第77話 メタルイーターの頭蓋骨は半端なく硬い
ショットガンのようにばら撒かれた小さな土の塊が、至近距離から飛んできているのが見えた。
まるで映画のワンシーンのようなスローモーションの世界にいるようだ。
自分以外のすべてがゆっくり動いている様に見える。
とりあえず飛んできている土の塊は、全てハンマーで叩き落した。
自分は普通に動けるんだ。
そういえば、真正面で向き合って戦っているモンスターの攻撃が直撃しそうになったのって初めてなんじゃないかな?
ウサギに後ろから突進された記憶ならあるけど、他に攻撃を受けたことって……そういえばスライムと戦ったときに体当たり受けたわ。
じゃあなんでここまで集中出来てるんだろ?
魔法に対して命の危機を感じたから?
それとも不意を突かれて少し焦ったから?
まだ世界はゆっくりと動いているように感じる。
とりあえずやるべきことは……破魔魔法でも当てておくか。
「というか、ハンマーで殴ろうとしたときに魔法で防がれたんだから、とりあえず破魔魔法撃っとけばよかったな……。敵の魔力、魔法の解除だけじゃなくて、少しの間魔法を使えなくする阻害効果もあるんだし。」
それにしても魔法の発動がクッソ速いね。
普通魔法を使う場合は、魔力を放出して、形を整えたり飛ばしたりして、魔法スキルで魔力を魔法へと変換するって感じの手順なのだが、今までならだいたい魔力を放出した時点で気づいて、形を整えたり飛ばそうとした時点で破魔魔法を撃っていたんだけど、こいつはあまりにも放出から魔法に変換するまでが速すぎて、破魔魔法を撃とうと考える時間すらなかった。
私より(超感覚)のステータスが高いのか、それとも魔法のスキルレベルが高いのか……。
こういうときに鑑定能力が欲しくなるよね。
放った破魔魔法が問題なく命中したのと同時に、時間の感覚が元に戻った。
一瞬見たものが記憶にこびりつくことは結構あったけど、一瞬を数十秒に感じるのは初めての体験だった。
これが意図的に出来ればドラゴンさんにも勝てるのだろうか……?
……無理だな。
質量で押されて終わりだろう。
とりあえずもうこいつ相手に舐めプするのは止める。
魔力をメタルイーターへと大量に放出し、氷魔法を発動した。
これだけデカいんだから、中までしっかりと冷えるには少し時間がかかるだろう。
時々破魔魔法も当てながら、しばらくは冷やしメタルイーターの作成に励むのだった。
「た、倒したんですか?」
5分ほど経っただろうか?
メタルイーターの進化個体が動かなくなったのを見て、エルフちゃんが聞いてきた。
返事の代わりにハンマーを頭に振り下ろしてみる。
なんか最初に殴った時より硬い感触になっていたが、反応はなかった。
頭蓋骨が硬いのか頭は潰れていないので、念のために何度も頭にハンマーを振り下ろした。
何度もハンマーを振り下ろした結果、地面には亀裂が走り、進化メタルイーターの頭が完全に地面にめり込んでしまったが、結局頭を潰すことは出来なかった。
頭蓋骨硬すぎない?
これはドワーフたちでは倒せなくても納得だわ。
いくらドワーフたちがムキムキのゴリゴリでも、(筋力)のステータスが200あるとは思えないい。
無防備なこいつを一方的に攻撃している状況で倒せないんだから、魔法や普通の攻撃を回避しながら戦うなら到底無理だろう。
さて、こいつはデカすぎてインベントリには入らないので、この状態では生きてるか死んでるかの判断が出来ない。
出来れば頭をペチャンコにして倒したかったが、こうなると別の方法で確実に殺すしかないだろう。
取り出したのは以前使っていた棒を錬成魔法によってコネコネして出来た鋼鉄のインゴット。
これに再び錬成魔法を発動して30センチほどの棒状にし、先をある程度尖らせる。
余った物は適当にインベントリにポイしておいて、出来た棒を持って進化メタルイーターに近づいた。
左手で棒を首に当て、右手のハンマーを打ち付ける。
少し首だけだが、ちゃんと首のお肉が削れたようだ。
この調子で首を削って頭を取り外そう。
ときどき氷魔法で冷やすことは忘れずに、1時間ほどで頭の切除に成功した。
これで生きていたら諦めるしかないね。
さて、薄々気づいていたが、流石にそろそろ問題と向き合う時が来たようだ。
流石にこのデカさだと坑道を通れないから、このままだと持って帰れないのだ。
もちろんインベントリにも入らない。
どうしようかな?
バラバラにした場合、売却価値が下がりそうなので壊したくない。
来るときに2時間かかった道を、これを引いて帰るのもあれだし……。
ドワーフを連れてきて、ここで売ってしまうのが一番だな。
死体をしばらくここに放置することになるけど、まぁ仕方ないか。
インベントリから木材を取り出して看板のような物を作り、『売却予定(ニート)』と書いて死体の横に立てておいた。
「それじゃあ、いったん帰ろうか。」
エルフちゃんとパットン君に声をかけ、帰ることにした。
街に戻って来た。
門でドワーフのおっさんから貰った木札を見せると、特に何事もなく街に入れた。
とりあえず昨日の店に向かうことにする。
あ、エルフちゃんたちはもう帰ってもいいよ?
店に着いた。
店の中で誰かが口論しているようで、外にまで声が聞えてくるが、特に気にせず店に入った。
店の中には昨日の店長っぽいドワーフのおっさんと、いかにも鍛冶屋ですって感じの格好をした男2人女1人の3人のドワーフがいた。
店に客が来たからか、静かになってこちらを見てきた。
とりあえずインベントリから進化メタルイーターの頭を取り出し、おっさんに声をかける。
「これ、言ってたメタルイーターの進化個体だと思うけど、倒したよ。問題は死体がデカくてバラさないと坑道から出せないんだよね。どうしたらいい?」
「……マジで倒したみたいだな。おい、ちょっとひとっ走りして、組合から何人か連れてきてくれ。」
3人とも店を出て行ってしまった。
メタルイーターの頭がグロイからか、少し顔色が悪かったけど大丈夫かな?
まぁ、気にしないけど。
「とりあえずハンマーは返しておきますね。ここ、置いてもいいですか?」
「ちょっと貸してくれ。」
貸してくれと言われたのでハンマーをおっさんに渡す。
おっさんはハンマーをじ~っと観察している。
壊してないよね?
結構丁寧に扱ったし、全力で殴ってもいないはずだ。
「楔が緩んでるな……。これは一体型にするしかないか?だがそうなるとアダマンチウムの必要量が多くなるな。」
おっさんがなんかブツブツ言ってる。
少し怖いから他人の振りしておこう。
しばらく店の中の商品を見ていると誰かが来たようだ。
ドワーフのおっさんだ。
というか、男のドワーフってみんな髭がもじゃもじゃだからおっさんに見えるんだよね。
「メタルイーターの進化個体が討伐されたというのは本当か?」
「そこの人間が頭を持ってきたから間違いない。体はデカくて持ってこれなかったそうだから確認して買い取ってやってくれ。」
「そうか……。ありがとう。メタルイーター1匹でさえ被害額は大きいのに、進化したメタルイーターが3年も住み着いていて非常に困っていたんだ。」
……普通のメタルイーターも2匹倒したんだよなぁ。
まぁ、後で言えばいいか。
その後数人のドワーフと共に鉱山へと戻り、死体を確認したという証明を貰い、また街へと戻った。
街の組合があるという場所に行き、死体確認証明書を提示して、書類にサインしたことで、討伐報酬が少し増えていたようで金貨350枚。死体の売却額も増えて金貨300枚、計金貨650枚を受け取った。
これで武器を作った上にお土産も買うだけのお金が出来たぜ!
普通のメタルイーターは1匹金貨20枚だった。
結構高額だね。
モンスターが手強いうえに、放置した場合の経済的被害が大きいんだろうね。
メタルイーターの方もめちゃくちゃ感謝されたよ。
人間に対する警戒心もなくなったようだ。
とりあえずお金も受け取ったので、今日は宿に戻ることにした。
朝から移動移動移動でもう夕方だからね。
流石にお腹が空いたのだ。
夕食でエルフの3人が集まった際、サーシャさんの酒臭さは気にせずに、とりあえずパットン君とエルフちゃんに金貨10枚づつ渡した。
エルフちゃんはぶっちゃけ全く役に立っていなかったが、仲間外れは可哀そうだからね。
もう少し頑張ろうね。
夕食を食べった後は、流石に1日中歩き回ったので疲れていたのか、すぐに眠けが襲って来た。
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