第60話 王都に着いたよ。道場があったよ。

首は物理魔法で作った台車に乗せて運ぶことができた。

何を言っているのか分からないかもしれないが、(超感覚)を上げてから魔力を細かくコントロール出来るようになったのだ。

昔は出来なかったが、今では魔力で車輪付きの台車を成形することが出来るようになっていた。

物理魔法を発動すれば見えない台車の出来上がり。

さすがに一切見えないわけではないけど、透明な台車って不思議だよね。


首の積まれた台車にたいちょーのおっさんも入れて、野盗の拠点へと移動した。


何事もなく野盗の拠点としていた場所に着いた。

拠点の中には様々なものがあった。

食べ物や酒、武器、金、何か書かれた紙に何に使うのか分からない物。

とりあえず金は全て頂いた。

中までついてきた冒険者4人は酒や武器、何か書かれた紙を持って行くそうだ。

真面目な4人組のことだ、紙に書かれた内容はきっと兵士に貴族が出した命令書か何かだろう。

もしやこうなることまで計算済みだったか?

私が野盗を殲滅し、拠点に金を回収しに行くことで、相手貴族の悪事の証拠も手に入る。

となると首のお届けには行かない方がいいのかな?

正直これから王都に着くまで毎日、物理魔法の台車を使ってまで持って行くのが面倒くさいんだよね。

ここは物事を荒立たせず、住む町の貴族に活躍してもらって恩を売ることにしよう。


ということでたいちょーのおっさんもお仲間と同じように処理した後、拠点内に首を丁寧に並べていく。

ほら、首が並んでおけば今後ここを拠点として使おうとする野盗が現れた際に牽制できるでしょ?

並べ終わったけど、壁の棚一面に首が並んでいると壮観だね!

たいちょーのおっさんの体は普通に『火魔法』で燃やした。

ちゃんと襲ってきたやつ全員の体は燃やしたんだよ?

病気が広がると困るからね。




さて、その後は何事もなく王都に着くことができた。

あらかじめ渡されていた通行証みたいなものを見せることで、門番に止められることもなく普通に街の中に入れた。

無事に王都の冒険者ギルドに着いたので、私の仕事はここで終了だ。


「これで依頼は完了ですね。お疲れ様でした。」


「あ、あぁ。ありがとう。助かった。」


リーダーさんは7日も一緒に行動したのに随分と態度がよそよそしい。

他3人は話すどころか近づいてこなくなってしまったので悲しい。

何かしたかな?

心当たりがあり過ぎて分かんないや。

特に用もないのでギルドの前で別れた。




さて、私は冒険者ではないので報酬は街に戻ってから受け取ることになっているが、数日は王都を観光するつもりである。

とりあえず今日の宿を探して歩き出した。

とりあえず街の中心を目指して移動する。


「お?ここはなんだろ?」


ギルドからそこまで離れていないが不思議な建物を見つけた。

なんというか……道場?みたいな感じだ。

建物がどこか日本風で、中からは威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

入り口のところから中を覗いてみると、十数人の若者からおっさんが剣を振っていた。

いや、剣ではないな。

鉄で出来てるけど素振り用の棒みたいだ。

筋トレかな?


「うちに何か用か?」


後ろから声をかけられた。

いつの間に?

こやつなかなかやるな。

見た目は若いけど……。

性別は……どっちだ?

中性的で分からん。


「いえ、初めて見る建物で中から声が聞えたものですから覗いていただけです。」


「そうか。……冒険者か?」


「違いますよ。ギルドで仕事は受けていますけど冒険者としては登録していません。」


「そうか……、そうだよな。いや、武器ではなくフライパンを腰に下げてるからおかしいと思ったんだ。」


フライパンの良さが分からぬとは、まだまだ未熟よのぉ。


「何言ってるんですか?私ならフライパンであそこにいるやつら全員ぶちのめせますし、冒険者ギルドだって崩壊に追い込めますよ?」


「ははは。何言ってるんだ。君は武術などは素人だろう?立ち振る舞いを見れば分かる。あそこにいる者たちの半数は鍛錬を積んだ強者たちだ。君ではとても相手にならないよ。」


「上等だ!表へ出ろ!」


「ここが表だよ。」


ツッコミが鋭い。

確かにここが表だね。

玄関前で話してるんだもんね。


「強がるのは構わないがフライパンでは格好が付かないよ。もう少し仕事をして、装備を整えてからまた来るんだね。」


「へ~。ところであなたは強いの?随分と上から物を言うけど、ぶっちゃけ私の足元にも及ばないと思うんだよね。ぶん殴っていい?」


「ふむ……。まぁ、一発だけなら付き合ってあげよう。」


それじゃあ遠慮なく。

いや、全力だと肉片しか残らないな。

寸止め出来るかな?

まぁ、軽くなら大丈夫か。


殴るために一歩踏み込んだところで相手は動いた。


たぶん殴ろうとしていた右腕を掴んで投げる気だな。

う~ん……。

認識力のおかげか相手の動きがよく分かるんだよね。

とりあえず左ボディーに切り替えるか。


完全に予想外だったのか一瞬動きが固まった。

驚いているのが分かるが、油断しまくっている。

途中で切り替えたし、当てること優先のトリッキーな軽いジャブだと思ってるのかな?

筋力のステータス高いからきついと思うけど、まぁいいか。


左の拳が相手の右わき腹を捕らえ、骨が軋む感触が拳を通して腕へと伝わってくる。

手加減もちゃんとして、押し飛ばすような形だったのでさすがに折れはしないが、体が浮いて4メートルほど飛んでしまった。

相手は当たる瞬間に自分から飛ぶことで威力を抑えようとしたのだ。

あの一瞬でそれを判断し実行できる、十分な実力者だった。

ステータス差があり過ぎて、戦うとなったら相手にならないが……。


「あれ?偉そうなこと言った割にやっぱりたいして強くないようですね。やっぱり見立ては間違ってなかったのかな?」


「ゴホッ!……正直凄く驚いたよ。こっちの動きを見てから攻撃を変えたくせにこの威力とはね……。確かにこのパワーなら武器とか関係なく強いかもね。その細腕でどうやってそんな力が出せるのか不思議でならないけど……。」


……細くないもん。

でも、意外と素直に実力を認めたな。

こういう時「インチキだっ!」ってなるのが王道だと思ってたのに……。


「そういえば、結局ここってなんなの?」


「ここは体を鍛え、武器の扱いを学ぶ道場だ。君の名は?」


また後ろから話しかけられた。

今度は普通におっさんだ。

見た目は筋肉ムッキムキマッチョマンの変態だったが……。

とりあえず上の服着て貰えないかな?


……それにしても『訓練場』ではなく『道場』か。

これは転移者か転生者の仕業だな?

道場を作るってことは武道に何か思い入れでもあったのだろうか?


「そうですか。誰が作ったんです?結構特徴的な建物ですよね?」


「3代前の師範、ケイサクがこだわって建てられたと聞く。それで、君の名前は?」


『ケイサク』か。

知らないな。

まぁ、日本人っぽい名前だね。

本名かな?

私は本名を名乗るのが嫌いだから『ニート』になったけど。

とりあえず、3代前ってことはもう生きてるか分からないな。

たぶん死んでるだろ。

別に会いたいとも思わないけど。

さて、用は無いし宿でも探すか。


「特に用はないのでそろそろ失礼しますね。」


「待て。」


変態がしつこい。

何の用があるのだろうか?


「なんですか?今日の宿を探さないといけないのであまり時間をかけたくないんですけど。」


「まぁ、そう言うな。君ほど力があるのなら馬鹿らしいだろうが、我々の修める武道は、本来力では及ばない魔物相手に戦うために積み上げられてきたものだ。それを馬鹿にされたままで帰すわけにはいかんのだ。」


……別に武道を馬鹿にした覚えはないんだけどなぁ。

ぶっちゃけレベル上げた方が手っ取り早く強くならない?

武道がどうこうではなくて、そもそもステータスに差があり過ぎると戦いにもならないって言うだけで……。

エルフ隊長みたいにレベルも上げて剣技も磨いてたら普通に怖いよ?

でもいくら技を磨いたとしても、貧弱なステータスだと圧倒的な力の前では無力じゃない?

さっきのだって軽くジャブ打つだけで勝てるから余裕をもって対処できたんだし……。


「とりあえず本題は?」


「ちょっと一戦付き合え。」




……ということで道場の中に入って、ちゃんと服を着たおっさんと向き合っている。

さっきの話だと『いくら相手のステータスが高くても武道を極めれば勝てる』って感じだったけど、このおっさんそんなに強いのかな?


「いつでも始めていいぞ。」


おっさんは随分と余裕そうだけど、攻めてくる感じではないな。

そういえば聞いておくことがあったんだった。


「一応聞いておくけど反則技とかある?」


「これは試合ではない。だから何をしてもかまわないぞ。」


そっか。

じゃあ魔法でいいかな?


「待て。魔法は話が違う。」


魔力を形成しているとおっさんが止めてきた。

『何をしてもかまわない』って言ったのに……。

こっちの魔法を感知したし、このおっさんも魔法が使えるのかな?

一応頭に入れて警戒しておこう。

どうしようかな?

とりあえず近づくか。

すり足でゆっくりと間合いを詰めていく。

おっさんの警戒心が上がったようだ。

まぁ、歩いてる途中の片足が浮いてる瞬間って狙いやすいよね。

わかるわかる。

さて、殴ると腕を取られそうだし、掴むかな?

警戒しながら腕を伸ばし、襟首を掴もうとすると後ろに下がって逃げてしまった。


「君は武道家と戦った経験があるのか?」


「ありませんけど?」


漫画で読んだ合気道の達人を思い出しながら戦っているだけだぞ。

だが、このままでは終わりそうにないので真面目に戦うことにしよう。


「仕方ありません。軽くいきますから死なないでくださいね。」


心優しき青年の私はちゃんと宣言をしてから攻撃することにする。

やることは単純。

ただの体当たりだ。

2メートルも離れていないので肩からぶつかるように一気に跳んでみた。

……うん。

普通に当たって吹っ飛んだね。

あれだけ自信満々だったのに反応鈍くない?


「……それじゃあもう行きますね。」


力に対抗できる武術の技が見れるかと思ったが期待外れだ。

もう少し修行してから偉そうな口を叩いて欲しいね。


誰にも止められることもなく道場を出て、宿を探して街を歩くのだった。

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