第52話 食べると幻覚を見る魚って実在するらしいですね

死体を一か所に集めた後、仕方がないので兵士さん2人を引きずって通りへと戻る。

いいタイミングで別の2人組の兵士が来たのでプレゼントして、連れてきた流れを説明した。

ちゃんと順序良く順番に説明した。

だってなんかすっごい『命をかけても仲間を取り返す!』って感じで、足どころか全身を震わせながら覚悟を決めてたんだもん。

兵士をちゃんと渡しながら「あの程度で気絶するって、少し兵士としての質が悪くないですか?」って嫌味を言ったら、応援を呼んだ後、数人が現場を見に行ったよ。

勿論、ほとんどの兵士は魚屋を包囲しに行ったけど。

日頃の行いが素晴らしいから、結構兵士さんは私の話を信じてくれるのよね。

前日に売人の一人を渡していたっていうのもあるのかな?

面倒なので後のことは全て兵士に丸投げすることにした。

……ほら、麻薬の流通はこの街の問題だからね。

向こうから来ない限り私が解決する必要ってないからね。


そんなことを思いながら銭湯へと向かった。

流石に薬中共を処理するときに少し血で汚れてしまったので、いつも以上にきちんと丁寧に体を洗った。


帰りに魚屋を見に行ったら既に兵士が突入した後だったようで、しばらく眺めていたが特に面白いことはなかった。

そういえば『ドリームフィッシュ』ってなんだろう?

夢魚?

食べると幻覚でも見る魚がいるのかな?

……分からない魚を食べるのは控えた方がいいかもね。


「さて、何をしようかな?」


時間としては夕方には少し早いくらい。

買い物にでも行こうかな?

適当にぶらつきながら歩いていると弓屋を見つけた。

弓矢ではなく弓屋だ。

弓が結構な数置いてある。

弓弦もちゃんとあるようだ。

今のところ弓を使う気はなかったが、気になったので入ってみた。

弓は木だけで作られたものがほとんどだが、金属で補強されていたり、おそらくはモンスターの素材などで作られたと思われるものも置いてあった。


「いらっしゃいませ。弓をお探しですか?」


店員さんが来てしまった。

買うつもりがないのに店員さんに来られると気まずいんだよなぁ……。

正直に「見ているだけ。」と答えておいた。

……店員さんは離れる気は無いようだ。

とりあえず一通り見て回った。

正直欲しいと思えるものがない。

弓矢か……。

ゾンビとキャッキャウフフするゲームではメインで使っていたけど、正直強いのか弱いのか分からないんだよね。

ピンポイントで急所に当てないと効果がないイメージ。

そんなことを考えていると、店員さんが「試しに射てみますか?」と聞いてきた。

なんでも試射用の場所があるらしい。

お言葉に甘えて弓を借りて試してみることにした。

……軽すぎない?

流石に借り物なので慎重に引いたけど、たぶんこれ以上引くと折れるか切れるわ。

実際に矢をつがえて射てみる。

矢は意外ときれいに飛んでいき、ど真ん中に当たった。

隣の的だけど……。

もう一本、今度はしっかりと集中して狙う。

……普通にど真ん中だった。

器用さが仕事してるのかな?

店員さんも驚いている。

これは弓を買ってもいい気がしてきたぞ!

店員さんに一番硬くて強い弓を借りられないか聞いてみたところ、フォレストディアーの角で作られたという弓を持ってきた。

まだ少し軽いがいい感じだ。

軽く一射。

……相変わらずど真ん中だけど、威力が桁違いって感じだ。

これには店員さんもびっくり。

これならたぶん進化した熊でも余裕で刺さるんじゃない?

そんな弓のお値段、なんと金貨50枚。

手持ちの3分の1くらいだ。

貯金とかしてないけど。

悪くない。

悪くはないんだけど、買うには少し物足りない。

ぶっちゃけ弓で射るより、近づいて殴った方が楽で速いのだ。

ついでに持ち運びの問題もある。

もう少し小型で、威力ももっと高い弓なら買うかもしれない。

小型で威力を求めるなら鉄製の弓とかないのかな?

あぁ、普通の弦じゃ持たないのね。

それなら仕方ないね。

……普通じゃない弦ってなんかあるの?

ドラゴンの毛を編んで作った弦があるらしい。

そうか……。

そろそろドラゴンに挑戦する時期なのかもしれないな。

ダンジョンにでも行ってレベルを上げようかな?


とりあえず「買うのは止めておく」と店員さんに言って、お礼を言った後に店を出た。


ギルドへとやって来た。

ダンジョンがないか聞くためだ。

ついでにドラゴンの目撃情報がないか聞いてみようと思ったのだが、少し騒がしい。

聞いたところによると、最近調子よくモンスターを狩り始めたパーティーがビッグボアに挑み全滅したそうだ。

……盾持ち君生きてるよね?

まぁ、「もう戻る気はない」ってことなのかもしれないし、何も言わずにいよう。


とりあえず近くにダンジョンがないか聞いてみる。

やはりこの街の近く、日帰りできる距離にはないそうだ。

一応どの辺にあるのかを聞いてメモを取っておく。

ついでにドラゴンの情報を聞いたところ、ドラゴンなら国の反対側にいるらしい。

街の反対ではなく、国の反対だ。

一応で普通に歩いて移動した場合にどのくらい時間がかかるか聞いてみたところ、14日程度だそうだ。

だいたい7日で王都に着き、そこから7日進んだところにドラゴンの住む山があるらしい。

間近でドラゴンを一目見ようと多くの冒険者が山へ行ったそうだが、山の麓の森にも危険なモンスターが数多くいるらしく、山を登れたものは誰もいないそうだ。

「じゃあなんでドラゴンがその山にいるって分かるの?」と、不思議に思い聞いてみると、ドラゴンは結構空を飛んでいるそうだ。

上空を飛行するドラゴンの目撃情報は多いけど、『本当に山の上にいるのか』はまだ分からないといった感じだった。

とりあえずいろいろと教えて貰ったお礼に金貨をポイし、宿へと戻った。

そろそろ夕食の時間だからね。


さて、まずはダンジョンだ。

ドラゴンに挑むならLv.40までは上げておきたい。

……昔やったゲームでドラゴンを倒したのがそのくらいのレベルだったからね。

特に意味はないので『これ以上ここでは上がらない』と判断したら切り上げてもいい基準だ。

ドラゴンは、今は後回し。

ダンジョンでのレベル上げに集中だ。

ダンジョンではレベル上げ以外にも、出来ればいくつかの魔法を覚えていきたい。

希望としては火と水だ。

勿論それ以外でも覚えられるだけマシなのだろうが、魔法をもう少し使っていきたい。

近づいて殴るだけでは飽きるからだ。

どうせならファンタジーな魔法で戦ってみたい。

それじゃあまずは買い物だ。

それほど長くダンジョンに居続ける気もないので、リュックに入るだけの食料と水を買いに行こう。

その後は宿に戻り、受付に行って『明日からしばらくダンジョンに遊びに行く』と伝えたら、今日は早く休もう。




という訳で買い物に出たのだが、エルフちゃんとばったり会った。

隊長さんも一緒だ。

すでに気づかれているので他人のフリも出来ない。


「奇遇だな。どこか旅に出るのか?」


くっ!

初手でこちらの動向を探って来た。

どう答える?どう答えればいい!?


「えぇ、ドラゴンを狩りに行きたいので修行しに行くんですよ。」


とりあえず当たり障りのないフワッとした回答ができたぞ。


「ドラゴンに挑むのか……。あれは一度対峙したことがあるが、迫力で体が固まったぞ。私達は餌として認識されていなかったみたいで、そのまま飛んでってしまったので生き残れたが、恐らく今の私でもまだ勝てないだろうなぁ……。」


……そっかぁ。

エルフ隊長ってドラゴンと対峙したんだね。

それで、今でも勝てそうにないのか。

うん。

ドラゴンは諦めよう。

きっとそれがいいよ。

まぁ、レベル上げには行くけど。


「そうなんですか。それじゃあ私は修行の準備があるので失礼しますね。」


「ところで、どこに修行しに行くんだ?」


……逃げられないのか。


「……ちょっとダンジョンまで。」


「そうか。気をつけるんだぞ。」


隊長さんは行ってしまった。

終始固まっていたエルフちゃんは急いで後を追っていった。

……逃げ切れたのだろうか?

いや、念には念を入れて、明日の出発時は気をつけないとな。

絡まれたら絶対にめんどくさい。


買い物も無事終わり、宿の受付ちゃんに数日ダンジョンに行くことを伝え、すぐに寝た。

最近朝が早いのである。

……歳かな?

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