第61話 ついカッとなってやった、少し後悔している。
王都は広かった。
適当にぶらついていても宿が見つからなかったので周囲の人に聞いてみると、宿のある通りは方向が逆だったようだ。
来た道を戻ってみると、何軒か宿があった。
とりあえず一番高そうなところに入ってみる。
部屋のグレードはいくつかあったが、上から2番目の部屋しか空いておらず、今夜と明日の朝の食事を含めて銀貨5枚だそうだ。
高いように見えるが、なんとこの宿お風呂が付いている。
それも個室に風呂があるのだ。
部屋に案内してもらった時に使い方などを含めて教えて貰ったが、浴槽に2つの魔道具が取り付けてあり、一つは水を出す魔道具で、もう一つは浴槽の底を温める魔道具らしい。
『水ではなく浴槽の底を温めるので、よく混ぜてから入浴してください』とのことだ。
住んでいるところは銭湯が近いので『家に欲しい欲しい』とは思わないが、(こんな魔道具もあるのか)と興味深かった。
後で知ったことだが、この宿はお金持ちが異性を連れ込むことで有名らしかった……。
まぁ、そうだよね。
宿も決まったので、また街に出て買い物をすることにする。
明日には王都を出てダンジョン巡りをしながら帰る予定なので、食料や水の買い足しをするのだ。
基本的にギルドの用意した荷物を消費していたので食料はあまり減ってはいないが、一応買い足しした方がいいだろう。
(どうせなら美味しくて長持ちするものがないかな~?)と思いながら歩いていると、心の友を見つけた。
お米だ。
精米していないので一瞬見逃すところだったが、米が売られていた。
殻はついてないけど茶色いし、玄米ってやつかな?
白いお米しか見たこと無いから確信が持てない。
という訳で聞いてみる。
「これってお米?食べられる?」
「おぅ!もちろんだ。このまま食べても美味しくないが、洗った後に水を入れて炊くとなかなか美味いぞ。」
煮るんじゃなくて炊くんだね。
OKOK理解した。
お値段は?
1キロ銀貨2枚。
……普通かな?
麦より少し高いくらいか。
これってどこで作ってるの?
海沿いの町や村以外ならどこでも作ってるの?
そっか~……。
とりあえず10キロ買うよ。
はいお金。
そういえば米を炊くための専用鍋とかどこかで売ってる?
あっちの鍛冶屋ね。
……ところでこっちから港町までお米を輸送したりとかはしてない?
してないのか。
いや、また買いに来るよ。
ありがと~。
この後、もちろん鍛冶屋に行った。
当然のように1人用の釜を買った後、(そういえば米の量を計る方法がないな)と思い、雑貨屋にも行った。
雑貨屋には米を量るための升が置いてあった。
単位は『合』らしい。
絶対転移者か転生者が広めたね。
確信したよ。
道場で聞いた3代前の人かな?
まぁ、どうでもいいか。
これでお米が食べられるんだから。
ウッキウキで歩いていると、一切見覚えのない女性に声をかけられた。
「少しよろしいでしょうか?」
「……なんですか?」
「初めまして、私はレスリーと申します。『魔法協会』という魔法使いをサポートする組織の代表をしておりまして、ニート様は魔法が使えるということで、お話をしたいと思い参りました。」
……殺すか。
まぁ殺すのは冗談としても、どこから情報を持ってきたのかな?
ほぼ間違いなくギルドだと思うけど、殺す前にそれだけは聞き出しておかないとね。
勝手に個人情報を漏らすやつがいたらぶっ殺してやるんだ。
『情報を流すのは違法じゃない』とか私には関係ないし。
「そうですか。ここは人通りが多くて立ち話だと邪魔になりそうですし、そっちに行きませんか?」
「えっと……、そうですね。」
裏路地に入り、周囲に見ている人がいないかを確認し、問題ないと判断したタイミングで、襟を掴んで壁に叩きつけた。
「誰に私のことを聞いたんですか?」
「ゴホッ!な、何を……。」
質問の答えじゃないので、頭を掴んでもう一度壁に叩きつけた。
「こちらの質問にだけ素直に答えればいい。次からは指を一本ずつ切り落とす。誰に私のことを聞いたんですか?」
「ぎ……冒険者ギルドで冒険者の方がギルド長に報告しているのを聞いて……」
とりあえず左足の骨を踏み折った。
やっぱりギルドか。
今の言い方だと盗み聞きっぽいけど、情報を漏らしたことに変わりは無いんだし……
ギルドにはキッチリと警告しないといけないようだ。
とりあえずこの女はどうするかな?
……ギルドに連れて行くか。
腹パン一発でおとなしくなったので、髪を掴んでギルドへと引きずって移動した。
ギルドに着いた。
「ギルド長はどこ?」
とりあえず受付に聞いてみる。
「ぎ、ギルド長でしたら2階に……」
素直でよろしい。
奥に進み階段を登る。
2階に進むと、各部屋の扉にはプレートが張ってあった。
「会議室、資料室、休憩室、副長室、……これか。」
『ギルド長執務室』とプレートに書かれた部屋に入る。
中にはおっさんが1人。
とりあえず声をかける。
「私のこと分かります?勝手に私の情報を話してくれたおかげで、この女が私のところに来たんですけど。」
「レスリー!?君は……、まさか『ニート』か?」
「そうです。私は私のことを勝手に話されるのが嫌いなんですよ。今回は初めてなので見逃してあげますけど、次に私のことを話したら、話したやつも聞いたやつも、ただその場に居合わせただけのやつも、一切関係なく皆殺しにします。分かりましたか?」
「そ、そうか。すまなかった。君のことは二度と口にしないと誓う。だから彼女を離してくれないか?」
「……もう一度言っておくが次は無いぞ。」
ちゃんと警告もしたので、女を離した後に部屋を出た。
悪い面ばかりが目立つ『個人情報保護法』は無いのかもしれないが、だからと言って好き勝手に私のことをペラペラと話されたら非常にムカつく。
次にこの様なことがあった場合には適切に対処しよう。
『悪人』と言い切れない人を殺すのは好きじゃないけど、警告したうえで同じことをされたら喧嘩売ってるのと同じだよね。
自身の情報が知らない間に拡散される危険性は、インターネットが普及した時代を生きていれば誰でも知っていることだろう。
『人の口には戸が立てられない』という言葉があるように、インターネットが無くても情報は拡散してしまうのだ。
さすがにムカつくやつを全員ぶっ殺すような生き方はしたくないので、そんな生き方にならないためにも、今回キチンと警告しておけたことは悪くないことだろう。
そんなことを考えながらギルドを出た。
正直最悪な気分だ。
ムカつきはしたし警告したことも間違ってないと頭では思うのだが、『そんなことでいちいち怒るなよ』と自分自身の心に言われている気もする。
なんで手っ取り早く暴力で解決しようとするのかね?
年齢的に大人になった自覚はあっても、心が成長できていないのだと実感しながら宿へと戻るのだった。
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