第69話 魔王?焼肉の方が大事でしょ。
睨みつけていても埒が明かない。
たぶん敵だと思うけど、壁を壊してこの広間に入ったときはこちらを見ていて戦闘を行っていなかった。
もしかすると敵ではない可能性もあるので、一応確認してから殴った方がいいだろう。
「あなたは敵ですか?」
「は?……あ、ああそうだ。私は魔王様に仕える悪魔の1人、アイムだ。」
速攻殴った。
一応聞きたいことがあったので、殺さないように念のため1発目はボディーに当てたのだが、感触がおかしかった。
硬いのに中にまで響かない感じだ。
たぶん全然効いていない気がしたので、もう2回ボディーに叩き込んで、いったん距離を取った。
予想通り悪魔だったそいつは、一応ダメージはあるみたいだが問題なく立っていた。
そういえば魔王とかいるんだね。
「とんでもない威力のパンチだな。生物なら今ので動けなくなっていただろうが、悪魔に物理的な攻撃は効果が薄いぞ。」
へ~そうなんだ~。
教えてくれてありがと~。
問答無用で踏み込んで、さっきとは違い全力のボディーブローを打ち込んだ。
悪魔は後ろの壁まで、なかなかの勢いで吹っ飛んで行った。
たぶんこっちの速度には反応出来てないね。
こいつは『物理的な攻撃は効果が薄い』と言ったが、打撃系の攻撃は本当に効きにくいみたいだ。
……正直に教えてくれるって馬鹿なんじゃないの?
一応問題なく戦えそうだけど……う~ん、とりあえず両手足斬り落とすか。
そう考え、歩いて悪魔に近づいていくが、悪魔は魔力を集めていた。
魔法を使うようだ。
まぁ、悪魔だしね。
魔法くらい使うよね。
とりあえず適当にいくつか魔力を飛ばして破魔魔法を発動した。
「っ!?なぜだ!なぜ魔力を制御できない!?」
悪魔相手でも、ちゃんと破魔魔法の効果は発動したみたいだ。
特に何も言わずに踏み込み、悪魔の左腕を斬り落とすつもりで普通のナイフを振るう。
ナイフは皮膚は切ることが出来たが、骨で止まってしまった。
……硬すぎじゃね?
パッと見羽が生えているだけで普通の人間と変わらないけど、皮膚とか骨は完全に別物だわ。
これはもう少し切れ味のいい武器じゃないと無理だな。
殴ってもあまり効かない。
斬ることも出来ない。
脳筋にとっては結構めんどくさい相手だった。
「最近は強くはないけど面倒臭いやつが多いな。悪魔なら魔法耐性も高そうだけど、魔法でちゃんと死ぬかな?」
腕を切られて痛がっている悪魔の顔を掴み、一気に魔力を放出する。
そしてすぐに火魔法を発動した。
「あっつ!」
思わず手を放してしまったが、悪魔の頭は炎に包まれていた。
喉もちゃんと焼けたのかうめき声をあげている。
「あ、しまったな。聞きたいことがあるのに、喋れなくなったら使えなくなるじゃん。」
まぁ、魔法を意識的に解除するつもりはないが。
頭を抱えてゴロゴロ転がる悪魔を見ていると、隊長さんがやって来た。
他のエルフさん達は相当警戒しているのか、遠巻きにこちらを見ていて近づいて来る気は無いようだ。
「本物の悪魔か……。私は初めて見たんだが、君は見たことがあったか?」
「初めて見ましたね。悪魔という存在は知っていましたけど、お話の中だけの存在で実在するとは思ってませんでしたよ。」
「そうなのか。普段使わない魔法を使うということは、打撃だけでなく切断にも耐性がある感じか?」
「打撃にはすごく耐性がありますね。まぁ、ダメージがないだけで吹き飛ばすことは出来ますけど。切断に関しては私の腕が悪いので何とも言えません。とりあえず逃げられない様に羽を斬り落としてみて貰えませんか?」
私の普通のナイフでも皮膚は切れたんだし、隊長さんなら骨ごといけるんじゃないかな?
ちょうど火も消えてしまったので、正面から悪魔の両腕を掴んで隊長さんが切りやすいように悪魔の背中を向ける。
悪魔って毛も凄いのか、あれだけ燃えたのに髪も眉も禿るどころかチリチリにすらなってないんだよ?
凄いよね。
隊長さんは剣を抜き、上段に構えた後一気に振り下ろした。
羽は根元だけを残して綺麗に斬り落とされたようだ。
悪魔の羽には痛覚が通っていたのか、斬られた後叫んでうるさかった。
うるさくてイラついたので、壁に押し付けた後足で腹を抑え、両腕を全力で引っ張った。
打撃にも切断にも高い耐性があったけど、伸縮性はどうなのかな?
最初は抵抗を感じていたが、すぐに関節が外れてしまったのか力が抜け、腕は問題なく肩の辺りから千切れた。
遠巻きに見ているエルフさん達もこれにはドン引きだ。
とりあえず失血死されると質問は出来ないので、黒い血が流れ出る断面を火魔法で焼いておいた。
「もう……やめてくれ……。殺してくれ……。」
喉が焼けたためか少し話しにくそうだが、悪魔が懇願してきた。
悪魔もいい感じに弱ったようだ。
という訳で質問をしよう。
何を聞こうかな?
「魔王様に仕えてるって言ってたけど、魔王ってどんな存在?」
……答えないようだ。
悪魔の右足の膝関節を逆に曲げて、もう一度質問してみる。
「魔王ってなんなの?」
「ま、魔王様はヒト種の数を減らすために神によって生み出された存在で、ダンジョンを作り出す力を持ったお方です。」
……へ~。
魔王がダンジョンを作っているのか。
……わざわざあちこちに行ってダンジョンを作っているわけじゃないよね?
遠隔でダンジョンを生み出しているのかな?
結構気になるね。
ダンジョンが無いとレベル上げが捗らないから殺すつもりはないけど。
「なにか聞きたいことはあります?」
とりあえず隊長さんにも聞いてみる。
「そうだな……。お前はなぜこのダンジョンにいたんだ?ここのモンスターを率いてどこかを襲うつもりだったのか?」
「魔王様の脅威となるドラゴンの数を減らすために、周辺のドラゴンの巣から卵を盗むか破壊するようにと命令されて……。」
それでドラゴンさんが依頼だけじゃなく送迎までしてくれたんだね。
巣に入り込まれて卵を盗まれるなら、そりゃ優先度高くなるよね。
「……これ、どうします?一応生かしておいて、ドラゴンさんに渡した方がいいですかね?」
「……一応連れて行こう。今日1日待って、ドラゴンが来たら身柄をどうするか聞くなどして、来なかったら殺しておくべきだな。」
「分かりました。」
それじゃあキリもいいし、一旦戻るかな。
そろそろお昼ご飯の時間だから戻りたかったんだよね。
こいつはどうするかな?
「悪魔って千切れた手足が生えたりとかしますかね?」
「さすがにそれは知らないな。そもそも悪魔を討伐すること自体前例がないと思うぞ?」
そうなのか。
隊長さんでも普通に倒せそうな気がするけど……。
あぁ、そもそも悪魔と戦った前例がほとんどないのね。
とりあえず魔法を使いにくいように目を潰して、もう片方の足も関節を壊し、ロープを首に結んで引きずって帰ることにした。
外に出るとドラゴンがいた。
今日も大きいね。
お土産ありますよ。
……隊長さん、おなしゃす。
悪魔をつないでいるロープを隊長さんに渡し、昼食の準備を始めることにする。
今日のお昼は何にしようかな?
リュックの中はほとんどが肉だ。
とりあえず少しだけ残っている生肉を薄めに切って焼肉かな?
豚肉は塩胡椒派なので今は気にしないが、牛肉は焼肉のたれ派なのでバーベキューソースが欲しい今日この頃。
とりあえず焚き火を熾し、火が落ち着くまでの間に肉を切っていく。
分厚いお肉への憧れは捨てきれないけど、海外のバーベキューで食べられる分厚いお肉は6時間から12時間も低温で焼くんだよ?
自分ではやりたいと思わないよね。
薄切りでサッと焼いてサクサク食べる方が性に合ってるんだあぁ~。
そういえば肉を焼くための網も欲しいな。
網の大きさは大きくなくていい。
1人焼肉用の網とか作れないかな?
帰ったら注文してみるか。
金さえちゃんと払えば作って貰えるやろ~。
そんなことを考えながらも、切ったお肉に手際よく塩をかけていると隊長さんがこっちに来た。
さっきドラゴンさんが空にブレス噴いてたし、引き渡して処理も終わった感じかな?
ダンジョン攻略はまだ1階しか出来ていないけど、諸悪の根源である悪魔の身柄引き渡しもしたんだから、これはもう報酬を上げてもらうしかないよね。
「引き渡してきたぞ。悪魔はドラゴンのブレスで跡形もなく消え去った。……恐ろしいものだな。」
「骨すら残らない火力は怖いですね。なにか言ってましたか?」
「『感謝する。ダンジョン攻略の方もこのまま頼む』とのことだ。」
……報酬についてはなかったのかな?
まぁ、期待だけしておこう。
今は肉だ。
火もいい感じに落ち着いている。
網ではなくフライパンで焼くことになるが、フライパンにはフライパンなりの良さがあるはず。
じっくりと見極めて焼かねば……。
「……君は食事の時が一番やる気に満ち溢れているな。」
隊長さんに若干呆れられている気もするが、美味しい昼食のため、集中して肉を焼くのだった。
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