第43話 調子に乗りまくったサイコパス系主人公

熊の首にナイフを刺す場面を何度も思い出すサイコパスは15分程休憩していたが、やはりナイフを刺す感触が忘れられないからか次の獲物を求めて歩き出した。


「グヘヘ、熊さんどこだい?油断できる相手じゃないけど今の私なら戦いを愉しめるよ?ほら、早く出ておいで。」


セリフからして酷かった。

5分ほど歩いたが熊は見つからず7階へと降りる階段が見つかった。

流石に先ほどの熊をみれば、これ以上敵が強くなった場合に対処できないのは理解している。

出来ればもう1匹熊を倒してレベルアップをしてから、下の階を見に行きたい。

なので階段は一旦無視して、熊を探して歩き続けた。


「やっと見つけた……。」


おそらくこの階のほぼ全ての通路を網羅したであろう距離を歩き回り、なんとか2匹目の進化したと思われる熊を見つけることができた。

熊は前と同じくかなりのサイズで、可愛く座っていた。

座っていたため、頭の位置が高すぎるので首を狙うことは無理そうだった。


「これどうするかな?流石にガチではやり合いたくないぞ。出来れば先制して即死取りたいんだけど……、難しそうだなぁ。」


首を狙えないなら心臓を狙うしかない。

一応心臓の位置は知っている。

ゲームでなら何度も熊の心臓を撃ち抜いた経験があるのだ。

もちろんムシャムシャされたことも少なくなかったが。

問題は角度だ。

胴体に対して水平にナイフを突き刺すとなれば出来そうなのだが、やはり位置が高いため少し下から突き上げるような形で心臓を狙わなければいけない。

そうなると少し自信がない。

角度を間違えれば当たらないだろうし、そもそも脂肪や筋肉に阻まれてナイフの長さが足りない可能性もある。

物理魔法を使って腕ごと突き刺せたらほぼ確実に狙えそうだが、気づかれるので反撃のリスクが高い。


「どうするかなぁ……。うん、レベルアップするためにも突撃するか。」


一撃目はひっそりと近づいて一気に心臓めがけてナイフを刺す。

倒せたらラッキー、倒せないことを前提に即座に手刀ナイフで追撃。

いける!


成功するかしないかはすごく微妙なところではあるが、今調子に乗っているサイコパスは躊躇なく突撃することにした。


「ケッケッケッケ。今宵のナイフは血に飢えておるわ。」


まだ昼過ぎである。


慣れたもので熊に気づかれることなく近づくことができる。

昔飼っていた猫を相手に、だるまさんが転んだで遊んだ経験がこんなところで生きるとは思っていなかった。

足音どころか、足が床に着くときの振動まで抑えて歩く練習をした結果だ。

一歩踏み込めばナイフを刺せるほど近い位置まで近づくことができた。

殺気を出さないように、感情を殺してナイフを構えた。


「ヒャッハー!お前の血は何色だぁー!」


もちろん殺気の抑え方など知らないので、攻撃の瞬間には普通に殺気があふれ出ていた。

むしろ殺気マシマシで熊に気づかれてしまったほどだ。

一応問題なく先制攻撃は出来たが……。

心臓があると思われる位置にナイフを刺し、一歩下がって今度は手刀ナイフのために物理魔法を発動する。

熊が痛みの為か前足を振り回して暴れたので3歩下がって安全に回避した。

座っていた熊が4足歩行へと体勢を変えようとしたので急いで踏み込み、喉の下から脳へと突き上げる様に手刀を刺した。

流石に脳への一撃は即死だったようで、刺さっていたナイフと熊の大きな魔石が地面に落ちた。


「なんとか倒せたな。進化した熊はなかなかの強敵だったぜ。一撃も食らってないけど!」


経験値の為なら多少の危険も仕方ないが、やはり攻撃は食らわないことが一番。

狩りは安全かつ確実にやるべきものなのだ。


「さて、これでLv.20だな。やっぱりもう少し筋力を上げた方がいいかな?」


そんなことを言いながら魔石を砕いた。

経験値は無事に100%となり、Lvは19のまま変わらなかった。


「なんでだよ!」


久しぶりにツッコミではなく、心からの叫びとして「なんでだよ!」が出でしまった。

だって普通100%になったらレベル上がるよね?

これはぎりぎりレベルアップに届いていなくて、もう1匹何かを倒さないといけないのかな?

……めんどくさいなぁ。

この階にモンスターは全然いないから探すのがめんどくさい。


「下の階に降りてみるか。」


レベルが上がってから降りようと思っていたが方針変更だ。

上の階に戻るより、下の階へ降りる階段の方が近い。

下の階を少し覗いて、モンスターが倒せそうなら挑戦してみよう。

こうして階段へと移動し、地下7階へと降りて行った。


地下7階は広い空間だった。

いかにもボスが出てきそうな空間だ。

部屋の奥の方に非常に大きな魔石の様なものが見える。

しばらくは警戒しながら壁や天井を観察していたが、ボスは出てこなかった。


「……ここって何なんだ?下に降りる階段もないし、ここで終わりなのか?ボスがまだ出てきてないけど……。もしかしてあの奥に見える魔石みたいなものを触るとボスが出現するとか、そういう感じなのか?」


仮にもしそうだった場合、非常に危険だ。

出てくるボスの強さも分からないまま階段から離れ、広間の反対側にある魔石の位置から戦闘が始まってしまう。

そうなると「敵が強そうだからすぐに逃げよう。」なんてことは難しくなるだろう。


そんなことを考えつつも、魔石の様なものに近づいた。

見た感じただの大きな魔石にしか見えない。

地味に100%になったのにレベルアップしなかったことを気にしていたので、魔石を棒で全力で叩き壊した。

……ボスは出なかった。


「あれ?ここはボスが出てきて苦戦しまくっているところにヒロインが登場する場面じゃないの?」


ヒロインなんていなかった。


「でもなんか変な感じだな。なんというか……ダンジョンが変わった?」


魔石を壊したことで、ダンジョンは既にその機能を失いつつあり、モンスターを生み出すことも、ダンジョンの周囲に影響を及ぼすことも無くなっているのだが、気づいていなかった。


「……何も起きないなら帰るか。上の方ならモンスターもいるだろ。」


(今壊した魔石でレベルアップしてないかな~?)とステータスを確認したところ、レベルは20へと上がっていた。


____________


Lv.20(0%)

・HP(体力):25/30

・MP(魔力):23/30

・STR(筋力):50

・MAG(超感覚):30

・SEN(器用さ):40

・COG(認識力):20

・INT(知力):20

・LUC(運):49

SP.40


スキル

・ステータス割り振り

・物理魔法(21/100)

____________



「レベル上がってる!?さっきの魔石で経験値貰えたのか!SPが40も増えてる!?なんで!?」


この世界、Lv19までは誰でもレベルが上がる。

だが、Lv.19からLv.20になるにはダンジョンコアを破壊する必要があるのだ。

そして普通の生き物の場合、Lv.20からはレベルアップごとのステータスの伸びが大きくなる。

主人公も例外ではなく、Lv.20になったので貰えるSPが倍になったのだが、そのことを理解しているものは神以外いなかった。


「いや、貰えるSPが増えるのは良いことだ。……何に振ろうかな~?」


進化した熊相手に、精神的には少し苦戦したので今は強くなりたかった。

となるとやはり筋肉が一番だ。

筋肉は大抵の問題を解決できる。

(筋力)に半分の20を振った。


「他には……いい加減(知力)と(認識力)上げるかな。」


____________


Lv.20(0%)

・HP(体力):25/30

・MP(魔力):23/30

・STR(筋力):70

・MAG(超感覚):30

・SEN(器用さ):40

・COG(認識力):30

・INT(知力):30

・LUC(運):49

SP.0


スキル

・ステータス割り振り

・物理魔法(21/100)

____________


こうして圧倒的な(筋力)と横並びな他のステータスという感じになった。

今後は筋力以外を50まで上げることにしよう。


ステータスも振り分け、キリがいいので今日は帰ることにした。

というか先がなかったのでこのダンジョンに興味がなくなっていた。

すでにダンジョンではなくなっていたが……。


何事もなく外へと出ると、冒険者の方が大勢いた。

何かあったのかな?


「あいつだ!あいつが私の腹を殴り、規則に反してダンジョンに入った冒険者だ!」


……完全に忘れてたね。

とりあえずダッシュで近づいて黙らせるために殴ろうと思ったのだが、筋力が20も上がった影響か、止まりきれずに肩で体当たりする形となった。

一応ブレーキはかけていたので死んではいないと思うが、見事に吹っ飛んだ。


「私は冒険者ではないのでダンジョンに入ろうが自由です。そもそも今日、ギルド長と敵対したので邪魔する冒険者は躊躇なくボコボコにしようと思ってます。」


流石に人が飛んで行った光景に驚いたのか非常に静かだったため、声がよく響いた。

これなら聞えなかったという言い訳で許しを請うても、遠慮は必要ないだろう。


「という訳で私は冒険者の敵となりました。やる気があるのなら遠慮なくかかってきてください。」


「つまり賊と同じという訳だな?」


女の人がそう言いながら堂々と斬りかかってきた。

攻撃しようという意思は素晴らしいが、なんで堂々と正面から来るのかな?

後ろに味方でも回り込んでる?

……いないようだ。

とりあえず剣を持った腕が振り下ろされる前に、前に出て腕をつかんでみる。

そのまま強く握ったら折れてしまった。

流石に痛かったのか叫んでしまい、うるさかったので蹴り飛ばした。

他に攻撃してくるやつはいないかな?

男たち数人が覚悟を決めたようだ。

盾を構えた男が突進してきた。


「盾での突進は筋力差が激しいと意味ないんじゃないかな?」


そういってヤクザキックで盾を蹴った。

盾が凹む感触に、盾と持っていた男がぶつかる衝撃。

男は盾ごと吹き飛んでいった。


「盾だったからさっきより強めに蹴ったけど、結構飛ぶなぁ。」


盾を持っていた男の仲間と思われる者たちは、驚いて突撃するのを止めてしまったようだ。


(でも、武器を抜いたんだから関係ないよね?)


そう思い全員を防具の上から殴った。

全員結構いい音が鳴って、動かなくなる。

一人は防具が不良品だったのか、殴った個所が大きく凹み腹に食い込んでしまったようだ。


「愉しいなぁ。遠慮なく人を殴れるって素晴らしいことだと思わない?」


……まだ人は結構残っているが、誰も同意してくれなかった。

ムカついたので、落ちている人を投げ飛ばし、振り飛ばし大暴れだ。


「逃げる冒険者は敵だぁ!逃げない冒険者は訓練された敵だぁ!」


言ってみたかったセリフを言いながら結構暴れた。

そろそろ陽も沈み、夕方となるだろう。


「そろそろ飯の時間に間に合わなくなるし、帰るわ。」


一応一人も死んではいない凄惨な現場でそう言い残し、街まで走って帰ることにした。

門番さんにお金を払って街に入り宿に戻る。

夕食には、渡していたお肉を使った『ラビット肉の煮込み』が出てきた。

素晴らしかった。

完璧とはこのことを言うんだろう。

非常に満足した食事をとった後、銭湯で体を洗いに行ってから眠った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る