第47話 魚屋?ごめん……から揚げが食べたいんだ。
次の日。
ロープの1本を切られたので買い物に出ていた。
街中を歩いていると珍しいものを見つけた。
『魚屋』だ。
いつの間に出来たのか、魚を売っている店があった。
以前聞いたときは『この街には漁船がほとんどない』と聞いた様な覚えがあるし、鮮度の関係で魚は朝にしか売っていないと言っていたが……。
この『魚屋』は凄い。
なんと言っても店先に木製の箱が置いてあるのだが、中がすべて氷なのだ。
箱いっぱいに氷が敷き詰められ、その氷の上に魚を並べて販売していたのだ。
もちろん直射日光を避けるための屋根はあったが。
この世界に来てから、氷なんて一度も見たことが無い。
きっと場所によってはあるのだろうが、この付近は氷が出来るような気候ではないのだ。
そんな氷を大量に使って魚を販売するとは……。
結構驚かされた。
売っている魚は普通の魚だ。
模様があったり、少し赤かったり黒かったり。
見た目的にも普通に食べられそうな魚ばかりだ。
そしてお値段がなんと安い。
これは絶対におかしい。
この地域にはない氷をこれだけ使って魚を販売しているのに、魚自体の値段が安いなんてありえない。
という訳で聞いてみた。
「こんだけ氷を使って魚を販売してるのに安過ぎない?魚屋を隠れ蓑になんか悪いことしてる?」
非常に失礼な質問だった。
「ハハハ!そんなことはしていないよ。氷を知っているとは珍しいね。寒いところの出身かな?この氷は魔法で作られたものだよ。うちの船に氷の魔法を使える魔法使いが乗っているんだ。この店も、数ヶ月街に滞在するから賃貸として借りて、せっかくだから少しでもお金を稼ごうと魚屋を始めただけなんだ。ほら、この街って魚は早朝に売っているだけで、店に並んでいるところは全くないだろ?競争相手がいないから一人勝ちさ。魚の値段が安いのはまだ店を開いたばかりだからサービスだよ。魚を食べたことが無いって人もいるし、競争相手がいないからって値段を高く設定しすぎると誰も買ってくれないだろ?しばらくは全然利益にはならないけど、安くで販売して、徐々に値段を通常の値段へと上げていくんだ。安い今のうちに買っておいた方がいいよ?」
……なる程。
とりあえず氷の魔法があることは分かった。
この量の氷を作れるって凄いな。
どれくらい魔力を消費するのか分からないけど、氷の魔法があれば便利そうだ。
個人的には火の魔法が欲しいけど、水とか氷の魔法も欲しい。
どのモンスターが落とすんだろう?
どこかに調べた人いないかな?
今度調べてみよう。
あ、ギルド崩壊して資料室無くなっちゃったんだったね。
テヘペロ。
とりあえず聞きたいことは聞けたので、店を後にする。
魚は買わなかった。
ほら、宿暮らしだから自分で調理するのがめんどくさくて。
結局一度も厨房を借りてないんだよね。
……そうだった!
から揚げだ!
大した料理は作れないけど、揚げ物をしようと思って厨房を自由に借りられるように交渉したんだった!
「となると、ロープを買った後に鍛冶屋か?揚げ物用の鍋ってあるのかな?それに厚手の布も買っておきたいし……。」
魚のことはすっかりと頭から消え、揚げ物のことで頭をいっぱいにしながら買い物を続けたのだった。
※魚屋のまだ歳若いお兄さん視点
氷を知っていた若者が離れていくのを見送る。
若者は何事もなく歩いていき、そのまま見えなくなった。
「……勘の良いやつだ。おい!」
「はい。」
「念のためさっきの男は始末しろ。余計なことを広められたら厄介だ。」
「……分かりました。」
部下に指示を出し、先ほど話した内容に矛盾がなかったか反芻する。
何か問題のある発言をしてしまってはいなかったか……。
「……いや、おそらく大量の氷を見て怪しんだ結果あの質問をしたはずだ。魔法によって氷を作っていることも嘘ではない。……何も問題はないだろう。」
相手は若い冒険者に見えたが、連れてきた部下たちは優秀だ。
殺しから遺体の処理まで、なんの問題も起こすことなく行うだろう。
この街でこれを売り始めてからまだ一週間も経っていない。
他の街で半年売っていても気づかれなかったのだ。
きっと大丈夫だろう。
「それにしても、氷を見て怪しまれるとは思わなかったな。やはり目立つのはしょうがないか。」
だが、どんな思考をしていたら『魚屋を隠れ蓑に悪いことしてる』と思うのだろう。
気づかれてはいないと思うが、警戒するに越したことはない。
そのために部下に始末するよう指示を出したのだ。
大丈夫。
何の問題もない。
なんども自分に言い聞かせるが、なぜか内に秘める不安をぬぐい切れないのだった。
※殺しの対象となった主人公視点
買い物を終わらせて宿へと戻って来た。
揚げ物用の鍋に関しては鍛冶屋に相談したところ作って貰えるそうだ。
ついでに揚げ物を置くためのあれも頼んだ。
名前は知らないがあれだ。
『あれ』で通じたんだから問題ないだろう。
……問題ないといいなぁ。
ついでに丈夫なフライパンも頼んだ。
『人を殴っても凹まないくらい丈夫なフライパン』と注文を付けたので期待したい。
……いや、殴る予定はないんだよ?
外でキャンプするときに使うかもしれないから、いざって時のためにそういう注文を付けたのだ。
フライパン片手にモンスターと戦うなんてゲームみたいで面白いでしょ?
当たり前だがこの世界では理解されないようだった。
もしかしたら同郷変人貴族さんなら同意してもらえるかもしれない。
さて、鍛冶屋の帰りに誰かに跡をつけられている気がした。
街中なので相手は人間だと思うが、つけられる理由が分からない。
冒険者の集団を殴ったことも『なかったこと』として話が付いたみたいだし、ギルドを解体したことも、この街を治める貴族の屋敷に放火したことも、街を囲う城壁に穴を開けまくったことも、全て無罪だ。
襲われる心当たりが多過ぎて、なんで尾行されているのかが本気で分からなかった。
いや、最近街の中は治安が悪い。
もしやこの街に来る前に駆除した野盗の生き残りか?
一番ありえそうなのは、昨日の王都から来た兵士の逆恨みな気もする。
人気のないところへ行けば襲撃してくるかな~?
私なら所かまわず襲っちゃうと思うけど。
普通尾行している相手がいつもと違うルートに進んで人気のないところに歩いて行ったら不審に思うよね?
通りがいくつもあるならともかく、買い物も移動も広い通りでしか買ってないんだから、今から裏路地に入ったら怪しまれるだろうか?
まぁ、いいか。
路地裏に入っちゃおう。
間抜けな奴なら襲ってくるだろ。
……うん、間抜けみたいだね。
まだ尾行初日じゃない?
襲うなら行動を調べ上げたうえできちんと計画を立てて襲わなきゃ駄目でしょ?
いったいどんな教育をすれば短絡的に人を襲うのか、上司の顔が見てみたいわぁ~。
とりあえず3人襲ってきた。
それも同時にではなく、通路が狭いから順番にだ。
一人目がナイフで突いてる。
当然のようにナイフを持った手首を握り、握力任せに骨を折る。
筋力のステータスって、やっぱりやばいよね。
とりあえずナイフを持ったやつを蹴り飛ばしてみた。
いい感じに吹っ飛んで、後ろにいた別のやつを巻き込んで転がって行った。
3人しかいなかったようで、残りは1人だ。
ちょっとお話を聞いてみようかな?
「ねぇねぇ、何が目的?さっきから跡をつけていたよね?あなたのお仲間さんがナイフを持ち出した以上手足の12本は全て圧し折る予定だけど、理由を話してくれたら手加減してあげるよ?ホントだよ?4分割を2分割でやめてあげるくらいの優しさは持ってるよ?」
これで答えなかったら骨をポキポキしちゃうんだい!
……答えなかった。
サクッと近づいて足を踏みつける。
ペキッ!という可愛い音がして足の指は折れてしまったようだ。
鉄板入りの靴だからね。
仕方ないね。
指先を折ったら次は足首だ!
足を置き、一気に力を込めて踏みつける。
うん、いい音だ。
流石に痛いのか叫び声をあげている。
ゴロゴロしているので腹を軽く蹴って黙らせたが。
骨の折れる音とは違って叫び声は耳障りなんだよね。
叫ぶ暇があるなら目的を話してくれればいいのに……。
次は普通に足の真ん中を折ろうと思ったのだが……、
「何をしている!」
ストップがかかった。
見回りの兵士が2人来たのだ。
「この3人に尾行され、ナイフを持って襲われたので反撃し、尋問していますが、何か問題はありますか?」
堂々と言ってやった。
兵士の1人は私のことを知っているようで、もう1人が意味もなくこちらを捕らえようとするのを止め、倒れている人を拘束するように指示した。
話が早くて助かるね。
足震えてるけど大丈夫?
もしかして薬物の禁断症状じゃないよね?
……うん、瞳孔も開いてないし意味不明な言動もなさそうだ。
「そいつらを捕らえて連れて行くのは別にいいんですけど、なんで尾行していたのか聞いておいてくださいね。それじゃあ私は帰りますので。」
もっとポキポキと演奏がしたい気分だったが、そこまで愉しいわけでもないし、とりあえず跡をつけられた理由さえわかれば問題ない。
襲ってきたやつは兵士に任せて、宿に帰ることにした。
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