第40話 ウサギ狩りと教育的指導

音の原因はすぐに分かった。

何人かの人間がウサギと戦っていたのだ。

盾を持った一人が注意を引き付けているので、さっきの音はウサギが盾に突進したときのものだろう。

一切隠れていないので、途中剣を持った人に気づかれたようで、こっちを見てきた。

アイコンタクトで会話してみた。

(見てるだけだよ~。)

……伝わらなかったようで別の一人がこっちにやって来た。


「何か用?あれは私たちの獲物だから邪魔しないで。」


「しませんよ。どんな風に戦うのか見てみたかっただけです。」


正直ウサギ相手にわざわざ盾を構えて戦っているようなので期待はしていないが、普通の冒険者がどんなものなのかを知っておけば、何か適当に言い訳するときに使えるだろう。


「そう、ならもう少し離れて。あなた一人なの?ここは危険だから、出来れば早く戻った方がいいわよ。」


言葉遣いは警戒心むき出しな感じだが、この状況で心配する辺り悪い子ではないのだろう。

言われた通り少し離れて、戦いを眺めることにした。

見た感じ、たぶん全員が15歳くらいの子どもだ。

男3人女2人のパーティーで、男の一人が一応鉄で補強された木製の盾、もう一人が刃だけ鉄で出来たような槍、あと一人は……なんかボロボロの剣だった。

中古品でも安くで買ったのかな?

女の子の方は、一人は手作り感満載の弓を持っている。

さっき来た子は何も持っていないので、既に壊れたか荷物持ちなのだろう。

女の子に荷物持ちさせるというと批判されそうだが、エルフ隊長を見ているので『女の子だから力がない』という考えはないのだ。

というか、私も細い細い言われてるけど相当力があるし……。


それにしてもなかなか攻撃しない。

盾の人は結構しっかりとタゲを取っている。

もう少し大きくなったら、盾を鉄などの金属製に変えるとなかなかいい感じのタンクになれるのではないだろうか?

問題は槍と剣の2人だ。

完全にウサギが動きを止めるまで攻撃しないのだ。

見ている感じだと、2人の剣や槍での攻撃よりも、一人が盾で殴っている方が効いているんじゃないかな?

弓矢を持った子は何もしない。

まぁ、手作りっぽい弓だしウサギ相手には威力が弱いのかもしれない。

何も持っていないさっきの子は何もしていない。


「あの剣と槍の2人を見てると、エルフちゃんを思い出すなぁ……。」


ダンジョンを発見する前に見たエルフちゃんとウサギの一騎打ち。

ぶっちゃけ死体が消えたときの絶望に染まった顔の方をよく覚えているのだが、一応戦っているところも覚えている。

あの時も同じように止まったときだけ攻撃するような戦い方をしていた。

生活力はともかく、戦闘力はそこそこありそうなエルフちゃんでも一人だと苦戦していたんだし、この子たちのレベルだと苦戦して当然なのかな?


盾持ちがまた隙をついて盾で殴った。

殴られたからかウサギが止まったところに槍持ちが突撃する。

体の真ん中、肺や心臓を横から刺すように付けばいいのに、なんで頭を狙うのかな?

馬鹿なのかな?

耳をかすっただけで外してるし。

槍からワンテンポ遅れて剣持ちも剣を振り下ろしたが、普通に躱された。

なんという泥試合。

ポップコーンを摘まんでヤジを飛ばしながら観戦したい気分だ。

あ、もう一匹ウサギが現れた。


「もう一匹出たわ!」


「なにっ!?撤退するぞ!」


嘘だろぉ!?

いくら何でもそれはないだろ!

それじゃあ盾持ちがめちゃくちゃ消耗しただけで何も得られないじゃん。


「その程度のことで逃げんなぁ!」


思わず口を出してしまった。


「何言ってんだ!1匹でも手こずるビッグラビットを2匹も相手に出来るわけねぇだろ!お前が倒してみろよ!」


あ、いいんだ。


「分かった!じゃあ俺が倒しても文句言うなよ?」


「勝手にしろ!行くぞ!」


サクッと登場したばかりのウサギの首を捕まえる。

どうするかな?

肉はこれ以上いらないし……。

このまま折っちゃえばいいか。


ボキッ!と音が鳴ってウサギは動かなくなった。


「…………嘘だろ?」


まだ移動していなかったようだ。


「移動しないのか?そっちにいるボロボロのウサギは俺の獲物になったぞ?邪魔するの?」


「ふざけんな!それは俺たちが……」


口答えしないように持っていたウサギを全力で投げてみた。

デカくて質量があるからなかなかいい威力になりそうだ。

ウサギは口答えをした剣持ちのすぐ横を通り過ぎ、後ろにあった木を圧し折った。


「『俺が倒しても文句は言うなよ?』ってちゃんと言ったよね?『勝手にしろ!』ってお前は答えたよね?くだらないことを言ったらもう1匹投げるよ?」


「……すみませんでした!」


……ここで謝れるのは偉いなぁ。

しめるのは止めておいてあげよう。

あ、良いこと思いついた。


「ぶっちゃけるとウサギはもう確保してあるから、そいつをお前らが倒してもいいんだけど……。一つ条件がある。」


「……なんですか?」


「素手で戦え。」




という訳でまた観戦モードに入って戦いを見ている。

出した条件は『槍と剣を使わないで戦うこと』だ。

扱えもしない武器を持つから、ウサギ程度に苦戦するのだ。

「その辺の石でも拾って戦え」と言ってやった。

「盾持ちが優秀なんだから問題なく倒せる」とも言ったが、その言葉を信用していないようだ。

ほら!そこで突っ込んで蹴り上げるんだよ!

何やってんだよ!

せめてパンチのクリーンヒットくらいは出してくれよ!


しばらく見ていたが酷いものだった。

しょうがないので近づいていく。


「盾の君はそのままでいいから続けて、オラ!お前ら速く来い!」


元剣持ちと元槍持ちを呼ぶ。


「はっきり言ってお前らは武器の扱いが下手だ。それも素人でも見たらわかるレベルで下手だ。」


自分のことは棚に上げるけど、これをまず言っておかないとね。

剣も刃を立てないなら斬れないし、槍も当たらないなら刺さらない。


「だが何よりも攻撃するタイミングが壊滅的に酷い!盾を持ったあの子とウサギの動きをよく見ろ。攻撃のタイミングはいくらでもあるのに、お前らは盾を持った子から離れた位置に立ってるから攻撃できないんだよ。」


そう、エルフちゃんの時とは違い盾で前衛をこなしてくれる味方がいるのになぜか離れたところで待っているのだ。

これじゃあ盾持ちがウサギを一瞬止めただけでは攻撃できない。

ウサギが一時的に休む瞬間以外は、ほとんど攻撃するタイミングがないだろう。


「攻撃はしないけど手本を見せてやる。ちょっと見ておけ。」


そう言って盾持ちの子の少し斜め後ろで待機する

タイミングよくウサギが突進してきた。

盾持ちの子は安定して受け止める。

そのタイミングで横を抜け、ウサギの首の皮を掴み上げた。

できるだけ分かりやすく、ゆっくりと近づいて捕まえたので大丈夫だろう。

ウサギを離して、驚いている男の子2人の所へと戻る。


「こんな感じだ。とにかく盾持ちの子が止めたタイミングを狙うこと。あとは盾持ちの子の真後ろには立たないことだ。モンスターが見えなくなるからな。ほら、その辺の石でも拾って試してみろ。」


ここまで見せたのだ、素手でも問題なく攻撃できるだろう。

のんびりと観戦することにする。

元剣持ちの子が凄くビビりながらもやってみるようだ。

ちゃんと良い位置に立ってタイミングを計っている。

先ほど手本を見せたときと同じように、ウサギの突進を盾で受けたタイミングで前に出て石で殴った。

素晴らしい。

殴った本人も驚いている。

そこで驚くと危ないんだけどなぁ。

あ、ウサギが狙いを変えた。

そこに盾持ちの子が割って入る。

本当に上手いなこの子。

どっかで盾の扱いについて学んでたんじゃないのかな?

なんとか問題なく元剣持ちの子が引いたので、元槍持ちの子もやってみるようだ。

剣持の子が何か一言アドバイスをしている。

たぶん『殴った後はすぐに下がれよ』と自分の失敗を理解して伝えたのだろう。

……この調子なら問題なさそうだな。

女の子の方に声をかける。


「それじゃ、そろそろ血抜きも終わってると思うし、帰るわ。ウサギを倒したら気を付けて帰れよ。」




木に吊っていたウサギを回収し、のんびりと台車を引きながら森の中を歩く。

というかこの台車、車輪の回りが悪いな。

乗せすぎたか?

引きずってはいないけど、少し気になるな。

ウサギ相手に苦戦していた子たちよりも台車の方が正直気になるが、(なんで戦い方を指導しちゃったのかなぁ。)と振り返ってみる。


「戦い方を見て、どこかエルフちゃんを思い出しちゃったからかなぁ。」


エルフちゃんの戦い方も、本来はアタッカーとタンクに分かれる戦い方をしているのだろう。

一緒の時は1人で戦っていたので、攻撃するタイミングを掴めなかったから苦戦していたと思うのだ。

まぁ、手伝う気はなかったけど。

……いや、あれだよ?

一緒に倒したら倒したお肉も半分こしないといけないじゃん?

エルフさんの食糧事情を察したからあえて手伝わなかったんだよ?

ホントだよ?


「エルフちゃんは愉しかったからなぁ。エルフと関わりたくないとは思ったけど、見る分には面白かったし……。だからつまらない戦い方を見て指導したくなったのかな?」


自己分析をしつつも歩き続け、森を抜け街が見えてきた。


時間は夕方というには少し早いくらい。

(今日もギルドにウサギを売ったら銭湯に行こうかな?)なんてことを考えながら、何事もなく街へ入るのだった。

門番さんは台車の中を確認して驚いてたけど……。

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