第104話 無職になって、隊長さんも変わっちまったよ

翌朝。

陽が昇る前に起こされると、隊長さんに顔をムニムニされたりもしたが、予定通りに作戦は開始された。

門番はサクッと処理し、外に待機していたおっさん&ミュラーさん、その他数名を中にいれた後、4か所ある城門を全て完全に閉鎖し、領主の屋敷へと乗り込む。


……秘密の地下道とかないよね?

屋敷から街の中へ逃げるだけなら最悪住人皆殺しで済むけど、街の外まで続く地下道とかあればマジで面倒臭いことになっちゃう。

まぁ、なるようになるか。

私はお金を貰うからには相応の仕事をするだけ。

ついでに領主宅にある金品財宝をひっそりとパクるだけ。

……グヘヘ。


私が領主の屋敷に到着する頃には、既に制圧は完了していた。

隊長さん達と普通の人間との実力差を考えると、領主側は隠れて逃げる以外の選択肢を取った時点で詰みだろう。

まぁ、そもそも気づかれる前に殲滅が完了すると思うので、隠れられる可能性はほとんどないと思うのだが……。


さて、既にキャーキャーウフフの尋問タイムが始まっている様なので、私は特にやることがないな。

金庫でも探すかな。

あ、隊長さんだ。

チーッス!


「来たか。こっちにいい感じの金庫があるのだが開けて貰えるか?」


……隊長さんも金庫漁りに目覚めたのだろうか?

前はこんなことを言うエルフじゃなかったんですぅ~!

無職になってからこんな風になっちゃったんですぅ~!

お、マジでいい感じの金庫……と言うより金庫室?

『一部屋丸ごと金庫にしました』って感じじゃん。

やっぱ金持ちは違うね~。

それじゃあちょっと錬成魔法で穴を開けちゃいまして……。


中には煌びやかな金銀財宝と、値打ちモノと思われる武具や絵画、後なんかよくわからないものがいっぱいあった。


やっぱ求めていたのはこれなんよ。

その辺の雑魚をどれだけ狩っても手に入らない程のお宝。

以前の賞金首よりもたんまりと貯め込んでやがるぜ!


「これは……凄いな。」


隊長さんもご満悦の様だ。

隊長さんも資産ならこれに負けないだけ持っていても不思議ではないが、こうして煌びやかに陳列されているのを見るのは初めてだったのかもしれない。


そんなことを思いながら片っ端からインベントリに放り込んでいると、隊長さんが何かを発見したようだ。

手に持っているものは……さっき良く分からなかった物だね。

財宝には見えないけど、魔道具的な何かだろうか?

それともどっかの芸術家が独特な感性を表現するように作った何かかな?

パッと見は何かが書かれているだけの石に見える。


「なにか興味深い物でもありましたか?」


「……分からん。ただの石の様に思えるのだが、聖遺物の様な気もする。これは持ち帰ってハイエルフの専門家の方に聞いてみないと判断できないな。」


……聖遺物ってあれだよね?

5部位のメインオプションの厳選だけでもしんどいのに、サブオプションまで厳選するとなるとマジで沼るやつ。

それか神様とか聖人の死体か遺品。

そういえば以前、自称神様が『神が昔死んだ』とか言ってたし、聖遺物が遺されていても不思議ではないな。

私には一切分からないしただの石にしか思えないが、隊長さんは何かを感じ取ったのかな?

別に邪魔になるような大きなものでもないし、そういう重要そうなものを私に渡さないで欲しいわぁ~。

まぁ、別にいいのならインベントリに放り込んでおきますけど……。


隊長さんは何か考え込んでいる。

『もし本物ならばなんでこんなところに……。』などと口から漏れていたので、人間の欲深さと愚かさについて考えているのだろう。

……聖遺物って、そんなに重要な物なのかな?

今度自称神様に呼ばれたときにでも聞いてみようかな?

ネットで調べるよりも確実なことが聞けるだろうし……。


さて、金庫室の中にあったものは全てインベントリに収納できた。

マジでインベントリ最高だな。

入るものの大きさ以外に縛りがないんだもん。

廊下に飾られている絵画や彫像などもこの通り、片っ端から収納できちゃう。

あ、一族全員集合した感じの絵は流石にデカすぎて入らないや。

まぁ、金はかかっているのかもしれないけど、お金に換金した場合の価値はあまりないだろうから別にいいか。


「尋問も終わり、屋敷にいた者全員の処理も完了したのでそろそろ撤収するぞ。火を放つから忘れ物の無いように。」


「了解です。」


もう全てが終わったようだ……。

仕事が速いねぇ~。

金目の物の回収はたぶん全て終わっていると思うので、隊長さんに続いて屋敷を出た。

既に多くはないが街の人々も外を出歩いている様だ。

まぁ、領主のお屋敷周辺には、全く人通りがなかったんだけどね。

目撃者を口封じしなくて済むから楽でいいわぁ~。


諜報員さん達も街の外へと撤収する様なのだが、街を出る前に昨日強盗に入った商店と、商店の店主が尋問で漏らしたらしい、もう1軒の商店にも火を放ちに行くそうだ。

……まぁ、領主ともなれば、専属の商店も1軒だけではないのだろう。

諜報員さん達だけでそのもう1軒を制圧しに行ったのかな?

私も起こしてくれれば、一緒に強盗に行ったのに……。

まさか、『人や書類だけに手を付けて、金目の物には一切手を付けていない』みたいな勿体ないマネはしてないよね?


「君がお金を稼げる機会に連れて行かなかったことは済まないと思うが、あまり君は他の人間と関わらせない方がいいと判断した。過去に何があったのかは知らないが、他の人間と相対すると君の眼がどんどん濁っていって少し不安になったんだ。我々と敵対さえしなければ問題はないが、ソフィーナへの教育に悪いからな。」


金目の物には手を付けなかったようだ……。

少し勿体ないね。


それにしても、私の目が濁っていたかぁ~……。

自覚はないなぁ~。

別に過去に何かあったわけでもないし……。

まぁ確かに、たとえ人間が相手だろうと容赦なく攻撃できる自信はあるけど!

なんなら結構愉しんで徹底的に潰せる自信ならあるけど!

確かに教育には悪いのかもしれない。

でも別に問題はないと思うんだけどなぁ~……。


まぁ、その辺は隊長さんの判断だし、私が口を出すことではないか。

『教育に悪い』と言われると、マジで反論の余地がない気がするのよね。

PTAがよく言っていそうな苦情だぜ、知らんけど。


「何というか……、あまり外道に堕ちる様な真似はしないでくれよ?君のことは本当に気に入っているから、出来るだけ長くいい関係を保ちたいと思っているんだ。ソフィーナとも仲良くして欲しいしな。」


「……善処します。」


酔っぱらっている時ならともかく、素面の相手にそんなこと言われると照れちゃうね。

隊長さんも流石に少し恥ずかしかった様だ。

大丈夫?

お面で見えないけど、顔赤くなってたりしない?

照れる隊長さんとかなかなかのレア度だろうから、ご尊顔を拝んでおきたいぜ。


「ほら、帰るぞ。これで無事に終わればいいんだけどな……。」


「そうですね。見落としがなければこれで終わるでしょうけど、人間って変なところでしつこいですからねぇ~……。」


「……君に言われると妙に説得力があるのがなぁ……。」


そりゃあ私は人間だもの。

全ての人間を知っているわけではないけれど、少しくらいは過去の歴史から色々なことを学んでいるからね。


隊長さんと一緒に街を出て、山頂にある鳥人族の集落へ向けて移動を開始した。

なぜかデカくて顔の怖いおっさんとか、ミュラーさんとは途中で合流しなかったが、隊長さんが『心配しなくてもいい』と含み笑いで言ってきたので気にしないことにした。

あの2人……そういうことなのかな?

手助けに来ておいてこういうことを言うのもあれだが、滅べばいいのに……。


隊長さんと2人きりなので、街へ行くときには2日掛かった道のりを、帰りは1日で到着だ。

集落に戻ると、そこには死にかけの在庫ちゃんが倒れていたのだった。


「酷い……。いったい誰がこんなことを……。」


すっごく心当たりがあるが、とりあえずそう呟いてみる。


「……もしかして、私達が街へ行っている間の世話を頼み忘れたのか?」


……大正解。

3日も飲まず食わずで放置されたらそりゃあ衰弱するよね。

とりあえず水を飲ませるために口の中に詰め込んでいたタオルを取ったところ、在庫ちゃんはか細い声で『助けて』との声を出した。

意識もちゃんとあるようだし、水飲ませてから何か食わせたら問題なさそうだ。


「一応念のために医療師を連れてくる。ちゃんと水と食料を与えておけよ。」


「了解で~す。」


……分厚いステーキ肉でも焼けばいいかな?

胃が受け付けない可能性があるけど……。

こんなことばっかり考えてるから隊長さんに心配されるのか。

もう少しだけ慈悲の心を持つように頑張ろう。


とりあえず水もあげたので、インベントリの中に入れている食べ物を物色する。

香辛料たっぷりであとは焼くだけの状態のお肉。

ジャーキーやサラミ、ベーコンなどの塩分たっぷりの加工肉。

この国では至って普通に食べられている少し硬めのパン。

どれがいいかな~?


チラリと在庫ちゃんの方を見てみる。

口の中に詰めていたタオルは取ったが、依然手足を拘束され、目隠しも付けたままだ。

とりあえず食べさせるものが決まった。




「ほらほら~、これが欲しいんでしょ~?黒くて~。固くて~。おっきくて~。少~し熱いフランクフルト。ほら、あ~ん……。」


ちょっと目を離した結果、少し表面を焦がしてしまったりもしたが、せっかく焼いたフランクフルトを、在庫ちゃんはなかなか食べようとしない。

火傷しない様に少し冷めるまで時間を置いたので今が適温だと思うのだが、このままでは完全に冷めて美味しくなくなってしまうだろう。

その小さなお口を開けるだけでいいんだよ?

喉の奥までズボッと押し込んじゃうから。


「君は何をやっているんだ?」


隊長さんが戻って来たようだ。

後ろにいるのがお医者さんかな?

パッと見エルフの方の様だ。


「一応食べやすい物を用意したんですけど、なかなか口を開こうとしないんですよ。俗に言う反抗期っていうやつですかね?やっぱり私、ペットを飼うのは向いてないっぽいです。」


「……そうか。後はこっちでやっておくから、君は夕食まで休んでいてもいいぞ。」


そう、これが『勝手に飴と鞭作戦』だ。

私が適当に鞭役をやっておいて、面倒見のいい隊長さんが飴役としてお世話を変わる。

これで在庫ちゃんも心を開いて隊長さんに接してくれるといいね。

そしてあわよくば、お世話を隊長さんに丸投げだ!

完璧すぎる作戦だぜ。

さて、夕食まで何して時間を潰そうかな~?

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