第76話 メタルイーター

翌朝。

少し雨が降りそうだがエルフちゃん、パットン君と共にメタルイーターの進化個体がいるという鉱山へと移動を開始した。

ぶっちゃけ1人で行きたかったのだが、2人ともメタルイーターは見たことも戦ったことも無く、サーシャさんの「これも経験だから」という謎のゴリ押しによってついてくることとなった。


サーシャさんは来ない。

朝はちゃんと起きてきたが、非常に酒臭かった。

(あんなに自由で色々と大丈夫なの?)と思ったので移動しながら聞いてみると、あれでも隊の中で2番目に強い実力者らしい。

1番はぶっちぎりで隊長さんだが、副隊長よりもサーシャさんの方が強いらしいのだ。

他の隊の隊長並みに強いから、これだけ自由にお酒を飲んでサボっていても、特に文句は出ないらしい。

意外だよね。


ちなみに宿に帰った後、夕食は4人で一緒に取ったのだが、部屋に戻った後に酒を買いに行き、朝までずっと飲んでいたそうだ。

若干苦笑いのエルフちゃんからそう聞いた。


仕事の命令範囲内ならきっちりやるそうなので、あまり気にしないことにしよう。




鉱山へは2時間かからないくらいで着いた。

空がさらに黒くなっていたが、雨は降らなかったので良かった。

坑道に入ってる間に降って、出るころには晴れていて欲しいなぁ……。


そしてここで問題が発生だ。

誰も灯りになるものを持っていなかった。

どこかに松明とかないかな?

採掘してたはずなんだし、キッチリ回収してなければどっかにあるはずだよね?


とりあえず鉱山の洞窟入り口近くにあった小屋を調べてみる。

鍵はかかっておらず、ランタンっていうのかな?まぁ、ガラスの中に火のついた蝋燭を立てて使う感じの道具があったので、勝手にだが2つ借りさせてもらう。

持つのは私とエルフちゃんだ。


このランタンは物語によくいる『流石物作りのドワーフ』って感じで、全方向に明かりが行く普通の物と、蝋燭の後ろから横に覆うように鏡のような物が置かれ、明かりを一方向に集中させるタイプがあったのだ。

懐中電灯を思い出しながら(ドワーフって凄いんだなあぁ。)と感心してしまった。


とりあえず蝋燭も小屋に置いてあった箱からパクって、火魔法で火をつけてあげてから坑道の中に入った。


坑道はまぁまぁ広かった。

横3メートルないくらいで高さは2メートルくらい。

デッカイ大剣やハンマーを振り回すような戦い方でさえなければ、モンスターが出ても問題なく対処できそうだ。

まぁ、持ってきたのはハンマーなんだけど……。

進化個体は広い場所にいるといいね。


5分ほど歩いただろうか?

洞窟のようなものなので音が響くから距離感が掴めないが、前方から音が聞えるようになって来た。

何か硬い者を削り、砕くような音だ。

もしかして食事中かな?


出来るだけ足音を立てないように慎重に進むと、確かに亀のような見た目のモンスターが2匹いた。

大きさは1メートル程と、(まぁこのくらいのサイズなら地球にもいたよね)って感じだ。

たぶんあれがメタルイーターで間違いないだろう。

なんか壁をムシャムシャ食ってるし。

2匹いるし、大きさもそこまで大きくはないから、狙っている進化個体ではなく普通のメタルイーターかな?


「とりあえず倒そうと思うけど、1匹は2人がやってみる?無理そうなら2匹とも私が倒すけど。」


たぶん向上心高めのパットン君が挑戦したがると思うので聞いてみる。

エルフちゃんもどこかやる気満々だ。

見た目は弱そうだもんね。

動きとか鈍い感じだし。

たぶん防御面だけが異常なんだと思う。

戦ったとしても、怪我をする危険性はあまりないだろう。


案の定「やってみます」との返事があったので、とりあえず近い方は任せる。


とりあえず遠い方に普通に近づいて、普通にハンマーを頭へと振り下ろした。

ハンマーはしっかりとメタルイーターの頭を捉え、地面にめり込んだ。

……問題なく死んだようだ。

弱くない?

これが進化すると厄介になるのかな?


インベントリの腕輪に死体を入れて、エルフちゃんたちの戦いを眺めることにする。

まだ戦ってすらいなかったからね。

この様子だと私がどう戦うのかを見てから参考にしたかったのかな?

頭を潰すか切り離せば死ぬと思うから頑張って!


パットン君がいつも通りにメタルイーターの注意を引き、エルフちゃんが

隙をついて細い剣で斬りかかる。

凄いな……見事にノーダメージの様だ。

甲羅みたいな硬い部分は避けて、しっかりと首や足の軟らかそうなところを攻撃しているのにもかかわらずノーダメージなのだ。

この様子だと剣は相性最悪なんだろうね。

エルフちゃんがめちゃくちゃ動揺しているのが手に取るようにわかる。

こっちをチラチラ見てくるし。


パットン君は余裕なんだよなぁ。

見た目通り動きが基本的に遅いのだ。

首を動かすことすら遅いので攻撃が当たるとは思えない。

唯一速いのは口を閉じる速度だけだ。

空いてる口に手を入れて度胸試しとか出来そう。


とりあえずエルフちゃんと交代してあげようかな。

ちょっと剣筋が荒っぽくなってきちゃったし。


エルフちゃんに声をかけて下がって貰うが、パットン君には引き続き注意を引いていてもらう。

さっきはまさかハンマー1撃で死ぬとは思わなかったのだ。

ハンマーが効くことは分かったが、もう少し弱点部位とか有効な攻撃方法を調べておきたい。


とりあえずまずは前足を蹴ってみた。

分かっていたけどめちゃくちゃ硬いね。

今度は背中に乗って甲羅の上から殴ってみる。

ダンジョンでドラゴンと戦ったときに使った、体の奥に響かせる

打撃を試すのだ。

何度か殴ってみたが、効いているのかいないのかよく分からない。

手応えからすると効いているように感じるのだが、メタルイーターの動きは特に変わらなかった。

硬くてタフなのかな?


興が乗って来たので尻尾を掴んでジャイアントスイングだ。

振り回す勢いそのままに、壁に叩きつける。

これは……なんかめちゃくちゃ効いてる様だ。

三半規管弱いの?

足がなんかふらついてるよ?


とりあえずのんびりと観察することにした。

パットン君が注意を引こうと頑張っているが、マジで目を回しているようでそもそも攻撃をしてこなくなっている。

3分ほど経つと流石に治ってきたようで、パットン君を狙って噛みつこうとし始めた。


それじゃあ違う攻撃を試してみようかな。


とりあえずまた背中に乗って、今度は火魔法を後ろ脚に当ててみた。

最初は反応なしで効かないのかと思ったが、途中から先ほどまでの鈍い動きからは想像できない程激しく暴れ始めたので、これは効いている感じだ。

見た目通り皮膚が分厚いのかな?

だから熱が中まで通るのに時間がかかったとか?


とりあえず火魔法が効くと分かったので次、最近手に入れた氷魔法だ。

亀って爬虫類だからね。

氷とか効きそうだよね。

今思いついたけど。


という訳で氷魔法でどんどん冷やしていく。

この魔法、氷を生み出すことももちろんできるが、氷を生み出さずにただ冷やすことも出来て非常に便利なのだ。

物体に氷魔法をかけるとキンキンに冷やすことだってできる。

ビールに氷魔法をかけて地下労働者に売りつけるんだい!

ただ、『生き物に直接氷魔法をかけて氷漬けにする』みたいな使い方は出来ないので注意が必要だ。


さて、めちゃくちゃメタルイーターの周囲を冷やした結果、ピクリとも動かなくなってしまった。

死んだかな?

インベントリに入れてみようとしたが、弾かれてしまった。

まだ生きているようだ。

とりあえず冷やすと動かなくなるということが分かったので、これは使えるだろう。


流石に飽きてきたので、動かない頭にハンマーを振り下ろして殺し、インベントリに仕舞った。


特に何もしてないエルフちゃんはともかく、パットン君も全然疲れていないようなので先に進むことにする。


ランタンに照らされた坑道の壁が、徐々に濃い色に変わっているような気がし始めてすぐに、めちゃくちゃ広い空間を見つけてしまった。

素人の私でもパッと見で鉱石と分かるようなものがあちこちに見えており、なんというかボスモンスターの登場シーンとか流れ始めそうだった。


そんなことを思ったせいか、突然足元が揺れ始める。

下から来るぞ!気をつけろ!


少し先の地面が割れ、デカい亀の頭が飛び出してきた。

ちょっと可愛い。

のそのそと体も出そうと頑張っているが、前足が短いのか体が重いのか、なかなか出てこれない様子も愛嬌がある。

これがメタルイーターの進化個体でいいのかな?


しばらく待っているとようやく上がってきた。

横幅4メートルないくらい、高さ2メートルちょっとって感じだ。

大きいことは大きいが、中型程度のモンスターだと思う。

背中の甲羅にキラキラと光るものが付いていているので、あまり甲羅を傷つけないように倒そう。


とりあえずダッシュで亀の側面へと周りこみ、体をよじ登って背中に乗った。

インベントリからハンマーを取り出し、背中から飛び降りながら頭にハンマーを振り下ろす。


ハンマーはしっかりと頭を捉えて、そのまま地面へと叩きつけた。

一撃で倒せたかと期待したのだが、そこはやはり進化個体。

まだまだ元気なようで、普通に首を上げてこちらを見つめている。


今度はハンマーを横にフルスイングした。

お金の為、容赦する気はなかった。


頭にジャストミートかと思われたが、メタルイーターから地面へと魔力が放たれ、ハンマーの軌道と重なる位置に岩が生えてきて、ぶつかってしまった。

一応生えてきた岩ごと頭を叩いたのだが、これでは全然ダメージは入らないだろう。


「魔法を使うのか。土の魔法かな?岩を生成したっていうより、地面の下から持ってきたって感じだったし。」


返答は小さな土の塊のショットガンだった。

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