第103話 どうも、清廉潔白な強盗です。

街への移動は非常に順調だった。

近接戦が駄目駄目というか、体を動かすことがあまり好きではないというミュラーさんがいるため、移動速度はそこまで速くないが、モンスターに襲われようと瞬殺し、野盗に襲われようと瞬殺し、街周辺の村々を巡回していたらしい兵士達も瞬殺していった。

容赦ないね。


隊長さんが強いことは既に知っているので割愛するが、顔の怖い高身長ゴリマッチョのおっさんもなかなか強かった。

縦だろうと横だろうと防具を身につけていようと、どんな相手も大剣の一振りで一刀両断だ。

マッチョ怖いわぁ~。


ミュラーさんもなかなか凄かった。

『シャットダウン』という二つ名が表すように、魔法を発動すると相手が意識不明になるのだ。

それも見た目には何の魔法が使われたのかが分からない。

魔力を感知できるくらいの実力を持った魔法使いならば効果範囲から逃げることで攻撃を躱すことが出来るかもしれないが、出来ない者は何も分からないまま確実に意識を失うだろう。

なんとなく振動が関係していそうな印象を受けたのだが、いったい何の魔法なのかイマイチ絞り切れなかった。

魔法ってやっぱ怖いわぁ~。


さて、そんな錚々たる面子での移動もあと少し、もう少しで街へ着きそうというタイミングで、ふと気になることが思い浮かんでしまったので、隊長さんに質問してみた。


「ところで、そのクソみたいな一領主と繋がりのある商人とかって特定できてるんです?」


「……商人?」


「奴隷を何人も捕まえるとして、全員を自分の管理下で何かしらに使うよりも、どっかに売り払った方が手っ取り早く大きなお金になりませんかね?悪徳貴族とかって、そういう後ろ暗~い商売をしているところと繋がりがあるイメージなんですけど……。」


「……そういう物なのか?」


隊長さんは一応私の話した内容を理解してくれたものの、イマイチピンと来ていないようだ。


鳥人族の集落を外から見た感じ、最低でも100人近い人数がいると思ったのだけど、この世界の一領主にそれだけの数を全員自分のところで使うような労働場所があるのだろうか?

数十人程度ならあると思うけど、今回は集落を見つけられて攻められたんだよね?

それならいらない分を売り払うルートとかは確保していると思うのだけど……。

一応その辺まで思ったことを説明したところ、ちゃんと私の考えを完璧に理解してくれたようだ。


そう、普通奴隷を捕まえて売り払うとしたら、商人に『奴隷を仕入れられるかもしれない』とか『奴隷を捕らえるから、販売先を探しておいてくれ』みたいなことを事前に連絡していると思うのだ。

つまり商人も鳥人族の存在を把握してしまっている。

存在を知られたくない立場としたら、領主だけじゃなくその商人も消しておくべきだよね?


という訳で、悪徳領主と繋がりがありそうな、後ろ暗い商売している悪徳商人の有無は調べたのかな?


「……街で行動を起こす前に調べるべきだな。」


「それだから貴族を皆殺しにしても兵が送られ続けてきたのだな。」


「いざとなれば街一つ滅ぼすくらいなら簡単に出来ますけど、何の関係もない善人にまで手をかけるのは、良心が痛みますよね……。」


……異種族の方々って、結構脳筋な気がするね。

まぁ、今回は街に着いたらすぐに攻めるのではなく、数日程情報を集めてから殺すべき敵だけど確実に殲滅するべきだと思うんですよ~。

私は情報が集まるまでの間観光でもしておくので……。


「君のおかげで無駄に敵を殺さなくて済むかもしれないな。……ところで、もちろん手伝ってくれるのだろう?」


……これが言い出しっぺの法則というやつか……。




という訳で、街へと到着しました~。

見た感じはホエールポートよりも小さめの街で、城壁もそこまで大きくは感じない。

もちろん小さくはないので、『中堅どころかな?』って感じだ。


とりあえず城壁を飛び越えて中に侵入。

侵入するのは私と隊長さんの2人だけだ。

ゴリマッチョのおっさんは、見た目で目立つし武器も目立つので情報収集には不向きと判断して待機。

ミュラーさんは街中だと不意打ちで襲われた場合に身を守れるか怪しいので待機だ。


そんなわけで隊長さんと2人で街の中を歩き回っているのだが、なんというか街の中の様子は凄く極端な感じだ。

大通りは賑わいを見せていて、金を持ってそうなやつと儲かってそうな商店が立ち並んでおり、細い通りや裏通りには、住むところもなさそうな浮浪者がうようよと存在していた。

ある意味悪徳領主の治めている街としてはイメージ通り過ぎて、少し感動するくらいだ。


とりあえず、既に街へと侵入済みの方々には領主宅に出入りする人物を調べてもらい、私と隊長さんは街の中を歩いて怪しげな商店を洗っていくことになったらしい。

期間は3日が目処だそうだ。

忙しくなりそうだね~。


「まずは宿屋でも探しますか?」


「いや、宿屋に入ると余所者として目立ってしまうから、街へ侵入したことがバレる可能性がある。寝泊まりは仮拠点があるから宿屋は探さなくてもいいぞ。」


……宿屋ってそんなに目立つかな?

あんまり記憶にないや。

『隊長さんが美人だから周りの注目を集めていた』みたいな感じじゃないの?

言わないけど。

まぁ、宿屋を探さなくてもいいのなら、今から頑張って後ろ暗そうな商人でも探すかな。


「それで、どうやって調べていくんだ?」


「そうですね……。パッと見たいして客は入っていないのに、なぜか儲かっていそうな大きな規模の商店に適当に押し入って強盗でもしてみますか。そのうち当たりが出るでしょう。」


……なんですかその表情。

私は本気ですよ?

私みたいな素人に名推理なんて出来るわけないじゃないですか。

こういう時は手あたり次第根こそぎやっちゃって、『ついでに当たりが見つかればいいな~』感覚で頑張るんですよ。

少なくとも強盗すれば、私はお金が大量に奪えてウハウハになれますからね。

やる気満々ですよ!


「……諜報員達からの連絡を待つか。」


珍しく隊長さんが疲れているようだ。

なにか悩み事だろうか?

やっぱ無職になったことが精神的に負担なのかもしれない。

大丈夫、すぐに無職でいることにも慣れるって!

隊長さんなら少しモンスターを狩れば食っていけるから、何も心配する必要はないって!


……何か隊長さんの気に障ったようで、顔をムニムニされてしまった。




陽が沈み、辺りが暗くなった頃。

私と隊長さんは変装をしたうえで1軒目の商店裏口へと来ていた。

なんだかんだ気が乗らなくても、一緒に来てくれる隊長さん優しいわぁ~。


この店は外から見ても大した商品が置いてあるようには見えないが高級店らしく、昼間に偵察に来た際には『貧乏人は来るな』と言わんばかりの接客態度だった。

きっと後ろ暗いことをしてお金を稼いでいるに違いない。

ついでに店主を1発殴っておこう。


「それじゃあ打ち合わせ通りにいきますよ。1軒目ですから手堅く慎重に行きましょう。」


「あれって打ち合わせだったのか……。というか、何軒襲撃するつもりなんだ?」


「目標は1晩で3軒です。情報を精査する必要もありますし、明らかに怪しい商店は多くないのでそのくらい回ればすぐに見つかるでしょう。では……行きます。」


まずはドアを開ける。

裏口付近には誰もいないようだ。

隊長さんにも入ってもらい、裏口を錬成魔法で完全に封鎖する。

……うん、問題ないね。


2階から声が聞えるので慎重に上がって行き、ドアの前で中を伺う。

中には10人おり、一家団欒食事中の様だ。

アイコンタクトで合図をし、一気に制圧をした。

ふっ!雑魚が!

10人は適当に縛り上げておき、隊長さんに見張っていてもらう。

私はありとあらゆる物の回収だ。

インベントリに片っ端から放り込んでいき、1部屋づつ綺麗にしていく。

外との出入り口になりそうなところは全て封鎖し、床下や壁の裏側に隠しスペースがないかまでしっかりと調べ、次々と家宅捜索を行っていくが、今のところめぼしい物がなかった。

……結構忙しいな。


ここでたぶん最後。

チラッと見ただけで書斎だと分かり、重要そうなので最後に回したのだ。

帳簿っぽいものや手紙類も発見。

机の後ろの壁には金庫もある。

グッヘッヘ。

全て回収し、隊長さんの元へと戻った。


ジェスチャーで全て終わったことを伝え、捕らえた10人は縛り上げた状態のまま放置して脱出した。

かかった時間はだいたい1時間くらいかな?

流石に家宅捜索となると時間がかかってしまった。

この後は、仮拠点にいる諜報員の方々に荷物の引き渡しをして、取って来た物の中身を精査しないといけないので、このペースじゃ1晩に3軒は無理かもしれないね。


「君は以前にもこの様なことをした経験があるのか?」


隊長さんが少し不安そうに聞いてきた。

『この様なこと』とは今回の強盗のことだろうか?


「一切ありません。私は犯罪とはほど遠い、品行方正清廉潔白な若者でしたよ。」


「……。」


隊長さんは疑わしそうな目で何か言いたげだったが嘘はついていない。

私はニートだっただけで、犯罪行為など一切したことがないからね。


あまり時間はかからずに諜報員の方々が拠点にしているらしい建物へと到着した。

軽く挨拶を交わした後、奪ってきた物を次々と取り出していく。

ほとんどが何の価値もない物ばかりだった。

まぁ、それは当然だろう。

明らかに衣類しか入っていないような箱とかいちいち持ってくる必要はなかったよね。

念のために持ってきたけど……。


だが残念……嬉しいことに、今回襲撃した商店は大当たりだったようだ。

手紙の中に、『異種族を発見したので、奴隷として捕らえるから販売先を探して欲しい』との内容が書かれたものがあったのだ。

これは黒で確定だね。


「……まさか1軒目で当たりを引くとはな……。」


「日頃の行いですかね。さて、当たりを引いてしまった以上、さっき縛り上げた奴らを回収して尋問しないといけないですね。」


「それは他の者に任せてもいいだろう。商人も押さえた以上、明日、陽が昇る前に領主の屋敷を襲撃し殲滅する。それまで君はしっかりと休んでおいて欲しい。」


……街の観光は無理っぽいな。

まぁ、仕方がないか。

一応仕事として来ている以上、上からの命令には逆らえないもんね。

早く働かなくてもぐーたら出来る環境を整えたいな~……。


諜報員さん達が忙しそうに働く中、部屋の片隅で毛布にくるまって眠ることにした。

明日はたくさん稼げますように……。

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