第66話 快適な空の旅なんてなかった

まぁいろいろとあったものの、ドラゴンさんも迎えに来ているということで隊長さんに若干引きずられながら移動して、ダンジョンに行くための準備を開始する。


私の準備は主に食べ物だ。

武器とか最近じゃフライパンしか使ってないからね。

それも戦うためじゃなくて料理するために使ってるだけだし。

さすがにナイフを包丁代わりに使ってはいない。

そこはちゃんと戦闘用と料理に使う用で分けて使っている。


さて、そんなわけで(正直準備することないな~)と思っていると、隊長さんに1冊の本を渡された。

表紙には何も書かれていない。


「それは以前言っていた転移者が書き遺した物だ。私達とは違う言葉で書かれているから読めなかったのだが、君には読めるか?」


へ~。

とりあえず開いて中を見てみる。

日本語で書いてるね。

英語とか中国語だったら読めないところだったぜ。


え~っと、

『この世界にはステータスが存在する。ステータスには(Lv)(HP)(MP)(STR)(MAG)(SEN)(COG)(INT)(LUC)がある。』

ここは知ってるしどうでもいいかな。


ざっと見た感じ、鑑定か何かで得られた情報を出来る限りまとめたような内容だった。

人間だけでなく、モンスターの名前とそのモンスターが持っているスキルも書いてある。

これは嬉しいね。

欲しいスキルがあるときに、どのモンスターを狩ればいいのかを知っていれば、行くべきダンジョンが聞きやすいからね。

挿絵とか一切ないから名前とスキルしか分からないけど。


「一応知っている言語なんで読めますね。この本は貰ってもいいんですか?」


隊長さんに聞いてみる。


「あぁ、そのためにこの国まで連れてきたようなものだからな。しかし本当に読めたのか。どんな内容だった?」


「鑑定で得られた情報をまとめただけって感じですね。」


「そうなのか。ダンジョン攻略が終わったら解説してもらいたいものだな。」


……フラグでも建ててるのかな?


「ところでこの本って本人が書いた物なんです?結構新しい感じがしますけど。」


「いや、それは複写した物だぞ。」


そうだよね。

文字は読めなくても複写は出来るもんね。

読めない文字だとしてもちゃんと複写して後世に残す。

素晴らしいね。


「それなら遠慮なく貰えそうですね。他にもこういう本ってあります?」


「何冊かあるぞ。まぁ、それは終わってからだな。」


あるんだ。

これは仕事すればドラゴンとは別で本を報酬として貰えるっていう流れでいいのかな?

少し、ほんの少しだけやる気が出てきたぞ。

働きたくないでござる。




しばらく待っていると、隊長さんの方も準備が終わったようだ。

ドラゴンに送って貰えるとのことで、隊長さんのとこの隊員全員は連れて行かず、実力者らしい4名のみ同行させるらしい。

あ、私もだけど、エルフちゃんとパットン君はドラゴンに頼まれたときに一緒にいたから強制参加だよ。

酷いよね。

ちなみに、エルフちゃんにドラゴンが迎えに来たことは一切伝えていない。

待ち合わせ場所に行ったときにどんなリアクションをしてくれるか楽しみだね。


という訳で移動だ。

隊長さんを先頭にのんびりと歩いて移動する。

後ろには新たに加わった実力者エルフさん達。

街から出て1時間ほどのところで、ドラゴンさんが見えた。

エルフちゃんは驚いてくれたようで綺麗な2度見だった。

パットン君は驚いていなかったので、ドラゴンが街に来たことを知っていたのかもしれない。


「おぉ!来たか。少し増えたようだな。まぁ、問題ないぞ。背中に乗ってくれ。」


ドラゴンさんはやる気満々だけど一つだけ確認させてほしい。


「一つ聞きたいんですけど、背中に乗っている状態で飛んだ場合、乗っている私達が勢い余って吹っ飛ばされたりしませんよね?」


……この場の空気が凍り付いたよ。

誰も知らないみたいだね。

エルフさんたちが知らないのは分かるけど、ドラゴンさんも人を乗せて飛んだことはないみたいだね。

パラシュートを本気で準備した方がいいのかもしれない。


「た、たぶん大丈夫じゃろ。ゆっくりと飛びさえすれば、掴まっていれば落ちることはないはずじゃ。」


ヤバいね。

ドラゴンという存在に対して抱いていた憧れが見事に消え去ったよ。

流石ドラゴン、攻撃なんかされなくても命の危機を感じるんだね。


まぁ、今更全員逃げられないのでドラゴンの背中によじ登る。

エルフさんたちも凄く緊張してるね。

触るのにも緊張してたし、登るのにも緊張してた。

今は背中に座っているだけなのに凄くブルブル震えてるよ。

まだフライト前だよ?

シートベルトはないけど墜落の準備しなくて大丈夫?


ちなみに私は掴みやすそうな背中のボコボコを握る練習中だ。

背中にロープを巻きつけられそうな感じじゃないし、胴体を一周できるほどの長さのロープは無いからね。

となると背中のどこかに掴まるしかないよね。

エルフさんたちはどうするのかな?

……普通に諦めてるみたいだ。


とりあえず、前みたいなロケットスタートじゃなければ大丈夫でしょ。

ドラゴンさんに離陸と加速と着陸をゆっくりやるようにお願いする。

フリじゃないからね。

一瞬で飛び上がって、一気に加速して、急ブレーキで着陸するんじゃないぞ。

信じてるからな!


さぁ……離陸だ。




2時間程の空の旅だったが、何事もなく目的地周辺に着いた。


全員無事だったけど、やっぱり空中で加速したときに何人か危なかった。

隊長さんの指示で全員の腰にロープを結んでいたから良かったものの、下手したら2人程落下してたよ。

あと問題だったのは、飛んでいる際に受ける風がやはり強く、服を着ていても結構寒かったことくらいだ。


まぁ、それくらいの問題で済んだのは、低い高度でゆっくりと飛ぶように粘り強く交渉したおかげだろう。

寒さはちゃんと準備をすれば何とかなるかもしれないけど、高度が上がると気圧の変化で高山病みたいになるかもしれないし、酸欠になるかもしれないからね。

エルフの人たちは知らなくても不思議じゃないけど、ドラゴンさんも(高山病?酸欠?何それ?)って感じだったからね。

本当に結構頑張って交渉したよ。


無事に着陸して全員がドラゴンさんの背中から降りたけど、未だにエルフの方々は全員震えあがっている。

やっぱり長時間強風を浴び続けたのは寒過ぎたみたいだね。

一応離陸前数人に「上から服は着ないんですか?」って聞いたんだよ。

全員からすっごく不思議そうな目で見られたけど。


さて、そろそろ個人的には落ち着いてきたし、行動を開始したいのだが、隊長さんを含めて、みんな寒さで震えていて何も出来そうにないんだよね。

せめて拠点の確保をしてから休んで欲しいなぁ。


という訳で暇なので周囲を観察する。

うん。

もう1匹ドラゴンさんがいるね。

こっちに来てるわ。


「連れてきましたか。……1人しか無事に見えないのですが、この者たちに頼んで、本当に大丈夫なんですか?」


「う~む、誰かを背中に乗せて飛ぶのは初めてだったからの。まさかこうなるとは思わんかったわい。」


「そうですか。逆に1人だけ無事だったのは何故でしょう?」


「その者は気圧とか酸素などとよく分からんことを言っておったから、何かしらの知識と対策があったのではないか?散々『低い高度で飛ぶように』と言っていたしの。」


「翼も持たぬ者が私達よりも空に詳しいと?おかしな話ですね。」


ドラゴンさんが何か言っているが、それよりも複数のモンスターが近づいてきていることの方が気になる。

オラ!こっちにはドラゴン様がいるんやぞ!


現れたのは……、なんだろうねこいつ。

クル〇ヤック?

登場ムービーで卵とか盗んでいそうなモンスターだった。

大きさ的にもゲームでいう金冠サイズって感じだが、それが4匹だ。

感覚的にはそこまで強くなさそうだけど、ガンランス持ってないから手こずるかな?


「またですか。そのモンスターが今回攻略を依頼したダンジョンから溢れ出ているモンスターです。一匹一匹の強さはそうでもないのですが、卵を盗む習性があるので大量に発生すると非常に迷惑なモンスターとなります。」


マジかぁ。

私の知ってるモンスターとそっくり~。

ゲームの世界から飛び出してきちゃったのかな~?


とりあえずドラゴンさん達から(お前、倒してみろ)的な圧を感じるので、

戦ってみる。

とりあえず突撃して、横をすり抜けるように移動しながら手刀ナイフで首を一閃。

……斬れてない……だと……。


実際には少し切れて血が出ているが、皮膚が結構切断に耐性がありそうな感じで、余程の切れ味か腕がよくないと首を切り落とすのは難しそうだ。

手刀ナイフは切れ味には自信がないからね。

とりあえず喉に手刀を突き刺すことで倒せた。

ダンジョン産のモンスターは死体が消えるから分かりやすいね。


モンスターはあと2匹いる。

まぁ、どんな攻撃が効くのかいろいろと試してみるか。

いろんな部位を殴って蹴って、針金で首を絞めてみたり普通のナイフで

斬りつけてみたり。


結果、ハンマーで頭を殴るのが一番簡単に倒せそうだった。

シンプルイズベスト

ダンジョンから溢れ出ているってことは、このモンスターが大量発生しているってことだろうし、後でハンマーは作っておこうかな。

重めの石を探して錬成魔法で形を整えれば、とりあえずハンマーとして使えるだろ。

ゲームみたいなハンマーをグルグルしながら振り回すんだい!


そんなことを考えているとドラゴンさんが話しかけてきた。


「いろいろと試していたようですが、問題なく倒せましたね。ですがダンジョン内は今のモンスターが大量に発生しているでしょう。油断はしないことです。」


ドラゴンさんが常識人っぽいから助かるわぁ。

横暴だったらドラゴンの毛を求めて解体作業に取り掛かってたね。

どこに毛が生えているのか分からないけど。

どこにも生えていなくね?

弓矢の店員に騙された?

それとも毛の生えたドラゴンがいるのかな?


まぁいいか。

今のモンスターは1匹で2%経験値増えるし、今回はモンスターの駆除を頑張ろうかな。




未だにガタガタと震えているエルフさん達の回復を待ってから、ダンジョンへと移動するのだった。

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