第86話 数の暴力は怖いね
危うく寝坊するところだったし寝坊したかったが、隊長さんにモーニングキックを食らった為、ちゃんと起きることが出来た。
とりあえず顔だけ洗って、パンを銜えながら隊長さんと共にダンジョン入口へと向かう。
このパンって、単体だと硬めだしボソボソしてるしで味気ないのよね。
ベーコンとチーズを乗せたら美味いんだけど……。
パンの作り方も勉強しようかな?
ふっくらとするためには酵母菌が必要なのは知ってるけど、流石に酵母菌の作り方は知らないんだよな~。
「いっけな~い!遅刻遅刻!」と、パンを銜えて歩いているのに誰ともぶつかることはなく、普通にダンジョン入口に着いた。
サーシャさん、目力さん、おっさん、なんか幸薄そうな女性エルフさん。
ちゃんと揃ってるね。
サーシャさんの荷物は荷物袋とナイフのみ。
そういえば未だ戦っているところを見た記憶がないけど、どんな戦い方をするのかな?
目力さんも荷物袋とナイフのみだけど、魔法使いらしいし気にしなくてもいいよね。
ゴツイオッサンは荷物袋と武器にはハンマーを持っているけど、そのサイズじゃドラゴン相手には厳しくない?
まぁ、気にしないでおこう。
幸薄そうな女性エルフさんは大きな弓を背負っている。
あんなに大きくて弦を引けるのかな?
まぁ、引けるから持ってるんだろうけど、弓って結構引くのに力が必要じゃなかったかな?
今更だけど、女性でも力があるんだなぁ……。
おっさんと幸薄そうな女性エルフさんは、いつかの不気味な仮面をつけていた。
そういえば最近は隊長さんもエルフちゃんも仮面付けてなかったな。
不審者がいるときにだけ使うのかな?
私もお面作ろうかな~。
ぷりてぃ~できゅあきゅあなお面を作るんだい!
一度も観たことないけど。
ゲーム内の知り合いにめっちゃ推されたけど、日曜朝に早起きとか無理だし、わざわざ録画してまで観ようとは思わなかったんだよな~。
ここは無難に石仮面でも作っておくか。
「全員揃ってるな。今日の目標は地下6階の攻略だ。気を付けて進むぞ。」
隊長さんの一声でサーシャさんを先頭にダンジョンへと入っていく。
地下6階の攻略か……。
全員無事に帰れるといいね。
見れば分かると思うけど、あの山の上って、麓よりもドラゴンの数が多いから、なかなかの地獄だと思うよ。
のんびりと石を錬成魔法で捏ねて仮面を作りながら、隊長さんに引きずられる様に私もダンジョンへと入った。
戦闘を出来るだけ避けてダンジョンを進んだ結果、お昼過ぎには無事に地下6階へとたどり着いた。
流石に中1日ではモンスターの再湧きもないみたいで、2階から5階まで1度も戦闘がなかったからね。
1階のククルと1度だけ戦闘になったが、幸薄さんが弓の一射で目を撃ち抜くという神業で倒し、思わず拍手してしまった。
目を狙うって手に持ったナイフでも難しいのに、弓で射貫けるものなんだね。
さて、今は地下6階に着いたので、一旦休憩を取っているが、全員が山を見ている。
絶景だよね。
山には沢山のドラゴンがいるのが見えるし、山の周りを飛び回っているのも見える。
今からあそこに登るとなると、緊張でお腹が痛くなりそうだ。
「凄い数だな。ダンジョン内にここまで立派な山があることにも驚きだが、小さくともこのドラゴンの数は凄い。」
隊長さんも驚いている様だ。
他の4人は完全にビビってしまっているが、隊長さんは問題ないようなので安心だ。
「あの小さなドラゴンって、1匹倒すと近くにいるドラゴンが襲い掛かってくるようになるので、囲まれない様に戦わないといけないんですよね。少しでも倒すのに手間取ると、囲まれてフルボッコですよ。」
「それは……凄く危険だな。というか、良く生きてたな。」
「その時は麓で足場もよかったですし、あそこまで数も多くなかったですから。ですけど、階段は見つからなかったんで、あの山を登って探すしかないんですよね。」
そう、山を登りながらドラゴンと戦わなければいけないのが一番の問題なのだ。
当然ながら、整備された山道などはない。
足場は悪く、落石や滑落に注意しながらドラゴンと戦わなければいけないというのは、非常に困難だ。
その上であの数である。
麓にいたドラゴンと同じく、1匹倒せば周囲のドラゴンが次々と襲い掛かってくると思われるので、仮に次の階への階段が山頂にあった場合、見えているドラゴンだけでなく、ここからは見えていないドラゴンも全滅させる必要があるかもしれない。
今日中に6階の攻略は終わるかなぁ……?
1時間ほど休憩を取った後、相変わらずサーシャさん先頭に山を登り始めるのだった。
サーシャさんがずっと先頭だけど、索敵が得意なのかな?
山を登り始めて30分ほど、そろそろ低い位置にいたドラゴンと接敵しそうだ。
でも、正直ここだと少し足場が悪い。
隊長さんはどう判断するのかな?
……あ、ドラゴンがこっちに突っ込んできそう。
「ドラゴンが来ます!」
サーシャさんも気づいていたようで、私とは違いちゃんと周囲に声をかけて注意を促す。
私も準備しようかな?
武器すら持ってないし……。
インベントリからハンマーを取り出すとほぼ同時に、ドラゴンがヘッドスライディングするかのように突っ込んできた。
サーシャさん、おっさん、幸薄さん、目力さんが横に飛んで避けるのを見ながら、ハンマーを全力で振り下ろした。
ハンマーに押しつぶされて頭が完全に地面にめり込んだのだが勢いがあったため、首が凄い角度で折れ曲がり、ドラゴンの背中が迫ってくる。
(あ、ヤバいな~)と呑気に思っていたが、押しつぶされる前にドラゴンの体が消え去って、魔石になった。
後ろにいたので見ていなかったが、隊長さんはちゃっかり横に避けていた。
「凄い威力だな。」
いい武器でしょう?
流石にヘッド部分はただの鉄ですけど、アダマンチウム合金で出来た柄はなかなか丈夫ですよ。
あんな威力で殴ったのに、この通り全然曲がってない。
……ちょっとヘッド部分凹んでね?
やっぱドラゴンは硬かったのかな?
この前は問題なかったけど、やっぱり全力で殴るのは駄目っぽいな。
さて、思わず殴り殺してしまったが、周囲のドラゴンが非常に怒り狂っている。
全員で足場の比較的いい場所まで撤退し、襲い掛かってくる大量のドラゴンとの激闘が始まるのだった。
まず1つ言えるのは、このドラゴンは小さく弱い。
一般人からしたら恐ろしい脅威に違いないが、エルフちゃんレベルでも1対1なら逃げに徹すればギリギリ死なずに耐えられそうな強さでしかない。
もちろん、エルフちゃんでは倒すのは無理だが。
隊長さんは首をスパスパ切り落としているし、サーシャさん、おっさん、幸薄さんは3人がかりでなら、問題なくドラゴンを倒している。
サーシャさんってグラップラーだったんだね。
まさかドラゴンの鱗が砕けるほどのパンチを繰り出すとは思わなかったよ。
おっさんも持っているハンマーは小さいけど、ドラゴンも小さいから意外とダメージを与えてるみたい。
目力さんは近づこうとするドラゴンに対して、風っぽい魔法で牽制して、頑張っている。
ときどきサーシャさんとかおっさんに魔法を飛ばしているけど、回復魔法のスキルでもあるのかな?
立ち回りがヒーラーとかサポーターって感じだ。
ドラゴンを普通にぶっ殺してこの大襲撃を引き起こした私は、のんびりとドラゴンを撲殺し続けていた。
ハンマーが変形しないギリギリの威力でも、上手く当てればドラゴンは死ぬのだ。
やっぱり首の骨を圧し折るのが一番簡単だね。
一度だけ作りたてのナイフで斬りつけてみたが、鱗は問題なく斬れたのだが、思っていた以上に鱗が厚くて、あまり傷が深くなかったから1度でやめた。
だって刃毀れしそうだったし……。
やっぱりもう少し長めの剣にしておくべきだったかな?
隊長さんみたいに首を一刀両断出来れば簡単に倒せそうだ。
剣を扱う腕が足りないし手入れも大変そうだけど、今夜魔力に余裕があったら作ってみるか。
2時間程戦い続けただろうか?
私と隊長さん以外、完全にスタミナ切れを起こしていた。
目力さんは魔力切れか。
一応全員無傷だ。
全員ドラゴンの攻撃はキッチリ避けてれていて、途中までは結構いいペースでドラゴンを狩れていた。
休みなく戦い続けてよくここまで持ったと言うべきなのだろうが、まだ少しドラゴンが残っている。
ぶっちゃけこの数なら私と隊長さんの2人でも問題ないと思うので、そろそろ休憩して欲しいのだが、鬼気迫る表情で頑張っているので声をかけづらい。
最初はフォローする気はなかったんだけど、(ちょっとは手助けしてあげようかな?)という気分になっているので、一番近くにいたおっさんに一応声をかけることにした。
「残りは少ないですし、後は私と隊長さんで狩っておくので、もうそろそろ休んでいいですよ?周囲の警戒だけは自身でお願いします。」
「…………すまない。任せた。」
とりあえず近くにいるドラゴンを全て吹き飛ばして、下がらせるための時間を作る。
こういう時にハンマーっていいよね。
むしろハンマーって、強いモンスター向きの武器ではない気がしてきた。
ただ殴るだけじゃなかなか死なないんだもん。
ただの棒よりはマシだと思うけど、なんか私に合う武器はないかな~?
ガンランスとかいいよね。
最近のガンランスは空も飛べるらしいし。
リズムよくペッタンペッタンしていたら、15分ほどで襲って来たドラゴンの残りは全滅した。
これでまだ中腹くらいまでのドラゴンだけなんだぜ。
山頂に行くためには、もう1回同じくらいの数のドラゴンと戦わないといけない感じだ。
サイズが小さいからか、ドラゴンがブレスは吹かなかったから助かったね。
ブレスして来たら全員無傷は無理だったし……。
というか普通に死人が出そうだし……。
感想としてはそれくらいかな?
とりあえず、ドラゴンの魔石を集めてインベントリに放り込んだあと、隊長さんと一緒に、後ろに下がったエルフさん達と合流した。
「お疲れ~ッス。」
「あ、あぁ。お疲れ。」「お疲れ~。」「お疲れ様です。」「……おつかれ。」
改めて見てみるけど、全員怪我もなく、無事に乗り切れたみたいだ。
やっぱりドラゴンぶっ殺すなら、事前に戦う準備を整えてからが良かったね。
突っ込んできたから思わず叩き潰しちゃったけど……。
足場がいいとは言えなかったけれど、下まで行くわけにもいかないし、結果的に問題はなかったということだろう。
全員少しは休めたみたいだけど、今日はもうここで休んでもいいんじゃないかな?
私、剣を作りたいな~。
チラチラ。
最近物作りにハマりそうなんだよね~。
チラチラ。
なんなら武器の手入れしますぜ旦那ぁ!
チラチラ。
「……どうかしたのか?」
すっごく不思議そうな顔で聞かれた。
やっぱり思いは口に出さなきゃ伝わらないのか……。
「今日はもう休みませんか?」
「……そうだな。」
やったぜ!
ここじゃ少し傾斜があって作業が捗らないな。
少し地面を整えてから、武器を作るか。
ん?
隊長さんが来たけど何か用かな?
「君はまだまだ元気そうだから、もう少し一緒にドラゴン退治と行こうじゃないか。」
……神は死んだ。
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