第101話 夜襲前の顔合わせ

非常に残念ながら、人間以外の種族では奴隷制という制度はないらしい。

つまり人身売買はできないのだ。

それならば『臓器売買は行なっていないのか』と隊長さんに聞いたところ、『同族である人間の臓器を食べるのか』とドン引きされた。

魔法でだいたいの問題が片付くこの世界では、臓器移植という治療法はまだないらしい。

誤解を解くのは大変だね……。


誤解は無事解けたが、この商品ちゃんをお金にする方法は今のところないようだ。

せっかく捕まえたのに、残念だわぁ。

身代金要求するくらいなら、普通に強盗した方が速くて楽だし、本格的に捕まえた意味がないんじゃないかな?

隊長さんはなんで商品ちゃんを生け捕りにしようと思ったのかな?


「人間の魔法使いはほとんど全員が貴族と何らかの関わりがあるからな。とりあえず生け捕りに出来れば人質として優秀だし、尋問すれば貴族の立場からの情報が手に入ったりもする。もちろん魔法使い全員が役に立つわけではないし、生け捕りにすることにリスクがあるのなら真っ先に処理するのだが、君がいるのなら魔法使いなどカモだろう?」


……まぁ、破魔魔法って魔法をメインに使う相手からしたら最悪だろうね。

それにしても尋問か……。

拷問なら私でも出来そうだけど、尋問ってどうやるのかな?

警察ですら自分達の望む様な自供を取るために半ば拷問の様な手法を取るイメージだけど、こっちの世界で肉体的なダメージを与えずに情報を吐いてもらうことって出来るのかな?

面倒臭そうだけど、人質とって脅すとかかな?


というか、拷問せずに情報を吐かせるって難しすぎる気がする。

不衛生なところで食事もろくに与えずに情報を話すまで放置するとか、話すまで手足の指を潰していくとか、火責めとか水責めもあるね。

そういうの無しで情報を吐かせる……?

この世界ならそういうことに使えそうな便利な魔法とかあるのかな?


まぁ少なくとも、ここにいる面子では尋問は出来ないのだろう。

向こうでは普通に大声で怒鳴りながら殴ってるし。

野蛮だわぁ~。

もっとスマートに聞き出せないものかね~?


私に所有権がある魔法使いの商品ちゃんはいろいろと価値があるため、尋問(拷問)は最後らしいので、それまで死体から身ぐるみを剥がすことにしたのだが、あんまり良い物は持っていなかった様だ。

武器や防具は適当に売りつけるとして、金貨さえ明らかに価値が低そうなのは困ったね。

エルフやドワーフの国で報酬として貰った金貨と比べると当然だが、持ち家のあるホエールポートで使われている硬貨と比べても価値が低いように感じる。

まぁ、種族が違うからと言って奴隷狩りに来るような国だし、程度は低いのかもしれないけれど、こんな価値の低そうな硬貨じゃあまり一時所得は期待できないだろう。


商品ちゃんは人身売買にも臓器売買にも使えないから金にならず、倒した敵が落とす武器防具お金も価値が低いとなると、今回はあまり儲からないのかも……?

いや、今回倒した敵は明らかに下っ端だった。

勝手なイメージだが、下っ端が碌に金を持っていないということは、上の立場のやつらが搾取している可能性が高いと思うのだ。

つまり、いっそこっちから攻め込んで略奪出来ればワンちゃん……?


国の中枢のお金が一切なくなったら、いったいどうなるのか……少し見てみたいよね!

人間たちは異種族の仕業だと思いこみ、異種族の人たちは人間の国を一つ破滅に追い込めるかもしれない……。

そしてそれを高みの見物出来そうな私……。

……完璧な気がするぜ!

隙と期会があったら提案してみよう。


さて、稼げそうな算段も出来たところで、そろそろ商品ちゃんにも尋問が行われるようだ。

グッヘッヘ、唯一の女性の生き残りだからねぇ~。

これは手取り足取りあや取りじっくりねっとりとした尋問になるに違いない。


「……え~と、君が捕まえたのは魔法使いらしいが、少し話を聞いても大丈夫か?」


「話すだけじゃなくあ~んなことやこ~んなこともやっちゃっていいですぜ!エロエロ公開プレイってやつでさぁ!」


鳥人族のおっさんが聞いてきたのだが、ぶっちゃけもう商品ちゃんのことなどど~でもよかったので適当に答えたら、隊長さんに後ろからコツンとされた。

エロエロは駄目らしい。


私のエロエロ発言に固まってしまったおっさん、不気味な仮面の上からでも分かるジト目の隊長さん、イヤイヤと首を振って意思表示をしている商品ちゃん……。

微妙な雰囲気が流れたが、おっさんは軽く咳払いをした後に質問を開始した。

と言っても、商品ちゃんは口にタオルを詰め込まれていて話せないので、『Yes』と『No』で答えられるような簡単な質問ばかりだ。


『君は魔法使いで間違いないか?』

『コク』

『君は貴族の家の生まれか?』

『フルフル』

『君は貴族と何らかの関わりを持っているか?』

『……コク』


質問は商品ちゃんに関することばかりだ。

AV面接みたいに『初体験は何歳で誰と?』とか聞かないのだろうか?

……聞かないんだろうなぁ……。

何というか、異種族の人たちって真面目な人が多いもんね。

酒飲みのサーシャさんも、なんだかんだ仕事中だけは真面目だし。

そりゃあ中には仕事中でも普通にサボったり手を抜いたりすやつもいるだろうけど、人間と比べたら絶対に少ないよね。


……私の周りにいた人たちが異常だっただけなのかな?

仕事時間中でもおしゃべりは当たり前、むしろ仕事をサボって残業した方が残業代も貰えるからお得!みたいな感じだったし……。

忙しくて残業なら仕方がないけど、業務時間中にサボりまくって残業代貰うとか害悪だよね。

『長い時間働くやつが偉い』みたいな風潮はマジで理解できなかったわ。

まぁ、1つ1つの仕事にいちいち値段を付けられないから業務時間で給料を出しているのだろうけど、『〇〇円でこの仕事終わらせといてね~。納期は〇日〇時』みたいな感じのやり方の方が、私としては理解しやすいし稼いでる実感を感じやすくて好きだなぁ~。

ニートだから働く気はないんですけど!


さて、暴力も拷問もない質問タイムが終わり、商品ちゃんはたいして情報を持っておらず、価値が低いことだけが分かった。

……マジでこの娘どうしようかな?

催眠とか洗脳系のスキルってないの?

一応貴族と関わりはあるらしいけど、生まれが貴族じゃないのなら身代金もあまり期待できないし……。

助けて隊長さ~ん!


「いや、普通に捕虜としての価値は高いと思うぞ?君が思っている以上に人間にとって魔法使いの価値って高いんだからな?それに、ここまで1人の犠牲もなく進める程防御に秀でた魔法使いはそうはいない。捕虜として捕らえておいてもいいんじゃないか?」


「その間のお世話とかって……?」


「……それは君がやるしかないな。」


デスヨネー。

まぁ、手のかかるペットを数日預かることになったと思ってお世話するか。

……まずは躾が大事だな。


売り物にならない商品ちゃんに、魔力を全開で放出しながら告げる。


「君のことは『在庫ちゃん』と呼ぶことにする。……逃げたら殺す。」


……返事がない、失神したようだ。

刺激が強すぎたかな?




夜になった。

向こうでは会議が長引いているが、私はのんびりと武器のお手入れをして時間を潰していた。

斧ハンマーを改良していたのだ。

ハンマー部分を完全になくしてただの大斧とし、表面にはおびただしいほどの頭蓋骨を刻み、いかにも呪われていそうな雰囲気の大斧へと作り替えた。

私が2メートル以上の高身長でゴリゴリのマッチョマンならば、この斧を持っていても不思議と似合っているのかもしれないが、細身で170センチほどしかない私がこの斧を持っていても、あまり迫力はない気がするが……。


でも、結構いい出来なんだよなぁ……。

目覚めた在庫ちゃんがすぐに失神するくらいには禍々しい見た目だし、さっきから誰も近寄って来ないのよ。

きっと皆、この大斧を見てビビってるんだね。

決して、不気味な笑い声をあげながら刃を研いでいる紙袋を被った不審者にビビっているわけではないと思う。

試しに使ってみたところ、丸太を簡単に薪に出来たし、今日からこの大斧は『薪割り君』と名付けることにしよう。


大斧が完成して、(そろそろお腹が空いてきたな~)と思い始めた頃、会議が終わったのか、隊長さんを始め何人ものおっさんやお姉さんが出てきた。

もう少し防衛するのか、こっちから討って出るのか……。

どっちなんだいっ!?


1人のおっさんがメンバーを代表をしてなのか、前に出て話し出す。


「今山の麓に沢山の人間の兵が野営しているとの報告を受けた。その数は300から500と見られ、今この場にいる我々と比べると圧倒的に多い数だ。」


……500人の兵士って、そこまで多くないよね?

多いのかな?

歴史には詳しくないから分からないけど、戦争だと最低でも数万対数万のイメージだったわ。

今回は戦争ではなくて奴隷狩りだから、少ししか兵を出さなかったのかな?


「だが恐れることはない!数では負けていようと、こちらには一騎当千の猛者が駆け付けてくれている!言葉通り、1人で1000の敵を葬れるだけの実力を持った強者だ!我々が負けることなどありえないと断言する!」


盛り上がってるな~。

さっさとこの後どうするのか言えよ。

まだ夜になったばかりだし、今から行動すれば夜襲とか出来るんだから。

当然攻めるんだよね?

そのために薪割り君を急いで完成させたんだから、攻めて貰わなきゃ困るよ~?


なんか話が無駄に長かったが、ちゃんと今から夜襲に出発する様だ。

まぁ、ほとんどの人員が集落に残って防衛で、夜襲に出るのは助っ人で来た中でも相当な実力のある数人らしいけど……。

(そんなんで国とか組織として大丈夫なのか?)と思わなくもないが、他所のことなので私は何も言いません。


私はもちろん隊長さんの腰巾着として夜襲に参加するので、今回の夜襲に参加するいかれたメンバーと顔合わせだ!


エントリーナンバー1!

エルフの国でも歴代最強との声もあるらしい、みんな大好き隊長さん!


エントリーナンバー2!

龍人族ってドラゴンと何かしらのつながりがあるのかな?

顔が怖く、身長2メートル近い大男。

大剣使い『両断のグエル』こと、グエル!


エントリーナンバー3!

鳥人族でも数少ない強者!

魔法に特化し近接戦は駄目駄目らしいが、その実力は多くの種族にまで知れ渡っているらしいお姉さん(婚活中)。

『シャットダウン』ミュラー!


あと私。

……おかしいな、4人しかいないよ?

あの偉そうにダラダラと演説を垂れていた鳥人族のおっさんは行かないの?


「君がいなければ代わりにあと5名ほど連れて行っただろうな。蹴散らすだけなら私1人でも問題ない相手の様だし……。」


「君のことはソフィーアから聞いた。相当な実力を持っているそうだな。期待しているぞ。」


「同じ鳥人族ではありますが、あの偉そうな態度が気に食わないんですよね。もう少し実力をつけてくれれば認めてあげなくもないのですが……。」


……おっけ~理解した。

この面子、皆マイペースだな?

私もあまり他人のこと言えないけれど……。


若干の不安はあるものの、(人数が少ないということは1人当たりの儲けは大きくなる)と自分に言い聞かせて、夜襲に向けて山を下り始めるのだった。

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