第107話 お風呂に入ると普通に疲れます。

おっふろ!

おっふろ!

隊長さんとおっふろ!

狭い密室に2人きり!

何も起きないはずもなく!


只今、絶賛お背中をソフトタッチで洗わせて貰っています。

わ~お、きめ細かいお肌~。

本当に500歳~?

見えな~い。

……結構本気で若々しいのよね。

こりゃあ異世界でエルフが人気な理由がよく分かるわ。


非常に高い器用さで背中をソフトタッチしているので、隊長さんから少~しイヤらしいお声が漏れたりもしているが、一切気にせず洗っていく。


これはあれだから!

500歳の背中を洗っているだけの介護行為だから!

お肌を刺激し過ぎないように超丁寧に洗っているだけだから!

……とりあえず深呼吸しておこう。

ナニとは言わないけれど、大きくなりそうだからね。


とりあえずこんなものだろう。

背中を流すために桶にお湯を汲むと隊長さんが話しかけてきた。


「前の方は洗ってくれないのか?」


……凄くいい笑顔だ。

この状況を愉しんでるなぁ~。

痴女っ気があるのかな?

私が服を脱いだ時も股間をガン見してきたし……。

別に見られて困るものではないけれど、流石にガン見されると恥ずかしかったね。

さて……逃げるか。


「あ、待てっ!」


待てと言われて待つ奴なんていないよ~だ!

そういえば、物理魔法の壁を壁としてまともに使うの初めてだな……。

まぁ、服を着たら解除するんで、それまで少し待っていてくださいね~……あ。


「流石に少し硬かったが、物理魔法はあまり壁としては役に立たないぞ?魔法に対して使い捨てにする感じの使い方が一般的な感じだな。……とりあえず、一緒に風呂に入ろうか。」


……隊長さん、怖いよぉ~……。




という訳で、隊長さんと一緒に湯船に浸かっている。

先程逃げようとしたからか、後ろから捕まえられている状態なので、背中にプルンプルンがムニムニしていて非常に居心地が悪い。

……背中に張り付くような感触は素晴らしいけどね。


「まったく、恥ずかしがるような歳でもあるまいし、逃げることはないだろう。私と一緒は嫌か?」


「正直心臓が働き過ぎるか止まるかの2択になりそうで怖いですね。」


おっと、普通に本音が漏れてしまった。

深呼吸でもして落ち着こう。

……深呼吸って心理的にはぶっちゃけ役に立たないよね。

運動してるときに息を整えるのには効果があると思うけど、ドキドキのホラー映画を観てビクビクしているときも、後がない状況でプレッシャーにドキドキしているときも、エッチな動画を観てムスコがドーン!となっているときも、深呼吸しても何も変わらなかったもん。

それでも、癖で深呼吸しちゃうんだけど。

深呼吸やめられねぇ~。


「なんだ?人間は寿命が短いから若いうちから交尾に励むと聞いているが、君はあまり経験がないのか?」


……片手で数えるくらいしかないですね。

隊長さんの拘束が少し強くなったが、いったい私をどうするつもりだろう?

『食べないでくださ~い』とでも言うべきだろうか?

まぁ、ドキドキはしているがまだ理性的な思考が普通に行えているので、隊長さんは揶揄っているだけで、この後何かしらの聞きたくない感じの悪い話が始まるのだと予想しているが……。

こっちから話題を振るべきなのだろうか?

聞きたくないんだよな~。


「……なにか重要な話とかあります?」


「ん?そうだな……君がこの国で『聖人』として認識され始めている件でも聞きたいか?」


……こういう時はお決まりの『聖人』と『性人』の勘違いをするべきなのだろうか?

わ、私はエッチなことなんてしないんだからね!

健全だから!!


「そして私は『巫女』という肩書を持っている。……後は君なら分かるな?」


なんで異世界に『巫女』の肩書があるんだよ!?

巫女ってバイトのイメージしかないけど、本職が巫女の人とかまだ実在するのかな?

まぁ、めちゃくちゃ大きい有名どころの神社ならいるかもしれないけど、私はそんなところに行ったことないからなぁ~。

本気の神頼みとかゲームでガチャの時しかしたこと無いし……。


とりあえず、隊長さんが『巫女』の肩書を持っていて、私が『聖人』として認識され始めている……。

『聖人』ってあれだよね?

どっかの宗教の神の子がそんなこと言われていた気がする。

私、少し前に『なんか偉そうでイラついた』という理由でおっさんの両手足切り落としたよ?

そんな危険人物を『聖人』として認識するなんて、エルフの目は一回取り外して洗った方がいいかもね。


「『聖人』は『いずれ神に至る者』だとか、『神の言葉を告げる者』、『神と直接会話した者』など、当てはまる場合がいくつかあるぞ。勿論、当てはまる人物は長い間いなかったが……。」


『いずれ神に至る者』……。

私、この世界に来た時の記憶を思い出せれば神になれるそうだから当てはまってるね。

今のところ一切思い出せないどころか、そのこと自体忘れかけてたけど。


『神の言葉を告げる者』……。

これは『神と直接会話した者』とは違うのかな?

『告げる』だから、神から一方的に聞かされた内容を、周りに広める感じかな?

『神託』とか、物語だと時々あるもんね。

これはどちらかと言うと『巫女』に当てはまりそうなイメージかな?


そんで『神と直接会話した者』……。

認めたくはないが、あれが神だとしたら当てはまるのかな?

『直接』という部分が当てはまっていない気もするけど、神域に呼ばれたときは本人だったのかな?

『本人』と言うより『本体』か。

分身というか分裂というか、分……分霊?

そんな感じのことしてそうだし。


という訳で、『聖人』検定は2つ当てはまってました~。

ハイ拍手。

……さて、『聖人』って認識されると、何か不利益があったりするのかな?

ついでに隊長さんの巫女服姿とか見れる?


「不利益は基本的にないぞ。信仰熱心なやつに言い寄られる可能性はあるが、殺さなければ問題ないから、気にしなくてもいい。巫女服は……昔はあったらしいが今はないぞ。普通に『動きにくい』との理由で数百年前に廃止された。……ああいう格好が好みなのか?」


廃止されたのか……。

別に巫女服に対して並々ならぬ情熱を持っていたわけではないけど、一度は生で見てみたい物ってあるじゃん?

UFOとかUMAとか……。

私にとって巫女服がそれだったわけで……。

UFOとかUMAと巫女服を同列に並べると違和感があるな。

まぁいいか。


ところで、私は思ったことを全然口に出してないのに、なんで考えが分かるんです?

そろそろ思考が読めることをカミングアウトしてもいいんじゃないですか?

一緒にタオルで隠すこともなく全裸でお風呂に入ってる仲じゃないですか!

局部すら隠していないのに、隠す意味ないと思いませんか?

ほらほら、正直に言っちゃいなよ。


「まぁ、なんとなく考えていることは分かるが、なんで分かるかは分からないぞ?最初の異世界からの転移者以来、『鑑定』のスキルを持つものが現れなかったからな……。なんと言うか、以前亀と思念会話ができるハイエルフの方と会っただろう。あれと似たような感じだと思う。ただ、密着しているからか、いつもよりハッキリ詳細に分かる気がするな。」


ついに隊長さんが認めたぞ~!

今までずっと、誤魔化したりはぐらかしてきたのに……。

これは友好度がある程度溜まったということだよね?

もしかして、友好度が溜まったから一緒にお風呂に入っているのかな?

エルフちゃんとか在庫ちゃんとも、友好度が溜まればお風呂に入るのかな?

……そういえば、前に友好度が溜まった状態で会話すると添い寝シーンに突入するゲームがあったなぁ~。

全キャラコンプが怠かったし、アプデで新キャラが追加される頃には別ゲーに移行してたけど、あの後どうなったんだろう……。

まぁどうでもいいか、2度と遊べないだろうし。


「他には何を話そうか……。せっかくだし、いろいろゆっくりと話したいな。」


「そろそろ普通にのぼせそうなんですけど……。」


私の連続入浴時間は、お湯の温度が40度くらいだと5分が限界なのだ。

キッチリ厳密に計ったわけじゃないけど、いつも確認したら5分だったから間違いない。

5分浸かって、数分間体を洗ったりして時間を潰して、また5分浸かってを繰り返すなら問題ないけれど、連続で5分以上だと普通にのぼせるのだ。

体質の問題かな?


「……君にはもう少し女性に対して積極的になって欲しいな。数日間2人きりだったのにエアリアにも手を出さなかったのだろう?ちょっと変わった趣向だったりするのか?」


そんなことないですよ?

私の性的趣向は一般的な範囲内だと思います。

……ちゃんと悦んでいるので拘束を強めないでください胸が潰れますよ?


「まぁ、のぼせそうなら仕方がない。私はもう少し入っているから、先に上がってもいいぞ。」


そんなわけで拘束を解いてもらった。

プルンプルンでムニムニの感触が少し名残惜しい気もするが、私の理性が誘惑に打ち勝ったのだと思うことにして、勝利の余韻にでも浸ることにしよう。

悪いね、強すぎて。

敗北を知りたいわ~……。


軽く体を拭いてから脱衣所に出ると、ちょうどエルフちゃんと在庫ちゃんの2人組と遭遇した。

なんとなく2人から仲良くなった感じの雰囲気を感じたけど、もう一緒にお風呂に入るくらいの仲になったのかな?

仲良くなるの早くない?

もしかして、コミュ力私より高い?


私は体を拭いたタオルは手に持っており、風呂上りなので当然フルチンの状態だ。

こういう時は女の子特有の可愛い叫び声でも上げるのかと少し身構えたが、2人とも完全に固まって下半身ガン見だった。

隊長さんとは違い、少し顔が赤くなっているだけ可愛いものである。

隊長さんはニヤニヤしながらガン見だったもんなぁ……。


「そういうお年頃なのかもしれないけど、あまりジロジロ見る物じゃないよ?」


とりあえず2人に声をかける。

まったく……、私が見られて興奮する性癖だったら、今頃すんごいことになってたよ?

ほれほれ、見世物じゃないよ。

……やっぱり隊長さんがおかしいだけで、普通は裸を見たり見られたりするのは恥ずかしいものだよね。

この世界では一緒にお風呂に入るのが普通なのかと少し考えてしまったが、私の感性は間違っていなかったようだ。

私が服を着て脱衣所から出ていくまで、2人は固まったまま動かなかった。


なんというか、やっぱりお風呂は1人で入るのが一番だね。

しみじみとそう思った。

だって風呂に入ったのに全く疲れが抜けてなんだもん……。

むしろ疲れたよ……。




在庫ちゃんの歓迎なのか、いつもより少し豪華な感じの夕食を私と顔の赤い2人、ホクホク顔の1人の4人で少し賑やかな雰囲気の中食べた後、借りている部屋に戻って早めに休むことにした。

数日間のサバイバル生活に加え、隊長さんと一緒にお風呂に入ったことで、流石に少し疲労感を感じているのだ。

洗濯物とか食材の残りが少し気になったので、寝る前にインベントリの中を確認しながら明日の予定を考えていると、珍しくドアがノックされた。


ノックされたのだが、体がおかしい。

まず返事が出来ない。

ノックの音に返事をしようと思ったのだが思うように声が出ず、呂律も回らなかったのだ。

次に意識がヤバい。

異常な眠気が襲ってきて、体には力が入らず瞼が今にも閉じそうだ。

ベッドに座っていたので、倒れても怪我の恐れはほとんどないが、今まで25年以上生きてきて、こんな状態は1度も体験したことがない。

……夕食に何か盛られたか?

急激な体調の変化から意識が落ちるまでの数秒間くらいの間に、思い浮かんだ原因はそれくらいしかなかったが、わざわざ薬を盛る理由が分からない。


最後に少し見えた光景は、隊長さんを先頭にエルフちゃんと在庫ちゃんの3人が部屋に入ってくる姿だった。

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