第63話 露店にあったとんでもない掘り出し物
さて、エルフさんたちとは分かれて先に街へと戻って来た。
全力で移動したらさすがにエルフちゃんとか盾持ち君は追いつけないだろうからね、仕方ないね。
エルフの国へ行くのなら、いろいろと準備も必要だ。
食料は後回しでもいいが、荷物を乗せて運ぶための台車が必要になる。
ギルドの台車を買い上げてもいいけど、自分で作った方が高性能なんだよね。
めんどくさいけど。
という訳で台車の材料を買いに来た。
やはり大事なのは木材だが、台車に使えそうな木材を売っている場所が分からないので、最初に鍛冶屋に来た。
台車を作るのに釘と金具が欲しかったからね。
ついでにいくつか注文できないか聞いてみた。
「そういえば、全く同じ大きさで真球の球って作れます?」
「同じ大きさの真球の球?無理だな。腕のいい職人でも絶対にバラツキが出る。同じ大きさには出来るかもしれないが真球は無理だ。」
やっぱり無理か。
当たり前に感じていたけど、ボールベアリングってこっちからすると凄い技術なんだろうなぁ~。
「それじゃあ全体の太さが同じ棒は作れる?」
「棒なら作れるだろうな。何か作るのか?」
「台車に取り付ける車輪の周りを鉄製にしたいんですよね。紙あります?…………こんな感じの構造にしたいんですよ。ここを鉄製にしたいのと、車軸を鋼鉄製にしたいですね。」
「これは……、少し前に見たな。ベネットが持ってきた設計図とそっくりだ。……お前さん、どこでこれを見たんだ?」
ベネット……?
あぁ、変人同郷貴族さんか。
「私がこの構造で作った台車を貴族さんに売ったんですよ。たぶんその設計図は私が作ったものを改良してあるんじゃないですか?」
たぶん合ってるだろう。
きっとサスペンションとかも付けて、ガタガタ道でも快適に乗れる馬車とか作る感じなんでしょ?
知ってる知ってる、物語で何度か見たよ。
「……そうだったのか。まぁ、貴族様の考えたものを盗んだのでないなら問題ない。これらのパーツを作るには少し時間がかかるぞ。棒一つとっても精度が必要だから時間がかかるし、ズレない様にするためのここのパーツには手間がかかる。注文するなら1週間から10日はかかると思ってくれ。それに金も必要だが……、全部で金貨50枚にしとくか。払えるか?」
金貨50枚か。
少しお高めだね。
この店に置いてある全商品より高いんじゃないの?
まぁ、問題ないけど。
手持ちの袋から金貨を一掴み取り出して見た。
……28枚か。
「先に30枚払っておいて、完成したら追加で20枚払うのでどうかな?」
金貨を2枚、追加で出しながら聞いてみる。
「それで問題ないぞ。……金貨30枚、確認した。ちょっと札を用意するから待っていてくれ。」
注文の内容と支払いの内容が書かれた札を受け取って、木材はどこで手に入るのかを聞いた後に鍛冶屋を後にした。
そのまま材木商に行き、必要になりそうな分の木材を確保し、家の前に送ってもらうことにする。
(これで台車は鍛冶屋待ちかな?いや、上の荷台部分だけでも先に作っておくか。)
そんなことを考えながら歩いていると、露店であるものを見つけた。
スキルオーブに見える。
スキルオーブはダンジョンでしか手に入らないし、使えばスキルが手に入ることもあって売られているところを見たのは初めてだった。
ちょっと聞いてみよう。
「それっていくらなの?」
「ん?これか?これは……金貨1枚だぞ。」
こいつ価値が分かってねぇな。
間違いない。
それとも偽物?
……まぁ、買ってみるか。
「そうか……、買うことにするよ。」
露店の男は凄く驚いた様子だったが、金貨を受け取りご機嫌だった。
(それじゃあさっそく使ってみるかな。)
スキルオーブっぽいのもを握りつぶすように割る。
____________
Lv.29(0%)
・HP(体力):98/100
・MP(魔力):98/100
・STR(筋力):100
・MAG(超感覚):100
・SEN(器用さ):100
・COG(認識力):100
・INT(知力):50
・LUC(運):100
SP.9
スキル
・ステータス割り振り
・破魔魔法(3/100)
・火魔法(14/100)
・物理魔法(35/100)
・錬成魔法(1/100)
____________
本物のスキルオーブだったみたいだけど……錬成?
なんだろ?
錬金とは違うよね?
う~ん……。
後で使ってみるか。
自宅に戻りさっそく魔法を試してみる
魔力を放出してみたが、魔法が使える感じがしない。
「やり方が違う?錬成……、物に対して使う魔法なのかな?」
という訳で、タイミングよく木材が届いたので少し試してみる。
木材に魔力を流すようにして……。
お?今回は錬成魔法が使えそうだ。
軽く調べたところ、錬成魔法は魔法を解除するまでの間、物体の形を粘土のように加工することが出来る魔法だった。
「これ……超大当たりじゃない?金貨1枚でとんでもない物づくりチートが出来るようになった気がするんだけど……。」
まさしく粘土のように加工できるのだ。
違う木材にそれぞれ魔法を発動した後に、混ぜてこねると完全に1つの木材にすることだって出来た。
……出来ていなかったらまた買い直さないといけないところだったが。
後先考えずに、いろんな物の形を変えてしまうほどに大興奮だった。
その時目に入る金庫……。
「この魔法って、金庫に対して使ったら鍵とか意味をなさなくなるんじゃ……?」
試すことにした。
さすがに扉と鍵は怖いので横の箱部分に対して使ったが……。
結果としては、簡単に箱に穴が開いた。
その後頑張って修復した。
あの男がどこでスキルオーブを手に入れたのかは知らないが、金貨1枚で売ってくれたことに心の底から感謝!
その日は、この世界に来てから初めて、夕食を食べることを忘れたのだった。
1週間が経った。
隊長さんやエルフちゃんからの連絡はまだ無い。
台車の荷台部分は非常にこだわって作り上げていた。
まず、底が木製の一枚板なのだ。
ベニヤ板など見たことが無いこの世界では革新的だろう。
問題は台車に使うために買った、釘や補強のための金具が必要なかったことくらいだが、錬成でインゴット状にすることができたのでいつか何かに使うだろう。
ついでに昔使ってた鋼鉄の棒もインゴットにしたし。
こんなことしてたら鋳造所に喧嘩売っちゃうな~。
『錬成魔法』は物の形を変えるだけなので、いくつかの金属を混ぜても合金にはならない。
まぁ、金属としては強度が物足りないのかも知れないが、半端なく便利なスキルだった。
問題は、さすがに素材が違いすぎると一体化はしないことくらいだ。
少なくとも木材と鉄は混じり合うことが無かった。
違いすぎる場合でも埋め込むことは出来るが、強度が結構不安に感じたので、別々に作って取り付けた方が安全だろう。
とりあえず今日は鍛冶屋に行って、車軸周りのパーツが出来たか確認しに行く。
鍛冶屋のおっさんは少し忙しそうだ。
これはまだできていないかな?
「おう来たか、注文の品は昨日できたぞ。」
このおっさんマジ有能。
圧倒的感謝。
「ありがとうございます。支払いは金貨20枚で足りましたか?」
札と残りの金貨20枚を出しながら聞いてみる。
「問題ない。手間は少しかかったが、だいたい予定通りに完成したからな。」
支払いを終え、注文したパーツを確認しながら袋にしまっていく。
全て問題ないようだ。
おっさんは忙しそうだったが一つ聞きたいことがあったので質問してみる。
「そういえば、針金とかワイヤーってあります?」
「針金なら一応あるぞ。高くて誰も買わないから店に並べてないけどな。いろいろと使えて便利だが、加工にめちゃくちゃ手間がかかるからどうしても高額になるんだよな。おいしょ。これで金貨20枚だ。」
直径2センチ、長さ30センチほどの木の棒にグルグル巻きにされた針金が金貨20枚。
確かに高く感じる。
買うけど。
自分で針金を作れないか試したけど全滅だったのだ。
きっと作るには特殊な加工段階があるに違いない。
知らんけど。
とにかく(欲しいな~)と思っていた針金も手に入ったのだ。
ウッキウキで鍛冶屋を出た。
最近運がいいのである。
やはりステータスの(運)を最大まで上げたおかげだろうか?
正直ステータスの(運)など胡散臭くて信用していなかったが、これは認識を改めるべきなのだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、エルフちゃんがいた。
まだこちらには気づいていないようだが、何かを探しているのかキョロキョロしている。
ひっそりと近づき声をかけた。
「何か探し物?」
驚いたようである。
うん、いいリアクションだ。
「あ、ああ、あの!3日後にこの街を出るので準備を済ませていて欲しいと。数日なら遅らせても大丈夫なので連絡して欲しいとのことです。」
3日後か。
買い物も台車を完成させるのも問題なく終わりそうだな。
「分かりました。問題ありません。……何探してたの?」
「え?……え~っと……。連絡しようにもニートさんがどこに住んでいるのか知らなくて……。」
そういえば言ってなかったね。
ギルドで聞いたりはしなかったのかな?
いや、少し前に『私の情報を漏らすな』と警告したばかりか。
ちゃんと守ってくれているのだと信じよう。
とりあえずエルフちゃんに住んでいる場所を教えた後別れた。
日持ちする食料と水の入った樽を買いに行かないといけないからね。
一応樽の方は、数日前に準備してもらえるよう、お金を払って頼んでおいたから問題ないだろう。
日持ちするお肉の方はとっくに備蓄済みだ。
なんなら毎日おやつとして少しづつ食べてる。
塩分が非常に多いので、将来の健康が心配だ。
帰りに肉屋で生のお肉をたくさん買い、雑貨屋で樽を明日にでも家まで運んでもらえるように頼んでから家に帰った。
いよいよエルフの国に向けて出発か。
……結構楽しみだな。
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