第92話 魔導書を見ると、ベリーメロンが食べたくなる
私の目の前で、隊長さんとエルフちゃんが武器を向け合い対峙している。
なんでこんなことになってしまったのか。
あんなに仲の良かった二人が戦うだなんて……。
……シリアスに話そうかと思ったけど、ただの訓練だよ。
はい、あれから3日が経っております。
ダンジョンからエルフの国までの移動中は、ちょっと本気で暇すぎたので全カットだ。
だって、歩きながら作業とかできないし、時々襲ってくるモンスターは全部エルフさん達が倒しちゃうし……。
話題になることと言えば、私のことをエルフさん達が『職人』と言っていたことくらいだよ……。
まぁ、私でも初見でKATANAを見たら、(作った人凄いな~)って思うだろうからね。
ステータスと魔法スキルのゴリ押しで作ったけど、良い物が作れた自覚はちゃんとあるよ。
でも満足はしていない。
いつかドラゴンを瞬殺するためにも、ドラゴンを縦に真っ二つに出来るような武器を作るんだい!
……今適当に考えただけだから気にしなくてもいいよ。
KATANAに満足はしていないのは本当だけど。
縦に真っ二つは、そもそも刀身の長さが足りないから無理だけど、鱗を通り抜けて肉や骨まで切れるほどの切れ味が欲しいね。
私は切れ味を求めて武器を作り始めたんだよ。
切れ味がいらないなら、物理魔法で作り出すナイフやブレードでも問題はないんだよ。
完全に当初の目的を忘れてたけど!
隊長さんの屋敷の庭でククリナイフの刃を研ぎなら、(なんで私、こんなに武器を作ってるのかな?)と冷静になったおかげで思い出すことが出来た。
まぁ、ククリナイフは普通に売り物として扱うつもりだったので、頑張って完成させたが。
鏡面仕上げって、マジで美しいよね。。
なんか腑抜けた面構えのやつが映りこむけど、刃紋がうっすらと浮かび上がる刃はまさに芸術だった。
……KATANAと比べると色々と違うんだよな。
そもそものアダマンチウム合金の色がKATANAだと少し濃くなってるし、刃紋の濃さも明らかに違う。
あの何度も叩いて折り曲げる作業には、ちゃんと意味があったのかもね。
ぶっちゃけ、テレビで見た刀鍛冶の真似事をしてみたかっただけだから、素材を駄目にするような失敗になると思ってたよ。
刃物を研いでいるといつの間にか近くにいるエルフちゃんを尻目に、持ち手部分の改良や、ククリナイフ専用の鞘を作っていると、隊長さんもやって来た。
その手には剣が握られていた。
「ソフィーナ、いつまでも見てないで、久しぶりに軽く模擬戦をするぞ。」
エルフちゃんは非常に嫌そうだったが、隊長さんには逆らえないのか武器を取りに行った。
隊長さんの持ってる剣は普通に鉄製だけど、刃引きはしてるのかな?
刃引きしてても、普通に鉄の塊で殴られたら怪我しそうだけど。
まぁ、木剣じゃ遊びにしかならないのかもしれないし、私が口を出すことじゃないね。
気にしない気にしな~い。
さて、武器を持って戻って来たエルフちゃん。
その手にはすっごく見覚えのある薙刀が……。
マジかよエルフちゃん。
それ実戦で使ったことないんじゃないの?
隊長さん相手に舐めプですか~?
「模擬戦だからとやかく言うつもりはないが、その武器でいいのか?」
「この槍を受け取った日から、素振りなら毎日してきました。後は実際に戦ってみるだけです。」
……薙刀って何度も言った気がするけど……。
まぁ、槍でもいいか。
さて突如始まった隊長さんvsエルフちゃんの模擬戦!
司会と実況と解説を致しますのは、現在入国手続きを行っていない可能性が浮上しているニートさんです!
どうぞよろしく。
よろしくお願いします。
さてニートさん、入国手続きを行なっていないとはどういうことですか?
エルフさん達の集団の中にいたら、門番に止められることなく普通に入ることが出来ましてね。
(エルフさん達はともかく、人間の私が何の手続きもしないまま入ってもよかったのかな?)と思ったのは、その日の夕食を済ませた後だったので、仕方がないですね。
そうだったんですか。
何事もなければいいですね。
そんなことより、この隊長さん対エルフちゃんの対決はどう見ますか?
隊長さんが全てにおいて圧倒していることは明白です。
あ、若さだけはエルフちゃんの圧勝ですね。
歳の差なんと20倍!
若さを生かした立ち回りに期待したいですね。
こんなこと考えてるのがバレたらシメられちゃうぜ!
さて、それでは模擬戦が始まるようなので、実際に見ていきましょう。
5メートルほどの距離から始めるようです。
薙刀のリーチを生かして、戦いのペースを掴めるかが重要になりますね。
おっと!
エルフちゃんが早々に斬りかかったぁ~!
何と言えばいいのか、想像より結構綺麗な体捌きで感心してしまうぞ~。
『素振りを毎日してきた』と言っていましたが、まだ1週間程しか経っていないはずなのに、非常に扱いに慣れている印象を受けますね。
細い剣を扱うイメージしかありませんでしたが、意外と薙刀に適性があるのかもしれません。
ですが相手は隊長さん。
完全に見切られていますね~。
隊長さんもエルフちゃんのこの熟練度は想定外だったのか、最初に少し驚いた表情が出ましたが、やはりステータスの差が大きいのでしょうね。
一つ一つの攻撃を確実に対処しています。
それにしてもエルフちゃん、意外と頑張っていますね~。
ポンコツ系から、可愛いマスコット系へと移行し、最近では刃物に対して異常な執着心を見せ始めていますが、この先の展開が気になります。
初対面の時のクールぶった偉そうな態度は何だったんでしょうね?
隊長さんの真似かな?
指摘すると顔を真っ赤にして恥ずかしがりそうなので、それはここ一番の時に指摘するとして、エルフちゃんの動きが変わりましたよ。
何か狙っているのでしょうか?
どちらかというと隊長さんが少し間合いを詰めた感じですね。
隊長さんは『少しづつ距離を詰めていくぞ』とプレッシャーを与えている感じですが、薙刀を使うエルフちゃんとしては間合いの内側に入られたくないので、重めの攻撃で牽制したい感じでしょうか?
おっと!
エルフちゃんの振りが大きくなったところを見逃さない!
それ程速い動きではありませんでしたが、隊長さんがみごとに懐に入り込み、剣を持つ腕を掴んで投げました。
剣や打撃ではなく投げ技というあたり、女の子に対する配慮を感じられますね。
……ところで、この脳内一人芝居、いつまで続けるの?
……解散!
というわけで、隊長さんとエルフちゃんの戦いはまだまだ続くが、私は参加しないよ?
合間合間に隊長さんがこっちを見てくるけど、私はヤジを飛ばしながら応援する方が好きなんだぁ~。
隊長さん頑張れ~!
きゃ~かっこい~!
エルフちゃんなんか完封だぁ~!
ククリナイフの改良も終え、鞘も完成する頃、エルフちゃんは結構ボロボロになりながらも健闘していた。
まぁ、体力的にそろそろ終わりかな?
隊長さんはエルフちゃんの成長を十分に感じ取れたのか、少し満足気な顔だ。
お茶の準備でもして待っていようかな。
ほら、私って気配りできるタイプだから。
1度も言われたことないけど。
そもそも言ってくれる友達とかいなかったけど。
隊長さんとエルフちゃんが来てお茶を飲んでいる間に、薙刀を少し見せてもらった。
ほら、実戦で使ったときにどのくらい消耗するか確認しておきたいじゃん?
隊長さんが何度も剣で受けていたけど、とりあえず刃毀れはなかった。
刃を触った感じ、切れ味は流石に少し落ちている感じだけど、刃毀れがないだけでも結構安心だ。
直し方とか知らないし、軽く研ぐだけで元通りに出来るならそれが一番いいよね。
ただ、対人戦だと盾や剣で受けられる可能性があるのか。
私の作る武器って、切れ味を出すために結構薄めの刃にするから、盾とかに弱そうだな。
隊長さんみたいに盾ごとスパッと切れれば問題ないだろうけど、エルフちゃんには無理だろうなぁ……。
使い手の技量によって、最高の武器って変わるんだろうね。
武器作りは奥が深いわぁ~。
武器作りというより刃物作りか。
ハンマーとかなら適当でもいいし。
サービスで薙刀を軽くギラつく程度に研ぎ直し、エルフちゃんに返した。
まだ実戦で使うのは早いだろうけど、大切に使うんだよ。
……そういえば、薙刀の料金って貰ったっけ?
まぁいいか。
「そういえば、明日は1日付き合ってくれ。あの部屋で入手した本を保管出来る施設を手配しておいた。」
「分かりました。」
実は魔導書に関しては、ひっそりと中を確認したりしていた。
だって気になるじゃん?
魔導書の中に書いてあることは、非常に魔道具と共通点が多かった。
というか、魔道具でも使われている文字や記号があったので、文字と魔法の関係を暇な時にでも調べてみたい。
でも、勉強とか全然出来なかった私に分かる内容なのかな?
電化製品とか、ハードとソフト両方の知識がないと作れないみたいなところあるじゃん?
あれに近いものを感じるんだよね。
諦めは肝心。
日記とかの普通の本は読んでないよ?
だって、取り出しただけで崩れそうだし……。
そもそも他人の日記なんて興味ないし。
「そういえば、魔導書はこちらで全て預かるつもりだが、問題なかったか?」
「自由に読んでもいいなら別に問題ないですよ。どちらかというと中身の方が気になりますし。」
「……君はそのうち魔導書も自作しそうだから不安だな。」
……そうだよね。
魔導書も誰かが作ったんだから、作る方法はあるはずだよね。
中の文字に気を取られていたけど、もっと広く視野を持たないとだな~。
薙刀が研ぎ終わったのでエルフちゃんに渡し、堂々とインベントリから魔導書を取り出して読み直すことにした。
この魔導書は火魔法が書かれた物で、呪われてもいないし、発狂もしないし、魔法の暴発もしない安全なものだ。
自動的に周囲の魔力を吸う性質はあるようだが、非常に少量だし、吸われた魔力が魔導書に溜まったりもしていないので、たぶん安全だと思う。
周囲の魔力を吸って、本の保護をする仕組みがあるんだろうね。
ページに書かれた内容は、火魔法で炎の矢を生み出して飛ばすというシンプルな物。
ちゃんと全てが読めたわけじゃないよ?
『中身を見て、使ってみて、もう一度中を見て』を繰り返して、魔道具の本に書かれていたものと比べながら、少しづつ理解しただけだよ。
参考資料下さい。
薙刀をジッと見つめるエルフちゃん、お茶を楽しむ隊長さん、魔導書と睨めっこする私という穏やかな時間は、夕食まで続いた。
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