第93話 全裸健康法、これで私は風邪を引きました
翌日、朝から隊長さんに連れられてやって来た建物の中。
その地下室に私と隊長さんとエルフちゃん、そして目力さんがいた。
私は言われるがままに、1冊づつ魔導書をインベントリから出していき、その効果と安全性の確認をしながら、魔導書を仕分ける作業を行っていた。
隊長さんは完全に付き添いで、エルフちゃんは見学、私と目力さんの2人での作業だ。
インベントリから魔導書を取り出すことは私にしか出来ないので、帰ることは出来ないから手伝うのは構わないのだが、本来はこの部屋まで案内してくれたこの建物の職員さんっぽいエルフの方も手伝ってくれるはずだったのだ。
まさか1冊目でハズレを引くとは思わなかったよね……。
呪いも発狂も暴発もしない『安全』と言える魔導書だったのだが、発動に必要な魔力量が膨大だったらしく、効果を確かめるために使用した結果、魔力切れでダウンしてしまった。
エルフさん一人の尊い犠牲の元発動した魔導書の効果は、何もない空間に金属を生み出すというある意味凄い魔法だった。
この金属が武器作りに使えるのなら、少し欲しくなっちゃうね。
金属は貰ってもいいとのことで、もちろん貰うことにしたよ。
まぁそんなわけで目力さんと2人、魔導書を調べていたのだが、本当にいろいろな物が出てくる。
個人的に一番面白かったのは、強烈な光を放つ魔導書だ。
音はないので相手を怯ませられるかは分からないが、強烈な目くらましとして使えるので、視覚頼りの相手なら非常に効果的だろう。
使用した私自身、2分ほど何も見えなくなったからね。
うん、これもハズレの部類だろう。
光だから仕方がない気もするけど、自爆みたいなものじゃんこれ。
そんなこんなで作業を続けること数時間。
お昼前には46冊もあった魔導書を全て、害のない物・取扱注意・危険物に分類し終わり、やっと一息ついたところだ。
結構大変だったね。
魔導書はなかなか面白かった。
サーシャさんが魔導書がめちゃくちゃ危険そうな言い方をしたため、効果が分かりやすかった『炎の矢』の魔導書しか確認していなかったが、大半の魔導書は効果がしょぼい物ばかりで、実用性も低く、1ミリも欲しいとは思えなかったのだが、たま~にある変わり種がめちゃくちゃ好奇心を刺激してくるのだ。
魔道具も未だに自作はしていないが、確かに魔導書を作れるようになりたくなったね。
隊長さんは私のことを良く理解してるわ。
とりあえず、この建物に自由に出入りし、魔導書を読める権利は確保出来たので、暇が出来たときにでもまた来よう。
エルフの国に密入国してでも来ようと思ったね。
そんなことしたら、普通に隊長さんに捕まりそうだけど……。
魔導書はすべて出したので、次はボロボロになった普通の本だ。
先にお昼に行ってもよかったけど、今日の朝食がねぇ……。
朝食を用意したの、エルフちゃんなんだよ。
当然、時間がかかるじゃん?
あれから随分と練習したのか、味とか調理に関しては普通になってたけど、量を間違えてしまったようで、ちょっと作り過ぎちゃったみたいで……。
頑張って食べた結果、まだ全然お腹が空いていなかったので、先にボロボロの本を引き渡すことにしたのだ。
という訳で、地下室から今度は2階へ……。
今回も1冊づつインベントリから取り出して、用意してあった袋へと入れていく。
これは本がバラバラになった場合に、他の本とごちゃごちゃにならないための処置らしい。
袋に入れられた本は、修復専門の職人さんの手で修復された後に、写本され並べられるらしい。
慎重にインベントリから取り出して、これまた非常に慎重にボロボロの本を袋に入れるだけなので、引き渡しは非常に素早く終わったのだが、せっかくなので、本の修復作業を見せてもらうことに。
エルフちゃんって、真面目そうな見た目に似合わず、勉強が嫌いなのかな?
本の修復作業を見学するってなった時に、目から光が消えたんだけど……。
まぁ、見ていても退屈な作業だろうし、気持ちは分かるよ。
昔の私もそうだった。
見学って退屈極まりないんだよね。
でも、ボケ~っと見ているだけでも、意外といろんなことを覚えたりするし、後々それが役に立ったりするんだよ。
だから、現代人がスマホを見る感覚で、ナイフを見るのは辞めなさい。
目つきが完全にイッちゃってるから。
1時間程、本の修復作業を解説しながら見学させてもらい、ついでに書いてある中身も軽く読んだ後に、建物を出て近くの喫茶店の様な所に入った。
修復作業は、予想通り非常に退屈極まりないものだったが、本に書いてある内容は非常に面倒臭そうだった。
最初に呼んだ日記が日本語で書かれていたことから、あのダンジョンに住んでいたのは、日本人の転移者か転生者だと分かってはいたのだが、まさか魔王としてこちらに誕生したとは思ってなかったよね。
『魔王転生』とか、字面が格好いいね。
『ダンジョンを作ることが出来る』とか、『ステータスは貧弱で直接戦闘向きじゃない』とか、『ビールが飲みたい』とか書いてあったけど、まだ生きてるのかな?
他の日記も読めば色々と分かるだろうけど、まぁ本の修復が終わってからでもいいよね。
面倒臭そうなことは後回し後回し。
全然甘くない紅茶と、少し甘みのあるクッキーをのんびりと味わって、少し気持ちが落ち着いたので、隊長さんに今後の予定を聞いてみた。
「この後は何かありますか?」
「この国に非常に大きな木があるのは見たよな?あの木に向かうぞ。」
……観光かな?
なんだか少し、隊長さんが緊張している気がするんだけど……。
隊長さんが緊張するようなこと……?
全然思い浮かばないね。
ぶっちゃけ隊長さんのこと、そこまで詳しくないし。
良好な関係を気づけているとは思うけど、プライベートなことを自分から聞いたことはない。
そんなコミュ力があれば、ヒキニートなんかにはならず、普通に社会人をやっていただろう。
ただ異世界に来たくらいじゃ、人の本質は変わらないのだ。
……こっちに来てからの自身のやらかしについては考えないことにしよう。
向こうにいた頃は、清廉潔白で、犯罪者予備軍ではなかったと思うんだけどなぁ……。
喫茶店はイケメンな隊長さんがいつの間にか支払いを終えていたので、ありがたく拝んでから店を出た。
やっぱり隊長さんは少し緊張している様子だけど、やっぱりあの木って特別なんだろうね?
最初に見たときは(世界樹かな?)って思ったけど、世界樹がなんなのか知らないのよね。
ゲームとかラノベに時々登場してたけど、なんか意味のある木なのかな?
世界樹の葉っぱを使うと、瀕死から復活出来る記憶があるけど、あれってあくまでもゲームでの話だからなぁ……。
とりあえず隊長さんについていくことにした。
はい。
ただいま世界樹と思われる木の根元に来ております。
デコボコと根っこが地面から飛び出しているかと思っていたのですがそんなことはなく、周囲は非常に綺麗に整地されており、枯れ葉1枚落ちていません。
木の高さとしては……、どこかの電波塔よりかは低いのではないのでしょうか?
1度しか実際に見上げたことがないので比較できません。
「私とソフィーナはここまでだ。君もここにいて、呼ばれた場合のみ進むといい。」
「……?誰かに呼ばれるんですか?」
「さぁ?私は呼ばれたことがないから分からない。」
隊長さんはエルフちゃんを連れて離れて行ってしまった。
世界樹と思われる樹。
この荘厳な雰囲気。
隊長さんの緊張した様子。
間違いない。
幽霊だな。
だって、なんかめちゃくちゃ視線を感じるもん。
明らかに誰もいないのに視線を感じるし、なんか動いてるかのような気配を感じるし、めちゃくちゃ居心地が悪いよ。
私を呼ぶ声は聞こえないし、さっさと帰ろう。
一応念のため周囲や上空を見まわし、(よし帰ろう)と振り返ろうとした瞬間。
気づいたら知らない場所にいた。
わ~い!
お花畑だ~!
よく、『死後の世界にはお花畑が広がっている』って言うよね~。
まぁ、気づいたら知らないところにいるのはこれで2度目なので、特に焦りはない。
焦っていないのでインベントリからKATANAを取り出し、ついでに塩の入った箱を取り出した。
幽霊とナメクジは塩を撒いときゃいいんだよ!
辺りを見回すが、誰もいない。
ホント、どうすればいいのかな?
花畑を踏み荒らす趣味はないので動けずにいると、どこからか声が聞えてきた気がした。
これは……声じゃなく、直接脳内に!?
(揚げたてのチキン下さい。久しぶりに食べたいです。なにとぞチキンを……。)
私の祈りは届かなかったのか、思念の様なものは消え、揚げたてのチキンも現れなかった。
ぺっ!使えねぇ。
……冗談だよ?
そして気づくと、手に持っていたはずのKATANAを突きつけられていた。
目の前には可愛らしい……両性類?
『中性的な顔立ち』って、こういう見た目の相手に対して使うんだろうね。
見た目は非常に若い子供。
羽とか角とか尻尾も生えていない、いたって普通の人間のような見た目だ。
……そう、人間のような見た目だ。
エルフではない。
とりあえず、KATANA返して……。
「…………どこから紛れ込んだ?」
「テメェが呼んだんじゃねーのかよ!」
おっと、思わずツッコんでしまったぜ。
もっと心の余裕を持たないと。
相手は子供、見た目は子ども、頭脳は知らん。
KATANAをいつの間にか盗られており、少し危険。
というか、鞘を掴んでいた私に気づかれないままKATANAを抜くって、結構凄いな。
「…………ついてこい。母上様がお待ちだ。」
……誰だよ母上って。
テレパシーでも使えるのかな?
さっさとKATANA返せよ。
そろそろ塩で目潰ししたくなってきたぞ。
まぁ、黙ってついていくけど。
両性っ子ちゃんの後をついていくこと3歩。
たったの3歩だ。
また気が付くと、見知らぬ広間にいた。
テレポートかな?
両性っ子ちゃんは目の前でこけている。
とりあえず目を逸らした先には、椅子に腰かける、いかにもヤバそうな存在が座っているのだった。
「よく来ました、異世界からの転移者。ここは私の神域。何も心配することはありません。……何か言いたいことでもあるのですか?」
……そっかぁ。
とうとう胡散臭い神様と遭遇かぁ。
自分の神域の中なのに、私の心は読めないのかな?
「……とりあえず、服を着て貰えませんかね?」
両性っ子ちゃんもそうだったが、この自称:神みたいな女性型の存在も、堂々と全裸だった。
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