第85話 武器作りはこだわり過ぎると終わらないね

私は今、なぜか隊長さん、エルフちゃん、目力さんと一緒にテーブルに座っている。

ペペロンチーノは今日の夕食にしよう。

出来立ての燻製肉を入れてみても良さそうだしね。


さて、なんで一緒に座っているのかというと、お茶に誘われて断れなかったからだ。

目力さんは未だにジーっと見てくるし、隊長さんとエルフちゃんは作りかけのナイフを一緒に眺めている。

親戚っぽいけど仲いいんですね。


お茶は『甘さが一切ない紅茶』って感じで、香りは素晴らしい。

味は……うん、私って紅茶は全く飲んだことないんだよね。

どちらかというとコーヒー派だけど、ブラック飲めないので珈琲派は名乗れないし……。

新たに登場したエナジードリンク派は、内部抗争が激しくて……。

この世界にもエナドリあるかな?

エナジードリンクは起きてすぐに飲んで、夕方にも飲んで、深夜に飲んで寝るのがいいのよね。

カフェインタブレットも試したけど、正直カフェイン単体だとあまり効果を感じられなかったし……。


カフェインは一度に大量摂取すると、急性カフェイン中毒で命に係わる危険性があるから、気を付けて摂取しないとね。

1日にエナドリ5本開けたやつが言っても説得力ないけど……。


という訳でそろそろ行きたいんですけど……。

いや、お茶はもういいんですよ。

飲むたびに注がれるから5杯分くらいは飲んだよ?

そんなにジーっと見られても困りますって。


目力さんに逃がしてもらえなかった。

仕方がないので隊長さんにアイコンタクトだ。

へるぷみ~。


ちょうど隊長さんとエルフちゃんの会話が途切れたタイミングだったので、気づいてもらうことが出来た様だ。


「まだ刃が研ぎ終わってないようだが、なかなかいいナイフだな。」


隊長さんも結構高評価のようだ。

エルフちゃん、そんなに期待を込めた目で見られても困るよ。

というか、ナイフはほとんど使わないよね?

基本細身の剣で戦ってるし、料理も壊滅的だし……。

なんでそんなに欲しがるのかな?

まぁ正直、報酬さえ貰えるなら1つくらいは作ってもいいのだけれど……。

面倒臭いよね。


「それにしても、ズィーカが他人に関心を持つとは珍しいな。武器を作っていただけだったのだろう?」


「錬成魔法はドワーフ達でさえ羨む特別な魔法。誰でも興味は持つ。一番驚いたのは魔力のコントロールの方。ほとんど無駄なく、魔力をナイフのみに流せていたし、流れる量も完璧にコントロール出来ているように見えた。あれを真似するのは非常に困難。」


「ほぅ……。魔法特化の2番隊隊長様がそこまで言うのか。」


……目力さん隊長だったんだ。

自己紹介の時に言ってたっけ?

全然聞いてなかったわ。

なんというか……目力以外、『隊長』って感じの雰囲気がないね。

ナイフ構えたらヤンデレっぽい雰囲気は出てきそうだけど。

というか2番は魔法特化なんだ。

隊長さんは確か10番だったっけ?

なにか特化してるのかな?

全員武装バラバラだったような……?


目力隊長が1人、なんか難しい言葉で色々とさっきの魔法について話しているが、そんなに専門用語ばっかりだと何を言っているのか分からなくなるよね。

エルフちゃんが頑張って相槌を打っているが、頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいそうな表情だ。

隊長さんはお茶を飲みながら、再び未完成のナイフを眺めている。

いつもこんな感じなのかな?


とりあえず、今のうちにここを離れよう。

『他にも武器を作りたい』って言えば、引き止められることはなさそうだし……。




そんなわけで作業再開だ。

休憩前と同じようにナイフの刃を研いでいく。

だいぶ形になって来たし、そろそろ普通に素手で研いだ方がいいかな?

削ったり磨いたりは魔道具に砥石を付けてやるやり方でもいいけど、切れ味に関しては素手で丁寧にやった方が良さそうだし……。


濡らした砥石の上を、ナイフを砥石に擦らせながら滑らせるように奥へと押して、刃を磨く。

部分部分でドワーフのおっさん達の様なギラギラ感が出てきたような?

もっと全体的にギラギラ感が欲しいね。

(器用さ)の影響なのか、指先の感触が鋭くなっている感じで、ナイフを研いだ時に、どこがどんな感じで研がれているのか分かる気がする。


そういえば、レベルアップでSP余ってなかったかな?

249も余ってるじゃん。

(器用さ)を100上げて300にしちゃおう。

ついでに(超感覚)にも100振って200にしようかな?

最近魔法を使うことが増えたし、上げておいても問題はないだろう。


____________


Lv.39(100%)

・HP(体力):98/100

・MP(魔力)300/300

・STR(筋力):200

・MAG(超感覚):200

・SEN(器用さ):300

・COG(認識力):100

・INT(知力):100

・LUC(運):100

SP.49


スキル

・ステータス割り振り

・氷魔法(11/100)

・破魔魔法(21/100)

・火魔法(35/100)

・物理魔法(46/100)

・錬成魔法(38/100)


____________


という訳で、(器用さ)の上がったステータスで、さっそくナイフを研いでみる。

少し砥石にナイフを擦らせただけで、刃の状態を感覚的に理解できた。

左右のバランス悪っ!

裏面をもう少し研がないと駄目だな……。


その後、ドワーフのおっさんたちと変わらない程ギラギラになったナイフは無事完成した。

3時間かかったが……。

たぶん完成したと思われる燻製肉を試しに切ってみたところ、肉をすり抜けたかのように感じるほどの手応えだった。

切れ味ヤバ過ぎ~。


燻製肉は美味しかったが、鞘を作ることを完全に忘れていたので、少し……ほんの少しの時間、抜き身のままナイフを置いていたら、隊長さんとエルフちゃんに見つかった。

見つかってしまった。


エルフちゃん、よだれ出てない?

顔赤いけど大丈夫?

そんな刃物に興奮する性癖を持っているなんて、知りたくなかったよ……。


隊長さんも「いくらだ?」じゃないんだよ。

……いくらになるんだろうね?

このナイフに使ったアダマンチウムの合金1個で金貨15枚だったはず。

技術料とか手間賃みたいなものは知らない、というか自分では決めにくいので、原価率で考えればいいのかな?

原価率3割だとしたら販売価格は……金貨50枚くらい?

安くね?

やっぱり売るのなら値段に手間賃も上乗せしなきゃ!

……いや、普通に考えると金貨50枚って大金か。

金銭感覚バグってんな。


「このナイフにいくら出せます?武器として使えるか分かりませんけど。」


「そうだな……金貨100枚は普通に出せるぞ。アダマンチウム合金の武器というだけで高いからな。見た目も良いし、最低でもそのくらいになるだろう。」


エルフちゃんの目が一瞬で死んだ。

それにしても、研ぐ前はそうでもなかったのに、研いだだけでここまで評価が伸びるもんなの?

それとも(器用さ)を上げてから研いだからこそ、ここまで評価が伸びたのかな?


とりあえず、「このナイフは売らない」と隊長さんに伝えて、ナイフの鞘を作ることにする。

刃からグリップ部分まで一体型のナイフなので、木で作る鞘は合わない気がする。

という訳で革で鞘を作ることにする。

今後武器を作ると思って、ちゃんとドワーフの国で革は買っておいたのさ。

何の革かは知らんけど。


革を適当な大きさにして、形を整えていく。

革だろうと錬成魔法で簡単に加工できるから、作るのが楽だね。

縫わなくてもいいって非常に楽だわ。

強度がどうなるのかは知らんけど、ナイフをしまうだけの物だし、強度は気にしなくてもいいよね。

とりあえず、形は非常にシンプルなものが出来たので、ナイフを差して、少しづつ改良を加えていく。

5分もかからずに完成だ。


ナイフの刃が見えなくなったので少し落ち着いたぜ。

やっぱあのギラギラ感は人を魅了するヤバさがあるね。

ほら、隊長さんも少し冷静になったみたいだよ。

冷静になった結果、「剣を研いで欲しい」って言われたけど……。

そういうのは専門職の方に頼んでくださいね~。


ほぼ片刃の、長さ30センチ程度のナイフに3時間もかかったんだから、隊長さんの持つ、1メートル以上の両刃の剣とかやりたくないよね。


隊長さんは、明日から本格的にダンジョンに潜るということで、引き継ぎや残っていた仕事をきっちり終わらせてきたらしく、夕食の時間まで絡まれるのだった。




夕食後。

やって来たのはエルフちゃん。

武器作成の依頼に来たそうだ。

お帰りはあちらです。

お金は隊長さんが出すらしいので、作りたい武器を作って欲しいそうだ。


……武器種の指定もないの?

ちょっとマニアックな武器とか作りたくなるね。

大きな鎌とか。

鉄扇とか。


エルフちゃん的には軽い武器がいいそうだ。

ぶっちゃけ早く寝たいし、小さいものがいいかな。

槍の穂先とか?

どうせなら、槍より薙刀がいいな。

薙刀にしよう。


……という訳で、深夜。

思っていた以上に、研ぐのに時間がかかってしまった。

普通に寝るべき時間は過ぎていると思うけど、さっきのナイフよりもいい感じに作業が出来たなぁ。

やっぱり(器用さ)なんですわ。

ちょっと威圧感を感じるほどのギラギラな刃が完成してしまった。

適当な木を棒状に加工して、刃を装着した後、抜けない様に楔を打った。


柄に違和感が出るかと思ったけど、案外いい感じだな。

研ぎにもこだわったし、装飾にもこだわった。

柄だけ一切こだわらずに適当に作った。

……ほら、柄は木製だから、私が頑張らなくても、専門の方に任せた方がいいかなって思って……。

まぁ、見た目はいい感じだし、これでいいでしょ。

柄に塗装すれば、上品な感じの武器になりそうなんだけど、流石に少し眠い。

ずっと見ていたエルフちゃんに薙刀を渡して、寝ることにした。

そういえば、薙刀って軽い武器かな?

まぁ、涎を垂らして悦んでるし、問題はないと思うけど……。


起きたらダンジョン攻略か……嫌だなぁ……。

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