第102話 骸骨とか~……子供っぽいというか~……。
空に浮かぶ月みたいな星明かりを頼りに山を下る。
地球から見ていた月とは違うと思うけど、見た目が凄く似てるんだよなぁ~。
昔から『月には神秘的な力がある』とか言われてたけど、この世界でも何かしらの曰くがあったりするのだろうか?
そんなことを考えながら特に急ぐことなく普通に下山した結果、無事に敵の野営地点を発見することが出来た。
というか、普通に篝火を焚きまくっていたので、遠くからでも確認できたのだ。
こういう時に知識があれば、テントの数から敵の人数を把握したり、どこに食料や武器が置いてあるのか分かったりするんだろうね。
「ミュラーはここで待機して登ってくるやつを一人残らず殲滅してくれ、私達は反対側に回り込んでから奇襲を仕掛けるぞ。」
「分かりました。お気をつけて。」
ということで、ひっそりこっそりと反対側へ移動だ。
下りは死ぬ覚悟で走れば速度が出るけど、傾斜を登るのって普通はそこまで速度を出せないからね。
隊長さん、蹴散らすんじゃなくて完全に殲滅する気だなぁ~。
最大500人を4人で攻め込むんだから、普通に数十人程度には逃げられるつもりでいたけど、絶対1人も逃がす気ないじゃん。
理性的に敵を殲滅しようとする実力者とか怖いわぁ~。
まぁ、特に反対意見はないので素直に移動する。
「ニート、君は広範囲に対して魔法を撃ち込んだりは出来るか?」
隊長さんが聞いてきた。
ファーストアタックにド派手な魔法をかましたいのかな?
でも広範囲に対する魔法か……。
出来るとは思うけどやったことがないなぁ……。
「まぁ……出来るとは思いますよ?あまり気は進みませんけど。」
氷魔法だと流石に広範囲は無理だ。
魔法のコスパがクッソ悪いので間違いなく魔力切れになり、その後の余裕がなくなってしまう。
物理魔法は範囲相手にはマジで使えない。
壁張って突撃できるだけマシなのだが、それなら普通に斧振り回した方が確実だよね?
だが、火魔法なら広範囲を一気に燃やし尽くすくらいは出来ると思う。
その場合、兵士たちが装備している武器や防具、その他もろもろが燃えてしまい価値がなくなってしまうからあまりやりたくないが……。
「そうか、出来るならやってくれ。」
「……頑張ります。」
今回の夜襲では稼げそうにないことが確定した。
隊長さんの命令ならば仕方がない。
どうせなら派手にやっちゃおうかな?
……流石に派手にやるのは無理か。
地味に手堅くいこう。
普通に空間の温度を上げるだけで大丈夫だよね?
鍛冶作業で火魔法を使いまくってるから、ただ温度を上げるだけなら慣れてるし楽なのよね。
ワンちゃん資材とかが燃えずに残ってくれそうだし……。
隊長さんが止まり剣を抜いた。
襲撃ポイントに着いたようだ。
「君のタイミングで始めてくれ。魔法が収まり次第、突撃するぞ。」
「了解です。」
一応念のため、インベントリから薪割り君を先に取り出しておき、魔法を発動するために少し集中する。
「ちょっと待て。なんだその武器?呪われてるんじゃないのか?」
今大事なところなんで、後にしてもらえませんかね?
チラッと見ると、2人とも薪割り君に興味津々の様だ。
しょうがないにゃ~。
「これは隊長さん達が会議している間に作り、『薪割り君』と命名したお手製の大斧です。威圧感のある、なかなかいいデザインの斧でしょう?」
「……正直趣味が悪いぞ?」
隊長さんの口撃。
クリティカルヒット。
精神的大ダメージを受けた。
悲しい……。
「見た目はあれだが、確かになかなかいい出来の斧だな。」
デカくて顔の怖いおっさんがフォローしてくれた。
気遣いのできる高身長ゴリマッチョの様だ。
この斧、使います?
「……私にはこの大剣があるからな。」
凄い気まずそうに顔を逸らされたよ。
そんなに嫌なのかな?
頭蓋骨を1つ1つ刻むの大変だったのになぁ……。
この恨み晴らさでおくべきか……。
ちょっとグダグダになってしまったが、とりあえず今は気持ちを切り替えて、最大級の悲しみを込めて奴隷狩りに来た人間達に魔法を撃ち込むことにした。
「レンチンの時間じゃぁ~!!」
電子レンジとは全然違うと思うが、最近火魔法の使い方が物を温めるくらいにしか使ってないのよね。
そんなわけで範囲優先で全体を思いっきり加熱してみたところ、火を点けたわけでもないのにテントやらなんやらが全て燃え始めた。
テントに使われてた布の発火点を越えちゃったかな?
だが、誰もテントから出てくる様子がない。
……もしかしてこの野営地は見せかけで、周りで敵が待ち伏せているとか?
見張りっぽい人間もいた気がするけど、異種族のテリトリーでこんだけ堂々と野営してるって不用心すぎるもんね。
「……今火が付いたのは君の魔法だよな?」
「そうですけど、様子が変です。夜襲されることを予測して待ち伏せされている可能性もありますから、周辺に気を付けて下さい。」
「…………いや、全員あそこで死んでると思うぞ?」
隊長さんがそう言うので少し野営地に近づいたところ、これは駄目だわ。
近づいただけで危険だと分かるほど、空気自体が糞熱くなっていた。
初めてこんな使い方したけど、これ結構洒落にならないね。
人間を直接温めなくても、クッソ高温になった空気を吸い込めばそりゃあ大ダメージを受けるよね。
火魔法ってヤバいわぁ~。
……これって普通に火を点けるよりもヤバいんじゃね?
いつだったか目力さんに、私の火魔法の使い方は高等技術だと言われたけど、もう少しそのことを自覚して魔法を運用した方がいいのかもしれない。
とりあえず、先程と同じように魔力を広げて、今度は氷魔法で常温くらいまで冷やすことにした。
物が凍りつくくらい冷やすわけではないし、魔力消費もそこまで大きくないやろ。
だいたい常温くらいまで温度を下げたところ、既に燃えている物の火は消えなかったが、とりあえず野営地の中を探索できる様にはなった。
何かいい物は残ってるかな~?
あ、一応物はまだ熱い可能性もあるから、素手で触らない方がいいですぜ。
トングと手袋をどうぞ。
それにしても、人間と人間の着ていた服とかは燃えてないんだよなぁ~。
やっぱり基本的に魔法に対する抵抗力とかがあるんだろうな~。
とりあえず金目の物は……。
大した物は持ってないな、しけてやがるぜ。
途中から鳥人族の応援も参加して死体漁りに勤しんだが、今回は兵士の数が多かったので前回よりは金銭的収入も多かったが、それ以外に良い物は何もなかった。
書類などもすべて燃え尽きていたようなので隊長さん達も収穫なしだ。
たぶんきっと私は悪くねぇ!
……はい、すみませんでした。
絶賛正座して反省しております。
「いや、責めるつもりはないぞ?やれと言ったのは私だし、別に書類が残っていようと、今後やることに変わりはないからな。」
隊長さん優しい。
それで、いったい何をやるんです?
「今度はこちらから攻め込むぞ。君は街の城壁に穴を開けまくったそうだな?期待しているぞ。」
不気味な仮面の下で見えなくとも、隊長さんが笑っていることが分かった。
敵には容赦がないな~。
そこに痺れる憧れる~。
とりあえず今日はもう休むことにした。
翌朝。
優雅に朝食を摂り、食後のティータイムをのんびりと楽しんでいると、隊長さんが昨日の2人を連れてやって来た。
隊長さんは今日も忙しそうだね。
お茶飲む?
「頂こう。とりあえず分かったことだが、今回の敵だが国自体には鳥人族の存在は伝えられていないようだ。つまり今回の出兵は一領主の独断だな。国全体を攻めずとも街1つを潰すだけで済みそうだから、だいぶ仕事が楽になったな。」
随分詳しい情報を掴んだみたいだけど、街1つ潰すことを楽だと言える隊長さんって、やっぱりヤバいよなぁ~。
まぁ、『国内の人間全員を皆殺し』みたいな、100%無理なことを言いださないだけマシだろうけど……。
それで、街はどう攻めるのかな?
「君に頼みたいのは街の閉鎖だ。門を閉じた後に錬成魔法でくっつけてしまえば、問題なく閉鎖出来るだろう?それを4か所お願いしたい。その後に領主宅を攻め滅ぼした後は、君は好きなだけ金銭や武器防具などを回収してくれ、私達は書類などを全て焼いてから撤収する。」
それだけ聞くと簡単そうだね。
たぶん私には話していない裏工作が色々とありそうな雰囲気だけど、言わないってことは私は知らなくてもいいことなんだろう。
……『お前は知り過ぎた』みたいに突然後ろから襲われたりしないよね?
最近ちょっとだけ心配だわぁ~。
とりあえず、その街まで歩いて2日ほどかかるとのことで、この後出発するそうだ。
……まさか、街に攻め込むのも4人でやるわけじゃないよね?
「表向きに敵対するのは我々4人だけだな。既に何十人も街に侵入していて、我々が注意を引き付けたらいつでも行動を開始できるように指示を出した。我々が着くころには問題なく待機しているだろう。」
……街のセキュリティーが心配になって来たな~。
なんて言うか、もっと人間の方々には頑張ってもらいたい。
もちろん、私は隊長さんの方に味方するよ?
でも人間側がここまでガバガバだと、人間の国で暮らすことに不安を覚えるよね。
私はどっかのアホが異種族に喧嘩を売った結果、巻き添えで住んでる町が滅ぶとか嫌だわ~。
隊長さん達にお茶を振舞い、凄くのんびりとした時間を過ごした後、奴隷狩りを行ったアホな領主のいる人間の街へと移動を開始した。
私としてはここからが大事な稼ぎ時だ。
特に気合を入れたりはしないが、ほんの少しだけやる気を絞りだして、金銀財宝を楽しみに思い浮かべながら歩くのだった。
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