第100話 くっころ系魔法少女(成人済み)です

隊長さんに仕事に誘われた二日後、私と隊長さんはまず、山の反対側に侵入しているという賊を処理するために、その山の山頂にあるらしい集落へと移動を開始した。

『鳥人族』という種族の依頼者さんは、隊長さんに仕事の依頼をした後はドワーフの国にも協力を要請しに行ったらしく、隊長さんと2人っきりでの移動だ。


隊長さんと2人きりということはそう…………移動に一切の手加減がなかった。

『ついてこい』と言い残し、隊長さんは風となって消えてしまった……。


「速すぎぃ~!追いつけるかぁ~!うぉぉぉぉぉ!!」


まぁ、隊長さんの動きが見えなかったわけではないので方向は分かるのだが、ちょっと速すぎるよね。

地面を走っていては普通に追いつけそうにないし、木に隠れてマジで見失いそうになるので、仕方がなく木から木へと全力で走りながら飛び移り、隊長さんを追いかけた。


結果、常人ならどれだけ急いでも丸1日はかかるであろう移動を、ほぼ一直線のルートかつ圧倒的なステータスでもって30分もかからずに到着できた。

頑張ったおかげで隊長さんとは15秒程度の差だ。

……私はマジの全力で移動していたけど、隊長さんは全然本気じゃないんだぜ?

時々私が遅れていないか振り返りながら走るくらい余裕がありそうだったし……。


初めて30分も全力で走ったり飛んだりし続けたせいか、(体力)が一桁にまで削られているので、次のレベルアップでは(体力)に多くSPを振ろうと心に決めた。

ミニドラゴンから獲れた魔石のこと、完全に忘れてたからね。

あれ壊せばいくつかレベルも上がるやろ。


息も絶え絶えな私とは違いまだまだ余裕がありそうな隊長さんは、鳥人族の集落の方へと歩いて行った。

集落入り口っぽい門の前にいるヒトに、私のことを指差しながら何か話しているので、ここで休んでいても特に問題はないだろう。


座り込むどころか涅槃仏の様に横たわりながら、『鳥人族』の方を観察してみる。

隊長さんの話では、今回の依頼者である鳥人族の方々は戦いにはあまり向いていない種族らしい。

ついでに『鳥人』なのに空も飛べないそうだ。

ペンギンでもないのに空も飛べないとか……。

鳥人族の取り柄といえば、声が綺麗で歌が上手いことだそうだ。

……それだけだそうだ。


私としては、声が綺麗だとか歌が上手いことに関して羨ましく思うところもあるのだが、この世界では正直あまり意味はない気がする。

声優とか配信者が職業として存在しないからね。

酒場で歌を歌って稼げそうな感じでもないし、少しもったいない気がするなぁ~。


パッと見た感じ、あまり人間との違いは見受けられない。

背中に翼は生えてないし、体が羽で覆われているわけでもない。

少し頭の形が違ったり、手の親指の位置に違和感があるくらいで、個人差と言われたら気にしない程度の違いだろう。

隊長さんは『あまり戦闘に向いていない種族だ』と言っていたが、たぶん人間とそこまで変わらない気がする。

なにかパッと見ただけでは分からない弱点でもあるのかな?

例えば……目があまり良くないとか?

暗いところがよく見えない人に対して鳥目って言うじゃん?

それとも物忘れが異常に激しいとか?

……鶏には見えないし違うか。


そんなことを考えていると隊長さんが戻って来た。

私はまだ休憩中だから、『今から兵士を蹴散らしに行くぞ』とか言われても無理よ?

大半の人間相手なら疲れ切っているうえにナメプしても余裕で勝てるだろうけど、堕落しきった私自身の『休みたい』という意志には勝てないんだ。

自分に対して甘々な私は、辛いこともキツイことも怠いことも嫌なことも、全て出来る限り後回しにしたいんだ。


無情にも、こちらに戻って来た隊長さんは告げる。


「予想より速いペースで賊どもはこの山を登っているそうだ。歩きながらでも休憩はできるだろう?すぐに交戦予定地点まで移動するぞ。」


……まぁ、歩きながらでも息を整えるくらいなら出来るけどね。

それは一般的には休憩とは言わないと思うんだ。

……はい、立ちます。


全速力で木の上を飛び移りながら移動するという、以前なら考えられないような無茶な移動をしたせいか、ちょっと普段使わない筋肉が攣りそうな兆候を感じるが、隊長さんには怖くて逆らえないので渋々立ち上がって体の調子を確かめる。

腰とかケツとかふとももとか、あとふくらはぎもマジで攣りそうだが、移動には問題なさそうだ。

問題があったらもう少し休憩をお願い出来るのに……。


「問題なさそうだな。では移動しよう。今度は下りだからあまり疲れないと思うぞ?」


今度は普通に歩いて移動してくれる隊長さんの後ろをついていくこと20分ほど、鳥人族っぽいヒトが下から登って来た。

何かあったのだろうか?


「ソフィーアさん!来てくれたんですね!助かった!やつら、既に交戦予定地まで来ていて、岩を落とす程度の妨害じゃどうにもならないんです!すぐにでも登ってくると思うのでお願いしてもいいでしょうか?」


知り合いの様だ。

岩を落として妨害とか、怖いことするね。

どのくらいの大きさの岩なのかは分からないけど、そんな妨害を受けても問題なく進める相手も少しヤバそうだ。


「そうか……。厄介な相手がいるかもな。分かった。急いで上の方にも知らせてくれ。出来る限り足止めしてみる。」


……隊長さんが足止めしか出来ないような相手なら、私だとあまり役に立たないと思うな~。

というか隊長さん、『足止め』って雰囲気じゃないよね?

明らかに殲滅する気満々なんだけど、気のせいかな?

身にまとう雰囲気が怖いんだわぁ~。


正直怖い雰囲気を放つ隊長さんは、あの不気味な仮面を付けて下へと降りていく。

久々にこの仮面を付けてる姿を見たな。

やっぱり見知らぬ人間相手に顔を見られるリスクは避けたいのかな?

……暇だし、顔を一切隠していないのに、『顔を見られた以上消すしかない』みたいなセリフを言ってみようかな?

どんなリアクションをするだろう?

いや、私も顔を隠すべきなのか?

正直、糞暑いから仮面とか付けて行動したくないな……。

……紙袋でも作って被るか。


歩きながら目と口の部分に穴を開けた紙袋を作り、ちょうど被ったタイミングで40人ほどの人間っぽい集団を遠めに確認した。

見た感じは正規の兵士というよりも冒険者って感じだ。

数人兵士っぽい人間がいるにはいるが、全体的に武器も着ている防具も統一感がなく、身だしなみも顔も荒くれものっぽさに溢れている人物が多い。

半数以上が男性だが、女性も複数名いるようだ。


……隊長さん以上の美人さんはいないっぽいし、皆殺しでいいかな?

全員そこまで強いようには感じないし。

何というか、強くてもエルフちゃんレベルだ。

鳥人族のヒトはいろいろと妨害してたみたいだけど、ここまで登って来れたということは、魔法使いでもいるのかもしれない。


そんなことを思いながらじっくりねっとり観察していると、1人だけめちゃくちゃ綺麗に魔力を消している若い女がいた。

逆に不自然だし、こいつが魔法使いかもしれない。


顔で殺すか判断したり、魔法使いっぽい候補に当たりを付けていると、向こうもこちら気づいたようで、数少ない正規の兵士っぽいおっさんが大声で話しかけてきた。


「ここまで散々妨害しておいて堂々と出てきたということは、いい加減打つ手がなくなったのか?無駄な抵抗はやめてさっさと捕まった方が身のためだぞ!我々は貴様らを奴隷として捕らえに来ただけで殺しに来たわけではない。痛い目を見る前に、大人しく捕まって仲間の居場所を吐くといい!2人しかいないわけではないのだろう?」


なんだか随分と偉そうである。

というか、隊長さんの変なお面も、私の紙袋にもノータッチとは……。


(どうすればいいのかな~?)と隊長さんの反応を伺っていると、さっき(魔法使いっぽいな~)と当たりを付けていた若い女から、変な魔力が放たれた。

純粋な攻撃ではないっぽいが、催眠や洗脳などの状態異常系デバフの可能性もあるので、一応念のため破魔魔法を放った。

すると、魔力を放った若い女の表情が明らかに変わり、周囲にいた仲間と思われる人間に小声で何かを言ったようなので、とりあえずあの若い女は魔法使いで間違いなさそうだ。


……魔法使いの若い女って、高くで売れそうじゃない?

隊長さんの知り合いで洗脳系のスキルを持ってるヒトとかいないかな?

……いないだろうなぁ……。


「ニート。あの偉そうな兵士と、魔力を放ってきたあの女は出来れば生かして捕らえたい。それ以外は全て無力化するぞ。最悪殺してしまっても構わないから、気を付けて攻撃してくれ。」


「分かりました。あの偉そうなおっさんと魔法使いの若い女だけ生かして、後は皆殺しですね。若い女はこちらで無力化するので、偉そうなおっさんはお願いします。」


おっさん相手だと気を使って手加減して戦わなければならないが、若い女は魔法使いっぽいので破魔魔法を定期的に放つだけで無力化出来そうなのである。

当然、おっさんは隊長さんにお任せだ。


ヒャッハー!

金目の物は私の物じゃ~!


インベントリから対ドラゴンに作った斧ハンマーとククリナイフを取り出して、右手に斧ハンマー、左手にククリナイフを持って私は突撃を開始した。


「……まぁ、別に殺してしまっても構わないのだが……。」


同族を殺すことに一切の躊躇いがないことに少し戸惑い、思わず口からそんな言葉が飛び出しながら、少し遅れて隊長さんも行動を開始した。

当然ながら、あまりに実力の違う2人を相手に、集団は5分と持たずに2人を残して全滅するのだった。




あっさりと殺戮は終わった。

と言っても、隊長さんは何名か殺さずに無力化しているので、残すと決めた2名以外を皆殺しにしたわけではないが……。

私が相手にした人は普通に全員死んじゃったよ?

手加減しないとだいたいが致命傷になるからね。

仕方ないよね。


若い魔法使いの女だけは、ちゃんと破魔魔法で魔法を封じた後に、ロープで縛り上げておいた。

隊長さんも生かす判断だったし、私もいい商品になると思う。

隊長さんには劣るけど、見た目だって別に悪くはない。

売れるのなら高くで売れそうなんだけどなぁ……。

まぁ、きっと仲間を綺麗に真っ二つにした件で怨まれそうだから、出来ればこの後殺しておきたいんだけどね。


紙袋被っておいてよかったわぁ~。

これなら身バレしないから怨まれても問題ないよね!

服はどこにでもありそうなものだし、バッグなどはインベントリがあるので使っていない。

靴は特注のオーダーメイドだが、見た目だけでは少し頑丈そうなブーツでしかない。

斧ハンマーの見た目は後で変えておこう。

ククリナイフは売るつもりだったけど、対人専用でこのまま使うか。

これで完璧なはずだ。


一応念のため、今後の身バレ防止について考えていると、捕虜として捉えた商品ちゃんが話しかけてきた。


「私を捕まえてどうするつもり?」


……めんどくさいし自殺されると面倒なので、タオルを口に詰め込んでおいた。

優秀過ぎる隊長さんが複数人を生かしたまま捕らえたので、情報を聞き出す口なら足りているのである。

ついでに布で目も覆って、視界を奪っておこう。

これなら魔法を適当にばら撒く以外、何もできないだろう。


近くで待機していたらしい鳥人族の男たちが、生きている数人を縛り上げて尋問している風景を眺めながら、この商品ちゃんをどうやってお金に変えようかと頭を悩ませるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る