第72話 ドラドラドラドラ
あれから30分以上、一方的に攻撃し続けている。
一応効いてはいるようなので足を蹴ったり殴ったりしていたのだが、結構楽しくなってきている。
おそらく(器用さ)を一気に上げた影響なのか、今までは殴ったり蹴ったりしたときの感触で、骨が折れたかどうかしか判断できなかった。
だが今は、殴ったとき肉や骨にどんな感じで力が伝わり、どれほどのダメージを与えているのかがなんとなくわかるのだ。
そうして一撃一撃、相手へのダメージを確かめながら攻撃していた時に面白いことに気づいてしまった。
(たまにクリティカルヒットが出ている)と。
もちろんゲームの確率で出るようなものではなく、何度も殴ったりけったりしている中で、たまに肉や骨の奥まで響く攻撃ができるという感じだが。
攻撃の手を止めないまま、(そういえば格闘漫画で相手の防御を貫通する攻撃とかあったよな。)などと思い出しながら、どんな感じで攻撃すればその攻撃が出来るのか試行錯誤を楽しんでいた。
「なんとなくだけど分かってきたかな?たぶん、ただ狙ったところを殴るんじゃなくて、狙ったところに深くめり込むように殴る感じ。これが一番奥まで響いてる気がする。」
そんなわけで殴りやすい足ではなく、腹に全力で拳を打ち込んでみた。
一応奥まで響く感触はあったが、足と比べて肉や脂肪が多いからか、狙い通りの威力とまではいかなかったようだ。
少し攻撃する位置を変えてみる。
今の攻撃はさっきまで足を狙っていたのでドラゴンの横、わき腹の位置から攻撃した。
今度はドラゴンの正面、腹の下に潜り込んで殴ってみることにする。
ボディプレスが怖いんだよねここ。
背中から脇腹にかけては鱗のようなもので守られているが、腹には鱗がないようなので、攻撃はちゃんと効いてくれそうだ。
というかここならナイフや手刀ブレードも通りそうな気がするな。
とりあえずナイフで斬りつけてみる。
……一応斬れたね。
皮膚が厚すぎて出血してないけど。
少し裂けた皮膚の隙間に手刀を全力で突き込んだ。
手はドラゴンの皮膚を貫通し、肘の深さまで突き刺さった。
(これで殺せなかったらマジで手詰まり)と思いながら、ドラゴンの腹の中に魔力を流し、火魔法を発動する。
そして全力で退避した。
普通にドラゴンの巨体に潰されそうになったのだ。
流石に腹の中が燃えるのはマズいのか、ドラゴンは悶絶しているようだ。
完全にこちらから注意がそれている攻撃チャンスなのだ、そろそろ終わらせることにしよう。
転がっているドラゴンの頭に近づいて、全力で殴った。
何度も何度も殴り続け、ドラゴンの頭が押され、ダンジョンの壁に到達し、壁にめり込むほど殴り続けた。
どれほど殴ったのかは分からない。
唐突にドラゴンの体が消失し、異常に大きな魔石とスキルオーブ、そして宝箱が出現した。
「やっと死んだか……。流石に疲れたな。ドラゴンと戦うとか二度とごめんだわ。ドラゴンさんより相当小さいのにこんだけ苦戦するんだから、普通のドラゴンとか勝てる気しないってマジで。」
(ドラゴンさんとは敵対しない様に気を付けよう)と思いながら、落ちているドラゴンの魔石を破壊するとLvが35に上がった。
(0%)から上がったので、やはりドラゴンは相当な強敵だったようだ。
続いてスキルオーブを壊す。
氷魔法を覚えた。
「氷魔法か。まぁ、氷っぽいブレス吐いてたもんね。」
特になんとも思わず宝箱を蹴る。
宝箱は消え、腕輪のようなものが残された。
とりあえず拾い観察してみる。
おそらく魔道具のようだ。
たぶん魔力を流すと丸いものが出る感じ。
ただ、少し本で読んだ知識にはないところも多いので、とりあえず使ってみることにした。
手に持って腕輪に魔力を流してみると、腕輪の何か丸いものが出そうを思ったところから黒い円盤が出てきた。
……それだけで特に何も起きない。
『魔道具は込める魔力を多くしても意味がない』と本には書いてあったが、この魔道具は魔力を多く籠めると円盤が大きくなるようだ。
恐る恐る円盤を触ってみる。
何かを触ったような感触はなく、指が切れたりすることも無いようだ。
(これってもしかすると、もしかするかな?)
円盤に手を入れてみた。
手は円盤を突き抜けることなく、どこか存在しない空間を掴んでいた。
「インベントリだぁ~!」
こうして、念願のインベントリを入手したのだった。
入手したインベントリでいろいろ実験をした。
まず当たり前だが、魔道具なので使う度に(開く大きさ×時間)分の魔力が必要だ。
魔力を多く消費すると入り口が大きくなるので大きい荷物も問題なく入るが、出すときにも同じ量の魔力を消費しなければならないので注意が必要だ。
一応込められる魔力の大きさには限界があるようで、円の大きさは直径2メートルが限界だった。
この大きさで長時間開けておくのは結構魔力の消費が激しいので、SPを(魔力)に100振っておいた。
次に、魔道具を使っていない間は中にいれたものは時間経過しない。
これはタイミングよく手に入れた氷魔法で小さな氷を作り、それを入れることで実験した。
氷を入れた後、入り口を閉じれば中の時間経過が止まるようなのだ。
入り口を開けたまましばらく放置したら氷は溶けていたので、食べ物を長く入れておくには素早く物の出し入れをすべきなのだろう。
まぁ、開くたびに魔力を消費する性質上、あまり気にしなくても良さそうな気もするが、一応注意だ。
次に、生物が入るかどうかは分からないが、生きているものを中にいれた状態で入り口を閉じるとはじき出される可能性がある。
これは少し怖かったが、自分の手で実験した。
まず指先が入った状態で魔力を止めたところ、指が入り口から出る様に少し押されて入り口が閉じた。
次に手首ごと入れて魔力を止めたところ、明確にはじき出されて入り口が閉じた。
この結果から(生きている場合は外に押し出されるのだろう)と判断した。
実際どうなのかはこの先使っていけば分かるだろう。
最後に、中に沢山の物を入れた場合、出すときどうなるのかについてだが、これは非常にゲームに近いものだった。
中に入れたものを取り出そうと思ったとき、頭の中でアイテムのリストが表示されるのだ。
リュックサックは中にどれだけ入れていようと、それ1つの個体として扱われていたので、袋に物を入れたうえでインベントリに収納した場合は、少し注意が必要みたいだ。
リュックサックを『革』と表示するのは少し雑過ぎる気もするが……。
とりあえず沢山インベントリに物を入れても、取り出すときにごちゃごちゃになる心配はなさそうだった。
どれだけ物が入るのかはまだ試せていないが、無限に物が入ればいいね。
そういえば、リュックを入れた後入り口を小さくして、その状態でリュックを取り出そうとしても、入り口で引っかかるだけで取り出すことは出来なかった。
消費を抑える裏技はないんだね。
「だいたい性能は分かったし、そろそろ移動しようかな。ドラゴンが出たんだから、もうダンジョンも終わりだろうし。」
気づいたら広間の奥の方に階段があった。
戦闘中は気づかなかったので、ドラゴンを倒したことで出現したのかもしれない。
この階はギミックが多い階だったのかな?
という訳で下の階へ移動する。
地下6階。
ダンジョンは終わりではなかった。
目の前には広大な山々が広がり、先ほどのドラゴンよりは小さいが、見えるだけでも沢山のドラゴンが生息しているようだった。
当然引き返すことにした。
ドラゴンと連戦とか、流石にちょっと無理かな……。
念願のインベントリをゲットできたので、いい気分のまま今日の探索を終えようと帰ることにした。
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