第97話 なんかもういろいろだよ。
パーティーピーポーの夜は長い。
その存在を完全に忘れていた結果、寝起きで自身そっくりの顔だが胸や尻を大きく盛られたセクハラ砂像を見て、エルフちゃんの目から光が消えてしまう事件が起こったりもしたが、陽も完全に沈み、寄せては返す波の音と、木材がパチパチと燃える音を聞きながら、キャンプファイヤーの炎で照らされたエルフさん達も静かにお酒を飲んでおり、非常に良い雰囲気のままパーティーは進んだ。
後で聞かされたことだが、このパーティーにはエルフさん達の婚活の意味合いも含まれており、後日いくつかのカップルが結婚すると隊長さんに連絡してきたそうだ。
リア充撲滅委員会の仕事をサボっちまったぜ……。
途中で人数がいつの間にか減っていることには気づいたのだが、(あれ?少し人数減ったかな?……流石に夜は帰る人もいるか。)と思い、特に気にしていなかったのだ。
まさか野外でお愉しみとは思ってなかったよね。
気づいていれば魔法の誤射が多発したのに……。
そんなリア充センサーの働きが悪かった私はのんびりと塩焼きそばを作っており、作るたびにエルフちゃんと隊長さんに遠慮なくムシャムシャされている。
すると、そこに目力さんがお客さんを連れてきた。
見た感じは普通のエルフっぽいけど、あの胡散臭い自称:神様程ではないが、なかなかの存在感を感じる。
いったい何者なんだろうね?
お偉いさんかな?
明らかに酔っぱらっていた隊長さんが一瞬で真面目な顔になるような相手だ。
相当な地位か実力を持った存在なのだろう。
ここは適当かつ穏便にやり過ごすか。
「へいらっしゃい!塩焼きそばが美味しいよ!2皿?まいど~!」
塩焼きそばやその他いろいろを作りながら、少し聞き耳を立てて話を聞いていたところ、このお方はハイエルフ様らしい。
前に少し聞いた、エルフの進化先だ。
存在を忘れかけていたけど、確か不老なんだったっけ?
見た目は30から40代って感じだけど、いったい何歳なんだろうね?
エルフの年齢なんて外見じゃ分かんな~い。
ハイエルフの年齢なんてもっと分かんな~い。
そういえば、『女性に年齢聞くのは失礼』とかよく言うけど、正直意味がわからないよね。
年齢より見た目の方が重要じゃね?
『外見に口を出すのが失礼』とか言うのならその通りだと思うけど、年齢を聞くって結構大事じゃない?
大事だからアンケートとかで性別とか年齢別で分けたりするんじゃないのかな?
『外見別アンケート』とか、いつだったかの『顔面Bブロック事件』が頭をよぎるけど……。
あれは酷く、悲しい事件だった……。
私はそのゲームやってないけど。
あと、別に女性に限った話じゃないけど、若い人相手だと『何歳ですか?』『〇〇歳です。』『へぇ~。』で済む話なのに、微妙な年齢あたりから『何歳に見える~?』とか聞き返してくる確率が高くなるよね。
『何歳に見える~?』じゃないんだよ!
何度『うざっ!』って言いたくなったことか……。
まぁ、良識ある私はそんなことを面と向かって言ったりはしないし、そもそも女性に年齢を聞いたことなんてほとんどないんだけどね。
そもそも会話すらあまりなかったし……。
そんなんだからモテない陰キャのボッチなんだよ!
自覚はあるよ!
……さて、ハイエルフさんの用件は、隊長さんに少しお話に来ただけだそうだ。
聞こえた話を要約すると、『兵士の仕事は辞めても、何かあったときは手伝ってくださいね。』って感じだ。
少し気になったのは、『エルフの国に何かあったとき』ではなく、『精霊樹に何かあったとき』と言ってたことだ。
精霊樹ってなんだろうね?
あの胡散臭い自称:神様と会った樹のことかな?
それとも別に樹があるのかな?
……まぁ、知らない方がいいってこともあるよね。
気にしないことにしよう。
ぶっちゃけどうでもいいし。
ハイエルフさんは塩焼きそばとワイバーンのステーキ、さらにはガーリックライスまでしっかりと完食し、満足そうに帰っていった。
目の前の鉄板で調理するパフォーマンスを見せたからか、それとも想像していたよりも味が良かったからか、食事は結構楽しんでもらえたみたいだ。
エルフちゃん・隊長さん・目力さんの3人は終始緊張しっぱなしだったけどね。
ハイエルフってやっぱり凄い存在なのかな?
オラわくわくすっぞ!
「……喧嘩は売らないでくれよ?」
勘の鋭い隊長さんに、軽く釘を刺された。
「ハッハッハ!何言ってるんですかもぉ~。品行方正清廉潔白な私が、自分から誰かに喧嘩を売るわけないでしょう。」
隊長さんとエルフちゃんのジト目可愛い。
疑いの目を向けられる心当たりはイロイロあるが、しらを切ることの大切さを、テレビで政治家を見て学んでいるのだ。
そんな目で見ても、『知らぬ存ぜぬ心当たりがありませぬ』で切り抜けてやるんだい!
でも、自分から喧嘩を売ったことって、あんまりないと思うんだけどな~。
一応、出来るだけ気を付けるか。
さて、夜も進み隊長さんも飲むペースが少し落ちてきたし、私も今日はそろそろ休もうかな。
この日のためにハンモックを用意したんだ~。
実は興味があったんだよね。
私でも寝れるかは知らんけど。
バランス感覚がないと、結構落ちそうだよね。
隊長さんの隙をついて逃げ出し、ハンモックを設置した場所へと行くと、サーシャさんが酒瓶を抱えたままハンモックでスヤスヤ寝ていた。
……サーシャさんも来てたんだね。
気付かなかったよ……。
まぁ、酒の席だもんね……。
そりゃ酒好きのサーシャさんなら当然来てるよね……。
…………テントで寝るか。
エルフって、想像していた以上に自由な生き方をしているのかもしれない。
そんなことを思ってしまった。
朝、うだるような糞暑さに目覚めると、隊長さんとエルフちゃんが同じテントで寝ていた。
同じテントで一緒に寝ていたとしても、私は何もやってない。
無実だ。
隊長さんにお腹を枕にされているせいか、少し寝苦しそうなエルフちゃんも、きっとそう証言してくれるはずだ。
……何かした方がいいのかな?
流石に砂像よりいいアイデアは浮かばないな~。
埋めるとか……?
あまり他人の寝顔を見るのも失礼なので、さっさとテントから出てみると、砂浜に酒に潰れたと思われるエルフが多数転がっている酷い惨状だった。
船が沈没して漂流した結果、この砂浜に打ち上げられたみたいだ。
……第一印象がそんな感じだったが、マジで今朝流れ着いた漂流者だった。
知り合い以外のエルフの見分け方なんて分からないので、波打ち際で転がっていたエルフさんを、砂浜に適当に陳列していたら、1人が意識を取り戻したのだ。
いや、(こんな服装のやついたっけな?)って思ったんだよ?
腰にカットラスみたいな剣もぶら下げてたし、水着じゃなくて普通のズボンだったしで怪しんではいたのだ。
そのことを特に気にしなかっただけで……。
砂浜のゴミを、ボランティア精神溢れる綺麗な気持ちで清掃するかのように、倒れているエルフさん達を適当に移動させてたけど、ぶっちゃけ興味はなかったんだよね~。
さて、困ったときは隊長さんに相談だ。
というか、エルフの国の案件だろうから隊長さんに伝えるのが一番確実だろう。
テントの中とはいえ水着のまま寝ているので、プルンプルンの大きなモノに遠慮なくタライの水をぶっかけて起こし、拳骨を食らう前に緊急事態だと伝えた。
そう、低体温症か脱水症かただのエネルギー不足による衰弱かは分からないが、命に係わる緊急事態なのだ。
だから拳を握ってないで速くこのテントから出てって!
外で死にかけのエルフさん達が隊長さんの助けを待ってるよ!
隊長さんは一瞬眉をしかめた後、テントの外を確認し、そのまま出て行ってしまった。
私の日頃の行いがいいから、信頼度が高いのだろう。
これは赦されたな。
やったぜ!
……水をぶっかけて起こしたのに、一応私の言葉を聞いてくれる隊長さん、懐が大きいわぁ~。
なんだかんだ、隊長さんとは良い関係を築けてるのかな?
あんまり人間関係を気にするタイプじゃなかったから分かんないや。
まぁ、少なくとも日本にいた頃の友人よりかは親しい付き合いが出来ている気がする。
さて、隊長さんに水をぶっかけたので、ついでに隊長さんの枕になっていたエルフちゃんも起きたようだが、気にせず私もテントの外に出ることにした。
エルフちゃんは……まぁ、適当でええやろ。
綺麗な水と温かい食事と目力さんのなんかよく分からない魔法で、瀕死に見えたエルフさん達もすっかりと元気になったようだ。
軽く話を聞いたところ、大型の船と変わらない大きさのクラーケンに襲われて船が大破。
海へと投げ出された船員達はそのまま漂流し、気づいたらこの砂浜に打ち上げられていたそうだ。
砂浜には、エルフさんたち以外、特に漂流物はない。
普通、船が大破したならエルフさん達と一緒に船の木材とか、積んであった貨物も流れてきていいはずなんだけどな~。
怪しいな~。
船員さん達が怪しいという訳ではなくて、エルフさん達をこの砂浜へと導いた存在がいそうな感じだな~。
例えば、そこの水面から顔を出して、こちらをジッと見ている亀とか……。
おいでおいで~。
よ~しよしよし、よく来たね~。
このエルフさん達は、亀さんがここまで連れてきたの?
……流石に言葉は分かんないか。
首を傾げて可愛いね~。
お肉が食べたいのかな?
あ、そこはしっかりと反応するんだ。
この亀、簡単な単語なら通じるのかもしれない。
少なくとも『お肉』という単語は覚えているみたいだ。
謎が深まっちゃうわ~。
マジでなんなんだろうねこの亀。
在庫の多い鹿刺を亀にあげながら、(この後どうするのかな~?)と他人事のように考えていると、隊長さんからお声がかかった。
本来は今日までパーティーする予定だったが、流石に帰ることにしたそうだ。
まぁ、この状況なら仕方ないよね。
流石にまだ漂流していたエルフさん達の体力も完全には戻っておらず、そもそも昨日飲みまくっていたエルフさん達の中には二日酔いの激しい者がいるため、昼過ぎ頃を目安に撤収準備を終わらせて欲しいとのことだった。
人使いが荒いね~。
まぁ、インベントリに適当にポイポイ放り込むだけだから、そこまで苦労はないけど。
ちなみに今回のパーティー、私にはなかなかの額のバイト代が出ている。
考えてみて欲しい、70人ほどの人数が昼間からずっと飲み続けているのに無くならない量のお酒を運んで、さらには薪やキャンプファイヤーを行うための大量の木材やいくつものテント、なぜか存在する高性能な仮設トイレまでもインベントリに入れて運ぶのだ。
普通なら、お酒を運ぶだけでもめちゃくちゃ大変だよね?
エルフさん達だけならテントや仮設トイレなんて運ばなかっただろうし、そもそも海でパーティーすることはなかっただろう。
その大変な輸送をほとんど私一人で全て行うのでバイト代が出るのだ。
お金が貰えて嬉しい私と、荷物を運ばなくて済んで嬉しいエルフさん達。
お互いwin-winの仕事だろう。
……バイトなのは輸送だけで、着いてからの食事とかは完全にサービスだよ?
やることないし、仕事と遊びの切り替えとか苦手だから、自然と働いてしまったのだ。
普通に就職してたら社畜になる未来しか見えねぇわ。
ニート万歳。
そんなわけで撤収作業も完了し、お昼にはアクアパッツァモドキも食べたので、これからエルフの国に向けて移動を開始だ。
なんだろうな~。
最近自称:神様に会ったり、海で水着回が始まったり、漂流エルフという事件が起こったり、なんだかいろいろなことが立て続けに起きている気がする。
(嫌な予感がするな~。何もなければいいな~。怖いな~。)って思ってしまうのは、物語だと何かしらのフラグの様な気がするけれども、思ってしまったんだからしょうがないよね。
フラグなら、『ここは任せた先に行く!』とかやった方がいいのだろうか?
『俺、この戦いが終わったら、相手はいないけど結婚するんだ!』とか言ってみたいよね。
言ってみたいだけで結婚とかしたくないけど。
絶対私は結婚向いてないって。
最初からギクシャクして、数ヶ月で別居生活となり、1年経つ頃に離婚する光景が見えそうだわ。
そもそも相手がいない問題が解決しないから心配してないけど。
……フラグかぁ~。
そういえば、フラグ管理が必要なゲームは少ししかやった経験がないから、マジで出来ないのよね。
恋愛ゲーだと選択肢総当たりのごり押しで全エンディング解放だったし、RPGだとメインクエ以外のフラグって、マジで攻略サイト見ないと見つけられないタイプだったし……。
察する能力はそこまで悪い方じゃないと思ってるけど、フラグ管理はなんで上手くいかないのかな~。
そんな下らないことを考えながら歩く私の後ろには、何故か亀がついて来ているのであった……。
これが野生動物には餌を与えてはいけない理由の一つだよ!
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