第59話 王都に向かうよ。寄り道もするよ。
宿暮らしをやめ、1人暮らしを始めてから10日が経った。
流石に何の問題も無かったわけもなく、家で料理するのに薪を買ってないとか、家で使う分の水を汲んでいなかったとか、そもそも水を汲むための道具すらないとか……。
まぁ、その他結構いろいろあった。
だが初めての一人暮らし、金ならある。
困ったことは全て金の力で解決した。
大した金額でもなかったし……。
さて、今日は超珍しくギルドに呼ばれた。
家にギルドの職員さんがわざわざ来たのだ。
なんでも仕事を頼みたいのだとか……。
怪しい。
冒険者でもないやつをわざわざ呼び出して『仕事を頼みたい』?
めんどくさいトラブルに決まっている。
という訳でギルドに来た。
前後の脈絡が無いと思うが暇だったのだ。
『一切のストレスがない人生は退屈だ』なんて言葉を昔聞いたが、本当に退屈だった。
『ニート』だしニートを辞めるつもりは一切ないが、少しくらいトラブルに首を突っ込むのもたまには悪くないだろう。
受付に行くと職員さんに案内されて会議室っぽい広い部屋へ。
中にはギルド長のおっさんと、見覚えはある4人パーティーがいた。
「来たか、座ってくれ。」
「座るのはとりあえず何の用があって呼んだか聞いてからで。時間かかるうえにクッソめんどくさそうならパスだから。」
宣言は大事。
ここで私に協調性がないってはっきりわからせてやるんだい!
たぶんこの4人と協力して何かして欲しいってことでしょ?
正直嫌だなぁ。
「そうか、今回はある荷物を王都へ輸送して貰いたくて呼び出させてもらった。内容は荷物を運ぶだけなので単純だが、王都への輸送なので少し時間はかかるがその分しっかりと報酬は出させてもらう。」
ふむ、王都か。
一度見に行きたいと思ってたんだよね。
行ってみようかな?
帰りにダンジョン巡りしてもいいし。
「そうですか。話くらいは聞いてもいいですよ。」
あくまでも上から目線でそう言って席に座ることにした。
内容は本当にシンプルな輸送。
問題は大規模な野盗集団が経路で何度も襲撃を行っていることだそうだ。
『普通に兵を出して討伐すればいいじゃん』と思ったが、隣の領へ逃げてしまうらしく、この領から兵を出してしまうと宣戦布告と取られてしまうそうで出来ないらしい。
私には指名手配したのに不思議なことを言うものだ。
輸送する物資は全て自由に使ってもいい食材ばかりで、大事なのは王都から野盗を討伐するための兵を送ってもらうように要請した嘆願書らしい。
最悪物資は捨てて、嘆願書だけ届けることでも問題ないそうだ。
(こっちの兵は宣戦布告扱いなのに王都の兵は送ってもいいのかな?)と思うが、王都の兵は国内どこでも自由に追い掛け回してもいいそうだ。
なんだろうね。
日本だと馴染みがないけど地方警察とFBIみたいな違いかな?
本来は4人パーティー単独で依頼するべきだが、早めに確実に対処したいので協力して欲しいとのことだった。
「以前野盗11名を遊び感覚で皆殺しにしただろう。今回はそれより数が多いことが確認されている。協力して欲しい。」
なんだろう、随分とギルド長が素直だ。
キモチワルイ。
あの偉ぶった態度はどこへ?
どうでもいいか。
「いいですけど報酬は?」
「最近金貨250枚で家を買ったということを聞いた。必要ないかもしれないが金貨250枚までは用意してある。」
……めっちゃ破格やん?
大丈夫?
そんなに野盗に襲われて参っちゃってるの?
この街崩壊の危機なの?
「分かりました。話の流れからして、この4人に付いていって王都まで護衛すればいいんですよね?」
「そうだ。この4人は腕はいい。だが流石に大勢に囲まれてしまうと命の保証はない。野盗の集団に襲われた場合のみ、1人で敵全員を殺すつもりで対処して欲しい。」
……それって王都の兵要らなくない?
私の報酬倍にしてくれたら今から殲滅してきちゃうよ?
なにか王都の兵を要請したい理由でもあるのかな?
あれ?そういえば以前王都から失礼な兵士が派遣されていなかったっけ?
まぁ、いいか。
王都ついでにダンジョン巡りするつもりだし、何も言わないでおこう。
「分かりました。」
こうして王都へと向かうことが決定した。
次の日の早朝。
食料などは全てギルドが用意するらしい。
なので特に準備することはなさそうだった。
一応最低限、自分の分の食料だけは急いで買ったけどね。
王都までギルドの用意した荷物は馬が引くそうだ。
嘆願書は4人のリーダーっぽい人が持つようだし、楽でいいね。
待ち合わせの場所に着くと馬に繋がれた荷馬車が用意してあった。
「今日からよろしく頼む。……武器は持って行かないのか?」
護衛する4人パーティーのリーダーっぽい人が挨拶しに来た。
そういえば武器持ってないね。
リュックから出しておくか。
「……それフライパンだよな?前は棒を使ってなかったか?」
なに!?
こやつわしが棒を使っておったことを知っているとは……古参だな。
どっかで見たことはあるんだよ。
でもここまで思い出せないってことは自己紹介すらしていないのかも?
「これは特注のフライパンです。これ一つで料理はもちろん、叩くことも、殴ることだって出来ちゃいます。これは良い物なんです。」
フライパンへの熱い思いが伝わったのか、リーダーっぽい人は何も言わなかった。
他のメンバーの準備も完了したようで、出発することにする。
さて、今更だが一つ言っておかなければいけないことがある。
「そういえば、私は馬を操れません。荷馬車は任せてもいいですよね?」
「そうなのか……、分かった。」
反応からして馬に乗ったことが無いのは普通のことのようだ。
荷馬車には1人なら座る程度のスペースはあるが、馬を操っている女の人以外、誰も乗ろうとしない。
真面目なのだろうか?
いや、ギルド長という地位のある人間が『腕がいい』と言ったのだ。
最近またギルドで絡んで来るようになった数多のチンピラとは格が違うのだろう。
ということで私は遠慮なく荷馬車に座った。
女性の一人がこっちをじっと見ている。
ここは譲れません。
ということで無視した。
移動を開始してから4日目。
途中何度かモンスターに襲われることもあったが、特に問題も起きず順調に王都へと進んでいた。
女性二人は前の方で馬を操りながら話をしていて、男二人は荷馬車の左右に位置取り、それぞれの方向を警戒していた。
私は特に警戒してなかったけどちゃんと後方を眺めてたよ。
さて、そろそろ頻繁に野盗が目撃される地点だ。
遠くからでも人数は5人だと丸わかりで、馬は荷物を積んだ荷馬車を引いている。
これなら野盗の人数が多いなら襲ってくるだろう。
弓矢にだけ警戒して、のんびりと襲撃を待つことにする。
……来たようだ。
リーダーっぽい人の声で、素早く周りを確認する。
確かに人数は多い。
30人は超えてるんじゃないかな?
けど、一人一人はそこまで強そうには見えない。
う~ん……。
このリーダーっぽい人と全員同じくらいの実力かな?
さて、襲われたら護衛する契約だ。
荷馬車の周りと敵の後ろに物理魔法で壁を作っておく。
もちろん身を護るためと逃がさないためだ。
魔法の効果範囲が広くなったから本当に便利になったよなぁ。
とりあえず声をかける。
「あなたたちが最近巷で話題の野盗で合ってます?」
返答は矢が飛んできた。
壁に当たっただけだったが……。
「なっ!?魔法か!おいっ!」
野盗の中から2人が前に出てきた。
お?
魔法の準備をしているぞ?
これは『破魔魔法』を試すチャンスだね!
素早く魔力を飛ばしながら破魔魔法に変換してぶつけると、相手の魔力はきれいさっぱり消え去った。
「……まだか!?」
「そ、それが隊長。魔法が途中でキャンセルされちゃって……。」
「どういうことだ!?」
「破魔魔法っていう魔法を消すしか使い道がない魔法があるんですよね。」
優しい私はちゃんと教えてあげた後に両肘と両膝を切り落とした。
出血なら火魔法にお任せ!
傷口を一瞬で焼いて止血できちゃうよ!
私は優しいからね。
3分ほどで全員から、両肘両膝を斬り外した。
壁を作っていたおかげで誰一人逃がすことはなかった。
一応ちゃんと止血はしているのだが、何人かは意識が無いようだ。
「さて、隊長って呼ばれてたやつはどれだっけ?持ち物調べないとなぁ~。お金とか持ってないかなぁ~?」
近いやつから適当に身ぐるみを剥いでいく。
何もないことを確認したら丁寧に首を斬り外す。
途中意識のある人たちが何かを言っていたがすべて無視だ。
『隣の領の兵士だ』とか『命令されただけ』なんて言われても困っちゃう。
そんなお口には火の球をプレゼントしてあげた。
美味しいかい?
そうかいそうかい、言葉にできない程おいしいかい。
という訳で身ぐるみを剥いで首を外す作業を続ける。
『隊長』と呼ばれたやつ以外は全員綺麗に並べておいた。
目が覚めたらびっくりするかな?
ワクワクワクワク。
サプライズって大事だよね。
お、『隊長』が目覚めたようだ。
『隊長』だとエルフの隊長と被るな。
たいちょーのおっさんでいいか。
たいちょーのおっさんは、目の前に並べられた首を見てもノーリアクションだった。
酷い……。
こんなに頑張って驚かせようと準備したのにっ!
「次はお前だ。」
そう言って後ろから頭を掴んで持ち上げる。
手刀ナイフをゆっくりと首に当てて質問をする。
「拠点はどこにある?この近くか?」
たいちょーのおっさんは必死に命乞いを始めた。
違うんだよ。
お前ら金目の物を持っていなかったから、襲って奪った物は拠点かどこかに隠してるんだろ?
それが欲しいんだよ。
さっさと拠点の場所を吐けよ。
「そいつは生かしておいた方がいろいろ喋って貰えていいんじゃないか?隣の領の兵士らしいし、生かしたまま突き出せば相手への牽制にも使えるだろ。」
今までずっと黙っていたリーダーっぽい人が話しかけてきた。
甘いね。
「もっと簡単な方法がありますよ。私がこの首を全て隣の領の貴族の元に届ければいいのです。そうすればどこの誰に喧嘩を売ってしまったのか理解するでしょう?」
私、襲われました。
つまり、『私に喧嘩を売った』ということを相手に知らせなければいけない。
街は少し寄り道すれば立ち寄れる位置にあるので、貴族に届け物をするくらいなら問題ない。
「……そうか。」
リーダーさんも反対ではないようだ。
という訳でたいちょーのおっさんに拠点の居場所を聞く。
……ここから1時間程先の見つかりにくいところにあるそうだ。
1時間ならいいかな。
たいちょーのおっさんはもう少しだけ殺さずに連れていくことにした。
とりあえず綺麗に並べていた首を持って行くために回収しようと思うが……
「この首、どうやって全部持って行こうかな?」
当然ながら袋には入りきりそうになかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます