第41話 暇つぶしにギルド長に喧嘩売ったよ!……戦争だ。

ギルドに到着した。

台車を引いたまま建物の中に入るのは流石に駄目だと思うので、台車を借りたギルド倉庫の方へと行ってみる。

台車を借りたときと同じ職員の方がいたので、どうすればいいか聞いてみる。

職員さんは台車のお肉を見て少し驚いたが、『すぐに担当の者をお呼びしますので少々お待ちください。』と言って、見覚えのある女性を連れてきた。

そう、スピカさんだ。

出来れば会いたくないと思っていたスピカさんが来てしまったのだ。


「数日ぶりですね。今日はビッグラビットとのことですが、全てギルドに売却なされますか?」


「いえ、一匹だけ解体をお願いした後お肉は持って帰ります。9匹ありますので8匹はギルドに売却。1匹も肉以外を買い取ってもらえるのなら売却でお願いします。」


「承知いたしました。1匹分の解体費用は売却額の方から引いて精算されますか?」


「はい、引いといて下さい。」


「分かりました。こちらはギルドで借りられた台車ですね?この場でご返却なされるのでしょうか?」


「はい、確か銀貨が数枚戻って来るんですよね?」


「その通りです。銀貨はここでお受け取りになられますか?それとも精算時ご一緒にお渡ししますか?」


「精算時に一緒に入れておいてください。」


表面上事務的な会話で円滑に話しを進めているが、明らかに何かを言いたそうな顔をしている。

手に持つ木の板に挟んだ書類に、何かを書き込みながらチラチラ見てくるのはやめて欲しい。

これが自意識過剰だったら恥ずかしいけど……。


「少しお尋ねしたいのですが……、」


さて、何が来るんだ?

燻製肉は無理だぞ、プロに頼め。

モンスターの討伐はランクを理由に断るんだい!

あとは……何かあったかなぁ?

高速でありえそうな質問を必死に考えてみるが分からない。


「なんですか?」


分からない以上、釘もさせないし聞くしかない。


「以前買い取らせて頂いた燻製肉なのですが……、」


やはり大本命燻製肉だったか!

でもなんだ?

随分高い評価を受けていたけど、売り切れたのか?

それともどこか傷んでいて売れなかったか?

どうやって作ったかは普通に燻製にしたとしか言えない。

燻製は煙を出す木材で香りがだいぶ変わると言うがそれか?

だけど、何の木で作ったかなんて私にも分からない。

作り方について聞かれたらプロの方に聞いてくださいと答えるしか……。


「先日この街を治めるメリクス家に献上いたしましたところ、大変気に入られたそうで。……追加で作って欲しいとの依頼がギルドに出されまして……。」


……そっかぁ。


「ビッグボアのお肉が手に入れば誰でも作れますよ!ギルドはビッグボアの肉の調達に全力を尽くして、燻製は奥が深いのでプロの方にお願いするのがいいと思います!」


遠回しな(私はやりませんよ)アピールは届いただろうか?


「……そうですか。ところであの燻製肉に使ったビッグボアのお肉はご自身で討伐されたのですか?」


「……夕食が近いので黙秘権を行使します。」


「出来ればビッグボアの納品をお願いしたいのですが。」


「すみません。ランクが下の下なんで討伐依頼が受けられないんですよ~。」


いやだよめんどくさい。

ビッグボアを乱獲した場所まで片道三日か四日くらいかかるよ?

往復で一週間だよ?

一週間も仕事が続くとか耐えられないよ!

という訳で事前に決めていた通りランクを理由に拒否する。

断固拒否だ!


「……そうですか。」


スピカさんがジト目だ。

ジト目可愛い。


「ビッグボアの納品を受けて下さるのならランクを中の上へと昇格させます。あなた様はダンジョンに興味があるとお聞きしましたが……、これでも受けて下さいませんか?」


……ほほぅ。

ぶっちゃけダンジョンには強行突破で侵入しちゃえば何も問題はないけれど、堂々と入れるとなると確かに魅力を感じる。

まぁ、依頼を受けようと思うには少し……いや、だいぶ理由としては弱いかな!

ここはもっと良い条件を出さないか待つべき場面だろう。

ぶっちゃけ受ける気はないが、気が変わる程のモノを提示してもらえるかもしれないし。


「ビッグボアの納品報酬は金貨20枚を予定しております。」


……前に売った生肉よりだいぶ高くない?

いや、今回は肉の納品ではなく一匹丸ごとの納品だからか?

骨とか良いスープが出来そうだし、あんだけデカいと毛皮も取れるだろうし。


「凄いですね。他にも受けたがる冒険者の方がいるんじゃないですか?」


そんなお高い報酬が貰えるのなら、他にも受けたがる人はいるはずでしょ?

なんで私に推してくるの?


「この街にも2組、この依頼を受けられるランクの冒険者のパーティーがあるのですが……。昨日どこからか港に船が流れ着いたのですが、その船でグールやスケルトンが確認されたんですよ。そのためランクの高い冒険者パーティーに、数日はかかると思われる依頼を受けさせることは出来なくて……。」


そういえば幽霊船っぽい船が来てたね。

城壁のない海からグールとスケルトンを連れてきちゃったから、街の安全のためにランクの高い冒険者パーティーには街に待機していて欲しいということなのだろう。

というかランクの高い冒険者が必要っていうことは、

グールやスケルトンは結構強いのだろうか?

聞いてみる。


「グールは非常に凶暴で、通常のモンスターとは違い人の肉を食べるために人を襲います。さらに厄介なのが人の肉を食べるたびに強くなるという特徴があります。そのためグールは強化される前に早い段階で倒すことが推奨されています。スケルトンはそこまで強くはありませんが、生き物ではないので通常の攻撃で倒すことが出来ない為厄介です。さらにスケルトンは死体の骨から新たなスケルトンを作っている可能性があるとの報告があります。人の肉を目的とするグールと、人の骨を目的とするスケルトン。この2種類が街の中に侵入してきた場合、どれほどの被害がでるのか想像ができません。」


……結構怖いモンスターなんだね。


「船に乗り込んで討伐しないの?」


「それが……、すみません。こちらは機密事項になりますのでお話しすることができません。」


……機密事項?

話の流れからして船に乗り込めない理由が機密なんだよね?

『足場が悪い』とか『船での戦いになれている者が少ない』なら分かるけど、機密事項?

船自体に何かあったのかな?


「機密事項なら仕方ないですね。船がダンジョンにでもなってるんですか?」


理由が思い浮かばないから適当なことを言ってみる。

ん?少し動揺したような?

船ってダンジョン化するのか?

移動するダンジョンとかあったら凄いよね。


「係りの者が解体を始めますので、こちらの札をもって受付の方で少々お待ちください。」


スピカさんは会話をぶった切るように言い切ってから木札を渡して行ってしまった。

依頼を押し付けられなかったのでこっちとしても問題はない。

船について追及するのは止めておいてあげよう。


その後肉とお金をを受け取り、宿に戻ったときには夕方だった。

「明日の夕食にでも使ってください。」と言ってお肉を渡しておく。

ほら、部屋に冷蔵庫とか備え付けられてないし、あったとしても入る大きさじゃないし……。

やはり昨日は相当お客さんが入ったようで、ウサギ肉をすべて使い切ってしまったそうだ。

嬉しそうに報告された。

渡したお肉に代金を支払うと言ってきたが、交渉の結果『厨房を自由に使っていい』ということになった。

自炊するとは思えないけど、お金に余裕があるのでそういう方向へと話を持って行ったのだ。

……自炊するならお好み焼きが食べたくなってきたな。

いや、ソースが作れないから無理か。

となると作れる料理は……ないな。

調味料は偉大だ。

そんなことを考えながら時間を潰し、夕食を食べて、その日は早く休むことにした。




翌朝、朝早くから宿に来客が来た。

『訪ねてくる様な知り合いはいない』と言ったがギルドから来たそうで、追い返すように言って二度寝した。


陽も高く上り時刻はお昼になろうかという頃、流石に起きた。

2日も真面目に働いたので疲れていたんだろう。

寝坊はともかく、二度寝は久しぶりな気がする……覚えていないだけかもしれないが。

やはり睡眠は大事なのだ。

働かなくても生きていけるなら、1日12時間は寝ていたい。

そんなことを考えながら、だいぶ遅めの朝食を摂りに行こうと受付に出ると、偉そうなおっさんがいた。

たぶんギルド長だ。

そっくりさんとか双子の可能性もあるから断言はできないが。


「起きたか、少し話がある。ついて来てくれ。」


「今から少し遅めの朝食を食べに行くところなので、今度じゃ駄目ですか?」


「……ギルドに所属する冒険者ならギルド長の言うことには従え。」


相変わらず偉そうだなぁ。

いやまぁ、偉いんだろうけど。

ぶっちゃけギルドに所属しなくてもいい気がしてるんだよね。

街に入るのが楽になる以外のメリットがほとんどないし。

ちょっと言ってみるか。


「ぶっちゃけ冒険者ギルドって規制ばっかりで全然私の役には立ってないんですよね。そこまで偉そうにするなら別に辞めてもいいんですよ?モンスターを倒すついでにお金が稼げると思ったから登録しただけなんで。その代わり今後一切関わらないで貰えます?」


冒険者ギルドに入って良かったことといえば、街に無料で入れることと文字を覚えることができたくらいだろう。

それ以外はどちらかというと期待はずれなところの方が多いのだ。

ギルドカードはただのカードだし。

訓練場では素振りしか出来ないし。

ランク制限とかあるから依頼ではたいして稼げないし、ダンジョンに行くのもいちいち許可がいる。

私がギルドに所属する意味ってほとんどないんだよね。

あ、台車を借りられるくらいか。


「貴様はギルドを甘く見ているのか?調子に乗るのもいい加減にしろ。」


……怒った。

ここで怒るようじゃ上の立場にいる資格はないよね。

登録するときに結構実力を示したつもりだったけど、まだわかってないのかな?



「勘違いしないでください。私は、私を馬鹿にする人と、私を舐めた目で見たり、私に対して舐めた口をきいたりする人を下に見ているだけです。つまりあなたのことを舐めきってます。戦争でもしてみますか?」


やんのかこらぁ~。

暴れるぞぉ~。

暴れちゃうぞ~。

ギルドの建物なんか頑張れば1日で更地に出来ちゃうと思うぞ~。


「いいだろう。貴様は今からギルドのブラックリストに登録する。今後この街のギルドで依頼を受けることも物を販売することも出来ないと思え。」


「つまり邪魔する冒険者は問答無用でボコボコにしても構わないんですよね?愉しみです。」


確実に勝てそうな冒険者相手に喧嘩売りまくっていっぱい愉しむんだい!

ギルド長は何も言わずに行ってしまった。

ちなみに、この場にいた宿屋の受付ちゃんは非常に驚いている。


「大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫!むしろ自由にいろいろなことがやりやすくなったよ。」


自分でも自覚するくらい上機嫌だ。

強くなった自覚はあるから調子に乗っているのは間違いないけど、やっぱり人は争わないと成長しないと思うんだよね。

だからギルド長に喧嘩を売るのも間違いじゃないと思うんだよ!

とりあえず今日は朝食を食べたらダンジョンに突撃だ!

冒険者に邪魔されないかなぁ……、ふへへ。

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