第74話 ドワーフの国に行こう
さて、鹿肉も美味しそうだったが、今夜はワイバーンの気分だ。
とりあえず今日は食べやすそうな尻尾のお肉を頂く。
物語によっては尻尾に毒があったりするけど、こいつは棘などもなく、ただの尻尾のようだ。
解体が途中で面倒臭くなって、根元から適当に輪切りでぶった切っちゃったので、今から尻尾の皮を剥いでいく。
大根を輪切りにしてから皮を剥く、非常に効率の悪い料理素人みたいなことをしているが、尻尾の食べ応えがありそうな太さの部分だけでも2メートル以上の長さがあるのだ。
食べる分だけ処理するようにしないと逆に面倒臭い気がする。
調理の度に皮の処理からしないといけないのも面倒臭いような気はするが、そもそも料理とは面倒臭いものな気もするので気にしないことにした。
「どうしようかな?このまま焼くか、骨から肉を剥がして焼くか……。骨付きで焼いた方が見栄えはいいけど、肉の厚みがどうしても厚くなるんだよね。外してから焼くか。」
という訳で肉を切って骨から外し、軽く塩胡椒を振ってから焼いてみる。
結構弱火でじっくりと念入りに焼いていく。
肉の見た目は鶏肉っぽかったけど、鶏肉ならしっかりと火を通さないといけないからね。
焦げない様に気を付けながら15分から20分ほど焼いた。
異常にいい匂いが漂っていて、お腹が空いてしまった。
とりあえず端っこを切ってみる。
うん、ちゃんと焼けてるっぽい。
そのまま一口……旨っ!?
肉の味で言うならやはりジューシーな鶏肉に近い。
ただ、少し普通の鶏肉と違って噛み応えがあるが、噛めば噛むほどに旨味が溢れだしてくる。
塩胡椒だけでも美味しいけどニンニクも欲しくなるな……。
手が止まらずにムシャムシャ食べていると隊長さんがやって来た。
なぜか苦笑いだ。
「なんというか……。すごくいい匂いだな。何の肉だ?」
「今日獲ったワイバーンの尻尾のお肉ですよ。1本しか生えてなかったんであげませんよ。」
「それは残念だ。今日獲ったワイバーンだよな?この近くに出たのか?」
「結構近い気はしますね。少しあっちの山の方に行くと湖があったんですけど、そこで鹿の血抜きをしていると肉を横取りに来たんですよね。」
「そうか……ワイバーンが出るのか……。」
会話が聞えたのか、周りにいるエルフさん達が少しざわついている。
隊長さんのリアクション的に、エルフさん達からするとワイバーンは強敵なのかな?
……そういえば今回は地面に降りてたから攻撃出来たけど、普通空を飛んでるよね。
空からブレスとか魔法飛ばされたら一方的に攻撃されることになるし、普通は脅威なのかもしれないね。
スタングレネードとかあれば落下ダウンとれそうだけど、そんな便利な物は無いし……。
(飛んでいるモンスターに対して有効な攻撃方法って何だろうな~)とか考えつつ、焼いたワイバーンのお肉を食べ終えてしまった。
もちろんお替りだ。
インベントリから尻尾の輪切りを取り出して皮を剥いでいると、隊長さんがまた話しかけてきた。
「それは……魔道具か?収納の魔道具とは非常に珍しいものを手に入れたのだな。今日のダンジョンで入手したのか?」
「そうですよ。ドラゴンを倒したら宝箱から出てきました。」
「……ドラゴンを倒したのか?」
「依頼をしてきたドラゴンさんの3分の1程度の大きさでしたけどね。子供とは言いませんけど、まだ結構若い個体だったんじゃないですか?」
「それって地下6階の話だよな?」
「いえ、地下5階ですよ。地下5階は1匹しかドラゴンを見てませんけど、地下6階はもう一回り小さいドラゴンが沢山いた感じです。」
「……マズいな。」
何がマズいのかな?
ダンジョンから出てきた時より、見えてるエルフさんたちの数が少ないし、地下5階を目指してダンジョンに入って行っちゃったのかな?
隊長さんくらい強いなら問題ないと思うけど、エルフちゃんくらいの実力ならムシャムシャ丸かじりされるだけだもんね。
そういえば、地下3階と地下4階はモンスターを殲滅したと思うから問題なく進めると思うけど、地下5階はドラゴン1匹としか戦ってないな。
ドラゴンを倒した先に階段があったからそのまま進んだけど、他にも同じくらいの強さのモンスターがいたら、エルフさん達全滅しないかな?
……まぁ、大丈夫やろ。
お替りのワイバーン肉を食べ終え、満足感に満たされながらその日は眠った。
翌朝、周囲が少し騒がしくて起きた。
周りを観察してみると、怪我人が沢山いるようだ。
やっぱり地下5階まで行っちゃって、強いモンスターと遭遇しちゃったのかな?
ちょうどいいタイミングでエルフちゃんを見つけたので、何があったのか聞いてみると、深夜にダンジョンに潜っていたエルフ達が大勢怪我をした状態で戻って来たそうだ。
……それしか知らなかった。
エルフちゃんって結構下っ端なのかな?
まぁ、元々エルフさん達と一緒に行動しているわけではないので、あまり気にしないことにして、今日は何しようかな?
ダンジョンに潜る以外やることないけど、地下6階はドラゴンばっかりでめんどくさいし、地下5階は寒いから隅々まで探索するのは嫌なんだよね。
あ、隊長さんだ。
「起きたか。どうも身の程も分からずにドラゴンに喧嘩を売った馬鹿がいたようでこの有り様でな。死者が出なかっただけマシなのだが、ここまで怪我人が大勢でると頭が痛いものだな。」
責任ある立場って大変そうだね。
でもエルフさん達だけでドラゴンくらい倒せないと、ダンジョン攻略とか無理じゃない?
この先戦力として使えないじゃん。
地下1階から地下4階までのモンスターが再湧きしたときに処理をお願いするくらいしか追加戦力の使い道がないよ?
「とりあえず今日は精鋭のみでダンジョンに入り、ドラゴンを討伐する予定なのだが、一緒について来てくれないか?」
「ドラゴン相手に通用する武器が無いのでちょっと遠慮したいですね……。」
「武器か?……確かに普通の武器では鱗を通らないな。そういえば君はどうやってドラゴンを倒したんだ?」
「ダンジョンの壁にめり込むくらい殴り続けました。」
「…………そうか。……本当に武器が必要なのか?」
「ある程度通用する武器が無いと、倒すまでにどうしても時間がかかるんですよね。鱗の上からでも肉に傷を付けられる程度の切れ味を持った武器か、全力で殴っても壊れないハンマーがあればドラゴン相手でも問題ないと思うんですけど……。」
「……。」
隊長さんはなにか考えているようだ。
そういう武器に心当たりがあるのかな?
ドラゴン相手に通用する武器とか普通は売ってないだろうし、売ってたとしてもお高そう……。
たぶん質のいい鋼鉄製のハンマーでも、全力で殴ると柄が曲がると思うんだよね。
持ち運びはインベントリが解決してくれるけど、戦闘の度に出し入れするなら大き過ぎるハンマーは少し遠慮したいからなぁ。
「そうだな。2週間ほど、ドワーフの国に行こうか。」
……ドワーフの国?
何それ興味ある~。
「ドワーフの国なら君の希望する武器もいくつかは見つかるだろう。これから出発すれば3日後には着くと思う。武器を探すか、作ってもらうのに5日から7日みて、長くとも2週間あれば戻って来れるはずだ。問題ないか?」
「問題ないと思います。」
どうせダンジョンに潜る気はなかったのだ、2週間旅行に行くのに何の問題もない。
ただ1つ気になるのは、隊長さんがここから離れてもいいの?
口ぶりから隊長さんがドワーフの国に案内してくれそうだけど、隊長が部隊から離れるのって拙い気がするんだよなぁ……。
隊長さんは「手紙を書かなければいけない」と言って、行ってしまった。
とりあえず朝飯を食べてから、出発の準備をしておこう。
朝食を食べ終え、のんびりとストレッチをしながら待っていると、隊長さんがエルフちゃんとパットン君、それに昨日話しかけてきたエルフの女性を連れて戻って来た。
「すまない。私がドワーフの国まで案内しようかと思っていたのだが、今部隊を離れると拙い様でな。代わりにサーシャに案内してもらうように頼んだ。ついでにソフィーナとパットンも同行させるが、出来るだけフォローしてやって欲しい。」
サーシャさんに、ソフィーナちゃんね。
オッケーオッケー覚えた。
まぁ、そろそろエルフちゃんもパットン君もダンジョンでは足手まといになりそうだし、ついでに観光させるのもありなのかもしれないね。
「分かりました。サーシャさん。案内、よろしくお願いします。」
「任せて~。モンスターが出た場合は頼りにさせて貰うよ~。」
そんなわけで出発だ。
軽くサーシャさんと自己紹介した後、ある事実が発覚した。
パッと見20代前半に見えるサーシャさんが134歳というのも驚きはしたが、そこは(まぁ、エルフだしな。)で納得した。
まさかエルフちゃんが25歳と同い年だとは思わなかったよ……。
パットン君は71歳らしい。
正直全員20代前後に見える。
そして隊長さんは500歳近いらしい。
嘘だろ……、どう見ても20代後半にしか見えなかったよ……。
エルフの寿命はどうも複雑らしく、エルフとして死ぬならだいたい1000年くらい。
500歳くらいから死ぬまでの間に、稀にハイエルフへと進化する者がおり、エルフからハイエルフに進化すると不老となり、寿命で死ぬことはないそうだ。
凄いね。
エルフは進化する生き物なんだね。
人間も進化するのかな?
人間が進化した記録はない?
そっか……。
隊長さんが500歳というのも少し驚いたけど、エルフちゃんと同い年ということの方が驚いた午前中だった。
だってエルフちゃんだからね。
ポンコツ可愛いエルフちゃんがまさか同い年だったなんて……。
……まぁ、どうでもいいか。
どうせこの中で真っ先に死ぬのは私だろうし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます