第80話 鍛冶って知識と経験がないと無理だよね。

エルフちゃんのことは後回しにして、おっさんに武器が出来たことを伝え、試してみたいと言うと、「見せてみろ」と言われて十字架を取られた。

個人的にはなかなかいい出来だと思うけど、本職から見たらどうなのかな?

やっぱり強度不足かな?

ただの杭とは違って、十字架にしちゃったし。

十字架にすると刺して踏みやすいと思ったんだけど、どうかな?


「錬成魔法っていうのはすげぇな。」


お?

これは高評価かな?


「鋳造でもないのに、こんなに綺麗に形を変えられるんだな。普通のやつなら、これでも十分武器として通用するだろう。」


……それは私が普通じゃないって意味なのかな?

それともドラゴンみたいな強い相手には効かないって意味かな?

どっちにしても及第点は貰えている感じだ。

上手いもんでしょ?

(器用さ)が高いから、結構思い通りの形に成形できるんですよね~。


刃物ならここから研ぎの作業があるんだろけど、そっちは本職の方に教えて貰いたいな~。

チラチラ。


おっさんは十字架を置いて、どこかに行ってしまった。

すぐに戻って来たけど。

持っているのは……案山子かな?


「これを地面に刺しておいてくれ。」


そう言って案山子のような何かを渡された。

これを的にして武器を試すのかな?

流石に家や作業小屋から近いのは不味いだろうと思い、先程エルフちゃんと軽く手合わせしたところにぶっ刺して立てた。

すぐにおっさんが防具のような物を持ってきて、案山子に装着させている。


少し気になったのか、放心状態だったドワーフの3人も見に来たようだ。

エルフちゃんも来た。

エルフちゃんは鍛冶小屋に忘れていた十字架を持って来てくれたみたいだ。

気が利くね~。


……ギャラリーがいるけど、これで武器が使い物にならなかったら恥ずかしくてダンジョンに逃げ込みたくなっちゃうね。

おっさんの準備も出来たようで、こっちを見ている。

案山子には立派なヘルメットとプロテクターが装備されていた。

マスクがあれば野球のキャッチャーも出来そうな見た目の防具だ。


とりあえず、まずはお試しだ。

初めての作品なので少し緊張するが、十字架の杭の部分を刺すように構えて突進した。


杭は防具を突き抜け、案山子のど真ん中を貫通したようだ。

これは……結構いいんじゃない?

引っこ抜いて、今度は下の方を持って、上からヘルメットを殴りつけてみる。

ヘルメットに十字架の角が思いっきりめり込んでしまった。

人間なら死んでるだろうね。

ドラゴン相手には、もう少し重さが必要かな?

鉄を買い足してもう二回りくらい、大きくしようかな?

少し持ちにくくなるけど、いける気がする。


「凄い出来だな。もう一回り大きくしても良さそうだ。」


おっさんもこう言ってる。

一回りだけか、二回りになるとデメリットが生まれるのかな?

……移動するときに邪魔とか?

あ、太くなりすぎると片手で持てなくなるか。

まぁ、自分で作って自分で使うんだし、その辺は適当でも問題ないだろう。


「とりあえず問題ないと思いますけど、精製した鉄は売って貰えます?」


「おう。精製しただけの鉄がいいのか?それとも鉄とアダマンチウムの合金にするか?一応アダマンチウム単体でも少しは売れるが、ナイフ1本分にもならない量だぞ。」


アダマンチウムってそんなにいい素材なのかな?


「アダマンチウムで作った武器とか、見せてもらうことって出来ますかね?」


「うちの店には今置いてないな。アダマンチウムのインゴットならあるぞ。」


そんなわけで、精製した鉄、精製した鉄とアダマンチウムを混ぜて作った合金、アダマンチウム単体それぞれのインゴットを見せてもらった。

精製した鉄は、正直もう少し鉄の純度を上げて欲しい気がする。

鉄とアダマンチウムの合金は、確かにただの鉄と比べると硬くて重い気がした。

アダマンチウム単体のインゴットは……ちょっと小さすぎて話にならないですね。


「金貨600枚でどのくらいの量が買えます?」


「鉄ならこのインゴットが200個。合金は40個。アダマンチウムはこれ1個だな。」


アダマンチウムの価格ヤベェな。

とりあえず金貨600枚分、鉄100個と合金20個買っておくか?

……いや、鉄100個は多すぎるな。


鉄20個と合金20個を買うことにした。

金貨360枚。

お高いねぇ。


そういえば、十字架にした元ハンマーはいくらだろう?

買い取るべきなのかな?

こんな使いにくい武器は誰もいらないだろうし。


「これってどうします?溶かして素材にしますか?それとも買い取った方がいいですか?」


「ん?いらないのか?てっきり、武器として使うのかと思っていたが……。」


「……一応商品じゃなかったんですか?」


「まぁ、ここ数年問題になっていたメタルイーターを討伐してくれたんだ。そのくらいはサービスするさ。」


それなら貰っておこうかな。


「ただ、錬成魔法で柄と頭、違う硬さの鉄が混ざっているから、さっき買った鉄と混ぜるのは少しもったいない気がするな。」


……そういうことは早めに言って欲しい。

『鉄は熱処理で硬さや粘りが変わる』と聞いたことはあるけど、混ぜたらどうなるんだろうね?

以前、木材と金属では混ざらなかったけど、硬さは違っても全て鉄だったからか、普通に混ざっちゃってるよ。


さっき使った感じだと問題はなさそうだけど、どうせ作るならいい物を作りたいよね。

鉄の熱処理か……。

教えて貰えないかな~?

チラチラ。


「……少しくらいは教えてやる。」


やったぜ!




ということで、おっさんから鍛冶を学ぶことになったのだが、私の場合、鉄さえあれば好きに形を変えられるので、熱処理の仕方を教えて貰った。

激熱の鉄を水に突っ込んだら、硬いけど脆い鉄になるらしいので、その場合は少し低い温度で焼戻しをしないといけないらしい。

そういえば刀を作るときに、打ったやつを水にジュワーってしてたね。

逆に軟らかめの鉄にするには、ゆっくりと鉄を冷やすそうだ。

昔、同じことをテレビで聞いたことあるようなないような?

とりあえずちゃんとメモをしておいた。


「鉄の純度を上げるにはどうすればいいですか?」


「一度完全に鉄を溶かして不純物を分けないといけないから、個人でやるのはやめておいた方がいい。それに錬金術で生み出された純鉄を扱ったことがあるが、普通の鉄より柔らかくて、武器として扱うには微妙だったぞ?」


そうなのか……。

純度が高い方が強そうだけど。


というか錬金術って純度100%の鉄も作り出せるのか。

いつかの柿の種とかシャインマスカットのイメージしかなかったけど、ちゃんと錬金術っぽいことも出来るんだね。


とりあえず、うろ覚えの知識じゃ駄目っぽいし、鍛冶に関しては専門家の意見を聞きつつ、暇な時にでもいろいろと試してみよう。


さて、ここで1つ思いついてしまったことがあるので実験してみよう。

鉄を溶かしたときに使う容器を借りて、買ったばかりの鉄のインゴットを1つ入れる。

鉄のインゴットに魔力を流し、火魔法で温度を上げることが出来ないかの実験だ。

(氷魔法で物体を冷やせるなら、火魔法で温度を上げることも出来るはずだ)と考えたのだ。

出来たらめちゃくちゃ便利なので、これは実験するしかないだろう。

……あ、出来そう。


鉄のインゴットに流し込んだ魔力を火魔法で熱へと変換し続けた結果、鉄はすぐに真っ赤になり、すぐにドロドロと溶け始めて、最終的には完全に液状になってしまった。

実験は大成功のようだ。


……これって結構やばくない?


確かに魔力は結構持っていかれた。

火魔法と氷魔法はコスパが悪いことも関係あると思うのだが、とにかく全力で魔力を流し込み続けたからね。

正直、不純物と鉄を分けるだけなら、ここまで魔力を込める必要はなかった気がする。


だけど、鉄がドロドロに溶けるって結構凄いことだよ?

これなら鉄を溶かすのに、燃料も溶鉱炉も必要ないね。

おっさんもドワーフの3人もガチで驚き過ぎて、なんか空気が重いよ?

エルフちゃんのぽか~んとしたアホ面を見習ってほしいね。


「……今のはどうやったんだ?」


再起動したおっさんが聞いてきた。

ここは吹っ掛けるべきか……?

ドワーフなら火魔法とか使えてもおかしくないし、結構有益な情報だと思うし……。

アダマンチウムでもおねだりしてみる?

……やめておくか。


「火魔法を使っただけですよ。相当魔力を使うのでお勧めはしませんけど。」


「火魔法か?でも、炎は出てなかったぞ?」


「物体に魔力を流して、その魔力に火魔法を使うと、燃やすことももちろん出来ますけど、ただ熱くすることも出来るんですよ。」


「そうなのか……。」


でもたぶん、(超感覚)のステータスとか、火魔法のスキルレベルが関わってる気がするんだよね。

火魔法のスキルレベルは私より高いドワーフの人がいてもおかしくないけど、その人がもし同じことが出来なかった場合、(超感覚)のステータスが重要になってくるね。


あ、後魔力量か。

167/200だったMPが、火魔法で48/200まで減ったからね。

私の場合、無駄が多かったとしても、(魔力)が100以上ないと難しいかも?


……さて、ドロドロに溶けた鉄はどうすればいいのかな?

ほらほら、溶かした鉄をどうやってインゴットに戻すのか、教えてくれてもいいんだよ?


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