第91話 『KATANA』と書いてカッターナァ!と読んでます

以前作ったジャパニーズKATANAはほとんど形は出来ているので、後は焼入れと研ぎの作業をした後に鞘を作るだけだ。

問題ではないが、気になるのは焼入れだ。

以前も思ったが、私は斬れ味さえ良ければ他はそれほど気にしないタイプなのだ。

だが、どうせ作るなら綺麗な刃紋を出したい。

となると、テレビで見た物を参考に、泥を塗ってから炭火で焼くか、今の火魔法で温めるやり方を工夫して、温度差を生み出せるようになるしかないだろう。


という訳で、泥塗って炭火とか面倒臭いので、火魔法の練習からするのだが、練習用にナイフでも作ろうと思う。

というか、新しい物が作りたいのだ。

錬成魔法を覚えたときも1日中いろんなものをぐちゃぐちゃにしたが、火魔法を使っての鍛冶が出来るようになり、物づくりの幅が広がったことで、私の中のクリエイター魂が目覚めたのだ。

たぶん、あと一週間は起きてると思う。


そんなわけで新しいナイフを作るのだが、今回作ろうと考えているのはククリナイフだ。

ククリ刀と言うことの方が私は多かったが、まぁ呼び方はどうでもいいね。

ククリナイフを作る理由はとても単純、見た目がカッコイイからだ。

火魔法の実験台として作るナイフだが、KATANAの見た目を良くするために練習するのだから、ナイフも見た目重視で作るべきなのだろう。


という訳で、いつも通りアダマンチウム合金のインゴットをコネコネ……。

この作業にも慣れてきたね。

ハンドメイドで形をククリ刀へと変形させていくが、(器用さ)ってやっぱすごいよな~。

イメージ通りに手が動くんだもん。

刃の部分をサクッと作り上げて、持ち手を作っていく。

今回も刃から柄まで一体型だからね。

いちいち別の素材で柄を作るのって面倒臭いんだぁ……。


10分程で形になったので、ここからが本番の練習だ。

……練習の本番かな?どっちでもいいか。


火魔法を使う前に、魔力のコントロールしてみる。

いつもは放出する量にだけ気を付けていたが、今回はムラを作るために放出した魔力をコントロールする必要があるのだ。

ナイフに魔力を流し、刃の部分は魔力を濃く、それ以外は焼入れするときより気持ち少なめに……。

こんな感じかな?

一瞬で温度が上がるわけじゃないから、この感じで魔力を全体に流し続けないといけないんだよな~。

結構難しい。

(超感覚)が足りてないのかな?


という訳で(超感覚)を100上げて、再挑戦だ。

これで足りなかったら、インベントリ内の魔石を砕いてレベルを上げる作業だな。


幸いにも、感覚的には問題なく魔力のムラを作れている気がするので、実際にククリナイフに焼入れしてみようと思う。




……はい。

約30分で焼入れと焼戻しが完了しました~。

ハイ拍手。

……エルフちゃんが本当に拍手してくれた。

可愛いね~。

飴ちゃんもってないから餌付け出来ないわ。

刃物が欲しいんか?


まぁ、エルフちゃんのことは置いておいて、結構ナイフが曲がってしまったので錬成魔法で修整した後に、まずは表面を磨いていく。

回転する魔道具がマジで便利だわ。

アダマンチウム合金だからか、少し黒みがかった色をしているが、ナイフ全体が非常に綺麗な金属の光沢を放っている。

ツルテカだ。

そして肝心の刃の部分。

ちゃんと刃紋が出ていた。

少し神経質にやり過ぎたのか、同じ間隔の綺麗すぎる波模様なので不自然さはあるが、角度によっては本当に綺麗に刃紋が浮き出てくる。

これはKATANAに期待できそうだねぇ~。


ここからは研ぎの作業だから、エルフちゃんそろそろ返してくれない?

うん、綺麗に出来てるよね。

自分でも綺麗だな~って思うから。

隊長さんは呼び止めないで!

作業が進まなくなっちゃう!




なまくらなままのククリナイフちゃんが隊長さんとエルフちゃんに奪われたので、KATANAの焼入れをした。

今回は結構不規則な波模様を意識して見たのだが、研いだ時にどうなるかな?

刀という形の問題なのか、焼入れに問題があったのか、反りと曲がりが今までで一番酷かったが、錬成魔法なら直せるんだよねぇ~。

マジで錬成魔法がズルいわ。

昔ドワーフたちが『邪道』と言ってたのが良く分かるレベルでズルい。

でも使うのやめられないんだけど!


隊長さんとエルフちゃんがナイフを返さないまま、お互いの武器を見せつけ合っているので、落ち着いてKATANAを研ぐことが出来ている。

こうして見ると、隊長さんの剣も、私の作った薙刀も、そこまでギラギラ感は変わらないんだな。

素材の色なのか特性なのか、隊長さんの剣はちょっとギラギラ感が目立ちやすいだけで……。

やっぱり素材で見た目の雰囲気も変わるんだねぇ~。

……ドラゴンの牙と爪で剣を作ったらどうなるんだろうね?

結構楽しみだ。


そんなわけで研ぐこと数時間。

なんとか夕食前に研ぎ終わることが出来たんだけど……。

とりあえず試し切りしてみよう。

凄い不安なんだけど、実際にやってみないと分からないしね!

『見た目と性能は別』ってゲームで散々学んだから!


いつの間にかエルフちゃんや隊長さん以外にも結構な数のギャラリーがいたが気にせずに、後ろの木にKATANAを振ってみた。

少し擦ったかのような手ごたえはあった。

実際は斜めにぶった切ってたけど……。


「うん、これ、ヤバいやつだ。」


思わずそんな言葉が口から出てしまうほどの出来栄え。

素晴らしいね。

これは流石にヤバい気がするけど……。

だって、マジで力も入れずにただ木に向かって振っただけなんだよ。

剣の腕がないド素人が適当に振って、擦ったような手ごたえしかなかったんだよ。

それで木を斜めに切れるっておかしいよね。


という訳で隊長さんにパスだ。

あの刃物にハァハァするエルフちゃんですらフリーズしてしまっているのだから、これは生み出してはいけないものだったのかもしれないな。

後は鞘さえ作れば完成だけど……。

一応柄に布か何か巻いた方がいいかな?

滑らない様に一応溝は施してあるけど心配だし。


どうでもいいけど、凛々しい美人が刀を持ってる姿って、なかなかいい絵になるんだね。

飯を作るための焚き火を用意しながら、そんなことを思っていた。


私がのんびりとガーリックトーストを食べている間、エルフさん達は完全に刀の鑑賞会となっていた。

暗くなり、焚き火の炎に照らされて浮かび上がる刃紋はまさに芸術だ。

……結構クッキリ刃紋が浮かび上がってるなぁ。

日本刀は昼間に照明の明かりの下で数回見たことがあるだけだけど、あそこまでクッキリと刃紋が浮かんでたかな?

……そういえば私のククリナイフはどこに行ったんだろう?

見比べるのに今のところ一番いい比較対象なんだけど……。


あ、隊長さんが来たから聞いてみよう。


「ちょっといいか?」


「何ですか?」


「あの剣を少し使ってみたいのだが、いいか?」


「私以外なら斬ってもいいですよ。それより、私の作りかけのナイフ知りません?」


「ナイフならソフィーナが持ってるぞ。そういえばあのナイフも剣と同じく刃に模様が出ていたな……。ドワーフ達の作る武器とは全然違うが、君の世界独特の作り方で作ったのか?」


……あんな刃紋があるのは日本刀だけだった気がするけど、実際はどうなんだろうね?

日本刀でさえテレビで得た知識なのだから、外国の剣などさっぱり分からない。


「私の住んでた国で、古来使われていた方法や考え方を取り入れてみた結果、あんな感じになりました。」


「そうか……。そういえばそちらの世界には魔法がないのだったな。となると君のオリジナルになるわけだ。」


……こういう時になんて答えればいいのか分からないね。

これって仕事を頼まれる流れかな?

それとも作り方を広めるべきかな?

魔法と(器用さ)でゴリ押しして作ってるから、教えられるものではないんだけど……。


「たぶん……そうだと思います。私の作り方は色々と特殊みたいですし……。」


「今後はあまり人の前で武器を見せない方がいい。面倒臭いトラブルばかり起こるようになるぞ。」


「……気を付けます。」


隊長さんは歩いて行ってしまった。

あのKATANAで何か試し切りでもするのだろう。

エルフちゃんを確保しナイフを取り戻した後、私も一緒に見学することにした。

私が一から作った武器を、熟練者が使うとどうなるのか気になるじゃん?


まずは普通の木だ。

まぁ、私が適当に降っただけで切れるんだから、当然切れるよね。


次も木だが、今回は生えているものではなく、固定されていない木だ。

切れ味が悪いと吹っ飛んでいくと思うのだが、微動だにせず切ってしまった。

これは隊長さんの腕がいいんだろうね。


次は……盾かな?

丸い鉄の盾をエルフさんが持ってきた。

(鉄は刃毀れが怖いなぁ)と、思ったときには真っ二つだった。

これで防御という概念は意味を持たなくなったね。

回避と攻撃以外何もいらないわ。


さて、隊長さんが「最後」と言ったので、次が最後なのだろう。


最後も丸みのある物だった。

……ドラゴンの鱗だね。

盾にするのにちょうど良さそうな大きさだ。

(切るのはもったいない)という気持と、(これが切れたらドラゴンさん相手でも戦えるんじゃね?)って気持ちがあり、非常に楽しみだ。


隊長さんも少し緊張しているのか、目を閉じ、軽く息を吐いた。

絵になるね~。


そして一閃。

私の作ったKATANAは、ドラゴンの鱗を真っ二つに切ることは出来た。

だが、今までのように真っすぐは切れず、少し波打つように切る結果となった。

ギャラリーはたくさんいるのに、完全に静まり返ってしまう結果だ。


やっぱり『ドラゴンの鱗』っていうだけの価値はあるんだね。

これなら腕が悪かったり、研ぎが少しでも甘い場合、全く切れずに刃が折れるだろう。


まぁ、所詮は人の手で作られた武器よ。

ドラゴン相手に戦うにはまだまだ足りてないね。

作ったの私だけど。

ドラゴンとは、平和の道を歩んでいきたいと思います。


あ、隊長さんがまた来た。


「ありがとう。凄い剣だなこれは。どこか予感はあったが、正直ドラゴンの鱗を真っ二つに切れる剣があるとは思わなかったぞ。」


ほぇ~。

あ、借り物の剣でドラゴンの鱗に切りかかった隊長さんじゃないっすか!

チーッス!チーッス!

まぁ、「私以外なら斬ってもいい」って言ったし、ドラゴンの鱗相手にどこまで通用するのか私も気になったから止めなかったし、刃毀れしてても全然怒らないよ?

ほれ、見せてみんしゃい。

……これってどこの方言だろうね?


「結構な自信作ですけど、使う人に高い技量がないと、ドラゴンの鱗を切るのは無理ですよ。」


KATANAを隊長さんから受け取る。

……少し汚れただけで、刃毀れはしてないな。

いや、気持ち切れ味が鈍ってるか?

紫ゲージが1ミリしかない剣かな?

達人芸で会心出し続ければ使えそうだわぁ~。

よし、鞘作ったら隊長さんに売ろう。


「これって、売ればどのくらいになります?」


「えっ!?……流石にドラゴンの鱗を切れる剣に値段は付けられないぞ?幼体ならまだしも、成体を通り越してエンシェントドラゴンの鱗を切ったのだぞ?正直、エルフの国にこれの価値を超える武器はないぞ?」


うっそだぁ~。

だって、原材料費は金貨45枚だよ?

アダマンチウム合金のインゴット3つ分なんだから。

……そういえば日本刀も、国宝レベルになると億行くんだっけ?

元は砂鉄から作られているとしたら、原材料費よりも完成度と芸術性の方が大事なのかも?

KATANAに日本刀のような歴史はないけれど、『ドラゴンの鱗を切った』という実績はあるんだぜ!


よし、売ろう。

エルフの国が駄目ならドワーフの国に売ろう。

むしろ鉱石と物々交換だ。


その後はKATANAの鞘を作り、刀身を磨き直してから眠った。

エルフちゃん以外のエルフさん達が、凄く余所余所しくなっちゃったんだよね。

めっちゃ遠巻きに見てくる感じ。

KATANAを見つめるエルフちゃんみたいにガン見しろとは言わないけど、チラチラ見られるのって結構気になるタイプなのよね。

明日からエルフの国に移動だけど、大丈夫かなぁ……?

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