第84話 自己紹介って正直相手に興味がないと聞いてない

エルフたちのテント近くに行ったら、タイミングよくサーシャさんを見つけたので声をかけ、隊長さんに来るように言われたことを話し、案内してもらった。

いつの間にか以前よりもさらに広く整地されていて、テントが沢山並んでいたので、案内が無ければ絶望して実家に帰るところだったね。

帰り方知らんけど。


サーシャさんの後ろをついていくと、ひときわ大きい、『ここに指揮官がいますよ~!』って感じのテントに案内された。

特に躊躇せずに入っていったサーシャさんに続いて、テントの中に入る。

テントの中には大きなテーブルが置いてあり、テーブルの上にはいくつかの書類が置いてあった。

隊長さんはいないようだが、何というか、立場も実力もありそうなエルフが3人いた。

この3人と隊長さんの4人で地下6階に行くのかな?


さーシャさんがお茶を入れてくれたので、椅子に座ってのんびりと待っていると、隊長さんが入って来た。


「全員揃っているな。とりあえず明日、この6人で地下6階を目指す。自己紹介は必要か?」


6人?

サーシャさんを入れてもエルフさんは5人しか見えないけど……まさかNINJYA!?

いや、もしかしたら誰かが合体していて1人に見えるだけで、分裂して2人になる可能性も……。


「その人間も一緒に行くのか?」


ゴツイおっさんエルフAが非常に不満そうに質問している。

やっぱり私も数に入っているようだ。

仲良くできる気がしないね。

何百年生きてるのか知らないけど、年長者ならそれらしい立ち振る舞いをして欲しいな~。


「何か問題があるのか?」


隊長さんはプレッシャーが半端ないね。

有無を言わせぬ圧力を感じるよ。

おっさんが何も言えなくなってるじゃん。

これが500歳の圧力か。

怖いわぁ~。

ここは大人しくついていくことにしよう。


今回呼ばれたのは顔合わせがメインのようで、軽く自己紹介をして、「明日に備えて準備をしておくように」との隊長さんの言葉で解散した。

あとは、私がインベントリを持っていることを知っている隊長さんに、「食料や水などの荷物を、メンバー全員に余裕をもって賄える量、入れておいて欲しい」とお願いされたくらいだ。

そんなわけで暇そうなサーシャさんについて来てもらい、大量の食料と沢山の樽に入った水をエルフの補給所っぽいところで受け取った後は、自由行動となった。


やっぱり今日はダンジョンに入る気にならないし、ワイバーンと鹿のお肉を燻製にでもしようかな?

それとも武器を増やしておこうかな?

アダマンチウム製のナイフとか作ってみたいし。

……とりあえず、燻製肉作るか。

美味しい食事はモチベーションを保つのに一番大事だと思うし。




そんなわけで燻製肉を作るための準備を整えた。

スモークチップなどないので、煙を出すための木材は適当だが、煙を逃がさないための箱は、錬成魔法でしっかりと作った。

底の火を置くところにだけ鉄板も敷き、以前作った燻製器と比べて、見た目はだいぶマシに見える。


適当な大きさに切ったワイバーンと鹿のお肉をセットして、火を点けた後は待つだけだ。

煙もしっかりと出ているが、燻製機の変なところから漏れたりもしていないので、今回も大丈夫そうだ。


まぁ、錬成魔法で作ったから、漏れることはほとんどないだろうけどね。


待っている間暇なので、アダマンチウム合金を使ったナイフを作ることにした。

今持っているナイフは普通の鉄製っぽいからね。

ドラゴン相手に使うと、普通に刃毀れする。

腕も悪いのかもしれないが、ドラゴンの鱗は本気で硬いのだ。

ここに連れてきたドラゴンさんの鱗でも貰って、ナイフにでも加工したら、相当なものが出来るんじゃないかな?

まぁ、鱗だからナイフよりも防具の方が向いているのかもしれないけど。


とりあえず今はアダマンチウム合金製のナイフだ。

いつも通り錬成魔法で形を変えるのだが、前も少し感じたがアダマンチウムの加工は鉄と比べると、魔力を少し多く消費する感じなんだよなぁ。

鉄と木はそこまで違いを感じなかったけど、何か理由があるのかな?

ゲームなら素材のレアリティとかありそうだけど、木と鉄が変わらない時点で、素材の硬さとかは関係なさそうだし……。


そんなことを考えながら手を動かし、とりあえずナイフの形は出来てきた。

大きさも形も、今使っているナイフを参考にほとんど変えていないが、持つところは自分の手に合わせて改良し、刃の部分も少し厚みを増して頑丈にしている。

全然使わないので、のこぎりのような部分は削除し、血溝も掘った。

後は焼入れと焼戻しをして、磨いたり研いだりすれば完成かな?


……さて、さっきから見覚えのある女性のエルフにめっちゃ見られているけど、何か用かな?

明日一緒にダンジョンへ入るメンバーの一人だと思うけど、名前は何だったかな?

自己紹介とか普通に聞いてなかったんだよね。

一応、愛想よく対応するか。


「何か用ですか?」


「錬成魔法を使っているのが見えたから気になって見ていた。」


このエルフさん、目が怖いんだよなぁ。

「虚無を見ている」と言われても信じちゃいそうな程、常に目を見開いている感じで……。

武器はナイフを差しているだけだけど、雰囲気的になんとなく魔法使いっぽい感じかな?

エルフちゃんもそうだけど、こっちの魔法使いって特に杖を使ったりしてないよね。

杖で魔法の威力が変わったりしないからかな?


「見ているのは構わないのですけど、今からやる作業は少し危ないので、もう少し離れて貰えますか?」


「了解した。」


とりあえず離れて貰えたので、石の上に置いて火魔法での焼入れを始める。

ナイフの色がどんどん赤くなり、オレンジ色になったところで以前と同じように氷魔法で一気に冷やす。

……全体的に少し右に曲がっちゃってるね。

まぁ、問題なく修正できるからいいや。


焼戻しもした後に錬成魔法で曲がりを直し、砥石で削る作業に入るのだが、ここで新兵器登場だ!

ドワーフの国の魔道具屋で手に入れた、『モーターのような何か』だ。

魔力を流すと内部が回転し、内部から生えている棒が回転する魔道具だ。

完全にモーターにしか見えないね。

いくつか数を買ったから、暇なときに1つ分解して勉強するんだい!


とりあえず、棒に砥石を錬成魔法で加工して作った円盤を装着して、モーターを回してみる。

意外と速く回るんだよね。

左手にモーター、右手にナイフを持って削ってみるが、少しナイフが安定しないので、上手く砥げない。

モーターを足で支えた状態でもいけるかな?

足から魔力を流せばいけるようだ。


砥石の種類や形を変えながら、黙々とナイフを磨き上げるのだった。




2時間程経っただろうか?

少しお尻が痛くなってきた。

ナイフの刃の部分はもう少し研ぎ上げたいが、少し集中力が落ちてきたのでいったん休憩だ。

鉄の斧と比べるとアダマンチウム合金はやっぱり硬いのか、研ぐのにも時間がかかりそうだ。


(そういえばあのエルフさんはもう行ったのかな?)と振り返ると、いつの間にかエルフちゃんも一緒に見ていたようだ。

目つきは少し怖いが見た目は綺麗なエルフさんと、可愛いエルフちゃんが一緒に体育座りで並んでいる光景には少し驚いた。


「完成ですか?」


エルフちゃんが話しかけてきた。

エルフちゃんって武器が好きなのかな?

ドワーフのおっさんの店でも結構真剣に武器を見てたし。

暇なときは頻繁に武器の手入れをしているイメージだ。


「もう少し刃を磨き上げたいけど、流石に集中力が切れてきたから休憩です。」


「それってアダマンチウム製のナイフですよね?」


「いえ、純粋なアダマンチウムではなく、アダマンチウム合金ですよ。」


エルフちゃんがめちゃくちゃ物欲しそうな目で見ている。

アダマンチウムはクッソ高いからね。

アダマンチウム合金だとしても、やはり憧れるものなのだろう。

あげないけど。


とりあえずエルフちゃんの視線は無視して、燻製肉の様子を見る。

……やっぱりまだ早いな。

まぁ肉の塊だし、2時間程度じゃ駄目だろう。

つまみ食い用に薄切りの肉も入れておくんだったな……。


「錬成魔法と熱魔法が使えるの?」


今度は目つきの怖いエルフさんが聞いてきた。

熱魔法っていうのがあるんだね。

熱か……めっちゃ便利そうだな。

そのスキル1つで鍛冶がめっちゃ楽になるじゃん。

熱魔法には『攻撃には転用できない』みたいな縛りがあったりするのかな?

じゃないと熱魔法で血液を温めるだけで、ほとんどの生き物を殺せることになりそうだし……。

怖いわぁ~。


「熱魔法は使えませんね。錬成魔法と火魔法と氷魔法が使えます。」


破魔魔法はどうしたって?

魔法使い相手に「破魔魔法が使えます」って言わない方が良くない?

いざ魔法使いと敵対しちゃったときに、初見殺ししやすい魔法だよ?

魔法使いっぽい相手に教えるわけないじゃん?


物理魔法もあまり広めたくないね。

隊長さんとエルフちゃんは知ってるけど、物理魔法も初見殺ししやすい魔法だからね。

見えない武器って、間合いが分からないから怖いし、武器を持ってないからと油断を誘いやすいからね。

自分から教えるわけないよね。


エルフさんの目力が強くなったんだけど、そろそろ昼飯に行ってもいいかな?

ペペロンチーノが食べたい気分なんだよ。

麺は以前多めに作ったものが残ってるし、唐辛子やニンニクのような物、ドワーフの国で少し高いけど売っていた植物性油まで揃ってるんだよ。

これはもうペペロンチーノを食べるしかないよね?


隊長さんが声をかけてくるまで、まさに『蛇に睨まれた蛙』のように動けないのだった。

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