第81話 街の観光がしたいんじゃ~

インゴットにするのは非常に簡単だった。

砂や粘土で出来た型枠を用意して、不純物を取り除き、型にドロドロの鉄を流し込む。

後は冷えるのを待つだけなのだが、気になったので今度は氷魔法で冷やしてみた。

あまり魔力が残っていないので慎重に冷やしたのが良かったのか、何の問題もなく、ドロドロの鉄は冷えて固まった。


でも、イメージしてた鉄のインゴットと比べると、少し汚いね。

もっとこう、ツルツルピカピカのイメージだったよ。

表面を削って磨けば、綺麗に光沢が出るのかな?

それとも純度が足りない?

全く知識が無いから分かんないや。


とりあえず、熱処理を学んで、火魔法と氷魔法で簡単に熱処理出来ることも分かった。

形は錬成魔法で整えられるから、あとは刃物を作る際の研ぎ方を学べば、自由に武器を作れるようになると思う。


そんなわけで刃物の研ぎ方を教えて貰おうと思い、魔法を使った鍛冶について真剣に考えていたおっさんに声をかけたところ、錆びまくっているうえに折れている剣と、いくつかの砥石を渡された。

これで練習しろということだろう。


エルフちゃんに、置いてあった桶に魔法で水を入れて貰い、刃の部分を水で濡らしながら剣を研いでみる。

けっこう面倒臭い。

回転砥石とかグラインダーはないかな?

そんなもので剣を研いでもいいのか知らんけど、手作業で刃物を研ぐのは非常に大変だった。


一応、(器用さ)の影響なのか、砥ぎ自体は問題なく出来ていると思うのだが、流石に時間が掛かり過ぎるね。

刃物はまた今度にしよう。


今思い出したが、今日は武器を手に入れるためにここに来たのだ。

ハンマーでも作るかな?

ドラゴン相手に戦えるハンマー……。

なかなかイメージが湧かないな。

とりあえず、普通の形だけど結構大きめのハンマーを作ってみよう。




という訳で完成したのが、こちらのハンマーになります。

普通の鉄のインゴット12個をヘッド部分に使い、なかなかの大きと重さになりました。

片面はハンマー、もう片面は斧の形状になっており、見た目からして強そうな仕上がりとなっております。


柄の部分はアダマンチウム合金のインゴットを5個使用しており、結構な重さと太さになっておりますが、おかげで重いヘッド部分を曲がることなく支えることができ、これなら問題なく武器として扱うことが出来るでしょう。


……たぶん、重すぎて私しか振り回せないと思うわ。

途中から見てたおっさんが、「それ、振り回せるのか?」と心配そうに聞いてくるレベルで重いからね。


作りとしては、ヘッドに柄を差し込んで、楔のような何かを埋め込む方式にしている。

もちろん、クッソ固いアダマンチウム合金に楔を打つことなど普通は出来ないが、錬成魔法ならゴリ押しできる。


とりあえず武器としての形は出来たから、次は斧の刃の部分に焼入れかな?


焼入れをすると刃が曲がったり、冷やすときに割れたりするらしいのだが、私の場合錬成魔法で後からいくらでも加工が出来るので、硬さにだけ注意すればいいと思う。

おっさんに確認したら凄く変な顔されたけど……。

まぁ、否定されなかったので問題はないのだろう。


おっさんに見られながら、鉄を溶かした時のように、斧の刃の部分だけを火魔法でどんどん加熱していく。

鉄の色が赤を通り越してオレンジになって来たところで、おっさんの合図があり、火魔法から氷魔法に切り替えて一気に冷やした。


……大丈夫かな?

おっさんも真剣な表情で見ている。


刃の部分は黒く変色しており、少し歪んでいたが、割れたりはしていないようだ。

これで硬くなってるのかな?


恐る恐る触ってみたが、問題なく冷えているようなので、今度は焼戻しだ。

さっきの感じで魔力を流し、少しずつ加熱していくのだが、すぐにストップが入った。

焼戻しの温度って結構低いのかな?


とりあえず、焼戻しはゆっくりと冷やす方がいいらしいので、しばらく放置だ。

さすがに魔力が残り少ないので、少し休むことにしよう。

こんなに魔法を使ったのは初めてなんじゃないかな?

後は形を整えた後に全体を磨いて、刃を研いで、柄を取り付けるだけだ。


(明日までにハンマーを完成させて……。そういえば、完成させたら戻らないといけないんだよなぁ……。働きたくないな~。)


そんなことを考えていると、エルフちゃんが話しかけてきた。


「武器はもう少しで完成しそうですね。明日までに完成させて、明後日には出発できそうですか?」


「……一応、そうだね。」


「では、明日は食料などの買出しに行ってきますね。なにか必要な物はありますか?」


……これは「さっさと完成させろ」という圧かな?

それとも「忙しそうだから代わりに買い物に行ってあげよう」という優しさかな?


とりあえず、必須のものは追加の食料以外特にないので断っておいた。


私も普通に街を観光したいね。

話に出てきた『フランケンシュタイン』さんの作った魔道具とか気になるじゃん?

まだ金貨は310枚残ってるから、魔道具が多少高いとしても、いくつかは買えるだろう。

特に欲しい魔道具があるわけではないけれど、品揃えくらいは確認しておきたい。


ボケ~っと考えながら休憩すること1時間くらい、そろそろ冷えたんじゃないのかな?

魔力はまぁ、錬成魔法を使えるくらいには回復した。

魔力って、寝なくても休んでさえいれば回復が早いのよね。


おっさんはず~っと斧の焼入れした部分を眺めていたけど、そんなに興味を引かれるものがあるのかな?

魔法で形を整えて、魔法で焼入れと急速冷却して、魔法で焼戻しをしただけなのに……。

そりゃ興味を引かれるか。


「もう冷えてますか?」


「ん?あぁ、もう冷えてると思うぞ。少し表面に割れがあるが、初めてとは思えない仕上がりだな。」


割れ?

……どこだ?

パッと見全然分からないな。

『割れ』って言うから、刃の部分がパッキリ割れるのかと思ってたけど、違うんだね。

というか、表面黒いのによく見つけられるな。

その辺は『流石本職』って感じだ。


とりあえず割れは気にしないことにして、黒くなっている部分を磨いて綺麗にしていく。

ある程度綺麗になった頃には、陽も沈みかけていた。


割れはたぶん、この線みたいなやつかな?

刃の歪みや割れの辺りを錬成魔法で綺麗に修整して、今日はここまでにしよう。


おっさんが『しばらく眺めたい』と言うので、ヘッド部分は置いたままエルフちゃんと店を出た。

エルフちゃんは普通に帰ってもよかったのに、なんで残ってたのかな?


特に何も話さずに宿へと戻り、一応サーシャさんに武器の進捗状況を話ながら食事をとった後は、すぐに眠ってしまった。


翌朝、今日も朝から店に行くと、おっさんを含めた数人の酔っぱらいが鍛冶小屋の地面に転がっていた。

なぜか置いていったヘッド部分は、ピカピカのギラギラになっていた。

犯人はこの中にいる!


という訳で、なんとなく氷魔法で小屋の室温を下げながら、ヘッド部分に柄を差し込んだ。

錬成魔法で柄を少し柔らかくして、適当に楔を打ち込んでいると、さすがに寒かったようでおっさん達が起きた。


「おう。……すまん。全体を磨いて、斧の刃を研いだ。」


「こちらとしてはありがたいですけど、どうしたんです?」


昨日までは、あんまり私の武器作りに乗り気じゃなかったように感じたんだけど……。

いろいろと鍛冶について教えてはくれたけど、「錬成魔法でゴリ押しするような邪道のやり方は受け入れられない!」って感じで、少し距離を取られてる様に感じてたから、まさか勝手に作業を進めるとは思わなかったよね。


換気をしながら話を聞いてみると、地面に一緒になって転がっていたのは『組合』という、いろいろな分野のドワーフ達のつなぎ役をする組織の、鍛冶分野でのお偉いさんらしい。


やはり火魔法を使った鉄の溶解や焼入れは、ドワーフにとってなかなかの衝撃だったらしく、呼びつけて一緒に酒を飲みながらいろいろと話しているうちに、テンションが上がってやってしまったらしい。

というかほとんど酒の勢いでやったんだね。

それだけはよく分かった。


別に怒ってないし、めちゃくちゃいい出来だから特に文句もないけれど、もう少し自重した方がいいと思うよ?

マジで全体的にピッカピカだし、斧も切れ味ヤバそうなんだけど……。


とりあえず完成したので試してみることにする。

的は昨日と同じ案山子のような奴だ。

流石に防具はつけていない。


まずは斧の切れ味を試してみよう。

(刃毀れしませんようにヘッドが吹っ飛びませんように)と祈りながら、上から思い切り的へと振り下ろした結果、的は縦に真っ二つとなった。


(……ヤバ過ぎるってこれ。)


斧を見てみるが刃毀れもない。

切れ味抜群だね!


これ本当にドラゴン以外なら斧で真っ二つに出来るんじゃないの?

ドラゴンでも、部位によっては斬れる気がするよ?

無駄に重くしたから対ドラゴン用ハンマーとしても十分使えそうだし、相当良い出来な気がする。


「凄い武器が出来たもんだな。」


仕上げを全部やったくせに、他人事のようにおっさんが話しかけてきた。

向こうでは組合のおっさんたちが何やら盛り上がっている。

ドワーフから見ても、満足のいく物が出来たのかな?


「そうですね。これなら、小さめのドラゴン程度なら問題なく倒せそうです。お世話になりました。」


「いや……。こっちこそ、進化したメタルイーターを討伐してもらったり、火魔法を使った加工を教えて貰ったりと世話になった。ドラゴンからの依頼が終わった後に、また街へ観光に来るといい。歓迎しよう。」


今すぐにでも街から出発するかのような雰囲気でおっさんと握手をして別れた。

出発するのは明日なので、今から観光するつもりだけどね。

もしや1日では観光しきれない程見所があるのかな?


出来立ての武器をインベントリへとしまって、街の中心を目指して歩くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る