第78話 おめーに作ってやれる武器ねーから

翌朝。

大量の金貨をゲットできたので、さっそく放出して経済を循環させていこう。

そんなわけで我々は店へとやって来た。

『我々』だ。

サーシャさんは今日ものんびりとお酒を愉しむらしい。

ただサボっている訳ではなく、意外なことに、ちゃんとドワーフの重鎮とコミュニケーションをとりながら酒を飲んでいるらしい。

本当に意外でびっくりした。


という訳でなぜかついてきたのはエルフちゃん!

名前は忘れた。

パットン君がサーシャさんに無理やり引きずられて行ってしまったので、合掌して送り出していたのだが、なぜかエルフちゃんが「一緒に言ってもいいですか?」と聞いてきたのだ。

きっと何か良からぬことを企んで……。


それはさておき、店に着いた我々は店主っぽいドワーフのおっさんに話しかける。


「金の用意が出来た。ブツを頼む。」


「……?」


やはり伝わらなかったようだ。

不思議そうな目で見られたよ。


そろそろテンションを抑えて普通にするか。


「全力で殴っても壊れないハンマーが欲しい。」


「……無理だ。」


……よし、お土産を買って帰るか。


「お前さん、あのハンマーは壊さないように慎重に使っていたみたいだが、それでも柄が微妙に曲がっていたぞ。恐らくアダマンチウムを使ったハンマーだとしても、それほど長くは持たん。絶対に壊れる。」


……マジで?

結構慎重に使っていたと思うんだけど……。

いつ曲がったんだ?

もしかして土魔法のショットガンを叩き落した時か?

それとも背中からジャンプして頭に叩きつけたときか?

いや、地面に頭がめり込むまで殴り続けた時かもしれない……。


困ったな。

壊れにくい武器って何かないのかな?


「一番壊れにくい武器ってなんです?」


「整備不足で部品が緩んだり外れたりはしても、普通武器が壊れることはないぞ。鉄っていうのはそれくらい硬いんだ。鉄を握り潰せるやつが武器を持つこと自体が想定されてないんだ!」


あれは武器の品質が悪かっただけだよ!

鉄を握り潰すとか流石に無理だと思うよ!

まぁ、「お前の店の商品の品質が悪かったのが問題だろぉ~?」とか言ったら完全に喧嘩売ることになるから言わないけど。


仕方ないね。

プランBで行こう。


「じゃあ精製された鉄を売ってください。自分で適当に作るんで。」


「……は?お前さんが作るのか?鍛冶の経験は?」


「ないです。」


「じゃあやめとけ。刃物ではないから簡単だと思っているのかもしれないが、素人と鍛冶の専門家じゃ武器の強度が天と地の差があるんだ。簡単に壊れる武器に命を預けられるか?悪いことは言わん、自分で作るのはやめておけ。」


こちとら過去に、ただの木の棒でオオカミと戦ったんやぞ!

『鉄製の武器』ってだけでどれだけありがたいか、分かってないのはそっちだろ!


もちろん言わない。

強い武器が手に入ったら馬鹿をするアホみたいだからね。

あの時はオオカミが来たから仕方なく木の棒で応戦というか一突きしただけで、壊れると分かっている武器に命を預けたわけじゃないからね。

武器が壊れた後にどうするのか考えろって意味の発言だろうしね。

まぁでも、


「壊れる前提で使えば問題ないんで、売ってもらえませんかね?」


「いやしかし……、う~ん……。」


店には質の悪い武器を並べている割に、意外と武器を売ることに対してこだわりでもあるのだろうか?

めっちゃ失礼だな。

もう少しオブラートに包んで考えるか。

お店の商品はあれなのに、強いこだわりを持っているんだね!


「ちょっと武器を作ってみろ。とりあえず使えるものだったら素材を売ってやる。」


失礼なことを考えていると、おっさんが条件を出してきた。

使える武器って、基準が曖昧過ぎない?

素材そのままで殴りかかっても普通のモンスターなら倒せるんだよ?

だって素手でも問題なく倒せるんだもん。


まぁ、面白そうなのでおっさんの後に続いて店の奥へと進んだ。




店の奥から外へ出て、少し離れたところにある小屋へと入った。

おぉ、『いかにも』って感じの場所だ。

いろんな物があるけど、何に使うのか分からないものばかりだ。


だが一番の問題は、中に3人のドワーフがいたことだ。

男2人に女一人。

……どこか見覚えがあるけど、昨日店にいた人達かな?

3人とも非常に驚いた顔をしている。


「まだ始めてないみたいだな。ちょっと昨日の曲がったやつを借りるぞ。」


「え?……あ、はい。分かりました。」


「ほら、昨日使っていたハンマーだが、これ使って武器を作ってみろ。道具も自由に使っていい。」


おっさんからハンマーを受け取る。

……ああ~、確かに少し曲がってるわ。

丁寧に扱ったつもりなんだけどな~。


とりあえず全体に魔力を流し、錬成魔法を発動してみた。


「あ、ヤッベ。」


柄を持った状態で錬成魔法を使ったので、頭の部分の重さに耐えられずにグニャっとなってしまった。

大失敗中の大失敗だろう。

仕方がないのでハンマーとして生き返らせることは諦める。


「ちょっと待てっ!!」


とりあえず捏ねようと思ったらおっさんからストップがかかった。


「なんですか?」


「今のは錬成魔法か?」


「そうですけど、駄目ですか?」


「……いや、駄目ではない。駄目ではないのだが……生まれつき使えたのか?」


「いえ、露店にスキルオーブが売られていたので買ってみたら錬成魔法を覚えました。」


「錬成魔法のスキルオーブが露店にっ!?」


おっさんはなんか異常だし、ドワーフ3人も完全にフリーズしてるし、若干忘れかけていたエルフちゃんも驚いている。

やっぱりスキルオーブが露店に売られているってヤバいよね。

(うひょひょ!ラッキーだぜ!)としか思わない様にしていたが、明らかに価値がヤバ過ぎる。

だって金貨1枚だよ?

絶対その数千倍は価値があるって。


その後、おっさんから錬成魔法の歴史について軽く説明を受けた。


なんでも昔からドワーフのある一族が錬成魔法を使えたらしいのだが、ドワーフは物作りに関してはプロだ、『そんな邪道みたいな物作りは受け入れられない』と錬成魔法を否定していた。

錬成魔法は否定していたが、その一族の人たちは普通に鍛冶も上手かったらしいので、当時特に問題になることはなかったのだが、ある天才が誕生したことで錬成魔法は脚光を浴びる。

天才魔道具師、『フランケンシュタイン』だ。


魔道具はモンスターの素材も重要だが、その作りは非常に細かく、金属で細かい部品を作るとなると非常に苦労していた為、数が少なく値段も高かった。

だが、錬成魔法により素早く簡単に魔道具の部品が作られるようになり、さらには画期的な魔道具も次々に誕生したことで、ドワーフたちの間で魔道具が爆発的に普及し始めた。

そうなると当然、ドワーフたちの持つ錬成魔法に対するイメージが完全に変わってしまったのである。


当時から『スキルは持って生まれるか、スキルオーブで覚えないと使えない』というのは社会の常識で、ドワーフたちは非常に羨んだ。

錬成魔法のスキルオーブを求めて、沢山のドワーフがあちこちのダンジョンへ行ったほどである。


説明が長かったので、この辺でほとんど聞くのをやめて鉄を捏ねる方に集中した。


とりあえず『フランケンシュタイン』さんは、以前買った『魔道具の作り方:基礎』の著者だね。

もう死んでいるらしい……。

まぁ、仕方ないね。


後で知ったが、死因は新たな魔道具作成中の爆発による事故だそうだ。


「今からでも、その街に行って露店でスキルオーブを販売していたやつを調べるべきだな。買ったのは人間の街だよな?『ホエールポート』か。エルフに協力を仰げば、すぐに入手経路なども調べられるだろう。ちょっと組合に行ってくるから、ここは自由に使っていいぞ。」


ドワーフのおっさんは行ってしまった。

あまり話は聞いていなかったから別にいいけど、知らない人達がいるのに残されると少し気まずいね。


とりあえずそろそろ形を変えるかな。

何にしよう……。

杭とか?

硬くて先が尖ってれば普通に使えそうじゃない?

どうせならおしゃれに十字架の形にでもするか。

その方が持ちやすいだろうし。


ふと、近くに気配を感じると、エルフちゃんがすぐ近くから手元を覗き込んでいた。

今日のエルフちゃんは積極的だね。

なぜかついてきたけど、話でもあるのかな?


あまり気にしないことにして、とりあえず綺麗な十字架の形にすることが出来た。

いったん錬成魔法を解除して持ちやすさを確認してみる。

まぁ、悪くないんじゃないかな?

錬成魔法で下になる部分だけ軟らかくして、先を尖らせていく。


あまり時間はかからずに完成した。


(せっかく作ったんだし、試してみたいなぁ~)と思っていると、エルフちゃんが話しかけてきた。


「出来たんですか?」


「一応出来たね。とりあえず使えるか試してみたいんだけど、まだ戻ってないのかな?」


周りを見てもドワーフのおっさんはいない。

3人のドワーフはなぜかまだ放心状態だ。


「それなら少し、お願いがあるんですけど……。」


……エルフちゃんからのおねだり?

グッヘッヘ、おじちゃん何でもは買わないけど善処しちゃうよ。

前向きに検討でもいいけど。


「少し……少しだけ、お手合わせ願います!」


……エルフちゃんとバトルかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る