第64話 上から来るぞ!気を付けろ!
今日はエルフのみんなと一緒にエルフの国へ観光しに行くんだ!
……はい。
曇天の空の元、渾身の出来栄えの台車を引いて朝から門の外へと移動しています。
待ち合わせの場所とか時間は聞いてないし、適当に歩いていたら追いつくか、待っていてくれるっしょ!
エルフの3人が追いついてきたのは2時間後だった。
「まさか待つことなく普通に出発しているとは思わなかったぞ。」
「特に場所も時間も聞かなかったので、適当に歩いていれば合流できるかな~と思ったので。」
(まぁ、人前で美男美女に話しかけたくなかったし話しかけられたくなかっただけなんだけど……。)
何事もなく合流できたので、隊長さんを先頭にのんびりと歩く。
盾持ち君の名前はパットンと言うらしい。
なんか歩きながら自己紹介された。
エルフちゃんは……ソフィーナだったかな?
隊長さんがソフィーアだったことはちゃんと思い出したのだが、エルフちゃんはナだったかヌだったか完全に記憶から消えていた。
昔から人の名前を覚えるのが苦手だったのだ。
そもそも他人を名前で呼ぶことがほとんどないので、名前を覚えていなくてもだいたい何とかなるのだ。
そんなこんなで会話はうまく広がらないが、主観的には良好な関係を保ったまま3日が過ぎた。
今現在森のど真ん中だ。
守る必要がある者がおらず、戦力的にも余裕があるので、森の中を突っ切る最短距離を進んでいた。
パットン君はエルフの中で、若手の有望株らしい。
まぁ、堅実で実力のあるタンクはパーティーに1人は欲しい人材だもんね。
エルフちゃんも戦闘面においては将来を期待されているそうだ。
力はそこまで強くないがとにかく器用で、剣・槍・弓・魔法の扱いがエルフの若手の中では相当高い方らしい。
普通は得意な武器と、その武器の弱点を補う武器に絞って鍛錬をするそうだが、なんでも高いレベルで出来てしまう分、本人だけでなく周りの人も含めて教育方針に迷っているそうだ。
天才ってどこにでもいるんだね。
料理壊滅系女子としか認識してなかったよ。
エルフ隊長?
まずパットン君やエルフちゃんと比べると、圧倒的にステータスが高い。
本気は見てないから私と比べることは出来ないけど、エルフの中でも相当強いそうだ。
そういえばあの変な仮面は付けてないね。
まぁ、人間の国であんなの付けてたら無駄に目立つからだろうけど……。
『大型を1人で討伐できる』だったっけ?
大型と言えばダンジョンで見たあの超巨大進化イノシシくらいしか思い浮かばないけど、あれを単独で討伐できるなら私より上かあまり変わらない感じかな?
普通に強いから敵対したくないね。
少し気になったので、隊長さんに大型モンスターよりもヤバイモンスターについて聞いてみた。
そしたら目の前に下りてきた。
ついでに風圧が物凄かった。
「呼んだか?」
「……呼んではいませんね。」
目の前にいるのはマジモンのドラゴンだ。
デカ過ぎて、ドラゴンが頭を下げていても見上げる形になるので首が痛くなりそうだ。
というか普通に喋ったな。
会話するだけの知能があると喜ぶべきなのか、知能があるということは敵対したらヤバいと慎重になるべきなのか……。
「そうか。大型モンスターより危険なモンスターについて聞いていたので、私のことについて知りたいのかと思って下りてきたのだが……。」
ドラゴンさんって凄く耳がいいんだね!
……とはならないよ?
これは……隊長さんにハメられたか?
隊長さんも凄く驚いてるけど。
う~ん……。
状況が分からん。
なんで下りてきたんだ?
「まさか聞こえてるとは思いませんでしたね。なんで下りてきたんですか?呼ばれたら下りてくるって訳ではないでしょう?」
「まぁな。少し困っていることがあり、其方らに頼みたいことがあってな。」
其方ら?
ってことは隊長さんが仕組んだ訳ではないのか?
ドラゴンの頼み事とか逆にワクワクしてくるね。
料理系だったらエルフちゃんを生贄に捧げるんだ!
「実はあそこに見える山の中にダンジョンがあるのだが、ここ最近は常にモンスターがあふれ出ている状態なのだ。少しなら我らでも対処できるのだが、あふれ出ているモンスターがあまりにも多すぎて、こちらにも被害が出ている状態でな。」
ドラゴンさんの向いている方を見てみるが、山は見えない。
どれだけ離れた山の話をしているんだ?
というかドラゴンなんだからダンジョンくらい簡単に潰せるでしょ?
「我々は体が大き過ぎるからダンジョンには入れないのだ。入り口を埋め塞いだりもしたのだが、大襲撃の度に掘り返されて外に出てくるからどうしようもなくてな。」
大変そうだね~。
ぶっちゃけドラゴンの事情には興味ないけど、ダンジョンか……。
ドラゴンが手こずるモンスターって何かな?
とりあえず頼みとしてはダンジョンの攻略なんだろうけど、期間と報酬が分からないとな~。
「了解いたしました。エルフの国に戻り次第、準備を整えてダンジョンの攻略に参上いたします。」
隊長さんが答えてしまった。
やる気満々だね!
……私も行かないといけないのかな?
「そうかそうか。ダンジョンの周辺には我と変わらぬモノがおるから迷うことはないだろう。では頼んだぞ。」
来た時と同様に物凄い風圧をまき散らしながらドラゴンは飛んで行った。
オスプレイもびっくりの垂直離陸速度だね。
ロケットかよ。
「ドラゴンとお話ができるとは、凄い経験をしましたね。満足したので帰ってもいいですか?」
「ハハハ。手伝え。」
……Yes以外の答えだと殺されそうだ。
非常に空気が重いが、我々はエルフの国に向けてペースを上げて進んでいた。
こっちは台車を引いてるんだぞ~。
ついでにエルフちゃんとパットン君がもう少しでスタミナ切れを起こしそうだ。
ドラゴンに頼まれた以上、断る選択肢は無かったのだろうが、隊長さんも真面目だなぁ。
私ならダラダラとはぐらかしちゃうね。
ダンジョンまでの送り迎えぐらい手伝え~。
日給はいくらなんですか~?
そんなことを考えながら歩き続け、エルフちゃんが完全にダウンしたので、この日はここまでとした。
相当短縮したそうで、明日には着くそうだ。
早いね。
「そういえば、なんであんなにアッサリ引き受けたんですか?ドラゴンが手こずるダンジョンなんて、危険性が全然違うでしょう?」
「あのドラゴンは昔に1度、会ったことがあってな。普通は話しかけるどころか近づきもしないのだが、今回のように頼みごとがある場合にはこうして現れるのだ。鑑定の魔法が使えるみたいで、私達を見て『頼んでも問題ない』と判断したから頼んだのだろう。ダンジョンの危険性についてはあまり心配していない。」
……え~っと。
隊長さんはあのドラゴンとは面識があった。
1度しか会っていないのに複数回頼まれたような話し方だったし、何度かドラゴンは隊長さんに限らずエルフに頼みごとをしているのかな?
あとドラゴンは鑑定能力があって、使える人材に適切に仕事を押し付けていると。
「あのドラゴンから報酬って出るんですかね?」
「私の時は牙を1本貰ったぞ。それを削って作られた剣は、エルフの国の国宝になる程の価値が付いた。」
……牙を貰った隊長さんの報酬は?
あと私が貰えそうな報酬。
「私の報酬?あぁ、その国宝となった剣の代わりに、今持っているこの剣となかなかの大きさの屋敷を貰ったぞ。君にも何かしら貰えると思うが、仕事の内容や結果によって貰えるものにバラつきがあるみたいだからな。正直報酬に関しては『何かしらの物を貰える』ということ以外分からない。」
そうですか……。
正直不安しかないが、報酬も少し楽しみなので頑張るとしようかな?
こうしてドラゴンに頼まれた仕事を抱え、次の日の昼過ぎにはエルフの国に着いたのだった。
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