第44話 私は無罪。すべての被害はコラテラルダメージ

翌朝、今日はちゃんと朝。

しっかりと食事の時間の前に起きた。

朝食を食べようと受付の前を通ると、またギルド長ぽい人がいた。

当然ながら今日は話を聞く気もない。

完全無視だ。

肩を掴んできたので、掴んできた手首を掴み、握りつぶした。

ついでに宿の外へと蹴飛ばす。

これで静かになるだろう。


「……申し訳ございません。昨日のことを見ていたので、一応帰るように促してはみたのですが……。」


受付ちゃんはドン引きしながらも謝って来た。

宿の責任ではないと思うけど、一応受付での出来事だからね。

こっちが宿に迷惑をかけてしまったのではないかと考えたが、この様子では追い出されることもないだろう。


朝食を食べ終え、今日はまず買い物に行くことにする。

船に乗り込むための準備だ。

と言っても船に登るためのロープを調達するだけなのだが。

……うん、なかった。

仕方なく船乗りを探す。

ボートと縄梯子を両方借りるためだ。

港に行き、聞き込みを続けて、ようやく目的のものを手に入れた。

……脅してないよ?ホントダヨ?

こうして無事に船の甲板へと登ることができたのだが、


「さっそく襲ってきたね。まだ日中なのにどうしてスケルトンはそんなに元気なの?」


スケルトンが襲ってきた。

グールの付属品だと思っていたので驚きだ。

棒で殴ったら、当たった場所が砕け散ったが。

肋骨を砕いて、頭蓋骨を砕いて、骨盤を砕く。

魔石は骨盤の中にあった。

とりあえず砕いてみる。

経験値は2%増えた。


「スケルトンって意外と経験値貰えるんだな。ウサギと大差ない気がするけど……。ま、いいか。」


船室の方へと近づくとグールも出てきた。

こちらは結構速い。

今なら余裕で対処できるが、昨日までだと少し驚かされただろう。

開いた口に棒を突っ込んで、そのまま貫いた。

……スケルトンは死体が残らなかったのにグールの死体は消えない。

安全のために手足を斬り飛ばした後に腹を開いて、心臓の位置にあった魔石を壊しても死体が消えなかった。

このグールはダンジョンで生まれたモンスターではなかったようだ。


(船員さんのなれの果てだったら可哀そうだなぁ。)


とりあえず邪魔なので捨てた。

可哀そうと思っても、汚いものは汚いのだ。


「さて、船室から下がダンジョンになってるみたいだな。船の中にダンジョンなんてファンタジー感満載だけど、中はどうなってるのかな?」


見たところ森の中のようだった。

木々が青々と茂るような森ではなく、ところどころに沼地が存在する薄暗い森だ。

……靴が汚れるの嫌だなぁ。

そんな感想しか浮かばなかった。


沼を回避しながら森の中を歩いていると、いろいろな骨が襲ってきた。

鳥であったり鹿であったり熊であったり、本当にいろいろな骨だ。

人間の骨もたまに襲ってきたが、頻度は少なかった。

骨を砕いて魔石を探し砕く。

そんな作業を延々と続け、レベルアップしてしまった。

貰ったSPは42。

レベルの2倍SPを貰えるということで間違いないみたいだ。

(体力)、(魔力)、(超感覚)、(認識力)にそれぞれ10づつ振り分け、1だけ(運)に振った。

1残っているが、キリが悪いので放置だ。


____________


Lv.21(0%)

・HP(体力):29/40

・MP(魔力):30/40

・STR(筋力):70

・MAG(超感覚):40

・SEN(器用さ):40

・COG(認識力):40

・INT(知力):30

・LUC(運):50

SP.1


スキル

・ステータス割り振り

・物理魔法(21/100)

____________


やっぱりダンジョンはレベル上げに最高の場所だ。

スキルオーブも出てくれたら嬉しいのだが、そっちはあまり期待しないことにする。


その後も骨を倒しながら進み、下への階段を見つけたので降りた。

凄く見覚えのある広間だった。


「ここって昨日のボスが出なかった行き止まりとそっくりじゃん。もしかしてたった1階で終わり?骨しか出てないよ?グールは?」


とりあえず昨日と同じように奥に見える魔石に近づいていく。

ボスが出ないか警戒しながら魔石を叩き割った。

やはり昨日と同じようにダンジョン内の雰囲気が切り替わる。

史上初めて観測された船のダンジョンは、こうして終焉を迎えた。




何事もなく外へと戻り、港に帰った。

港には大勢の人が詰めかけ、この街の兵士に包囲された。


「……人間のようだな。」


なる程、グールの可能性を考えていたのね。


「グールは1体しかいませんでしたよ。後はスケルトンでしたけど、あらかた倒したと思います。」


とりあえず報告しておく。


「そうか……、なぜ一人でダンジョンに行ったのだ?冒険者には船に近づかないよう警告が出されていたはずだ。」


「昨日ギルド長と敵対して冒険者ではなくなったので警告が出されていたとしても関係ないですね。ダンジョンがあったから行っただけです。」


ギルドってホントに規制ばっかりだなぁ。


「そうか、とりあえず貴様の身柄は拘束させてもらう。」


とりあえずで捕まえるのか、偉そうなやつはやっぱ違うな。


「拘束理由は?」


「そんなもの適当でいいだろう。船から来たというだけで理由としては十分だ。」


すげぇ、ここまでふざけた態度で逮捕しようとするとは……。

ある程度理解できるからおとなしくしようかと思ったけど、ぶん殴ってもいいかな?

あ、そうだ。


「確か先ほど『冒険者には船に近づかないよう警告が出されていた』と言いましたよね?」


「それがどうした?」


「つまりあなたは私の敵ですね。」


冒険者関係は全て敵、だから殴ってもいい。Q.E.D.。

遠慮なく殴ろう。

胸倉をつかんでボディーブロー。

お、こいつ結構いい防具付けてるな。

あと5発はボディーに叩きこんでも良さそうだ。

1・2・3・4・5。

良し、動かなくなったので高く持ち上げる。


「こいつの上司って誰?この街を治めている貴族?」


周りにいる他の兵士に聞いてみる。

誰も答えない。

仕方ないので引きずって移動することにした。

目指すはこの街で見つけた『いかにも貴族が住んでいます。』って感じのお屋敷。

貴族がいなくても、金を持ってるやつなら権力者の所在も知ってるやろ。

そんな考えで歩き出す。

数人の兵士が止めようとしたが、こっちには持ちにくいし耐久性も微妙だが、数十キロの重さの物体がある。

軽く振り回せばどいてくれるので非常に楽だった。


「たのも~!」


目的の屋敷に到着。

門番を無視して鉄の門を蹴飛ばす。

あ、飛び過ぎて玄関まで飛んで行っちゃった。

取り付け方が甘かったんじゃないかな?

お金ありそうだし、もっと腕のいい職人に頼んだ方がいいよ?

相変わらず偉そうだった兵士を引きずって歩いていると、どこかで見た顔のやつがいた。


「キミは……、台車を売ってくれた人だよね?何かあったのかい?」


そうか、そういえば『この街を治めるメリクス家の次男』って言ってたね。

あれ以来会ってないから普通に名前は忘れたよ。

とりあえずここがメリクス家で合っていそうだ。


「凄くふざけた兵士がいましてね、ちょっと上司にどんな教育をしているのか文句を言いたいんですよ。とりあえずこの街の兵士っぽいですし、この街で一番偉い人を探そうと思ってこの家に来ました。」


「そ、そっか。出来れば家は壊さないで欲しいんだけどね?ほら、一応貴族の面子っていうモノがあるし。」


「善処します。ところで、結局これの上司に当たる人はいますか?」


「いると思うよ?港に流れ着いた船のことで私の父と警備隊の総隊長が対応を話し合ってると聞いたからね。メイドにでも聞いてみようか?」


絶賛押し入ってる自覚があるけど、この人大丈夫なのだろうか?

きっと変人に違いない。

木でできた台車に金貨50枚を払う人だし、変人で当然なのかもしれない。

名前なんだったっけな~?

とりあえず門が玄関に突き刺さった家へと歩きながら、メイドさんに聞いてもらえるようにお願いする。

門が邪魔で扉が開かなかったので、蹴り破った。

あちこちから悲鳴が聞こえるが、何かあったのだろうか?


「どうした!?何があった!?」


おぉ!偉そうな人が2人いる。

これがさっき言ってた2人だろうか?

ちょっと話しかけてみよう。



「どうも!この兵士の上司で間違いありませんか?」


敬語など要らぬ。

これは明らかにこちら側が悪いと分かったうえで、強引に相手をねじ伏せなければいけない場面だからだ!


「誰だ貴様は。」


うん。

剣を腰に差したおっさんは偉そうだ。


「この兵士に大した理由もなく拘束されそうになったんで、上司は一体どんな教育をしているのか文句が言いたくなりましてね。で、あなたがこれの上司ですか?それともあなた?」


喧嘩売っていくぜぇ~。

今の私なら暴力には自信がある。

一方的な暴力はだいたいのことを円滑に解決するって、小学校で学んだんだい!

……いや、私が通っていた小学校の担任が悪かっただけだよ?

小中9年間の義務教育で、担任が『尊敬できる大人』だったことは一度しかなかったよ。

高校の時の先生方には非常にお世話になったけど……。

『教職員になりたい』って人はもう少し自身について考え直すべきだと思うんだよね。

特に酷かったのが中3の時のあの女教師だ。

自分が教員試験に4回落ちたからって『社会は甘くない』じゃないんだよ!

お前が教員に向いてないだけなのを社会のせいにしてこっちに押し付けるんじゃねぇよ!

何度もそう思ったね。

どうでもいいか。

偉そうなおっさん2人が何も話さないので、昔を思い出してしまった。

イライラしちゃうね!


「お前は……、もしや『ニート』という者か?」


お?貴族っぽい人はこっちのことを知っているようだ。

これはギルド長とのつながりを感じますねぇ~。


「そうですよ?あなたは私と敵対しますか?」


そういえば貴族は魔法使いが多いって聞いたな。

魔力を放出して威嚇できないかな?

やってみよう!

うん、目に見えて顔色が悪くなったね。

貴族様相手だと魔力を放出するだけで威嚇できそうだ。

……変人さんは顔色一つ変えてないんだけどね。


「い、いや、敵対するつもりはない。そうか……。」


敵対しないのか。

まぁ、貴族を相手に戦うと面倒だからね。

放っておくかな?


「それで、これについてですけど、どういう教育しているんですか?船で港に着いたらいきなり『身柄を拘束する』ですよ。拘束理由を聞いたらなんて言ったと思います?『そんなもの適当でいいだろう。』ですよ!この街はそんなふざけた理由で身柄を拘束できる無法地帯なのですか?他の人はどうするか分かりませんけど、私はそんな理由で拘束されるなら反撃しますよ?生きたままコンクリートに詰めて海に沈めてやりますよ?」


誰でも一度は嫌いな奴をコンクリートに詰めて沈めてやりたいって思うよね。

さて、自分に都合のいい部分だけ抜き出して説明したのでこの先が肝心だ。

上手く『抵抗して当然だった』という筋書きに持って行かなければ……、駄目な時は暴力で解決するしかないな。

抵抗した結果貴族の屋敷に乗り込むやつなんて聞いたことはないが、街を治めてるんだからそういうことがあっても仕方ないよね。


「……その男がそういったのか?」


確か警備隊の総隊長?っぽい人が聞いてきた。


「はい、そうです。あなたがこれの上司にあたる警備隊の総隊長らしいですね。いったいどういう教育をすればこんなやつが兵士として働けるんですか?警備隊なんて知りませんけど、組織をバックに好き勝手に拘束する糞野郎を雇っているんですよ?もう少しまともな人員を配置していただかないと私も迷惑ですし、この街を治める貴族様に対しても失礼じゃないでしょうか?今回のことはこいつが原因で貴族様の顔に泥を塗ったようなものですよ!」


これが超理論。

自分に都合のいいところだけを抜き出して相手を一方的に攻め立てるクソみたいな理論だ。

一番の対処法は無視だと思うが、無視されたら無視できなくなるまで暴れてやるんだもんね!

力のあるやつが意味もなく暴れると厄介だぞぉ~。


「貴様の言い分は分かった。だがこれはどういうことだ?貴族の家に押し入ったことに対してはどう言い逃れするつもりだ?」


『言い分は分かった』とか言ったら駄目だよ!

相手が調子に乗るだけだよ!


「あなたの部下の誰一人、どこで誰に抗議すればいいのか話さなかったので、街の偉い人に話を通そうと思っただけですよ?それで、これの処分はきちんとしていただけるんでしょうね?」


そう言って連れてきた兵士を総隊長(仮)へと投げ捨てる。

どっかのギルド長ならこの時点でキレてるね、間違いない。

総隊長(仮)は貴族様の方をしばらく見た後、深くため息をついた。


「メリクス様が何もおっしゃらないから今回のことは不問としてやる。しかし、次はないと思えよ?」


無罪を勝ち取ったぜ!

ヒャッホー!

無罪になったしそいつの処分は任せてやるよ。


「それじゃあ私は帰りますね。あ、門はもう少ししっかりと取り付けた方がいいですよ?」


自分でやっておきながら、去り際に門の取り付け方が悪かったような物言いをする屑は、浮かれたまま(宿より先に銭湯に行こう)と考え、歩き出すのであった。

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