第95話 陽キャになって浜辺でパーティーするんだい!

青い空。

白い砂浜。

照りつける日差し。

なんか糞デカい亀。

今日は絶好の海水浴日和だ。


少し離れた所ではエルフちゃんが水着を着て波打ち際でオロオロしている。

……なんでビキニみたいな水着があるんだろうね?

以前の転移者が広めたのかな?

隊長さんや目力さんもビキニタイプで、ワンピースタイプの水着やスク水を着ているエルフの女性は1人もいない。


男のエルフはどうでもいいよね。

普通に海パンだし。

私も着てるけど、なんの素材かは知らない。

撥水性の高い糸から作られた布を無理やり染色しているらしいので、お値段は普通の服と比べると少しお高めだった。


エルフの国の領土にも、季節ごとの長さは違うが日本と同じように四季があるそうで、今は夏真っ盛りに突入したそうだ。

マジで急に暑くなった。

1週間くらいかな?

だいたいそれくらいの期間で、平均気温が10度くらい上がった気がする。


まぁ、それだけ暑くなると涼しいところに行くか、水浴びでもしたくなるよね。

という訳で隊長さんに連行されて海までやって来ました。


……私、海は苦手なんだよね。

結構ヤバめの毒持った生き物が多すぎて怖いじゃん?

それに離岸流とかで流されたときに冷静に対処できる気がしないし。

そんなわけで、水遊びするなら海より川によく行っていた。

魚釣りは川より海だよ?

何度も根掛かりするくらい下手くそだから、アジ狙いでサビキ釣りしかしたことないけど。


そんなわけで、泳ぐ気があまり無いし釣りも下手すぎて出来ない私は、砂浜でのんびりと隊長さんのビキニ姿を観賞している。

引き締まった腹筋がセクシーだねぇ~。

そういえば、物語とかだとエルフってこう……言いにくいんだけどスレンダーな体形なことがほとんどじゃん?

隊長さんとか目力さんとか他のエルフの女性を見てもそんな感じがしないのよね。

盛ってるのかな?

寄せ上げかな?

言ったら静かにキレられそうだから言わないけど。

なんなら何も言ってないのに隊長さんからプレッシャーを感じるけど。


「あまり女性の体をジロジロと見るのは感心しないな。何か言いたいことでもあるのか?」


「……隊長さんって何歳でしたっけ?めちゃくちゃ若く見えますけど……。」


年齢は知っているが、とりあえずおだてて話を逸らしておこう。

質問に質問で返すやり方なので、あまりいい印象を与えないが、思っていたことを正直に話すよりはマシだろう。

そういえば名前は……エルフちゃんはフィナーレだから、ふぃあ?ふぁー?

ソフィーアか。

忘れるところだったぜ。


「そ、そうか?……君に『隊長さん』と呼ばれたのは初めてな気がするな。昨日付で隊は辞めたのだから、今後は常に名前で呼ぶように。……もしや、私の名前を忘れたわけではないだろうな?」


「ソフィーアさん、今日も綺麗ですね。暑いので冷たい水でも飲みませんか?」


危なかった……。

隊長さんは鋭いからね。

先に名前を思い出しておいてよかったぜ。


さて、先程気になるワードが出てきたことだろう。

そう、隊長さんは隊を辞めて一個人のエルフさんになったのだ!

ついでに、ここにバカンスに来ているエルフさん達全員が元兵士であり、全員隊を辞めてここにいるのだ!!


いったいエルフの国で何があったのか、気になる方もいるだろう。

簡単に説明すると、今回ドラゴンさんから受け取った報酬が多かったことが最初の問題だったのだ。

当然の問題として、ドラゴンの素材を国に納めた場合に、どれだけの報酬が出せるのかが問題となった。

といっても、今回のダンジョン攻略に参加した兵士など100名程度。

隊長さん自身は報酬にそこまで興味はなく、隊長さんが個人的に協力をお願いした目力さんや幸薄さん、ついでにおっさんを数に入れても、少し時間はかかるが会議で誰にどれだけの報酬を出すのか話し合えば、簡単に解決する問題かと思われた。


ここで登場するのが、世界各国どころか異世界にだって存在した老害共だ。

別に名誉職に就いているわけでもなく、『元兵士』や『元財務担当員』という経歴を盾に、マジでただ長く生きているだけの老害が、会議に難癖をつけまくって長引かせたらしい。

(そもそも会議に参加させなくてもいいんじゃない?)と思ったが、エルフの国のことなので私はなにも口を出さない。

のんびりやっても1週間で終わると思われていた会議が、とうとう1か月を越えるくらいには長引いた結果、未だにダンジョン遠征の報酬が出ていなかった兵士たちの不満が大爆発した

大きなきっかけとなったのは、やはり老害の放った『ドラゴンの素材は無償で上納。ダンジョン遠征に使われた物資や食料などは給料から引いておけばいい。』の一言だ。

老害ってホンマにアレだよねぇ……。


今回のダンジョン攻略では、死亡者は出なかったが多数の負傷者はでた。

ダンジョン攻略とは、一般的な者からすると本当に命がけなのだ。

ましてや、今回はドラゴンさんが国に襲来する程の重要性を持った依頼であり、エルフの国に拒否権などないような物。

ぶっちゃけあまり役に立った記憶はないが、そうして命がけでダンジョン遠征に行った結果、給料が減らされてしまっては兵士の不満が爆発するのは当然だろう。


ついでに、これには隊長さんもキレた。

エルフの国にいる間、屋敷で自由に寝泊まりしてもいいと言われたので、遠慮なくヒモ生活を送っていたのだが、ちょっと外に宿屋を探しに行こうか検討するくらいにはキレていた。

その時に、「そんな組織なら辞めちゃってもいいんじゃないですか?別に兵士でなくても、1人でモンスターを狩ってるだけで生活できるでしょう?」と言ってしまったのよね……。


その結果、辞めたね。

即辞めるのではなく、キチンと引継ぎとかを終わらせてから隊長さんは辞めたみたいだけど、隊長さんが辞めることを聞いた他の兵士たちも次々と辞めていったみたいだね。


なんでそんな簡単に仕事を辞めようと思えるのかと思ったら、元々兵士の基本給は安かったみたい。

具体的には1日3食は食べられるけど、貯蓄は出来ないくらいの金額だったそうだ。

どちらかというと、任務中に討伐したモンスターの売却が主な収入源だったらしいよ?

一応、武器の手入れを格安でお願いできたり、兵士同士で連携・協力してモンスターと戦いやすいってメリットはあったみたいだけど……。

まぁ、個人間に繋がりがあるのなら、兵士を辞めてフリーでモンスターハンティングしてもそこまで変わらないんだね。


『兵士』といえば、『お国のために~!バンザーイ!』って特攻するイメージしかなかったけど、これは私の認識が悪すぎただけなんだろうね。

これが戦争を知らない若者世代の認識よ。


その後、徐々に気温が暑くなり始めた頃、いよいよ隊長さんも仕事を辞められそうになったので、仕事を辞めて暇を持て余した大人たちが、『海にバカンスに行こう!』となったのが今日までの流れだ。


回想終わり。

ぶっちゃけ、給料が悪いだけじゃなく自腹切らされるブラックバイトを集団で辞めただけの様な気もするが、日本だとバイトが辞めようと数日間正社員が頑張れば、本部から追加の人員回してもらったり、新しくバイトを雇えばいいだけの話だけど、隊長さんの代わりが務まるエルフさんっているのかな?

いないと思うし、いても1人か2人だと思うけど……。

まぁ、エルフの国のことなんで、ワタシ知~らないっ!




さて、そろそろ目の前の現実に戻るとして……。

海での楽しみ方ってなんだろうね?

最初に言ったように、泳ぎと釣りはNGだ。

陽キャと海……バーベキューとか?

海といえば焼きそばとカレーのイメージしかない。

あとナンパ。

ナンパは……ここにはエルフしかいないからなぁ……確かに美人しかいないけど……。


とりあえず焼きそばはソースがないから塩焼きそばにするとして、カレーは無理だな、諦めよう。

あ、かき氷は魔法使えば作れるじゃん。

アイスクリーム頭痛という未知の病をエルフさん達にも味わってもらうんだい!

私は1度もアイスクリーム頭痛が発症したことがないから知らないけど!


海に来たというのにバーベキューコンロや肉を焼くための網、焼きそば用の鉄板を用意していると、隊長さんに海へと放り投げられた。

流石、すごいパワーだ。

飛んでいる間結構楽しかった。

だがこれはきっと『海で遊べ』という意味ではなく、『海で食材を調達して来い』というメッセージ!

確かに『バーベキューといえば肉』だと思っていたが、海に来たのだから魚も焼くべきだろう。


だけど、食べれる魚とか分からんのよね。

カラフルな魚が沢山いるけど、あれって毒とか持ってない?

ただの熱帯魚?

まぁ、適当に物理魔法の槍でぶっ刺して、氷魔法で作った氷の上に置いていると、隊長さんが泳いでやって来た。

なにかリクエストでもあるのかな?


「君は働かないと気が済まないタイプなのか?こういう場では、もう少し遊んだ方がいいと思うぞ?」


周囲を見渡してみる。

すげぇ!

ここは結構穏やかな海だけど、風魔法でサーフィンみたいなことしてるよ。

結構スピード出るんだなぁ……。

海ではああやって遊ぶのか。

……無理だな。


「海で遊んだことが全くないんですよね。アサリ掘った記憶なら結構あるんですけど……。」


「はぁ~……。そうか。君は上手く泳げるみたいだし、どうせならソフィーナに泳ぎを教えて貰えないか?」


「分かりました。」


エルフちゃんは泳げないのか。

波打ち際でキャッキャしてるから、あれがマスコットムーブなのかと思ってたわ。

獲れた魚は隊長さんに預けて、1人でも楽しそうなエルフちゃんの方へと泳いでいく。

そういえば、なんて声をかければいいのかな?

『え~マジ?エルフちゃん泳げないの~?だっさ~い!泳げなくてもいいのは~、小学生までだよね~。』とか言えばいいのだろうか?


それにしても、近くで見るとエルフちゃんは肌が白いな~。

隊長さんは少し健康的な感じで日焼けしてるけど、エルフちゃんは真っ白だ。

白い肌に薄い水色のビキニが似合っているね。

言わないけど。

エルフちゃんもこちらに気づいた様なので声をかける。


「可愛いね~。今何してるの?」


特に何も考えず声をかけた結果、ナンパみたいになってしまった。

グッヘッヘ!

手取り足取りイロイロなことを教えてやるぜ~。

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