第79話 エルフちゃんはアイドルではなくマスコット

なんでついてきたのかと思えば、まさか私と戦いたいと思っているとは……。

「お手合わせ願います」って、戦いたいって意味で合ってるよね?

とりあえずエルフちゃんの話を聞いてみることにしよう。


「戦いたいってことでいいんだよね?別に問題はないけど、エルフって体に穴が開いても死ななかったりする?」


出来立ての十字架を見せながら聞いてみた。


「……すみません、やっぱりやめておきます。」


エルフもちゃんと、体に穴を開けたら死ぬ可能性があるようだ。


「……冗談だよ。別に戦うのは問題ないし、手加減もするけど、いきなりどうしたの?ツラいことでもあった?サーシャさんと同室で酒臭くて眠れないとか?」


「サーシャさんは大丈夫です。昨日、メタルイーターに全然攻撃が通らなかったときに、自分の力不足を感じたんです。ですが、ニートさんが攻撃の通らない進化個体を相手に戦っている姿を見て、私に足りないのは力や技術ではなく、戦闘時の判断力なのではないかと思いまして……。」


そうだね~。

武器の相性も最悪に近かったけど、魔法とか、もっといろいろと試してみても良かったかもね。

エルフちゃんは確か水魔法か何かが使えたはずだよね?

水魔法で攻撃とかはちょっと厳しそうだけど、毒を混ぜて喉に流し込むとかすれば、ワンチャンあったかもしれないし。


……少し付き合ってみようかな?


「使ってる武器っていつもの細い剣でいいんだよね?」


「え?そうですね。最近はこの剣しか使ってません。」


インベントリから木材を取り出して、適当に形を整える。

握るとこの太ささえあってれば刃の部分とか適当でええやろ。

重さとか全然違うんだし、適当適当。

5分ほどで適当に木剣を作って、エルフちゃんに渡す。

自分の武器を作るのはめんどくさかったのでただの木の棒だ。


エルフちゃんも木剣と分かるものを渡されて意図を理解したのだろう。

何度か振って、感覚を確かめている。

握ってる感じも悪くはなさそうだ。


「それじゃあ、いつでもいいよ。」


「……行きます。」


なんでわざわざ宣言してから来るのかな?

そこは「いつでもいい」と言ったと同時に斬りかかるくらいにならないと。

私ってたぶん隙だらけだと思うから、不意打ち出来れば結構アドバンテージを取れると思うよ?

ステータスの差が激しいと思うから、そういうところから改善できないとね。


以前に見たエルフちゃんの剣筋は非常に綺麗だった。

素人でも綺麗だと思えるのだから、剣を扱う技量は高いのだろう。

ステータスでゴリ押せばもちろん余裕で勝てるけど、それをやるのは趣旨が違うだろうし……、どういう勝ち方をすればいいのかな?


とりあえず剣を振ろうとした腕を、棒の先端で抑えた。

本当に抑えただけなので、ダメージはあまりないだろうけど、これが剣だったら腕を刺されたことになるって気づいてるよね?


エルフちゃんの動きが止まってしまったので、棒を引く。


「続けていいよ。」


これで終わりだと可哀想なので、もう少し続けさせてみる。

エルフちゃんはさっきまでと違い、非常に警戒しているようだ。

まぁ、あの程度のスピードなら完全に見切れるからね。

不用意に攻撃してきたら簡単に反撃できると思うから、慎重になるのは良いことだよ。

それにしても、本当の素人が剣を見切れるようになったんだから、(認識力)のステータスって結構すごいよね。


エルフちゃんから来ないので、今度はこっちから攻撃してみようかな?

攻撃には自信がないけど。


とりあえず棒を持つ手を前に半身になり、一歩踏み込みながら反応を見る。


これは……どこを見ているのかな?

う~ん、体全体を広い視野で眺めている感じかな?

踏み込む足をもう少し奥まで伸ばして、肘から先だけで突いてみよう。

手先だけで突く感じになるから威力は出ないと思うけど、ほぼ最速で突けると思うから、反応が遅れると当たっちゃうぞ~。


手加減はちゃんとしたが、普通に胸当てに当たってしまった。

棒を握る手を緩めたのでダメージは全然ないはずだ。


エルフちゃんって対人戦の経験が少ないのかな?

私も野盗とか街で絡んできたやつとしか戦ったことはないからあまり言えないけど、もう少し全ての動きに警戒心を持った方がいいと思うよ?

人間だけじゃなくてエルフもそうだと思うけど、ナイフとか剣だと、ただ当てるだけでも、斬れたり刺さったりするんだからね。

しっかりと斬らないといけないモンスターとは違って、いかに予備動作をなくすかが大事だと私は思うよ?

武術って『予備動作は減らしながら威力は上げる』みたいなイメージだったけど、漫画の読み過ぎかな?


腕に棒を当てられ、胸当てに棒を突かれ、エルフちゃんは完全に沈黙している。


「続けていいよ?」


とりあえず続行だ。

命のやり取りではなく、所詮は手合わせなのだ。

いろいろ試して欲しいね。

私でも出来そうな攻撃とかアイデアがあったら真似させてもらおう。


今度はエルフちゃんから攻撃してくるようで、踏み込んできた。

2回も負けたからか、さっきまでとは違い無駄な力が抜けて、非常にスムーズな動きだ。

踏み込む足を棒で突いたけど。

だって無防備に突っ込んできたら狙っちゃうよね?


だが、今回のエルフちゃんは違った。

足を突かれてもそのまま木剣を突き出すように攻撃してきたのだ。

足を狙うって読んだうえで、無防備に突っ込んできたのかな?

少し驚いてしまった。


普通に剣を避けて、そのまま突き出された方の腕を取って投げたけど。

確か柔道で言う体落としだったかな?

それに近い感じで投げた。

地面に叩きつけていないので問題はないだろう。


流石に投げられたのは意外だったのか、エルフちゃんは地面に座ったまま驚いた顔でこっちを見ていた。


「立たないの?」


「参りました。」


立つ気配がないので聞いてみたら降参のようだ。

勝ったぜグヘヘ。


「何か参考になった?たぶん、参考にするのはやめておいた方がいいと思うけど。」


モンスター相手に効かない攻撃や投げ技を試すことはしないと思うけど、一応参考にしない様に言っておいた方がいいだろう。

下手に小手先の技を教えてしまったら、隊長さんに小言を言われるかもしれない。

「うちの可愛いマスコットに変なことを教えないでくれ」って感じで。

まぁ、言わないだろうけど。

……マスコットは言いすぎかな?

アイドルとか?


「ありがとうございます。勉強になりました。」


……勉強になっちゃ駄目なんだよなぁ。

もう少しちゃんと言った方がいいのかな?


「もう一度言うけど参考にしちゃ駄目だよ?技なんて経験を積めばいくらでも身につくだろうし、隊長さんとかサーシャさんに教えて貰うのが一番だからね。私はレベルを上げたから強いだけであって、小手先の技を覚えたからと言って強くなるわけじゃないからね。」


「それは……そうでしょうけど。ですが、レベルを上げるだけでそんなに強くなるんですか?何度も魔石を壊したことがありますけど、全然強くなった実感がなくて……。」


そういえば普通の人ってステータスが見えないんだよね。

……経験値も見えないから、格下のモンスターの魔石じゃ経験値が全然増えないってことも知ってるのかな?

ステータス的に同格とか少し弱い程度のモンスターばかり相手にしているならどんどん経験値が貯まってレベルが上がると思うけど、そんな死ぬかもしれないような命知らずなことするやついるのかな?


「一応聞くけど、どんなモンスターの魔石を割ってるの?」


「え?……エルフの森にいるスライムとかラビットの魔石がほとんどですけど……。もしかして、スライムやラビットではレベルは上がらないんですか?」


いぐざくとり~。

エルフちゃんの強さ的に考えて、スライムの魔石とか数千個単位で壊して1上がればいい方なんじゃないかな?

せめてオオカミ、出来ればイノシシの魔石を壊したら簡単に上がると思うけど……。


そういえば、少し前に隊長さんに貰った転移者の手記に、ステータスについて書かれてたな。

おっさんが戻って来たみたいだし、忘れなかったらあとでちゃんと読んでおこうかな?

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