第90話 報酬の分配って現実だと大変だよね。

地下7階から地上へと戻ると、既に朝日が昇っていた。

(夕方くらいには戻れるかな~?)と思っていただけに、まさか半日も体感時間がズレてるとは思わなかったね。

違和感はあったんだよ?

地下6階から地下7階に降りたときは昼前だったのに、地下7階から地下6階に上がったときは暗かったんだもん。

地下7階にいた時間は30分くらいだったはずなのになぁ……。

まぁ、時間の流れがおかしいくらい、物語の中じゃ普通普通。

数百年も経ったわけではないんだから気にしなくてもいいでしょ。

でも、時差ぼけしそうだなぁ~。

この世界に来てからは、なんだかんだ規則正しい生活を送ってたから、久々に徹夜すると結構ツラいんだわぁ~。

そんなわけで、余った食料とか、ドラゴンが残した魔石とか、大量の本とか諸々放出して寝たいんだけど、どこに置いたらいいですかね?


隊長さんも勿論一緒に戻って来たが、なんか沢山のエルフさん達から報告を受けていて忙しそうな感じだ。

サーシャさんにでも聞くか。

おっさんも目力さんも幸薄さんも、隊長さん程ではないがエルフ数人と話しをしていて話しかけづらいのに、サーシャさんだけ暇そうだもんなぁ……。

どうでもいいけど、外で堂々と大口開けてあくびしている女性を見たのは初めてかもしれない。


「サーシャさん。」


「ん~?あ、おつかれ~。どうかしたの?」


「余った食料とか、今回入手した魔石とか、大量の本ってどこに置いたらいいですかね?」


「う~ん……。隊長が何か言うまで持っておいていいんじゃないかな?食料とか魔石はともかく、本は国に帰るまで外に出さないで欲しいと思ってると思うよ?魔導書は危ないし、普通の本は脆いし。」


「そうですか……。」


まぁ、報酬貰うまではどこかに行くつもりはないけれど、ずっと他人の荷物を持っておくのって結構不安になるのよね~。

……魔導書が危ないってなんだ?

そんな話聞いてないんだけど。

『魔道具に近い物』って言ってたけど、事故ることでもあるの?


「……魔導書って危ないんですか?」


「そうだね~。魔導書に見せかけて読んだ人に呪いをかけるものとか、本を持っている人の魔力を勝手に吸い上げて魔法が暴発するやつがあったり……。あ、ある程度の実力がないと読んだら発狂する魔導書の話とかも聞かされたよ。」


……目力さんとか普通に読み漁ってたけど、勇気あるな~。

(凄いペースで読むじゃん。)としか思ってなかったけど、呪うやつとか発狂するやつがないか確かめてたのかもしれないね。

インベントリの中に入れておけば大丈夫なのかな?

本を出すときはマジで気を付けよう。




流石に少し疲れていたので、周りが撤退作業か何かで騒がしい中、木の傍でのんびりと座ってウトウトしていたら、強風が襲って来た。

もちろん、こんなことをするのはドラゴンさんだ。

相変わらずの基本が急発進急停止なんだね。

あれだけ質量があるのに全力でそれをされたら、周りの被害が半端ないってマジで。


そういえば悪魔を引き渡して以来全然見なかったけど、ダンジョンが潰れたことを感じ取って来たのかな?

ダンジョンって周囲に影響があるらしいし、ドラゴンさんなら多少離れていようと、変化を感じ取ってもおかしくないよね。


突然の超巨大ドラゴンの襲来に、エルフさん達はガチビビリだ。

エルフの国でも一度見てると思うけど、やっぱり怖いものは怖いのだろう。

半数以上が茫然自失。

残りのほとんどは武器を握りしめてカタカタ震えている。

1人がどこかで「ドラゴンに乾杯!」と酒を飲んでいるみたいだが、声からして間違いなくサーシャさんだ。

この状況でそれが言えるってマジリスペクトだわ。


まぁ、隊長さんみたいにドラゴンが現れても表面上落ち着いているエルフさんもいるので何とかなるだろう。

というか隊長さんが何とかするだろう。

私は眠くなってきたな~。

なんか隊長さん来たけど、私も行かないといけない感じなのかな?

エルフちゃんとパットン君も後ろにいるね。

……行きたくないな~。


「ほら、最後の報告だ。行くぞ。」


これも報酬を貰う為だ。

エルフちゃんの後ろをのんびりとついていくことにした。

名前なんだったかな?

フィナーレ……ソフィーナか。

薙刀の調子はどうかな?

何も言わないから問題はないんだろうけど、実際の使用感とか聞いておきたいよね。


「薙刀は使ってみた?」


「え?……いえ、まだ使ってません。」


そっかぁ……。

まぁ、実際に戦う前に武器の扱いに慣れないといけないだろうしね。

命を預ける武器だし、簡単に変えたり出来ないよね。

なんか、(あれを使うなんてとんでもない)みたいな目で見られたけど、気のせいだよね。


さて、ドラゴンさんの前に到着だ。

隊長さんが仰々しくダンジョンを攻略したことを報告している。

校長先生のお話みたいに長くならなければいいな~。

小中学校の全校集会ほど無駄な時間はないよね。

高校からは全校集会の日だけ普通に遅刻してたわ。

毎日各教室で朝礼があるんだし、全校集会で話す内容も、毎回要約すればプリント1枚で収まる内容なんだから、プリントで配ってくれれば丸めて捨てるだけだから早く済むのに……。


とりあえずドラゴンさんからは、報酬として爪・牙・鱗を貰えるらしい。

悪魔を引き渡した分、以前亡くなったドラゴンの骨も、少しだけくれるそうだ。

牙や爪は武器として使えそうだけど、骨も使えるかな?

大きな骨を持ってそのまま殴り掛かる絵は、ビジュアル的に面白そうだけど、どのくらいの大きさの骨なのかな?

あ、骨は薬の材料になるのね。

じゃあ興味ないわ。


それにしても、ドラゴンって自分達の素材が売れるって理解してるんだね。

これも一種の身売りなのかな?

『自分の牙や爪を売ろう』なんて考えたことないけど、ドラゴンにとっては普通のことなのかな?

それとも、このドラゴンさんの知能が高いからこそ?

……後者な気がするな~。


この中から私の分の報酬ってどれくらい貰えるのかな?

ドラゴンさんが出した報酬は、牙と爪は合わせて4本。

鱗は結構あるな……20枚くらい?

骨は薬を作れそうなエルフさん達に譲るとして、牙と爪のどちらかは欲しいね。

普通に剣に出来そうな大きさだし……そういえば剣が作りかけのままじゃん。

忘れるところだったわ。

この後暇になるだろうし、剣作りを再開するか。


そんなことを考えながらボーっとしていると、吹き飛ばされそうな突風を巻き起こして、ドラゴンさんは飛んで行ってしまった。

全然話を聞いてなかったけど、まぁ問題ないでしょ。

……帰りはドラゴンさんの背中に乗せて運んではくれないんだね。

安全飛行してもらえるとは思ってないから別にいいけど、もう少し手厚いサポートがあってもいいんじゃないのぉ~?


「終わったな……。君の分の報酬はどうする?牙と爪が欲しいとは思うが、骨も必要か?」


隊長さんは良く分かってるね~。

鱗も少し貰っていいかな?

ドラゴンの鱗で作った盾とか、ゲーム的で良さそうじゃない?


「牙か爪のどちらかと、少し鱗も欲しいですね。薬は作れないので骨は要りませんね。」


「牙と爪両方は欲しくないのか?」


「欲しいですけど、武器にするなら一番価値がありそうですからね。骨を全て譲っても、両方だと貰いすぎになりません?」


「エルフではドラゴンの牙や爪の武器への加工は難しくて出来ないからな。別に両方とも貰っても問題ないぞ。鱗や骨はその分こちらが多く貰うがな。」


ドラゴンさんから貰った報酬は、交渉は特に必要ないまま確保出来た。

やったぜ!

後はダンジョン内で獲得した魔石とか魔導書か……。

魔導書は怖いけど一応数冊は確保したいなぁ……。

日記を含む他の本は、どうするべきかな?

ぶっちゃけ1度読めば満足するだろうし、そもそも保存状態とか気にするのが面倒くさいから、エルフの国に図書館とかあるのなら寄贈したいわ。

まぁ、この辺はエルフの国に戻ってから考えればいいか。


……戻れるかな?

ドラゴンさんの襲来でうやむやになったけど、エルフの……え~と、どっかから出てきたときに囲まれてたじゃん?

入るときに今度は難癖付けてきたりしない?

大丈夫?

難癖付けられたら魔導書とか魔石を持ち逃げするんだい!

……それもありだな。


この場で牙と爪を1つづつ貰い、鱗は3枚受け取ってインベントリに収納した。

この鱗って、ドラゴンさん自身の鱗なのかクッソデカいんだよね。

インベントリにギリギリ入る直径だったわ。

これはいい盾になりそうだね。


「そういえば、移動は明日からですか?」


「そうだな。今日はゆっくり休んで、明日の朝から出発になると思う。」


「分かりました。」


それじゃあ、作りかけの剣を完成させようかな?

外国人が考えるジャパニーズKATANAを作るんだい!


刃物作りに対して異常に嗅覚が働くのか、エルフちゃんに後ろをついて来られながら、のんびりと広場の隅へと移動するのだった。

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