第75話 正直働きたくないでござる
ドワーフの国へと出発してから今日で3日目だ。
道中はときどきモンスターに襲われて、エルフちゃんに丸投げし、一生懸命応援しただけで、特に何もなかった。
……サボってたわけじゃないよ?
昔懐かしく、エルフちゃんたちの分の食料だからあえて手伝わなかったんだよ。
干し肉より焼きたてのお肉が好きなんだって。
まぁ、美味しい加工肉のハムとかジャーキーとかベーコンとかサラミは塩分が凄いって言うしね。
パットン君はしっかりとエルフちゃんを手伝っていたけど、サーシャさんはなぜか私と一緒になってエルフちゃんにやじを飛ばしてた。
熊相手に攻撃できずにいるエルフちゃんに対して「ヘイヘ~イ!ビビってんの~?」なんて言ってた。
想像以上にはっちゃけたエルフさんだね。
まぁ、何事もなく怪我もなく、無事遠くにドワーフの国らしき城壁が見えてきたので、何も問題はないだろう。
それにしてもめちゃくちゃ立派な城壁だな。
あまりドワーフの国の人口は多くないのか、横にはそこまで広くないが縦にデカい。
城門の前までたどり着いた。
近くて見ても迫力のある城壁だね。
というか壁の厚みがヤバない?
4メートルくらいかな?
壁の中に通路とかありそうなくらいだ。
とりあえず人間である私に対して非常に警戒心をむき出しにいているドワーフさんの方を見てみる。
物語でよく見る様に身長は低いけど、腕とか足がちょっと洒落にならないくらい太いね。
というか、良さげな装備してるね~。
やっぱりドワーフは鍛冶が得意なんだろうね。
じゃないと隊長さんがここを勧めるとは思えないし。
とりあえずドワーフの対応はサーシャさんに丸投げだ。
ホント、昔の人間は何したんだろうね?
だいたい想像はつくけど、いつの世もどこの人も、碌なもんじゃないね。
私も人間だからあまり言えないけど。
門の前で(街の中の石畳が綺麗だな~)とか思いながら待っていたが、問題なく街の中に入る許可が出たようだ。
ドラゴンの依頼を完遂するために必要だから来たんだもんね。
ここで下手に邪魔なんかしたら、後でどんな目に遭うか分かんないもんね。
警戒心むき出しのドワーフなど無視して、堂々と街の中に入った。
城門でも思ったが、やはり道路がめちゃくちゃ綺麗だ。
同じ大きさだが少し色の違うブロックが道路の隅まで綺麗に敷き詰められている。
……これって少し大雨降ったら排水出来ないんじゃないの?
まぁ、気にしなくていいか。
ムカつくことがあったら電気スライムを街中にばら撒いてやろうとか思ってないし。
ところでサーシャさんはどこに向かってるのかな?
武器屋とか鍛冶屋じゃなくて、ここって居酒屋が並んでない?
年中酒浸りで仕事はたまにしかしないのに腕だけはいい糞爺がいる?
なるほど。
それで居酒屋を探してるのね。
入ったお店には1人も客はおらず、サーシャさんは楽しそうに酒を注文していた。
自由だな~。
見習おう。
店に入ったのはちょうどお昼の時間帯だった。
昼食時なのに1人も客がいなかったくせに、出てきた料理はめちゃくちゃ美味しかったのだが、店を出たころには日が暮れかけていた。
理由は単純。
エルフちゃんが酔いつぶれたからだ。
誰だよ飲ませたやつ。
1人しかいないけど。
そんなわけでサーシャさんの案内に従い、行きつけだという宿屋に到着だ。
私は普通に1人部屋。
パットン君も1人部屋。
エルフちゃんとサーシャさんは2人部屋に一緒に泊まるようだ。
無難だね。
エルフちゃんは未だにフラフラだし、パットン君も流石に疲れているようなので宿に残し、サーシャさんと2人で、これまた行きつけだという鍛冶屋に向かった。
『年中酒浸りで仕事はたまにしかしないのに腕だけはいい糞爺』がいるのかな?
どうも嘘っぽいけど……。
まぁ、店に行ってから判断すればいいか。
宿屋から20分ほど歩いたところの、趣のある看板がかけられた店に入った。
趣があり過ぎて看板になんて書いてあるのか読めないレベルだ。
「らっしゃい。……お前か。そっちは……人間だな。珍しい。今日は店仕舞いだ。」
「今~、ドラゴンの依頼を受けてダンジョン攻略をしてるんですけど~、出てくるモンスターがドラゴンで~、新しい武器が必要なんですよね~。ドラゴンの依頼だから最大限の便宜を期待したいな~。」
サーシャさんの口調も気になるが、とりあえず陳列されている武器を観察してみる。
陳列されている武器は正直しょぼい。
これなら普通に殴るか手刀ブレードの方が強いだろう。
武器を見た感じ腕のいい職人とは思えないけど、まさか酒を飲むためにあんな嘘をついたわけじゃないよね?
ジト目の練習をしているとドワーフのおっさんに話しかけられた。
「どんな武器が欲しいんだ?」
「握りやすい太さですけど、全力で殴っても柄が折れたり曲がったりしないハンマーですかね。切れ味特化の刃物も欲しいですけど、まだ扱える気がしませんし。」
「……ハンマーならここに来る必要はないだろ。そっちにあるハンマーじゃ駄目なのか?」
ドワーフのおっさんが指差した方向にハンマーが置いてあるので、手に取って確かめてみる。
柄まで鉄で作られているようだが、正直叩くと曲がってしまいそうだ。
「たぶん、これだと全力で殴ったら曲がりますね。」
「嘘だろ……。ちょっと裏に来て実際に使ってみてくれ。」
ハンマーを持ったままドワーフのおっさんについていき、店の裏手にある広場へ。
おっさんは地面に杭を置いている。
これをぶっ叩けばいいのかな?
いいみたいだ。
ドワーフのおっさんが離れたのを確認して、全力で振り下ろしてみた。
ハンマーは地面に軽く立てていただけの杭を完全に地中へと押し込み、たいして勢いを殺さないまま地面を叩いた。
大きな音と共に地面は少し揺れ、後には衝突によってできた穴だけが残った。
当然、ハンマーは手で持っていた部分の少し上から曲がっている。
意外と曲がらなかったな。
もっとグニャっと曲がるかと思ったよ。
音が大きかったので周囲にいたらしき人がこちらを覗いてきている。
ドワーフのおっさんは何も言わないけど、どうすればいいのかな?
とりあえず柄が曲がったハンマーを差し出してみる。
ちゃんと受け取って貰えた。
私が握っていた部分と曲がった部分を真剣に観察している。
よく見たら握っていたところも細くなってね?
流石に鉄を握り潰せるような握力だとは思わないから、これってやっぱ武器の質が悪かったんじゃないの?
ドワーフのおっさんが完全に固まっているので、サーシャさんにジト目の練習の成果を披露しながら待つことにする。
サーシャさんは笑顔だ。
強い。
しばらく待って陽も完全に沈みかけた頃、ようやくドワーフのおっさんが話しかけてきた。
「もう少し柄を太くしても大丈夫だろうが、それでも鉄じゃ無理だ。柄はアダマンチウム製にする。そうなると値段は相当高くなるが、大丈夫か?」
「だいたいどのくらいになりますか?」
「そうだな……。金貨500枚くらいだな。高いと思うかもしれないがアダマンチウムは本当に偶にしか見つからない鉱石を精製して作られるから仕方ないことなんだ。」
金貨500枚か……。
金貨は重いから200枚しか持って来ていない。
半分以上足りてないな。
そいうえば人間の国の金か使えるのかな?
「今金貨200枚しかないですし、その金貨も人間の国で使われている金貨なんですけど、使えますか?」
「人間の国の金貨か……。確かこっちと比べて価値が3分の2程度の価値だったはずだな。多めに見積もって金貨140枚としても、あと金貨360枚は必要だな。」
金貨360枚か……無理かな。
それだけの価値があるモンスターの居場所が分かっているならいけるかもしれないけど、見知らぬ土地でいきなり稼げるような額ではないだろう。
一応聞いてみるか。
「この近くで金貨360枚以上の価値があるモンスターっていますかね?」
「……1匹だけいるんだが、無理だと思うぞ。」
いるんだ。
これがご都合主義というやつか。
「メタルイーターと呼ばれている亀みたいな害獣がいるんだが、そいつの進化した個体が3年前からある鉱山に住み着いちまってるんだ。そいつの討伐報酬に金貨300枚かけられている。そいつの体から獲れる特殊な鉱石を売れば金貨200枚はいくはずだ。この国の周囲ではそれくらいしか稼げるモンスターはいないだろうな。」
「そうですか。明日にでも見に行ってみます。詳しい場所だけ教えてください。」
正直ドワーフの国が抱えている厄介ごとを押し付けられている気もするが、モンスター1匹で稼げるなら挑戦してみてもいいだろう。
「メタルイーターか~。あれ硬すぎて苦手なんだよね。私は観光してるから頑張ってね!」
サーシャさんは本気でやる気がないね。
別にいいけど。
お酒愉しんでね。
「とりあえずこのハンマーは貸してやる。無理をする必要はないが出来れば解決して欲しい。」
さっきの曲げてしまったハンマーとは別の物を借りることが出来た。
太っ腹な気がするけど、3年も住み着かれて結構困ってるのかな?
詳しい場所の書かれた地図を書いてもらい、「街の出入りの時に見せればいい」と言って何か模様の書かれた木の札を受け取った。
そういえば出たら入れない可能性があったね。
その時は借りたハンマーで城壁が一部崩壊するだけだけど。
陽も完全に沈んでしまって少し辺りが暗い中、サーシャさんと共に宿へ戻るのだった。
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