第57話 最も簡単なお金の稼ぎ方(個人差があります)

数日間のんびりと過ごした。

非常に重要な問題が発生していたからだ。

ステータスがガンガン上がった結果、靴への負担がかなりあったのだ。

壊れていないのは素晴らしいが、足に触れるソールの部分と靴底の革がもたなかった。

母指球の部分には穴が開いて鉄板が見えていたし、つま先のカバーは削れまくっていて交換が必要そうだった。

靴底も交換が必要だろう。

この靴を作って貰った靴屋に行く。

『無料でメンテナンスをする』とは言っていたが、メンテではなく修理を頼むのだ。

交換するパーツのお金はちゃんと出した。

靴は冒険者相手に地味に売れているようで、快く引き受けて貰えた。

ついでにサンダルを買った。

正直靴って嫌いなんだよね。

正確には靴下が嫌いなのだが、靴下を履かないで靴を履くと、かかとの皮が何度も剥けて痛いのだ。

だから前は靴下を履かなくてもいいサンダルばかり履いていた。

まぁ、サンダルで走るのは流石に嫌なので運動するときは靴を履くのだが……。


こうして靴の修理が出来るまでの数日間、寝て起きて飯を食うだけの素晴らしきニート生活を謳歌したのだった。




「そろそろ次の目標を決めようかな?」


流石に娯楽のない生活の中、何日もゴロゴロし続けるのも飽きてきた。

少し前は魔道具とか弓作りなどがしたい気分だったが、数日たってもぶっちゃけやる気がない。

魔道具は趣味兼『楽してお金を稼げるようになりたい』という欲望丸出しの願望で興味があり、弓作りは完全に遊びだ。

必要に迫られないとやる気の起きないニートは、一時の感情ではなかなか行動を始めないのである。


だが、今日は少し違う。

靴が修理できたので、心機一転『楽してお金を稼ぐ方法』を考えてみよう。


「と言っても、出来ることってほとんどないんだよね。楽して稼ぐっていうのは、基本他の人に行くはずだった収入を巻き上げることばっかりだし。そういうのって組織の上の方の立場にいるか、上の方の人とコネがないと出来ないことだよね。新規で楽して稼ぐとか甘すぎるよね~。」


基本戦う以外能がない脳筋ニートは、モンスターを倒したり、指名手配犯を捕まえるのがもっとも楽な稼ぎ方なのだ。


「せめてモンスターを倒したときに、お金でもドロップしてくれれば……。」


現実はなかなか厳しかった。


さて、実際のところ最も楽で簡単にお金を稼ぐ方法は投資だと思っている。

お金を出して働かせ、儲けから投資額に利息分を追加して回収するのだ。

この世界で言うと金貸しと言うべきだろうか?

銀行が無いとしても、金貸しを行っているところは結構ある。

それは大きな商店だったり、インテリチンピラの闇金だったり……。


「つまりインテリチンピラに戦争吹っ掛けて全財産かっぱらうのが一番効率よく金が集まる。」


自分で金貸しをした場合、貸した金を回収しなければならないのだ。

貸した相手が金を持っていようといまいと、回収しなければいけない。

それはさすがにめんどくさいので、私は投資をしない。

『闇金から金を奪う』

強さに自信が出てきたからこその結論だった。




という訳でまずは金貸しを探す。

もちろん「この辺に金を奪っても心が痛まない金貸しっていますか?」などと聞いたりはしない。

商品は充実していて値段も普通なのに客の入りが不自然に悪い店をピックアップしていく。

勝手なイメージだがそういう店は大概トラブルを抱えている。

つまりチンピラが金の回収に来る可能性が高いということだ。


1軒1軒商店を回って商品の陳列具合を見ながら買い物をし、その日1日の客の入りを確認する。

調査に1週間を予定していたが、3日目にチンピラが回収に来たのを見つけることができた。


やはり(運)なのか?

(運)を100まで上げたから波が来てるのか?

そんなことを考えながら出てきたチンピラを尾行し続け、チンピラの拠点も判明した。

たぶんマフィアかヤクザだ。

とりあえず入ってみよう。


「チャーッス!ここにお金はありますか~!?」


建物の中には1部屋しかなかった。

入り口から見て左に一応調理をするための土間があるが、基本は雑魚寝するだけって感じの部屋だ。

部屋の中には男が3人。

尾行したチンピラはいない。

つまりどこかに隠し部屋があるということだな?

オラわくわくすっぞ!


3人を腹パンで黙らせ、部屋の中を調べて回る。

これも勝手なイメージだが、悪人って地下室とか好きそうじゃない?

床をトントンしながら歩くが特に変化はない。

地下への入り口は無いのか……。

木造の床だが不自然な切れ目もない様に見える。

となると壁か?

入ったときに3人がいた位置を思い出してみる。

3人は隠し部屋に人が来ないための見張りだろう。

そんな奴らが出入りするための通路を塞ぐような位置取りはしないと仮定したら……、こっちの壁かな?

壁をトントン。

壁の裏は何も無い空間のようだ。

指でグイグイと力を加えると少し壁が動いた。

この壁はスライド式のようだ。

動いた壁の先には地下への階段があったので、躊躇なく降りていく。


「ん?誰だお前。」


あ、さっきのチンピラだ。

とりあえず喉を掴んで持ち上げた。

大声を出されたら面倒だもんね。


「ボスを探してるんだけど、どこにいる?」


結構しっかりと首を絞めているので答えられないと思うが、一応聞いてみる。


「答えないならこのまま首を折って殺すよ?」


結構しっかりと首を絞めているので答えられないと思うが、一応脅しておく。


「そうか、答えないか……。残念だよ。」


一切残念に思っていないがとりあえずこう言った後に首を掴んでいた手に力を込めた。


「死んでも居場所を吐かない、素晴らしい忠誠心だった。彼のことはちゃんとボスに教えてあげよう。」


大金を前にしたら絶対に忘れる自信があるが、一応そう宣言したのだった。




さて、通路の先には部屋があった。

普通に蹴破って入ると眼帯付けたおっさんが一人。


「あん?誰だおめぇ。賞金稼ぎか?」


賞金稼ぎ?

……あぁ、バウンティーハンターとかいう職業があるんだったっけ?

日本だと馴染みがないけど、そういう人ってこっちにもいるんだ。

それを聞くってことはこの人には賞金がかけられてるのかな?


「あんた誰?」


「知らねぇでここまで来たっていうのか?笑わせる。俺はアドルフだ。金貨200枚に目が眩んだみてぇだが運が悪かったな。おいっ!侵入者だ!」


『アドルフ』ことおっさんの一声で、隣の部屋から8人ほど出てきた。

全員武器を持ってる怖いわぁ。


「金貨200枚って生死問わずでいいの?」


「はっ!やれるもんならやってみな!」


……15秒で殲滅した。

出てきた8人は首を斬り落とし、眼帯のおっさんは心臓を抜き取った。

いやだって、こういうやつってサクッと倒さないと密かに逃げ出すじゃん?

味方にすら教えていない通路から我先に逃げ出すイメージあるじゃん?

だから愉しむことなく普通に倒したんだよ?

真面目に仕事しただけだよ?


「さて、それじゃあお金でも探すか。金庫はどこかなぁ~?」


おっさんの死体だけ入り口の方へと移動させておいて、部屋の中を物色する。

おっさんが座っていた机の引き出しには借用書と書かれた紙が入っていただけで、金は少ししかなかった。

となればどこかに金庫があるのだろう。

部屋の中を見渡しても金庫らしきものは無いので、まずは手下が出てきた部屋を見る。

臭かった。

そして何もなかった。


次はまた壁や床を調べる。

こっちが入り口で、ここに机があってこう座ってたから、この壁かな?

壁をノックしていたら音が違う場所があったので、殴って壊した。

金属製の金庫だ。

丸いハンドルが付いているので回そうとするが、鍵がちゃんとあるようだ。

おっさんの死体を調べてみる。

首にかけていたりしないかな?

……ないな。

机にもなかったし……壊すか。


金庫の周りの壁を容赦なく壊し、金庫を壁から取り外す。

結構固かったが、ハンドルを回さなくても扉を無理やり開くことができた。

これが一番早い。

中にはたくさんの金貨。


「うへへ。おかねがいっぱいだぁ~。」


一枚残らず袋に回収し、死体を持って地下を出た。

上の方で殴って制圧しただけの3人もキッチリと処理をして、死体を引きずって通りに出る。

お、誰かが兵士を呼んでくれたのかな?

こっちに2人組が走ってきている。


「……またお前か……。」


なんだこの兵士。

人の顔を見てため息とは随分と失礼な態度だな。


「これ、自称金貨200枚の賞金首に襲われて返り討ちにしたんで。賞金貰えますよね?」


襲ったのはこちらの方だが死体は喋らない。

平然とバレない嘘が付けるぜ!


「そうか、確認する。名前は分かるか?」


名前なんだったっけな~?

基本的に人の話とか聞きながら聞いてないから覚えてないんだよな~。


「忘れました。」


「……分かった。詰所まで運んでもらっても構わないか?そこで確認を取る。」




ということで運んだところ、確認も取れ、無事に金貨200枚を受け取った。

今日一日で結構稼げたなぁ~。


「そういえば、他にもこの街に賞金首っていますか?」


「……いくつかの組織のボスに賞金がかけられているな。と言っても今日のアドルフよりは少ない額だが。」


……ほほぅ。

これはしばらく放置だな。

おっさん以下のお金になる組織があるってことは、おっさんがいなくなった後は後釜争いが激しくなるはず……。

その中で勝ち残ったやつはかけられた賞金が上がり、ついでに組織の金庫も潤沢になるはず。

うっへっへっへっへ。

夢が膨らむね!


「そうですか。機会があったらまた持ってきますね。」


「……わかった。周知しておく。」


結構なお金が集まり、ホクホク顔で宿へと戻るのだった。

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