第88話 カフェインが脳髄まで染み渡るわぁ
『なぜ山に登るのか。そこに山があるからだ。』
そんな名言みたいな言葉があるけど、一生理解できそうにない考え方だわぁ……。
出来れば家の中でゴロゴロと人生を無駄に過ごしたい私としては、山に登るどころか家から出たくもない。
まぁ、お金がないとそんな生活出来ないから仕方なく外に出るのだが……。
非常に美味しいと自画自賛出来る朝食後、各自装備の点検を終わらせた後に再び山を登り始め、3時間程登ったところで今日もドラゴンとの戦闘が始まった。
最初は(今日は数が少ないな~)とのんびりと戦っていたのだが、徐々に数が増えていくドラゴンや、昨日より標高が高く、足場も悪いために、隊長さん以外のエルフの4人が何度か危険な場面があった。
仕方がないので私がフォローに入ったのだが……。
隊長さん?
隊長さんは……あれってやっぱり剣に魅せられてない?
マジでこっちのことは全然気にせずに、ひたすらジェノサイドしてるんだけど……。
1人だけドラゴンを狩るペースがおかしいもん。
視界の隅に見えてたけど、私がハンマーを振り下ろして1匹倒している間に、3匹の首を落としちゃってるよ……。
怖いわぁ……。
あの剣研いだの、私なんだぜ!
あの調子なら1時間もかからずに隊長さん1人で殲滅してしまいそうだし、私達はのんびり狩ってればええやろ。
エルフさん達の方に注意を向けながら、近づくやつだけ確実に倒していくのだった。
ドラゴンを掃討し、恐る恐る隊長さんと合流する。
大丈夫かな?
笑顔で斬りまくってたけど、正気を保ててるかな?
サーシャさんの後ろに隠れながら、近づいていく。
「来たか、全員怪我はないか?」
……とりあえず、いきなり斬りかかってくることはなさそうだ。
あの剣の素材なんて言ってたっけ?
へ……へびど?
今度ドワーフの国に行ったときに聞いてみないとな。
アダマンチウムより高いだろうから金策も考えないと……。
そういえば、このダンジョン攻略のために相当働いてる気がするけど、報酬はどれくらい貰えるのかな?
これでお給料が安かったら2度と仕事なんて受けないね。
隊長さんに剣で脅されても……それは流石に怖いから従っちゃうな。
というか、目力さんも隊長なんじゃないの?
隊長さんと比べたら普通過ぎない?
もっと頑張ってドラゴン倒そうぜ!
全員の無事を確認し、何も問題はなかったのでどんどん山を登っていく。
小さいドラゴンも既にほとんどおらず、たまに襲ってくるやつがいても隊長さんが瞬殺だ。
今までならドラゴンが倒されると周りのドラゴンが次々と襲ってきていたが、数が少なくなったからか隊長さんの強さにビビったのか、全然襲って来なくなった。
順調に登っていくこと1時間。
ついに山頂だ。
ちゃんと次の階への階段もある。
出発から丸1日ちょっとで地下6階攻略だ。
……早かったなぁ。
正直、エルフさん達と協力できても3日はかかると思ってたわ。
まぁ、ここまで早く終わったのは半分以上隊長さん1人のおかげだけど……。
とりあえず次の階を見てから休憩かな?
「地下7階に降りてから休憩するぞ。」
隊長さんの一声で、全員が階段を下りていく。
私は最後尾だ。
(そろそろ終わってくれないかな~)という思いも虚しく、階段を下りた先には、何も見えない黒い空間が広がっていた。
『何もない』のではなく『何も見えない』だ。
たぶん普通の通路だと思うのだが、マジで何も見えない。
壁や床が真っ黒の物質から作られているようだ。
これだと落とし穴とかあっても気づかないかも?
試しに壁に火を当ててみると、そこだけ灰色になったので見えるようになった。
……黒いだけで普通の壁かな?
まぁ、油断は出来ないけど、足元や壁に気を付けて進まないといけないみたいだ。
とりあえず休憩にしよう。
お茶はいかがっすか~?
ドワーフの国で適当に買ったお茶~。
茶葉は茶色い感じだけど匂いは……ん?
……とりあえず入れてみるか。
……お茶だし、お湯だよな。
自覚はなかったけど、私も少し疲れているみたいだ。
普通に水を入れるところだったわ。
危ない危ない。
これまたドワーフの国で買ったやかんのような何かに水を入れて、火魔法で加熱。
湯気が出てきたので……糞熱いなオイ。
魔力の量が多かったか?
なんか調子が悪いな~。
少しだけ氷魔法で冷やして、コップに茶葉を入れて、お湯を入れて、一口飲む。
……炭酸砂糖抜きコーラだね、これ。
甘さが全くなくて、少し苦みと酸味がある。
匂いだけは完全にコーラ。
匂いがコーラだから普通に水入れようとしちゃったのかな?
コーラに水入れたことないけど。
店員さんは「お湯に入れればいいですよ~」って言ってたけど、もっと他に何かあると思う。
「珍しいものを飲んでるな。ドワーフのところで買って来たのか?」
隊長さんがやって来た。
ちゃんと正気みたいだ。
「あんまり美味しいとは言えない感じですけど、正しい飲み方とか知ってます?」
「フフッ!お湯で飲んだのか?ドワーフ達は酒の香りづけにそれを入れるくらいで、お茶としては飲まないぞ。」
……あの店員さん許さねぇ。
そうか、やっぱりお茶ではないのか……。
まぁ、香りはいいから、大量に砂糖を手に入れたらコーラ作りにでも挑戦してみようかな?
仕方がないのでもう1種の買ったお茶を出す。
色は結構濃い緑だけど匂いは……普通のお茶かな?
こっちは期待できそうだ。
あ、一応隊長さんに確認してみるか。
「こっちは普通にお茶ですよね?」
「どれ……あぁ、普通のお茶だな。」
炭酸砂糖抜きコーラを捨て、こっちのお茶を入れてみることにする。
隊長さんや他のエルフの方々にもコップを渡して、皆で飲んでみる。
……普通だ。
何と言えばいいのか……緑茶とウーロン茶が混ざった感じ?
だけど美味しい。
脳髄まで染みるわぁ~。
……カフェイン多めに入ってるのかな?
目がシャキっとしちゃうね。
目がシャキっとしたからか、少し離れたところに等身大の人形みたいなやつが見えるんですけど、気のせいですかね?
凄いこっちをジーっと見てるんだけど……。
私が人形と睨めっこしていたからか、隊長さんも気づいた様だ。
「あれって敵ですよね?見たことあります?」
「いや、ないな。見た目は大きいだけのマリオネットの様だが、地下7階のモンスターだ、油断は出来ないな。全員、速やかに階段まで移動しろ。」
という訳ですぐ後ろの階段へと下がるが、あの大きさの相手だと、普通に階段は通れるんじゃないかな?
もしかして、階段には魔物が近づかない効果でもあるのかな?
とりあえず、あのデカい人形はこちらには近づいて来なかった。
何だったんだろうね?
私だけではなく隊長さんにも見えたってことは、幻覚ではないだろうし……。
射程内に入るのを待つタイプの魔物とか?
今までの魔物とは全然違うタイプのモンスターに見えるから、正直戸惑うよね。
どちらかというと、前に船のダンジョンで戦ったグールとかスケルトンに近い魔物なのかな?
見た目的に不思議な踊りとかしてきそうだよね。
効果は忘れたけど。
少しの間待ってみたが、特に何もなかったしこちらにも来ないようなので、もう一度見に行ってみる。
やっぱりいるよね。
さっきと同じ位置からこちらを見ている。
インベントリから最近使わなくなったけど未だに手ごろな大きさだと拾ってしまう石を取り出し、全力で投げつけてみた。
石は人形の胴体に見事に当たり、粉々に砕け散った。
人形はノーリアクションだ。
痛みがないのか、ダメージがないのか、それとも物理的な攻撃は意味がないのか。
この距離から見た感じだと、傷一つ付いていないように見える。
石を全力で投げたのに傷一つないって、相当硬いのかな?
今度は魔力を飛ばし、火魔法で攻撃してみる。
これも普通に当たり、人形は火だるまに。
やったか!?
炎が消えた後には、少し表面が燃えた感じの人形が出てきた。
後ろを振り返って隊長さんにちょっと聞いてみる。
「あれ、どう思います?」
「効いているようには見えないな。アンデット系のモンスターなのか、本体が別にあるのか……。近づこうにも壁や床にも注意を向けていないといけないから厄介だな。」
本体は別とか、そんなこともあるのか。
チョウチンアンコウみたいな感じかな?
いや、遠隔操作とか分身とかそんな感じか。
なんだよチョウチンアンコウって。
深海魚で頭に変なの付いてることしか知らないよ。
まぁ、今はチョウチンアンコウのことはどうでもいいか。
今はダンジョンとあのモンスターだ。
(う~ん……。最初の1匹だし、ちょっと無駄に魔力を使っても別にいいかな?)
魔力をそこそこの量放出し、ダンジョンの壁や床、天井までも焼くように魔力を火魔法へと変換していった。
なかなか熱いし、今更だけど酸欠とか一酸化炭素中毒は大丈夫かな?
……まぁ、ダンジョンだし、大丈夫やろ!
火に焼かれた通路が灰色に変色し、壁や床が見えるようになったが、明らかにおかしいところがあった。
人形モンスターの手前の壁だけは、色が真っ黒のままなのである。
怪しすぎるけど、全然気づかなかったね。
あれは罠かな?
それともあの人形の本体?
階段のところに置きっぱなしだったハンマーを拾い、隊長さんと目を合わせた後、ハンマーで壁を殴ってみた。
あ、なんか柔らかいかも……。
これ、壁じゃなくてモンスターだわ。
ここで1つ変化があった、人形の姿形が人間そっくりに変わっていたのである。
ついでに壁ではなく、人間に変身した人形が襲ってきた。
クルッと一回転して、ハンマーで壁に叩きつけたが。
これはあれかな?
普通は人間と思って油断して近づいてきた人間を、横の壁に擬態していた本体が攻撃するのかな?
人の出入りが多いダンジョンだと効果がありそうだけど、このダンジョンでやるのはなぁ……。
特に問題ないと判断したのか、隊長さんもやって来た。
すると、人間に変身していた人形が、今度はエルフに変身したのである。
……これエルフちゃんだよね?
面白い能力だなぁ……。
でも、エルフちゃんに変身するってことは、これって適当なやつに変身するんじゃなくて、私や隊長さんの記憶を読み取って変身するのかな?
最初に変身した人間に見覚えないけど……。
まぁ、元々人の顔も名前も覚えていないから、私の問題なのだろう。
「……ソフィーナの姿になったな。擬態する能力か?もっと浅い階層にいたら、無警戒に近づいてしまいそうだ。」
「擬態だけでここまで姿を似せるのは無理だと思うので、記憶を読み取る能力とかもありそうですよね。」
「……なるほど、確かにそうだな。これは帰ったら報告書に書かないといけない内容だなぁ……。」
隊長さんがんばえ~。
やっぱ報告書とか書くんだね。
私の報酬は報告書を書かなくても貰えるよね?
とりあえず、壁にめり込んでいる擬態した人形ごと、壁をハンマーで殴り続けた。
何というかゴムみたいな感じだなあ。
外は軟らかいけど、押し込むと硬い感じ。
斬る方が効果的かな?
火は全然効果が見られなかったし……。
という訳で斧を叩き込んだところ、モンスターは消滅し、魔石といつもの宝箱が出現した。
そういえば、小さいドラゴンを相当数倒したけど、スキルオーブも宝箱も落とさなかったなぁ……。
宝箱を蹴ってみると、宝箱は消え、宝箱が出現した。
いつも『宝箱』と言っている四角い箱ではなくて、装飾が施された普通の宝箱だ。
これは初めてのパターンだね。
隊長さんが傍で見守る中、罠がないかめちゃくちゃ慎重に箱を開けてみると、中にはおそらく金属と思われる物質のインゴットが納められていたのだった。
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