第83話 上限突破素材が欲しいね

地下6階。

以前来た時と変わらず、目の前には広大な山々が広がっている。

先程倒したやつより少し小さめのドラゴンも、以前と変わらず相当な数が生息しているようだ。


とりあえず、あの小さめのドラゴンがどのくらい強いのか戦って確かめてみたいが、さっき少し刃が曲がってしまった斧の修理を先にするべきだろう。

ついでに少しハンマーの部分も改良だ。

最初、スレッジハンマーをイメージして形作ったので、叩く場所は面なのだが、中心に少しだけ突起を付けてみようと思う。

以前、大雨で車の浸水被害が多発したニュースで、車の窓を割るのは、平面の物では難しく、先の尖ったものの方がいいと聞いたからだ。

先程ドラゴンを殴った際、鱗は全然割れていなかったのを見て、ニュースで聞いた内容を思い出した。

実際に鱗が割れるかは分からないが、試す価値はあるだろう。


10分ほどで斧の刃の修理と、ハンマーの改良が終わった。

刃は砥石を使って自分で研いでみたが、ドワーフのおっさんと比べると、やはりギラギラした感じが足りない気がする。

たぶん(器用さ)のステータスは私の方が高いと思うのだけれども、これだけ違いがあるということは経験の差が相当あるのだろう。

経験を積んでいけば、あのレベルの研ぎが出来るようになるのかな?

……あそこまでは出来なくてもいいか。

結構魅せられそうだったし。

あのレベルのギラギラ感だと、何でもいいから試し切りしたくなっちゃうね。

日本刀を持ったら人間で試し切りしたくなるのと一緒。

そんな人がいるのかは知らんし、日本刀とか持ったことはないけれど、博物館かどこかで展示されている日本刀を見て、(一度これで斬ってみたいな~)と思った経験があるので間違いない。

ヤバイ武器には人を引き付けて魅了する何かがあるのだ。

そんなものを生み出せるようになると、理性を抑えられる自信がないね。


……さて、ドラゴンをぶっ殺しに行こう。

今の私は血に飢えておるわ。

グッヒャッヒャッヒャッヒャ!




湧きあがる衝動を抑えながら、周囲を見渡した時に見えたドラゴンの中で、一番近いところにいたドラゴンへと近づいている。

恐らくまだ気づかれてはいない。

先制攻撃のチャンスだね。


……それにしても、遠くから見ても小さいと思ってたけど、近くで見ても小さいな。

ドラゴンの子供か?

でもこんだけ数がいるんだから、もしかしたら小さい種類のドラゴンなのかもしれないし……。

まぁ、気にしても仕方ないか。

大事なのはどれくらい強いのかだ。


多少重いハンマーを持っていても、一気に奇襲できそうな位置まで近づけた。

さて、どこを攻撃しようか……。

やはり首だな。

小さいドラゴンと言っても、斧を上から振り下ろすには、少し位置が高い。

全力で木を蹴って三角飛びすればいけるか?

……木が折れなければたぶんいけるな。

突貫じゃー!


体は完全にイメージ通りに動いた。

重く大きいハンマーを手に持っているにも拘わらず、普段と変わらないような歩幅で走り、勢いを一切殺すことなく木へと飛び掛かり、木を足の裏で蹴ることで高く飛んだ。

ドラゴンの首は目の前だ。

全力で斧を振り下ろした。


「……綺麗に切れたな。」


小さいドラゴンの首は飛んだ。

まぁ、すぐに魔石だけを残して消えてしまったが……。

骨ごと切ったと思うのだが、斧を見ても刃がつぶれていたり、刃毀れしたりも無いようだ。

小さいやつは弱いのかな?


そしてすぐに違和感に気づいた。

周囲のドラゴンがこっちを見ている。

時々聞こえていた様々な鳴き声も完全に消え、周囲一帯に静寂が宿り、周りのドラゴンからは、同族を殺された恨みが伝わってくるかのようだ。

そんなに見られると恥ずかしいわぁ~。


ドラゴンの魔石をハンマーで叩き割り、『殺られる前に殺る。』の精神で次々とドラゴンへ襲い掛かるのだった。




「やっと収まったか……。」


どれくらい戦っていたのだろうか?

ここのドラゴンは近くにいるドラゴンを倒すと必ずタゲを取ってしまうので、非常に厄介だった。

強さ的には正直強くないのだが、やはり小さくともドラゴンなので、攻撃を上手く当てないと一撃では倒せない場合がほとんどだった。

1匹倒して、次も1匹だけ襲ってくるのなら、経験値稼ぎに最高の場所と言えるのだが、1匹倒して10匹以上に襲われたときは非常に大変だった。


まぁ、おかげさまでレベルも39(100%)だ。

Lv.19(100%)からLv.20になった時と、同じ感じなのかな?

あの時はいつの間にかレベルが上がっていたけど、ダンジョンコアみたいな魔石を壊してレベルが上がったはずだ。


ダンジョンの魔石は、ソシャゲの上限突破アイテムみたいなものなのかな?

キャラはガチャで入手のみだけど、上限突破素材は普通に入手できればいいよね。

キャラも上限突破素材も好感度素材も全てガチャからしか出現しないゲームとか、どれだけ内容が面白くても廃課金者じゃないと続かないわ。


昔やっていたゲームを思い出しながらも、のんびりと階段を探して歩き回っていた。


流石に山登りをするのは嫌なので、山の麓を歩き回っているのだが、周囲を1周して戻って来てしまったみたいだ。

この地下6階の壁は植物の蔓で出来たお洒落なものだったのだが、木に登って壁の向こうを見てみたのだが、何もなかった。

石を投げてみたのだが、たぶん地面がない感じなので、蔓の壁の向こうに階段があるとは思えない。


となると、次の階への階段は山の上にあるのだろう。

山登りかぁ……。

サンドイッチとおにぎり、どっちを持って行こうかな~?


とりあえず帰ることにした。

だって、山の上の方には、まだまだ沢山のドラゴンが見えるんだもの……。

俺は帰るぞぉ~!




外に出ると既に深夜のようだ。

今から夕食を作って食べるとなると、流石に寝るのが遅くなりすぎて明日に響くだろう。

軽く干し肉をムシャムシャしてから眠ることにした。


翌日、うるさくて目が覚めた。

時間としては昼間のようだ。

周りを見てみると、エルフの数が増えている。

追加部隊でも来たのかな?


ぶっちゃけエルフ達に興味はないけれど、パッと見た感じミニドラゴン相手に善戦できるほどの実力者はほとんどいないように感じる。

ただ、魔法使いっぽいエルフや、ほとんど全員が弓矢を装備しているので、地下3階のスライム相手には問題なく戦えそうだ。

昨日殲滅したと思うけど、また湧いてくるかもしれないからね。

ダンジョン攻略を進めるためにも、浅い階層は出来るだけ丸投げしたい。


昨日の夕食はやはり足りなかったようでお腹が空いたので、ちょっと遅めの朝食の準備をしていると、隊長さんがやって来た。


「起きたか。昨日は遅くまで帰ってこなかったが、どこまで行ったんだ?」


「地下6階の探索で遅くなりました。山の麓は全て探したと思うんですけど、どこにも地下7階への階段が見つからなかったんですよね。」


「……山があるのか?」


あれ?

言ってなかったっけ?

小さいドラゴンが沢山いるって言った記憶はあるんだけど……。

まぁ、別に問題ないだろう。

地下4階までしか行ってないみたいだし。

……隊長さん1人でも地下5階までは余裕でいけそうなんだけど、なんで行かないのかな?


「まぁいい。この後、ちょっと時間あるか?」


「朝飯食べたら昼飯も食べないといけないのでちょっと……。」


「食べ終わったら来てくれ、地下6階に行くメンバーを紹介する。」


……地下6階に行くんだ。

でもなんで紹介するのかな?

私も一緒に行くわけじゃないよね?

私、集団行動とか苦手だよ!


隊長さんは行ってしまった。

なんか忙しそうだ。

やっぱ責任ある立場の人は大変だね。


とりあえずゆっくりと朝食を食べることにする。

朝食は焼き立てのパンとハムエッグだ。

パンはもちろんインベントリに焼き立てを入れてただけで、ここで今焼いたわけじゃないよ。

インベントリはマジで便利だわ。

……そういえば、鹿肉とワイバーンの肉の存在を忘れてたな。

流石に傷んでないと思うけど、今日ダンジョンに行くのはお休みして、燻製肉でも久しぶりに作ろうかな?


ゆっくりと食事を終え、仕方なく隊長さんを探して、エルフたちのテントへと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る