第96話 酔っぱらいを相手にするのは非常に大変だ。

『可愛い』と言われたからか、少し照れているエルフちゃんの手を取って海へと引きずり込んで、とりあえずどの程度泳げるのかを確かめてみることにした結果、今目の前でエルフちゃんが可愛く泳いでいる。

その姿はまさに泳ぐゴールデンレトリーバー。

可愛いね~。

……いや、馬鹿にしている訳じゃないんだよ?

マジで泳いでる姿がそっくりなんだって。


そんな一幕もあったが、とりあえず小学校の頃の授業を思い出し、ビート板の様なものを用意してから、顔を水につけて泳ぐ練習をさせてみたり、そもそも体の力を抜いて、ただ水に浮いて漂わせたりした後、とりあえず平泳ぎを教えたところで食事の時間となった。

人に何かを教えるって本当に大変だよね。

素直で物覚えの良いエルフちゃんですら大変だと思うのだから、学校の教員とかマジでよくやるな~と思うわ。

私に教職員は無理。


そんなわけでポロリもキャッキャウフフな展開もなく、普通に浜辺でバーベキューを楽しんでいるのだが……今更だけど、あのデカい亀って何?

ずっとあそこにいるんだけど、生きてるよね?

日向ぼっこかな?


「ん?あの亀か?さぁ?昔からこの近辺で見てるが、害はないし、放っておいていいだろう。」


隊長さんの言う昔って何年くらい前なのかな?

『鶴は千年、亀は万年』なんて言うけど、実際の寿命はどのくらいなんだろうね?

というか、あの亀ってたぶん普通の亀なのよね。

『普通』っていうのは、『モンスターではない』っていう意味で。

めちゃくちゃデカいんだけどなぁ~……。


最初は誰かのペットなのかと思っていたが、エルフにはペットを飼うという習慣がないらしいので、野生の亀なのだろう。

まぁ、無害なら気にしなくてもいいよね。

それともマッチポンプ作戦で誰かに襲わせたところを助けて、竜宮城へ連れて行ってもらわないといけないのかな?

ゲーム的思考だと、ストーリー進行キャラの可能性をどうしても考えてしまうのよね~。

モンスターなら経験値とか珍しい素材を落としたりとかも考えるけど、無害なら会話かキーアイテムを渡すことでイベントが進行したりしないかな?

亀の好物って何かな?

海に住んでるんだし、魚とか貝かな?

それとも海藻類?

後で色々と持て行ってみよう。


さて、エルフちゃんと隊長さんに挟まれて座りながら、もきゅもきゅとお肉を食べているのだが、やっぱり隊長さんの人気は凄いね。

次々エルフさんが話に来てから、お酒を注いでるよ。

隊長さんはお酒強いんだね。

漫画でしか見たことがない、デカい木製ジョッキでガバガバお酒を飲んでるけど、全然顔色が変わらないんだもん。


話の内容は『無職万歳』みたいなことばっかりだから割愛する。

というか、私とエルフちゃん以外は全員酒を飲んでるので、ほとんどが酔っぱらいの会話だ。

これはあれだね、田舎に住む親戚の家で行われるバーベキューに参加していた時のことを思い出すね。

食ってる間はいいけど、食い終わった後が糞長いんだわ。

会話の内容も毎回同じ話ばっかりだったし……。


食べ終わったら適当なタイミングで抜け出すか。


そんなことを考えながらエルフちゃんの方を見てみると、目が合ってしまった。

エルフちゃんとではない。

少し離れたところにいた、先程のデカい亀とだが……。


あの亀、お肉が食べたいのかな?

だが、これは私のお肉だ。

ほら、お肉が食べたいのならそっちの生のやつにしなさい。

ふっ、私もアイコンタクトが上手くなったようだな。

亀の目が少し不満そうに見えるぜ。


仕方がないので、少し生肉を持って亀の方に近づいてみた。


ほら、お口開けて~。

あ~ん。

あ、マジで開けるんだ。

ほれ。


お肉を口に入れたところ、亀は美味しそうにムシャムシャしている。

亀ってお肉食べるんだね~。

普通に知らなかったわ。

亀とか飼ったこと無いし。


ん?もう1枚欲しいのか?

仕方がないにゃ~。

最後だぞぉ~。

ほれ。


肉を食べた亀は、満足そうに海へと帰っていった。

……イベントは?

……特にないようだ。

君にはがっかりだよ……。


まぁ、私が今考えてしまったことはただ一つ。

野生の亀に餌をあげてもよかったのかな……?

……まぁええやろ。

毒を食わせたわけじゃないし。

亀も喜んで肉を食っているように見えたし。


この後は何をしようかなぁ~?

エルフさん達が若干ざわついているが、『また俺何かやっちゃいました?』とか言うといろんなところから苦言が出そうなので、無視することにした。

普通に考えたら野生動物に餌を与えたのが問題だと思うけど、今まであの亀に餌を要求されたことがなかったのかな?

動物と意思疎通できるようになれとは言わないけど、もう少し表情を読む練習をした方がいいと思うよ?


私にかかれば、隊長さんがそろそろハーブの効いたソーセージが食べたいと思ってることも、エルフちゃんがオレンジジュースがぬるいと思ってることもお見通しさっ!

合ってるかは知らんけど。

とりあえず網の上にソーセージを追加してから、エルフちゃんのジュースを魔法で冷やしておいた。


実際は、隊長さんが食べたいと思っていたのは貝を焼いたやつで、エルフちゃんは少し疲れて眠かったみたいだ。

……動物相手ならなんとなく要求が分かるんだけどなぁ……。




穏やかな食後。

完全に寝てしまったエルフちゃんをテントの下に運んで、熱中症にならない様に念のためタライに大量の氷と水を入れた後、完全に暇になってしまった。

こうなったらもう、寝ているエルフちゃんにいたずらを仕掛けるか寝起きドッキリを企画するしか……。

まぁ、やらないんですけどね。

後が怖いし。


実際問題暇なので、エルフちゃんを見ながら砂で等身大のエルフちゃん寝姿像を、一部少し盛って作っていると、海から亀が上がって来た。

お?イベントか?

もう少しで完成するから少し待ってね~。

……うん、こんなもんかな?

細かいところまで修正しているとキリがないし。


よ~しよしよし!

よく来たねぇ~。

どしたの?

なに咥えてるの?

……魚だね。

くれるの?

よ~しよしよし!

いい子だね~。


ひとしきり撫でまわした後、魚を置いて亀は海へと帰っていった。


「今度は何があったんだ?」


あ、隊長さんだ。

……あんだけ飲んでいたのにまだ酔っていない様に見える。

ヤベェな。


「なんかさっきの亀がお肉のお礼なのか魚を持ってきましたよ。」


「……その魚は食えないぞ。そのまま食べると幻覚を見る。」


……そうなのか。

そういえば、前に似たような話を聞いたなぁ~。

『ドリームフィッシュ』だったっけ?

最高にハイッ!って気分になれるのかな?

せっかく亀が持ってきてくれたけど、『薬物駄目絶対』という人間として生きていくうえで大事な鉄則があるし、破棄するしかないかな……。


「まぁ、少し変わった薬の材料になるから、エルフの国に戻ったときに売るといい。」


「分かりました。」


速攻でインベントリに放り込んだ。

魚が傷むと駄目だからね。


売れるなら最初から言ってくださいよ~。

捨てるところだったじゃないですかやだなぁ~。


「ところで、ソフィーナそっくりだが胸と尻がすごく盛られた砂像があるのだが、君はそういうタイプが好みなのか?」


「……後から削ろうと思ってたんですけど、亀が来ちゃったんで……。」


「ほぅ……?」


隊長さんが凄くニヤニヤしている。

甘いな。

私は隊長さんに見られながらでも、隊長さんの裸像を作ることを厭わないぜ!

グヒャヒャヒャヒャ!


そこまで熱くはなかったけど、砂浜で正座させられたよ。

ついでに膝の上に座ってお酒飲み始めた。

これはご褒美ですか!?

椅子でも全然構わないっすよ!


流石に怒られた。

セクハラはもう少し相手の様子を見ながら行うべきだと学べたね。

非常に真面目な私は、今までセクハラなんてしたことなかったからね。

勉強になったね。


「実際のところどうなのだ?君はソフィーナのことをどう思っている?」


……なんだろう?

真面目な話かな?


エルフちゃんといえばあれでしょ?

マスコット。

マスコットじゃ伝わらないかもな……。

愛玩動物?

これは怒られそうだ。

う~ん……。


「とても可愛らしいエルフさんだと思っていますよ。」


「……嘘ではなさそうだが……。君を見てると少し不安になるな。」


「……不安ですか?」


なんでだろう?

思い当たることが全くない。

何かしたかな?


「水着姿の私やソフィーナを見ても、君の眼には一切欲情が出なかった。エルフの容姿は非常に整っていると学んで生きてきたが、君にとって、エルフは焼いている肉以下の存在なのではないか?」


「……そ、ソンナことないですヨ?隊長さん飲み過ぎですって。」


「い~や!間違いない。君がエルフに対して無関心だったことは、面倒ごとがなくて助かったし、こうして良好な関係を築けるきっかけにもなったが、これだけ一緒にいるのに未だ無関心なのは少し腹が立つぞ!ソフィーナに手を出せ!あと私はもう隊長じゃないぞぉ!」


……酔っぱらいって面倒臭いね。

あと自分じゃなくてエルフちゃんに手を出させるんだね。

たしか、隊長さんの姪じゃなかったっけ?

そういえば、エルフちゃんの両親については聞いたことないな。

聞くつもりもないけど。

……こういうところが『無関心』って言われるのかな?

どうするのが正解なのか、私には分からないよ……。


隊長さんを膝に乗せたまま愚痴を聞き続け、夕方を迎えるのだった。

当然ながら日焼けした。

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