第45話 無罪が一転、指名手配されたよ。ワロタ

翌朝、起きると指名手配されていた。

うん、宿に兵士がいっぱい来たね。

勝てると思っているのかな?

それで容疑は?


「ぼ、暴行と貴族の屋敷に対する損害です……。」


そっかぁ。

覚えがあり過ぎる。

だが『不問としてやる』という昨日のセリフは何だったのか?

とりあえず捕縛に来た兵士におはようのボディーブローを叩きこんだ後に正座させて話を聞いたところ、昨夜の間に領主・ギルド長・街の警備隊総隊長の連名で正式にこの街を治めるメリクス家から指名手配の令状が発せられたらしい。

なんと賞金は、たったの金貨10枚だそうだ。

舐めきってるね。

少しは短絡的にあちこちに喧嘩を売りまくったことを反省しようかとも考えたが、方針変更だ。

正座させていた兵を窓から捨てて、ギルドへと移動することにした。

宿の外にもたくさんの兵士がいたが、こういう時に便利な物理魔法だ。

スライムの時と同じように壁を作り、ダッシュで跳ね飛ばす。

人を綺麗に吹っ飛ばした時の爽快感がたまらない。

……これってロードローラーじゃなくてブルドーザーだよな?

ギルドが見えてきたので、入り口なんか無視して壁に激突する。

当然壁は吹き飛んだ。


「突然ですがこのギルドを物理的に解体することにしました。建物に潰されて死にたくない方がいらっしゃいましたら、今すぐに外へ避難なさることをお勧めいたします。」


アナウンサーのように流暢に『ギルドをぶっ壊す宣言』をして、ギルドの1階の柱という柱を全て壊して周り、石壁や土壁も全て吹き飛ばした。

何名か逃げていなかったようだが、そんなことは気にしない。

10分ほどでギルドは瓦礫の山と化した。

更地にするのはさすがに面倒だ、このままでいいか。


「次は貴族様のお屋敷だぁー!ヒャッハー!」


道を塞ぐように集まっていた兵士たちを吹き飛ばし、崩壊したギルド跡地から昨日の屋敷へと移動した。


「デカくて偉そうな屋敷だな!焼き払ってやろう。」


屋敷はギルドと違ってよく燃えそうなので、火を放つことにした。

厨房へと突撃して火を確保すると、家の中にあるベッド・カーテン・カーペット等に火をつけて回った。

いい感じに燃え広がった。

堂々と火をつけて回ったので、流石に全員が外へと逃げ出したみたいだ。


「……なぜ、こんなことをする?」


あ、昨日の貴族だ。

なぜと言われても、逆恨みっていう理不尽を知らないのかな?


「あなたとギルド長と警備隊総隊長の連名で私に指名手配をかけたんですよね?たったの金貨10枚で。私はギルド長と戦争をしているので、ギルド長に味方する人に対しても敵とみなして攻撃しますよ?連名での指名手配なんて分かりやすい敵対の意思表示じゃないですか?だからこの屋敷を燃やしました。単純でしょう?」


適当に理由を考えながら答える。

戦争とか知らない世代だけど、戦争ってこういうものだよなぁ。

敵の味方をする奴は敵だし、勝つためなら手段を選ばない。

この後は城壁に穴をあけて警備隊総隊長の仕事を増やすんだい!


「それじゃあ、次は城壁を壊しに行くので失礼しますね。そういえば今更ですけど、指名手配って誰の提案ですか?」


貴族は何も答えなかった。

何も答えないので城壁へ移動した。


「そういえば城壁っていうけど、この街に城はないよね?この場合でも城壁でいいのかな?……まぁ、いいか。」


城壁に全力のヤクザキックを放つ。

城壁は吹き飛び、非常に大きな穴が開いた。


「すげぇ!漫画のキャラになったみたいだ!今ならグラップラーにだってなれる気がする!」


男の子ならパンチ一発で壁に大きな穴を開けてみたいよね!

流石に拳を痛めそうだからキックにしたけど。

大きな穴さえ開いてくれれば、特に気にしないのだ。


その後も数か所に大きな穴を開け、……満足した。

こっちに来る前に、テレビで『ただ物を壊すだけ』の施設がストレス解消に流行っていると言っていたが、確かに実際やってみるとスッキリするなぁ。


「さて、指名手配されちゃったしどうするかな?別の国とか違う街に移動するのもなんだか負けた気がするし……。だからといってギルド長を殺してしまっても解決しないだろうし……。少し困ったなぁ。」


少しである。

いざとなったら森の中でも暮らしていける自信があるので、正直街で指名手配されてもそこまで気にならない。

……少しは気にするが。


「とりあえず、今は買い物にでも行こうかな?いつでも街を出られるように準備しておこう。」


塩・ロープ・木工をするための道具は確実に入手しておきたい。

食料や水は、しばらくは現地調達で賄うしかないだろう。

いや、水筒は追加で買うべきだな。


「それじゃあ、とりあえず雑貨屋でいいかな?」


街に甚大な被害を与えた指名手配犯は、何事もなかったかのように買い物へと向かうのだった。






※屋敷を指名手配犯に燃やされたうえに治めている街の城壁にいくつも大穴を開けられた可哀想なメリクス家当主視点。




「あれは本当に人間か……?」


目の前では屋敷が燃え落ちようとしていて、辺り一帯に焦げた臭いが漂う。

火をつけたのは昨夜屋敷を襲撃してきた若者だった。

警備隊の総隊長であるフランク、この街のギルド長であるカービーと3人で話し合った結果、先ほど犯罪者として捕らえるように命令を出し兵を送った。

あの者がここに来たということは、兵は皆倒されたか死んだのだろう。

フランクは『多少実力があろうとも、一人では集団には勝てない』と強く捕らえることを進めてきたが、カービーは最後まで反対していた。

『あの者はただの人間が数十人集まった程度では止められない。』と、

『そんなことをしてはただ街で暴れて被害を増やすだけになる』と。

この惨状を見るとカービーの言っていたことはすべて事実だったのだろう。

だがなんだ『ギルド長と戦争をしている』とは、『ギルド長に味方する人に対しても敵とみなして攻撃しますよ?』などまともな思考をした人間の考えではない。

『敵の敵は味方』という言葉は聞いたことがあるが、『敵の味方は敵』など、わざわざ敵を増やしているようなものだ。

言っていることは多少理解できるが、それをやってしまうと周りの全てを敵に回すということが分からないのだろうか?

いや、『周りのすべてを敵に回しても問題ない』と判断しているからこその、あの態度とこの惨状なのだろう。

とんでもない化け物が街にいたものだ。

『壁を壊しに行く』と言っていたあの者をたくさんの警備兵がいても止められないのだ。

この街はお終いかもしれない。


そんなことを考えているとカービーがやって来た。


「ここもやられたのか」


「あぁ、すまなかった。お前の言ったことはすべて正しかったのだろう?」


カービーとは長い付き合いだ。

実力もあり、真面目で、仲間想いの素晴らしい冒険者だった。

引退してギルドで働き始めてからも、真面目に街と冒険者のことを考えて仕事をしていた。

それでも、カービーの言うことが信じられなかったのだ。

『ダンジョン前に集まっていた冒険者32名、ギルド職員4名を一方的に叩きのめした』など、到底信じられる話ではない。

むしろその話を聞いて、より『指名手配するべきだ』という気持ちが大きくなったほどだ。

そして、信じなかった結果がこれだ。


「どうすればいい?どうすればあの者は戦争を止める?」


返事はなかった。

何度考えても一人で街を相手に戦争をするなど馬鹿げているが、どう対処すればいいのかなど分かるはずもない。

武力では勝てない。

目的も分からない。

弱点も分からない。


「本当にどうすれば……。」


そこへフランクがやって来た。


「ダリル様!これは……、あの者の仕業ですか?」


「あぁ。『指名手配なんて分かりやすい敵対の意思表示』だそうだ。家に火を放った後にそう言っていたよ。」


「今すぐに兵を出すべきです!いくら強くとも個人では……「黙れ!」」


そんな当たり前の常識が通じる相手ではないとまだ分からないのだろうか?


「あれは化け物だ。あれはモンスターの大襲撃と同じ災害なのだ!たかだか数十の兵で!あいつを捕らえられるものか!」


そう、この考えが最初から出来ていたのなら……。

すでにだいぶ遅いが、街が崩壊する前に止めなければならない。

その時ちょうど、ベネットがこちらへとやって来た。


「これは……、何が起きたんです?『家を燃料にバーベキューしようぜ!!』って感じですか?」


……ベネットは昔から不思議なほど優秀だったが、ここまでおかしなことを言っていただろうか?

『家を継ぐのは長男』だと早くに決まり、教育を任せていたのが間違いだったか?


「昨日屋敷に襲撃してきた者がいただろう。今朝犯罪者として捕らえる様に命令を出したら、反撃で家を燃やされたよ。」


「あぁ、あの人頭おかしいですもんね。適度に距離を取ってうまく付き合っていけると利益が見込めるんですけど、敵対したらそりゃ潰されますよ。ヤクザと一緒ですって。」


……『ヤクザ』とはいったいなんだ?

それにしてもベネットは随分とあの者のことを理解しているようだ。


「あの者について何か知っているのか?」


「台車を買いました。関係としてはそれだけですよ。気になっていろいろと調べていましたけど、間違いなく野盗を惨殺したのってあの人ですよね?」


「……おそらく。確証はない。」


ベネットとカービーは何かを知っているようだ。

野盗を惨殺とは少し前に報告のあったあの件のことだろうか?

十数人の野盗の死体が首を切られ、並べられた状態で放置されていたという……。

確かに、頭がおかしいとしか言いようがないな。


「晒し首なんかやってあそこまで普通の人間ぽく振舞えるのは異常者でしょう?ああいうやつは頭のおかしいサイコパスって相場が決まっているんです。敵対すると何をしてくるのか想像がつかないので距離を置くのが一番ですけど……、この惨状だとそうも言ってられないですよね。」


「話し合いとかは出来ないのか?」


ベネットは間違いなくあの者を私達より理解できている。

これが唯一の希望なのかもしれない。


「わかりません。その時の気分と誰が話すかによるんじゃないですかね?少なくとも敵対する人間が話に行ったら警戒されるだけでしょうね。」


希望が少しだけ見えた。






※買い物中だった主人公視点




「という訳で私が和平交渉に来たんですけど、ギルド長との戦争、止めてもらえません?」


……買い物をしていたら変人さんがやって来た。


「たぶんですけど、ぶっちゃけ飽きちゃってるでしょ?これ以上暴れられちゃうと私の暮らしにも影響が来ちゃうんで、そろそろ止めていただけるとみんなハッピーなんですよね。指名手配の撤回はすでに終わっていて、ギルド長の謝罪と賠償の準備も済んでいますので。あと屋敷に火をつけて全焼させたこととギルドの建物を全壊させたこと、城壁に穴を開けたことは無罪とするので、しばらく街の防衛に力を貸して欲しいとのことです。どうします?」


聞いたところ全面降伏だけどなぁ……。


「昨日『今回のことは不問にしてやる』って言われたけど今朝になったら指名手配されてたんですよね。正直信用できないんで帰って貰ってもいいです?」


「そんなこと言わないで、ここは同郷のよしみで終わらせて貰えないかな?」


……どうきょう?


「たぶんだけど転移者でしょ?見た目がまんま日本人だし。こっちは向こうで死んだら赤ん坊として生まれたから転生なんだよね。」


へ~。

……正直興味ないなぁ。

でも台車を高く買って貰えたし、同郷のよしみで許してもいい気はするなぁ。

雑魚狩りにも飽きちゃってたし。


「分かりました。」


「ありがとう。それじゃあ私は戻って報告してくるよ。ところでギルド長の謝罪って必要?」


要らないね。

暇つぶしで喧嘩売っただけだし、指名手配されたからムカついて暴れただけだし。

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