第58話 ニート家を買う。

さて、ここで少し貨幣価値の話をしよう。

と言っても銅貨1枚を円に換算すると100円程度の価値ってことだ。

(最低硬貨が100円だと、価値の低いものが売りにくくないかな?)と思ったが、そういう物はまとめ売りしてだいたい銅貨1枚の価格になるように売っているようだ。

以前確認した通り銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨一枚の価値だ。

つまり銀貨は1,000円の価値で、金貨は100,000円の価値があることになる。

……こうやって考えるとやっぱり宿代安くね?

一週間先払いで1万500円ってことになるぞ?

一泊だけだと銀貨2枚の2,000円だが、これでも普通に安い。

ずっとそう思っていたのだが、普通の人の1日あたりの平均給与は銀貨3枚らしい。

ギルドで初めて受けた物資輸送依頼が銀貨20枚だったので、(あれ?貰いすぎじゃね?おかしくね?)と思ったが、あれって本来4人から6人で受ける依頼だったらしく、(あぁ、それなら1人あたり銀貨3枚と少しから5枚くらいだな。)と納得した。

つまり何が言いたいのかというと、日給3,000円程度でもこの街では生きて行けるということだ。


という話を踏まえたうえで昨日の収入だ。

賞金首のおっさん1匹で金貨200枚。

つまり20,000,000円のお金を手に入れたのである。

ウハウハだね!

さらに!金庫からかっぱらってきたお金。

その数なんと金貨1,451枚!

銀貨も520枚だった。

フッハッハッハッハ!

計算がめんどくさくなってきたから円換算はやめた。


さて、ここで1つ重要な問題が発生した。

知っている人も多いだろうが金は金属の中では重い方だ。

現在、お金だけで体感40キロはありそうな重さなのである。

筋力があるから持ち運びに問題はないが、リュックを乱暴に扱うと破けて穴が開きそうなのである。

銀行のようにお金を預け入れる場所がないとなると、取れる選択肢が少ない。

頑張って持ち運ぶか、拠点を作るかだ。

どこかに隠すとか、使い切るって選択肢もあるが今は無しで。


こうして、この街に仮拠点を構えるため、宿屋の受付ちゃんに聞いてみた。


「家を借りる方法ですか?それなら不動産屋ですね。地図をお書きしましょうか?」


……普通に不動産屋があるらしい。

地図をお願いしながら話を聞くところによると、この街を治めるメリクス家の家臣が運営している組織らしく、『融通は利かないし値引きも基本的に一切応じないが、公平公正な取引ができるので安心』とのことだった。

『基本的に』というのは『街に多大な貢献をした場合』と『街への多大な貢献が期待できる場合』のみ、向こうが勝手に値引きしてくれるらしい。

……うん。

街を壊滅させかけた場合は値上がりするのかな?


もう少し聞いてみると、土地を売ることがメインらしく、建物は別のところに頼むことが多いそうだ。

すでに建物が建っているところを買うなら早いが、傷んでいることも多く、取り壊して建て直すとなるとお金がかかるので、元々この町に住んでいる人以外にはなかなか売れないらしい。

賃貸もあるらしいが、この街で冒険者以外の長期の仕事をする人向けらしく、お勧めしないとのことだった。


さっそく不動産屋に行ってみる。


「正直他の街も見たうえで拠点を建てたかったけど、まさか『お金が重いから』なんて理由で拠点を欲しくなるとは思わなかったなぁ。……インベントリとか魔法の鞄があれば……。」


そういえば、ダンジョンで手に入れた中身が草と石の鞄なのだが、中の草は非常に珍しい薬草だったらしく、金貨50枚で売れた。

石の方はただの石だった。

薬草を長持ちさせるために一緒に入れる石らしく、湿気を吸い取りカビなどを抑える役割があるらしい。

この辺りでは珍しい方だが普通に流通しているものだそうだ。

薬草と一緒に売ったが、銀貨2枚程度だった。

鞄は至って普通の鞄だった。

一応普段使いしやすい形と大きさだったので売らなかったけど……。




(超高性能の鞄が欲しいな~)なんてことを考えながら地図を見ながら歩き、何事もなく不動産屋に着いた。

普通に中に入る。


「いらっしゃいませ。土地をお求めですか?それとも賃貸をお求めですか?」


「土地を買えないか確認しに来ました。」


「かしこまりました。ご予算いかほどでしょうか?」


……どのくらいにするかな?

たぶん今金貨2,000枚近くあるし、400から500枚?

いや、建物を別に建てないといけない可能性もあるからもう少し安い方がいいな。

100から200にしておこう。

買えるのが狭い土地だけだとしても、まぁ仮拠点だしいいか。


「金貨200枚程度で。」


「承知いたしました。今資料をご準備いたします。こちらにおかけになってお待ちください。」


高級そうなソファーに案内された後、受付の女性はどこかに行ってしまった。

少しすると別の女性が飲み物を持ってきた。

一応警戒しながら飲むと結構飲みやすい紅茶だった。

なんで警戒するのかって?

ほら、こういうとこに来る人ってお金持ってるのが当たり前じゃん?

眠らせてお金だけ取ってその辺に捨てるとか、人間ならやりそうでしょ?

『貴族の家臣が運営している』とか私にとっては警戒すべき対象だし。


のんびりと待っていると受付をしてくれた女性が来た。

辞典のような厚さの資料と思われるものを5冊持っている。


「お待たせいたしました。これら4冊が金貨200枚以下で買える土地の資料となっております。こちらの1冊は金貨150から400枚の資料ですが、土地だけではなく建物も料金に入っております。」


ほぅ。

建物付きの物件もちゃんとあるのか。

『傷んでいる場合が多い』と言っていたので期待は出来ないが、ありがたく見せてもらおう。


お礼を言って、とりあえず建物付きの物件が書かれた資料から目を通す。

ほら、土地だけ買うよりさっさと建物も手に入れられる方がいいじゃん?

流石にボロボロだったら遠慮するけど……。


そう思いながら見ていくが、土地の広さが分からない。

文字で土地の広さがイメージできるのって建築関係の仕事をしている人くらいじゃないの?

次々と値段とだいたいの場所を見ながら眺めていくが、なかなかピンとこない。

資料は悪くないのだ。

値段だけでなく土地の広さと形、何年前に建てられた建物なのかもちゃんと書いてあるし、破損や柱の傷まで書いてある。

見る人が見れば分かる資料なんだろうけどね……。


……お?

これはどうかな?

築3年と比較的新しく、場所は今の宿と銭湯の間くらい。

ここなら買い物に行くのも楽なんじゃないかな?

1階平屋建てで土地が他と比べると少し狭い感じ。

え~っと、以前冒険者夫婦で住んでいたが、両名の死亡が確認されたため売りに出されたそうだ。

金貨250枚ってことは25,000,000円。

にせんごひゃくまんえん……。

普通に高いよな。

予算に金貨200枚って言ったけど、今更だけど多すぎだったかな?

まぁ、いいか。


「この土地と建物を実際に見たい」と女性に言ってみたところ、案内してもらえることになった。

歩いて移動をして、実際に建物を見たが普通に問題なさそうだ。

土地の範囲も聞いてみたところ、流石に庭は広くない。

実際に建物に入ってみる。

少し埃っぽかったが、壁に穴が開いていることもなく、柱も折れていない。

屋根は雨が降らないと分からないが、天井を見ても雨漏りの跡はないので大丈夫だろう。

これなら大丈夫そうだ。

買うことを伝え、不動産屋に戻った。

さっきと同じソファーに座り、まずは金貨を250枚数えて机に置いた。

不気味な笑顔で金貨を数えている間に契約書が用意されたので確認する。

……税金は無いようだ。

どちらかというと火災が起きた際の罰則について細かく書かれている。

と言っても、『火の不始末による火災の場合は厳罰に処す』や、『放火と判断された場合は罪に問うことはない』など結構ゆるゆるだ。

全て読んだが問題ないと判断して署名した。

いや、問題があっても力尽くで解決できると判断して署名した。


契約書の写しを作っている間に、家の中の清掃に人を派遣してくれるとの話もあり、紅茶を飲みながらのんびりと時間を過ごした。

契約書の写しと家の権利書を受け取り買った家に向かう。

家の中は換気をし、天井から壁、床まで綺麗に磨いたらしく、本当にきれいになっていた。

清掃に来ていた職員さんから家の鍵も受け取り、これで完全にこの家の所有者となることができたのだった。




「さて、家具とベッドと金庫を買いに行くか。」


真っ先に来たのは鍛冶屋。

金庫は置いてますか~?


「金庫?箱はあるが扉と鍵の部分は注文を受けてから作るから少し時間がかかるぞ。」


へ~。

とりあえずガッチガチに硬いモノを頼む。

硬くて~、おっきいのが好きなんだ~。

金庫の話だよ?


ついでに椅子やテーブル、ベッドはどこで買えるか聞いてみると、すぐ近くに家具を取り扱っている店があるそうだ。

さっそく行ってみる。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


とりあえず椅子とテーブルを見る。

これは適当に選んだ。

どうせ自分しか使わないのだ、適当でいいだろう。

(椅子が要らなくなるかな?)と思い、ちゃぶ台みたいなローテーブルを銀貨25枚で買った。

うん、家を買った後だと安く感じるね。

運んでもらえるそうなので家の位置を伝え、家の前に置いておいてもらうように伝えた。

ベッドも買おうかと思ったが、床は板張りなので(床に直接布団を敷いても別にいいかな?)と思い買わなかった。


次はいつもの雑貨屋に行く。

雑貨屋では敷き布団とシーツ、枕、まだ暖かいのでタオルケットを買った。

タオルケットは高級素材だったのか全部で金貨1枚だった。


家に戻ると既に椅子とテーブルが玄関に置いてあったので、荷物を置いてから運び入れる。

まずは奥の方に布団をしいて、その手前にちゃぶ台を置いた。

こっちだけ見ると一間のアパートの様だ。

結構部屋は広いんだけどね。


こうしていつでもここで暮らし始める準備が整った。

まぁ、家に鍵をかけて宿に戻ったが。




宿の受付ちゃんに家を買ったことと、明日から宿を出ることを伝えた。

受付ちゃんはすでに払っていた宿泊費からいくらか払戻すと言ってきたが断っておいた。

結構この宿には迷惑をかけた自覚があるし、お世話になったからね。

あと2週間先までの分を払ったと思うけど、そのくらい別にいいだろう。

金ならあるのだ。

次の収穫が楽しみだなぁ……。

すでに裏ではどこが勢力地を拡大するかでギスギスし始めたらしい。

素晴らしい。

是非ともデカくて金のある組織へと成長して欲しいものだ。


『金庫は明日の午前中には完成する』とのことで、宿泊最後の夕食を味わった後はのんびりと過ごしベッドに寝ころんだ。

別に宿泊していなくてもお金さえ払えば食事は出来るので寂しくはないのだが、1人暮らしが始まると思うと少し不安になり寝つきが悪かった。


……部屋の片付けとか苦手なんだよなぁ……。

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