第50話 脳内の自分と会話し始める、頭おかしい主人公

翌朝、今日も朝早くから街を出る。

天気も問題なく、絶好の狩り日和だ。

台車を引いて4時間の道のりを、走って1時間ほどで着いた。

借り物の台車だから出来るだけ引きずって移動しないよう気を付けてるから……仕方ないよね。

ゲームによくあるインベントリとか鞄が欲しい。

さて、5人組は着いたときには既に森の中に入ったようだ。

耳を澄まして周りの音を聞いてみると……。

うん、近くにいないね。

日の出と同時に動き出したのかな?

もしかして楽しみで夜眠れなかったとか?

布団に入ってゴロゴロしていればいつの間にか眠ってしまう私とは大違いだな。

疲れていればどこでも寝れるけど、やっぱりお布団が最高なんだわ。

勿論ベッドでもOK。


さて、5人を探して森の中を珍しく静かに息をひそめて移動しているとイノシシを見つけた。

私の完璧な隠密行動によって、イノシシはまだこちらに気づいていないようだ。

うん、嘘。

普通に気づかれてるわ。

だってリュックから落花生(柿の種)の良い匂いが漂ってるんだもん。

姿は見られてないと思うし気配も悟られてないけど、間違いなく臭いで気づかれてるわ。

おっとこのタイミングでこちらに近づいてくる気配!

5人組登場だー!

イェーイ!

素早く距離を取って観戦に良さそうな木の上にスタンバイ。

リュックから枝豆も取り出して準備OKだぜ!

イノシシは5人組に気づき、5人組はイノシシに気づく。

命がけのバトルが、今始まろうとしていた。

……盛り上がってる?

現場からの光景ですと、5人組は完全にビビってますね。

どう思います?脳内のニートさん。

(そうですねぇ~。昨日台車に乗せられたイノシシを見ているとはいえ、実際に立っているところを見ると、やはり迫力が違いますからねぇ~。既に逃げられない状況だと分かっていなければアッサリと死ぬんじゃないでしょうか?)

なるほど。

この枝豆美味いな。

色以外完璧なんじゃないか?

普通の枝豆に茶豆、黒枝豆と食べてきたけど、まさかのピンク枝豆がランクインしてきたぞ。

あ、イノシシが突進準備始めてる。

ワクワクワクワク。

5人組の盾持ちの子はしっかりと気づいて構えた。

でも、その盾じゃ受けは当然無理だし流すのも厳しくない?

一撃で壊れそうなんだけど。

まぁ、もう逃げるのは無理だし頑張って抵抗して欲しい。

おっとここで予想外。

弓矢による牽制だ~!

手作りしたと思われる弓ですが、果たして効果はあるのでしょうか!?

そもそも当たってな~い!

そしてそのままイノシシの突進攻撃だ~!

あ、盾持ちの子が吹っ飛んだ。

凄い飛んだなぁ~。

他の子はタゲられてなかったから問題なく躱せたけど、盾が一発でいなくなったらもうおしまいだなぁ。

おっとここで男の子のAかBどちらかが攻撃。

持っているのはただの木の棒だ~!

お前それイノシシに効くわけないやん。

せめて槍にして刺すとか……、それならワンチャンあったかもしれないのにこん棒じゃねーか!

女の子A、ビビって動けないようだ。

女の子B、ビビって動けないようだ。

男の子B?、ビビって動けないようだ。

全然ダメ過ぎない?

これでオオカミ倒したの?

ムシャムシャされる未来しか見えないんだけど……。

男の子Aはイノシシに軽く鼻先で小突かれただけで尻もちをついてしまった。

これは終わったかなぁ……。

いや、盾持ちの子がここで戦線に復帰してきた!

素晴らしい根性ですね~。

どう思います?脳内のニートさん。

(そうですねぇ~。盾落ちの子は以前から磨けば光るものを持っていましたし、ここで散るのはもったいない気がしますねぇ~。ですが、それもまた自然の摂理というものでしょう。手を出すのは無粋というものです。)

なる程そうですか~。

おっと!

枝豆の消費ペースが速いのでいったん仕舞ってから、落花生(柿の種)を取り出しましょう。

ついでに水筒も。

……やっぱり良い匂いだなぁ。

殻を割って身を食べてみると懐かしい味が……。

殻は適当に捨てちゃってもいいや。

枝豆のさやもポイ捨てしてるし。

プラスチックごみじゃないから別にいいよね。

この世界にプラスチックがあるのか知らんけど。

ペットボトルとかあればいいのになぁ……。

あ、盾持ちのが善戦してるけど男の子Aが死んだ。

正確にはまだ死んでないけどすぐに死にそうだわ。

肝心なとこを見逃しちゃったなぁ~。

このぶどうジュースうまっ!

ふざけたネーミングセンスの錬金術師、なかなかやるな。

う~ん……。

正直見るものがないなぁ。

これでイノシシに挑むなど片腹痛いわぁ~って感じ。

格上のモンスター相手に舐めすぎだよね。

せめて武器と防具がまともな物ならワンチャンスあったかもしれないけど、ウルフも倒せて調子に乗っちゃったのかな?

いや、盾持ちの子が優秀過ぎた弊害かもね。

モンスターに対する理解が足りてないわ。

人のこと言えないけど。

『相手が自分を殺す可能性のある存在』だってちゃんと理解してるのは盾持ち君だけなんじゃない?

今の私だと意識がない時にモロ直撃しても一発だけなら耐えられると思うけど、普通死ぬよね。

もうちょっと敵を倒す経験だけじゃなくて、命を脅かされそうになる経験も積んだ方がいいと思いま~す。

人のこと言えないけど。

私の場合最初からスライム相手でさえビビってたからなぁ。

ウサギも結構怖かった思い出があるし。

一番怖い部分を盾持ち君が全部引き受けていたのが、この結果なんだろうね。

盾持ち君以外誰も立ってないや。

ん?

盾持ち君、雰囲気変わった?

あれは……、魔法を使えるのかな?

魔力を手に集めてる。

おぉ!

たぶん風の槍だ!

イノシシの頭が吹っ飛んだよ。

というか、魔法を使ったときにチラッと見えたけど……。

盾持ち君エルフだったんだね。

……知りたくなかったなぁ。

最後にいいもの見れたし帰るか。


「まぁ待て。」


……ふっ!この俺が背後を取られるとはな。

この声隊長さんじゃない?

お久しぶり~っす!


「……雰囲気がだいぶ変わったな。なんというか……、はっちゃけた感じだ。」


そういうの、自分では分かんないものなんですよ。


「いつからそこにいました?」


「お前が堂々と柿の種を食べ始めたときからだな。まさか命がけの戦いを観ながら、手助けもせずにおやつタイムとは思わなかったぞ。」


「違いますよ。おやつを楽しんでいたら、目の前で戦いが始まってしまったんです。冒険者は獲物の横取りをしないというルールがありますので、仕方なく、ほんと~に仕方なく、邪魔をしないようにここでおやつを食べて待っていたんです。」


戦いが始まる前にここに来て枝豆食べてたから嘘じゃないもんね。

これは仕方のないこと。

不可抗力というやつですよ旦那ぁ。


「……まぁいい。あの盾使いはもう少しで一人前になるんだが、どうだった?」


へ~。

見た目結構若いのにもう一人前か。

エルフちゃんより年下に見えるけど、エルフちゃんが遅れてるのかな?


「立ち回りは上手いと思いましたよ。モンスターの注意を引き付けることに関しては才能ありますね。ただイノシシ相手に受ける盾の使い方をしちゃったのはアホですね。当然のように吹っ飛んでいきましたし。」


「普通なら横に躱しながら流すんだがな。たぶん身が竦んで動けなかったんだろう。ちゃんと戻ってきて戦っていたから心が折れる心配はなさそうだがな。」


隊長さんが優しい目をしている。

名前忘れたことに気づかれてないかな?


「ところでどうしてここに?てっきりエルフの方々は人間と距離を取っているものだと思っていましたけど。」


「そうでもないぞ。こちらでしか手に入らないものもあるし、国を作っている以上、外の情報だってちゃんと集めている。エルフだと気づかれていないだけさ。」


そういえば盾持ち君も魔法を使うまで気づかなかったな。

……うん、聞かない方がいいな。

話題を変えよう。


「へ~。そうなんですね。隊長さんはどうしてこちらに?何かありましたか?」


「休暇だ。」


……そうですか。

急いで逃げたくなってきたな。

なんかこのエルフ隊長に絡まれてる気がする。

私悪いことしてないよ……エルフには。


「それじゃあそろそろフライパンが完成する予定なんで、私は街に戻りますね。ごゆっくりどうぞ~。」


「そうか。気を付けて帰れよ。」


全力ダッシュで帰った。

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