第99話 『私は神と直接話をしました』って頭おかしいよね

「……つまり君は、神と直接会って話をしていると……そう言う訳か?」


という訳で、ありのままの事実を述べた結果、頭のおかしな異常者と認識されそうな私です。

やっぱ『ありのまま』じゃ駄目なんだって。

嘘と脚色と隠ぺいは大事。

また1つ賢くなって社会性が身に付いたぜ。

今なら就活しても上手く乗り切れる気がするね。

……SPIで落とされる自信しかないけど……。


エルフちゃんと目力さんが胡散臭そうな視線を向けてくるが無視して、この亀がなんでわざわざエルフの国までついてきたがったのか、ハイエルフちゃんに聞いて貰うことにする。

亀と睨めっこしてるエルフの幼女可愛い。

見た目だけならエルフちゃんより年下に見えるんだよな……。


しばらく待っていると、亀との会話が終わったようだ。

端的に言うと、『美味しいものが食べたいからついてきた』らしい……。

お肉が美味しかったのかな?

もしかして、魚より肉派の亀さんだったとか?

というか、今まで亀にお肉を上げるエルフさんはいなかったのかな?

『美味しいものが食べたい』という理由は分かるのだが、私が台車に乗せて運ばなくても、自力で海からここまで移動する気だったのだろうか?

色々と疑問が出てきてしまうね。


だがなんと、一応可能性として考えてはいたが、漂流していたエルフさん達を助けたのはこの亀らしい。

漂流していたエルフさん達と、浜辺でパーティーしていたエルフさん達が同族ということくらいはなんとなく分かるらしく、お肉が貰えるかと期待して、漂流していたところを魔法で浜辺へと運んだらしい。

流石神獣だよね。

賢いわぁ~。


という訳で、この亀のお世話はエルフさん達の担当となった。

ウミガメかと思っていたが、普通に淡水でも問題ないらしく、近くの泉でしばらく生活するそうだ。

エルフさん達から助けてくれたお礼にお肉を貰えると聞いて、嬉しそうに頭を上下に振っている。


神獣の件については、私の頭がおかしい可能性も考えて保留だそうだ。

隊長さんなら信じてくれると思ってたのに……。

私、悲しいっ!

……まぁ、客観的に考えて、『私は神と直接話をした』と言われたら、頭がおかしいやつかと思うもんね。

仕方ないね。


浮気疑惑についてはハイエルフちゃんの冗談だったよ。

亀さんは『知らない女の気配がする』としか言っていなくて、それを聞いたハイエルフちゃんが冗談で言っただけで……。

許せねぇよなぁ!

そもそも恋人すらいねぇのに浮気疑惑だなんて……許せねぇよ!

……見た目が幼女だから許そう。

私は決してロリコンではないが、幼女には優しいのだ。

断じてロリコンではない。


……ところで、なんであの胡散臭い自称神様が女性だと分かったのかな?




そんなこんなでハイエルフちゃんとのお話は終了した。

通訳のお礼を言うと、ハイエルフちゃんはどこかに消えてしまったのである。

……マジで、目の前にいたのに、煙のように消えてしまった。

きっと、あのハイエルフちゃんは、動物の通訳も出来るNINJYAだったのだろう。

やっぱ本物のニンジャはすげぇや!

深くは考えないことにした。


亀さんは、神獣でも一応亀らしいところもあるようで、水がないと少し落ち着かないらしいので、相変わらず台車に乗せて、以前移動のためにドラゴンさんに背中に乗せて貰った泉へと輸送し、お肉をそこそこの量置いて帰宅した。

後のことはエルフさん達に丸投げである。


「なんか、精神的に疲れました。」


「そうか?まぁ、色々あったが……。とりあえず明日、頭を診てもらうか?」


隊長さんに完全に揶揄われている。

エルフちゃんと目力さんは、私が『神様と話をした』といったら非常に胡散臭そうな視線を向けてきたけど、隊長さんはそうでもなかったのに……。

実は隊長さんも会ってたりするんじゃない?


「私は『神を自称する存在』には会ったことはないぞ。」


……顔に出ていたようだ。

ポーカーフェイスポーカーフェイス。

いや、もっと胡散臭い笑顔の練習をするべきか?

まぁ、表情の問題じゃなく、隊長さんが鋭いだけなんだろうけど……。


「私が会ったのはあの樹に住む森の精霊様だ。昔精霊様に『あの樹には神が住んでおられる』と聞いてな。」


……へ~。

じゃあ、あの樹には神様と精霊が共同生活してるの?

シェアハウスかな?

きっと家賃が高いのだろう。

……そういえば両性っ子ちゃんもいたな。

両性っ子ちゃんが精霊なのかな?


隊長さんが淹れてくれたお茶を飲みながらボケ~っとそんなことを考えていると、来客が来たようで隊長さんは行ってしまった。

仕事を辞めても忙しそうだなぁ~。


そういえば、のほほんと一緒にお茶を飲んでいるエルフちゃんも今回のパーティーに参加していたことから分かる通り、普通に兵士の仕事は辞めている。

一番の新米下っ端だったらしいけど、今後はどうするのかな?

まぁ、給料を碌に払わない組織で働く必要はないと思うけど、隊長さんの指導を受けながら狩りをして生活するのかな?


ぽけ~っと見てると目が合ってしまい、不思議そうな顔で見られた。

暇だし聞いてみるか。


「そういえば、今後は仕事とかどうするの?」


「え……?そうですね……。しばらくは人間の国へ行って修行だと思います。兵士は辞めましたけど、人間の国の方がモンスターも多いですし、いろいろと経験も積めますから。ニートさんが帰るときに同行させてもらいたいのですが……。」


……そっかぁ。

同行は別にいいけど、隊長さんも一緒に来るのかな?

報酬はいいけど、なんだかんだ仕事を頼まれたりしないかな?

出来る限り、働きたくないでござる。

どっかに不労所得とか、落ちてないかな~?


人間の国で、裏社会のヤクザかマフィアみたいな組織が大きくなったら金を奪えばいいと、圧倒的なステータスのおかげで調子に乗ったことを考えているが、そもそも働かずに大金が手に入ればそれでいいいのだ。

日本だろうが世界に出ようが異世界だろうが、資産は非常に大事。

お金が価値をなさない程の地方ド田舎へ行ったのならば体が一番大事だが、そういう場所では働かないと周囲から白い目で見られるだろう。

『働きたくないがお金は欲しい』という甘い考えは、異世界でもなかなか通用しないのだ。

元の世界なら資産さえあれば、それを元手に投資でお金を増やす運用方法もありえたが、この世界で似たようなことをするには圧倒的な地位と権力が必要だろう。

責任が付きまとう地位や権力は、真面目で勤勉で働き者だが働く気が一切ない私には無理だろう。

考えたり言うだけならタダだよ。


さて、そろそろ貸してもらってる部屋に戻るかな。

休みの隊長さんに来客イコール、何か厄介ごとで仕事というイメージだからね。

私ってほら、パーティーで荷運びというバイトが終わったばかりだからね。

まだインベントリから荷物を出してない以上仕事は終わってないという判断ができるし、新しい厄介ごとの手伝いとなるとダブルブッキング事件が発生しちゃうからね。


ここはさっさと撤退す「まぁ、待て」るべき……。


いつの間にか戻ってきていて後ろを取られたようだ。

なんだろう……、最近の隊長さんの勘の良さは異常じゃない?

私の思考も行動もすべて読まれてる気がするんだけど気のせい?


「ドラゴン素材での武器作りが上手くいっていないからか、物作り自体を若干飽き始めていて、『この先の金策どうしようかな~?』と思っていそうなニートに朗報だ。次の仕事依頼が来たぞ。」


……なんでそこまで心が読めるんだよ!

普通に怖いよ!

確かにドラゴン素材は魔力の通りがめちゃくちゃ悪くて錬成魔法がまともに発動しないから苦戦してたけど、その時はまだ隊長さん仕事していてお屋敷にいなかったよね!?

ヤバ過ぎるよ怖すぎるよ!

これが500年という時を生きてきたエルフの恐ろしさってやつなのか……。


……それで、仕事の依頼内容は?

誰を消せばいい?


「ちょっと調子に乗っている人間の国をめちゃくちゃにするだけの簡単なお仕事だ。先に山の反対側に侵入している人間の兵隊を壊滅させる必要もあるが、そっちは移動中にすこし寄れば何とでもなるだろう。多額の報酬が出るし色々なところと顔がつなげるが、人間を相手にするとなると気が進まないか?無理に相手を殺す必要はないから、出来れば協力して惜しいのだが……。」


「……私は高いですよ?」


相手が人間だろうと気にしないぜ。

問題は金だ。

山の反対側となると移動時間に実働時間に工作や準備、偽装といろいろ時間がかかるだろう。

仕事にどれくらいの時間がかかるかが分からない以上、一括でどのくらい出すのかは聞いておきたいね。


「人間の国で使える金貨なら山のように手に入る「やります。」ぞ……わかった。」


そうか……そうだよね。

仕事の報酬だけじゃなくて、直接国から奪う選択肢もあるんだ。

自分の住んでいる国や街がめちゃくちゃになるなら後々面倒なことになりそうだからやらないと思うが、山の反対側ならめちゃくちゃになるついでにかっぱらっても問題ないだろう。

あ、エルフの国に手を出す勇気はないです。

隊長さんだけでも恐ろしいのに、ハイエルフの方々とか、精霊という存在に自称とはいえ神様までいるんだよ?

ムリムリ。


さて……。

まだ見ぬ金貨の山に、胸が膨らむね。

ほら、エルフちゃんももっと胸を膨らませて!

牛乳とチーズとヨーグルト食べるといいらしいよ!

実際効果があるのかどうかは知らんけど。


「……ソフィーナは流石に留守番だぞ。」


……デスヨネー。

実力も足りてないだろうし、こんな若い子に殺伐とした仕事はどうかと思うしね~……。

私とエルフちゃん、同い年だけど……。


そんなわけで、次の仕事が決まった。

働かなくても済むようになるまで、もう少しだけ頑張るしかないよね……。

それにしても、エルフに依頼が来るくらい調子に乗った人間の国って、いったい何をしでかしたんだろうね?

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