第46話 新たな問題が忍び寄る

戦争は終わった……。

まぁ、戦争というよりあちこちに喧嘩を売りに売りまくって、その全てを暴力で解決しようとしただけなんだよね。

(『暴力は何も生まない』とか馬鹿なんじゃねーの?)とか思ってたけど、暴力は後々面倒なことになるだけだったね。


同郷だったらしい変人さんと話してから一週間が経過した。

街の様子も既に落ち着いて、以前より少し人は減ったが街中を人が行き交っている。

建物が崩壊したギルドは冒険者が相当いなくなってしまったそうで、規模を縮小したうえで場所を移して稼働していた。

なんでもダンジョンで打撲や骨折などの怪我人が大勢出たそうだ。

しかし、そのダンジョンは大勢の怪我人と引き換えに攻略されたらしく、この街の周辺はモンスターの出現しにくい状況となっていた。

最初は一般の方を含めて喜ぶ人が多かったが、ある問題が立ち上がった。

肉が獲れるモンスターの出現が減ったのである。

一応少し離れた町で畜産をやっているらしく、食糧不足になる心配はないそうだが、『少し高いけどおいしい魔物化したラビット肉』は激減した。

毎日散歩感覚で外に狩りに行っていた私に、知らない人がビクビクと震えながらも「魔物化したラビットの肉を売って貰えないか?」と聞いてくるほどに、市場に出回らなくなったのだ。

と言ってもまだあれから一週間。

たまたま今週ウサギが獲れていないだけの可能性もあるので、特に何もしなかったが。

だけど、ダンジョンを攻略したら美味しいお肉が獲りにくくなるって、少し困るよなぁ…。

お肉屋で確認を取ったが、やはり普通の動物のお肉より魔物化したモンスターのお肉の方が美味しいらしい。

進化すればさらにおいしくなるらしい。

エルフちゃんから『ダンジョンは危険だから潰さないと駄目』みたいな事を聞いていたので普通に魔石を壊したが、お肉の為にも今度からダンジョンを守っていこうと思う。

これで魔物があふれて人の街が消滅したらウケるんだけどなぁ……。

私は他人の命より美味しいお肉の方が大事なので、街がモンスターに襲われようと気にしない。


さて、そんな私だがギルド長と終戦した後、冒険者として再登録されていないが、依頼を受けることは出来ていた。

動ける冒険者が少ないので特別扱いだ。

受ける内容はだいたいが日帰りできる距離でのお肉の調達。

東の森はダンジョンが無くなってモンスターの出現率が下がったので、南の街道を進んだ先にある森で狩りを始めた。

街道からはもちろん離れているが、この森ではウサギとオオカミが多く出現し、たまに蛇が出る。

蛇とウサギはしっかりと血抜きをして持って帰っていて、オオカミはそのまま持って帰って売り払ってお金を稼いでいたのだが、今日はなんとデカいイノシシが出たのだ。

当然狩った。

頑張って血抜きをした後、台車に置いてあったモンスターをすべて出して、イノシシを無理やり台車に乗せ、モンスターも落ちないように重ねて乗せてロープで固定までして街へ戻ろうとしていた。

街道に出て、台車を引きずるように進んでいると普通の馬が2頭走って来た。

普通に人が騎乗している。

兵士と思われる騎乗したままの2人はまず剣を抜いた。

格好から見てどこかの街の兵士だと思っていたから驚きだ。

問答無用で剣を向けてくるなどトラブルの予感しかしない。


「……なぜこんな量のモンスターを運んでいる。何が目的だ。」


「お肉は今、街で需要が多いから出来るだけたくさん持ち帰りたいんですよ。今日は久しぶりにビックボアも獲れたんですよ?なので剣をしまってそこをどいてください。」


山の様なお肉を乗せた台車を引いてるだけなので、やましいところは一切ない。

くだらない戦争の反省もあり、喧嘩を売るような真似もしていないと思うのだが兵士の態度は非常に悪かった。

せっかくお肉が落ちないようにロープで固定していたのに、そのロープを剣で切ったのだ。

肉の山が少し崩れていくつかお肉が落ちてしまった。

とりあえず台車を置いて、ロープを切った兵士に近づいて剣を掴んだ。

思い切り引っ張るが剣を手放さなかったため馬から落ちたので、ボディーブローを一発入れた。

剣をもう一人に見せつける様に圧し折りながら、説明を求める。


「なんでロープを切ったのですか?せっかくうまくバランスを取ったうえで落ちないように固定するために張っていたんですよ?切ってしまったらロープの長さが短くなって使えなくなってしまいますし、落ちた肉も積み直さないといけないんですよ?ふざけてるんですか?」


余計なことしやがって!

イライラをぶつける様に折った剣をさらに圧し折り、その辺に投げ捨て、落ちていた兵士を拾う。


「とりあえず、こいつは連れて行きますね。舐めた真似してくれたわけですし、こっちで処理しても問題ないでしょう?」


「ま、待って欲しい。最近街に禁止薬物を持ち込む者がいて、その運搬の取り締まりで周囲を回っているんだ。私の同僚が勝手にロープを切ったことは謝罪するから許して欲しい。」


……こんなお肉の山に薬隠してると思うのかよ。

というか制服が違うから街の兵士じゃないだろ。


「制服が違うから信用できない。物資を強奪しに来た賊として連れて行き報告させてもらいます。」


「待ってくれ!私達は昨日からホエールポートに配属された王都の警備隊だ!決して賊ではない!」


そうかもね。

昨日珍しく街を治めてる方の貴族さんが来て『以前要請を出していたのですが、今日からこの街に王都から来た警備隊の方々が配属になるのですが、その方々に喧嘩を売られたとしても街を破壊することと、警備隊の方々を再起不能にすることだけは出来るだけ控えていただくようお願い申し上げます。』と丁寧に頼まれたからね。

一応『善処します。』って答えたけど……どうしようかな?

……一緒に街へ帰るしかないか。

めんどくさいなぁ……。


「なら肉を乗せて街へ運ぶのを手伝ってくれ。こいつの身柄のことはそれからだ。」


ボディー1発で気絶してるやつも台車に乗せて、先ほどと同じようにモンスターをイノシシの上に積んで予備のロープで固定する。

はみ出しているところが多いが、たぶん問題なく積めたはずだ。

何も言うことなく街へと歩き出す。

兵士Bは兵士Aの乗っていた馬を引きながら移動するようだ。

非常に重くなり過ぎ、うまく車輪が回っていない台車を引きずりながら、街までゆっくりと移動した。




街へ着いた。

台車が壊れないように丁寧に引きずって来たため少し時間がかかった。

もう夕方になる頃だ。

とりあえず門番さんに聞いてみる。


「これって王都から来た警備隊ですか?なんか剣を向けられて台車のお肉を固定してたロープを切られたんですけど。物資を奪いに来た賊としてギルドに持って行って対処しようと思うのですが……どうします?」


門番さんはついてきた兵士Bと少し会話を交わした後、


「王都から来た警備隊で間違いない。剣を向けられたこととロープを切られたことに関しては、後日きちんと謝罪と賠償を行うように取り計らうので、こちらに身柄を引き渡しては頂きたい。」


ちゃんと謝罪と賠償があるのなら別にいいか。


「わかりました。」


態度とか、ロープを切ったことに少しムカついたけど、正直どうでもいい。

台車から兵士を捨てて、街の中へと進むのだった。




何事もなくギルドにお肉を売り、宿へと戻って来た。

普通一度でも指名手配された人間は宿に泊めたくないと思うのだが、特に文句を言われることもなく普通に宿泊し続けていた。

食事をしていると先ほど聞いた様な話が聞えてきた。


「聞いたか?また薬中が暴れたらしいぜ。」

「聞くどころか少し離れたところから見てたよ。あれは酷かった。」

「そうなのか。薬でハイになって暴れだすとしか聞いたことないんだが、どんな感じだった?」

「幻覚を見てるのか、錯乱して意味不明な言葉を言いながら周りに攻撃するんだよ。それも人に限らず周囲にあるもの全てに攻撃するんだ。酷いもんだったよ。」

「そんなものが流れてくるなんて怖いな。でもどこから来ているんだろうな?」

「そりゃあ、城壁に何か所も穴が開いてるんだし、そっから入ってきてるんじゃねぇの?」

「馬鹿、製造元の話だよ。どっかの組織が金欲しさに製造してんのか、他の国で作られたモノがこっちまで流れてきてんのか。」

「製造元ってそんな大事なことなのか?」

「重要に決まってる。街に出入りしているやつの中から怪しいやつを絞り込めるし、金目的でない場合は敵国を弱体化させるために、安価で薬を送りまくって兵士全員を薬中にしたって言う話もあるんだぞ。当然薬中の兵士なんて身も心もボロボロで役に立たない。戦争は一方的な虐殺でしかなかったらしいな。」

「戦争か……。それは怖いな。」


そういえば歴史にそんな話があったな~。

こっちの世界でもあったのか。

麻薬の取り締まりとか、常習者を虐殺でもしないと止まらないだろうから難しいだろうなぁ~。

まぁ、私には関係ないけど。

むしろ私が薬物にハマっちゃわないように気をつけないとなぁ~。

酒もたばこも一切やらなかったけど、薬はなぁ。

たぶんハマりやすいと思うんだよね。

スポーツしていて、普通に脳内麻薬でハイになりまくってた経験あるし。

全力でスポーツしてると結構なりやすいんだよね。

まぁ、私だけかもしれないけど。

ゾーンとか絶対脳内麻薬が関わってるね。

あの全能感は一度味わっちゃったらなかなか忘れられないよ。

だからこそ簡単にハイになれるクスリがよく売れるんだろうけど。


『クスリ、駄目絶対。』

なんども聞いた言葉を自分に言い聞かせ、出来る限り関わらないように気をつけようと思いながら食事を続けるのだった。

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