形を把握しようと空から眺めていたところ、懐かしい大剣を見つけたので思わずお邪魔してしまいました。」


……なんか聞いてた話と違うね。

ハイエルフは皆頭がイカれてるって話じゃなかったっけ?

このハイエルフさんは雰囲気以外まともに見えるよ。


「それにしても、この剣が欠けるとは……いったい持ち主は何を斬ったのですか?」


「……一振りでメタルロックイーターの首を斬り落としてました。」


どうしよう、なんだか少し怒っている気がする……。

この大剣に何か思い入れでもあるのだろうか?

確かにアクロバティックな動きで少し乱暴に首を斬り落としたようにも見えたけど、斬ったモンスターのことを考慮すれば、欠けたことに関しては仕方がないことの様な気がするのだが……。


「お久しぶりです、師匠。」


あ、隊長さんだ。

……師匠?


「……もしや、今その剣を使っているのはソフィーアですか?」


「はい……。」


知り合いみたいだね。

とりあえず話をするのならもう少し離れたところでやって欲しい。

ひっそりと剣の研ぎを終わらせて、こっそりとベッドに入りたいから。

それにしても今にも叱られそうな雰囲気の隊長さんはレアだな。

どちらかというと叱る側の立場だったと思うし、叱られるような失敗はあまりしないと思っていたから、少し新鮮だわ。


「あなたはこの剣を初めて持ってから、今まで何年使っていますか?」


「……もう少しで100年になります。」


……100年以上折れずに斬れる剣とかヤバくね?

観賞用でこまめに手入れしているとかならともかく、実用でそんなに剣が持つなんて考えられないんだけど……。

異世界は武器の寿命も凄かったのか……。


「……もしや、100年近くも使っていて、一度もこの剣に魔力を流したことがないのですか?」


「……一度もないです。」


……なんだろう?

この剣に魔力を流すと何か変化があるのだろうか?


隊長さんにアイコンタクトで大剣を求められたので、まだ研ぎの途中だが手渡す。

隊長さんが剣に魔力を流し始めると、大剣の表面がドロドロと溶け始め、逆再生するかの様に再び剣の形へと戻っていった。


……完全に元通りではなくて、さっきより少し細く薄くなって長さが増したかな?

魔力で変形する剣とかいつか作ってみたいね~。

ところで、欠けたところを地道に頑張って直した私の苦労は……?

今まで必死に剣を研いでいた私の苦労は……?

魔力を流しただけでギラッギラの完璧な状態になってるんだけどっ……!


「その剣は主に硬くて重いヘバード鉱石から作られていますが、刃はミスリルと神宝鉱から作られた特殊な金属で形成し、使用者の魔力によって常に最適な状態で使えるように状態を変化させる魔術機構を施した特別な一剣です。」


魔術機構!

素晴らしいね。

魔道具とは完全に別のモノだろう。

機会があれば是非基礎だけでも学びたいところだわ。

……でも、もう寝よう。

なんだか精神的にすごく疲れたよ。

このハイエルフさんと隊長さんは師弟関係みたいだし、邪魔しちゃ悪いよね。

ということでおやすみなさい。


正座で叱られる隊長さんと叱っている隊長さんの師匠らしいハイエルフさんを置いて、私は部屋に戻って寝た。

取扱説明書は速攻で捨てるタイプだったけど、これからは1度は読んだうえで捨てようと思った。

この世界にも取説があるかは知らんけど……。




翌朝。

お説教は終わったみたいだが完全に寝不足そうな隊長さんと、のんびりとお茶を飲んでいる昨夜のハイ師匠さんの姿がダイニングにあった。

まぁそれはいい。

問題は2人の座るテーブルの上に、私のKATANAが置いてあることだ。

ドアのところにいるけど、入りたくねぇよ~。


「おはよう。」


当たり前だけど気づかれている。

今から逃げるのは無理だな……。


「おはようございます。今日の大襲撃の予定はどんな感じですか?」


「今のペースならモンスターの集団がこの国へとたどり着くのは午後過ぎで間違いないらしいから、お昼を食べてから昨日の城門へ行って、その後は待機だ。」


「分かりました。」


今日のスケジュールも確認できたし、在庫ちゃんが朝食を運んでくれたのでありがたくいただくことにする。


「私は少し寝てくる。まぁ、今回の大襲撃は気楽に待っていてくれ。」


そう言って隊長さんは部屋から出て行ってしまった。

気がつけばハイ師匠さんもおらず、2人の座っていたテーブルの上に、私のKATANAの姿はなかった……。


とりあえず、今回の大襲撃をあれほど警戒していた隊長さんが『気楽に』なんて言うということは、あのハイエルフ師匠さんはまともで信頼もあって頼りになる存在なのかな?

どうもハイエルフのイカれ具合が分からない。

隊長さんから聞いた『ハイエルフやらかしエピソード』は、1部の頭がイカれた連中がやったことで、本当はまともなハイエルフの方が多いんじゃないの~?

私の元いた世界でも、一部の頭のイカれた声の大きいキチガイが目立って、普通の常識ある一般人の影が薄くなることがあったからね。

まぁ、頭はイカれてなくても、強さはイカれている可能性はあるから、私がハイエルフの頭をどう思うかについては、実際にハイ師匠さんの活躍を見てから判断することにしよう。


……ところで、私のKATANAを持って行ったのはたぶんハイ師匠さんだよね?

……ちゃんと返してもらえるかな……?

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