第70話 頑張って集めたものが消えるって、結構悲しい。

さて、昼食も食べ終わったし、悪魔という問題も片付いた。

後はダンジョンを攻略するだけだ。


エルフさん達は悪魔との戦闘で全員負傷していたようで、今日はもう休むらしい。

軽く聞いたけど、あの悪魔は物理魔法が使えたんだって。

物理魔法はパッと見じゃ見えないから、飛ばされると対処が難しいよね。

そこまで深くはないが全員怪我人なので、隊長さんも念のため残るとのことで、1人で再びダンジョンに入る。


相変わらずの砂漠の中、昨日切った木を1本とロープをもってダンジョンを進む。

落とし穴跡地から地下2階に下りる方が時間的にも距離的にも早そうなので、上り下りするためのロープを設置するためだ。


そういえば地面は砂だけど、木はちゃんと刺さるかな?

……最悪岩を錬成魔法で加工すればいいか。


非常に分かりにくかったが、無事に下に落ちるための穴を発見できた。

とりあえず木の片方を刺しやすいように加工し、刺しても崩れないところを探すために、地面に木を刺して回る。

結構太くて長めの木を、何度も地面に振り下ろした結果、穴の淵から3メートル程離れた位置なら、問題なくロープの設置が出来そうだった。


私の筋力でも持ち上げられない重さの大きな岩の塊に錬成魔法をかけて、ロープを結ぶための柱を作った。

ロープの長さも、地下二階の床まで届いている感じだったので問題ないだろう。

……ロープが切れた場合のことは気にしないことにする。


そんなわけで、設置したロープなんか無視して飛び降りた。

そういえば地下2階はどんなモンスターが出るのかな?

壁を壊して進んだからか、1度も戦闘がないまま落ちたエルフさん達と合流できたんだよね。


広間から普通に通路に出たところ、下に降りる階段を発見した。

たぶん迷路を彷徨って、ゴールとなる広間で沢山のモンスターと戦う感じの階だったのかな?

今回はイレギュラーが多すぎて分かんないや。


(地下3階程度じゃ、まだ大したモンスターも出ないだろ。)と考え、降りることにした。


地下3階は美しい鍾乳洞のような洞窟型のダンジョンだった。

少し地面全体に水が流れていている感じだが、歩くには問題なさそうだ。


歩いていると、まだ距離はあるがモンスターが現れた。

スライムだ。

ただし、なんかバチバチと放電してる感じの……。


「電気スライムかな?電化製品欲しくなっちゃうね。100ボルトに変圧するための装置を作らなきゃ!作り方とか知らんけど。」


今はとにかく足場が悪い。

まだ距離があるから問題ないのだと思うが、水が電気を通しやすいことは子供でも知っている。

不用意に近づかない方がいいだろう。

というかすっごいバチバチ音が聞こえてるんだよね。

近づきたくないわ。


ということで遠距離から魔法で倒すことにする。

ナイフのような形で物理魔法を射出すると、アッサリとスライムを貫通した。

スライムは消えなかったが……。


「あれ?これで死なないのか。電気ビリビリだし、進化したスライムなのかな?大きさは普通のと変わらないけど。」


さて、今度は野球ボール程の大きさの魔力を射出して、火魔法で攻撃してみる。

火の玉は真っすぐスライムに当たり、体を抉り取るように突き抜けた。

当然電気スライムは死んだようで、スライムのいた場所には魔石だけが残った。


「う~ん……。ゲームだと火と雷で爆発してたんだけど、特に何も起きなかったな。」


ゲームと現実は違うという当たり前のことを理解しながら、電気スライムの落とした魔石を拾って壊す。

経験値が3%増えた。


「嘘だろっ!?ククルより経験値多いじゃん!もしかして電気スライムって結構な強敵なのかな?」


足元にうっすらと水が流れているので近づくと非常に危険かもしれないが、経験値が多いなら出来るだけ狩りたい。

出来るだけ突発的に遭遇しない様に警戒しながら、電気スライムを探して歩き回る。

それほど時間はかからずに、新たな電気スライムを発見できた。


「そういえば電気スライムって体は何で出来てるのかな?普通のスライムは水っぽい液体が薄い皮に包まれてる感じだったけど、物理魔法のナイフが貫通したけど水漏れはなかったよね?普通のスライムとは完全に別物なのかな?」


結構気になったので、今度は魔法としてではなく、魔力を物理魔法でただの球として使ってみる。

軟式野球をしていた時、ピッチャーで投げる際は常にセットポジションで投げていたが、ワインドアップで全力で投げつけた。

見えてはいなかったが、さっきの魔法より圧倒的に速い速度で飛んで行った球は、ただのんびりと寛いでいただけのスライムのど真ん中に命中し、スライムはバラバラにはじけ飛んで消えた。


「体がバラバラにはじけ飛んだね。昔見たスイカを大口径の銃で撃ったときの映像と似た感じだったなぁ。確か内部で衝撃波が起きてるんだったかな?」


物理学など真面目に勉強したことが無いので、実際はどうなのかわからない。

今大事なのは、物理魔法でも全力で投げつければ問題なく倒せるということだ。

火魔法って物理魔法と比べてコスパが悪いんだよね。

ちなみに体感で一番コスパがいいのは破魔魔法。

一番コスパがいいけど、一番使いどころがないね。


「……そういえばスライムってゲームだと魔法生物だったりするよね?破魔魔法を当てたら反応するかな?」


気になったしまったらしょうがない。

次のスライムを探してダンジョンを進む。

少し進んだところに新たなスライムを発見した。


さっそく破魔魔法をぶつけてみる。

プルプルだったスライムはドロドロになり、魔石だけが残った。


「……破魔魔法って対スライム特攻だったんだね。」


スライムの体は、そのほとんどが水分と魔力で出来ている。

動くことも、その体をプルプルの状態に保つことも、全てを魔法で行なっているのだ。

破魔魔法により皮の役目をさせていた外側の部分も消え、体の形を保てなくなってしまい、崩れた体が地面を流れる水と同化して分かりにくいが、今の状態はまだ生きているのである。

破魔魔法の効果が切れた後に、魔力で体を作り直せば問題なく元の姿に戻れただろう。

その前に魔石を壊されたので死んでしまったが……。


破魔魔法は本当に『対スライム特攻』といえる魔法だった。




破魔魔法でスライムが簡単に倒せることを知ったので、この階のダンジョン探索は非常に早く進んだ。

一度は下に降りる階段を見つけたがスルーして、「さすがにもうこの階にスライムはいないだろう」と言えるほど電気スライムの処理を続けた。


「スライムも完全にいなくなったみたいだし、そろそろ次の階に行こうかな?」


という訳で階段を下り地下4階へ。

地下4階は暑かった。

簡単に言えば火山マップだ。

というか噴火している山がどこにもないのになんで火山灰が降ってるの?

これじゃあ洗濯物が干せないわぁ。


「とりあえずクーラードリンク欲しいわ。溶岩が流れてないだけ結構安心だけど、暑さも熱さもヤバいね。ここで強いモンスターと戦うのは嫌だな~。」


余程経験値が美味しくないと、ここで狩りをする気は起きない。

とりあえずモンスターを探して歩き出す。




30分程歩いたところ、少し広い所に出た。

いかにもモンスターがいそうな場所だ。

特にあの地面のくぼみとか気になるよね。

いかにも「モンスターが穴掘って隠れてますよ」って感じだ。


とりあえず近くにあったバスケットボール程の大きさの岩を投げてみたところ、デカい蟹が地面から飛び出してきた。


「ここ火山じゃないの?なんで蟹が出てくるんだよ。どっかのダイミョウとかショウグンじゃないんだから海とか川にいろよ。」


ボヤキながらも戦闘準備だ。

見た目は完全に蟹だ。

ただその大きさが横に4メートル近くありそうなだけ。

……半端ない大きさだよね。


とりあえず警戒すべきは鋏だろう。

見れば分かる、これに挟まれたらヤバイ。

他は……思いつかないね。

蟹ってどんな攻撃するんだろうね?


……あ、そうだ。

とりあえずダッシュで近づいて蹴り上げてみる。

蹴り上げられた蟹は空を仰ぎ、そのままひっくり返ってしまった。


「蟹って陸上でひっくり返ったら自力で戻れるのかな?まぁ、戻れるだろうけど、戻るまで攻撃してもいいよね。こんなに隙だらけなのが悪いんだし。」


という訳で蟹の足を攻撃だ。

とりあえず手前にあった後ろ足の付け根の関節に手刀ブレードを突き刺して捻る。

軽い手ごたえはあったけど、問題なく足が外れた。

痛かったのか他の足がバタバタしていたが、気にせず他の足も取り外し始める。


ちょっとバタついて苦戦したが、3分ほどで鋏のついた所以外は全て足を取り外せた。

取り外してから気づいたが、この蟹はダンジョン産なので倒してしまったら消えてしまう。

つまり食べることは出来ない。


……そういえば食べてから殺した場合どうなるのかな?

胃の中でも消える?

う~ん……。

荷物を全部持ってくれば良かったな。

今回はエルフさん達しかいないし、正直ちょっと邪魔だから料理道具とか諸々入ったリュックは置いてきたんだよね。

この辺りは熱いと言っても、さすがにその辺の岩で蟹を焼けるほどじゃないし、今回試すのはやめておくか。


とりあえずひっくり返ったまま足を取り外されて完全に動けなくなった蟹に止めを刺す。

なかなかの大きさで身もたっぷり詰まっていた足は、綺麗に消え去ってしまった。

悲しい。


暑くて汗をかくのでこまめに水を飲みながら、歩き回って次々と蟹を倒していくのだった。

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